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値段のつかないもの

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「聖女だとしたら、商人ギルドへの登録は偽名がおすすめです」

 ロンドさんの言葉に、ノノの目がまんまるになった。

「……はい?」
「ほら、人の口に戸は建てられぬって言うじゃないですか。聖女と同じ名前で活躍する、過去の情報不明の女の子となればブレナバンに察知される可能性もあります。偽物と大々的に発表した相手が活躍していたらメンツは丸つぶれですし、暗殺者を差し向けられるか、連れ戻されるか」
「それは嫌ですっ!」
「ですよね。なので、聖女だったら——いえ、聖女じゃなくても、偽名で登録しといた方が良いよ、と伝えるだけです」

 ロンドさんは私の正体に確信を持っている。
 その上で、問いただしたりはせずに助けてくれるつもりなのだ。

「どうしてそこまでしてくださるのですか?」
「まずは投資ですね。有能な人が活動すれば、大きなお金の流れができます」
「お嬢様を金づると見ているわけですか?」
「僕は商人ですし、騙したり損をさせるわけじゃないんだから別に良いでしょう。次に、これが最大の理由なんですが」

 ロンドさんはまっすぐに私を見つめる。

「三年前、ブレナバン周辺で商隊を指揮していた僕の弟が、最前線で死にそうな大けがをしました。その時に聖女様に助けていただいたそうなんです」

 弟さんはお腹に大きな穴が空き、どう考えても助かる状況ではなかったらしい。
 栄養失調と睡眠不足でふらふらな中、めちゃくちゃに回復魔法だけを使いまくっていたので正直覚えてはいない。
 でも、前線に来てケガをしてたなら必ず私が治しているはずだ。他に回復魔法を使える人はいなかったから。

「僕は商人だからあらゆるものに値段をつけようとします。でも、弟の命にだけは値段がつけられませんでした……世界中の金をかき集めても払えないだけの恩があるから、少しでも返したいのです」

 タルトを食べ終えた私たちは商人ギルドに登録した。
 ノノは本名じゃなくて私が名付けたものだからそのまま。私はマリィにした。
 お父さんとお母さんが生きてた頃に、そう呼んでもらっていた記憶がある。

「それじゃ、魔物を討伐したら僕のところに持ってきてくださいね」
「えっと、それって今すぐじゃだめですか?」
「……今すぐ? 討伐してくるってことですか?」
「いえ、ので」

 どこに、と訊ねられたので空間魔法から魔物の死体をいくつか取り出す。
 死体が一つ増えるに従ってロンドさんの顔色が分かりやすく変わっていった。
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