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Sideアーヴァイン2

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「何もしない、と言っただろう。……商務大臣、ブレナバンとの貿易は?」
「通常の関税で行っております」
「何もしない、だ。意味は分かるか?」
「今すぐあらゆる貿易を止めます……!」
「軍務大臣。国境沿いの警備はどうする?」
「……商人ギルドに加入している者以外はすべて受け入れを止めましょう」

 その後も次々と「何もしない」の意味を詰めていくアーヴァイン。
 あっという間に「何もしない」という名の政策が形になった。

 ——経済制裁だ。

 ものの流れと人の流れを止める。仮にも交易の中継地点として栄えているグレアランド帝国がそれを行えば、単独といえども影響が出ることは間違いない。

 他国が同調しなければ効果は薄いが、アーヴァインには勝算があった。

(虎視眈々と国土拡大を狙う国も多い。グレアランドうちの尻馬に乗ってブレナバンの弱体化を狙う国も出てくるだろう)

 もちろん、困窮したブレナバンにものを売ることで利益を得たり、恩を売る国も出るだろう。それを見越して、アーヴァインはさらなる手を打っていた。

「草案をまとめたら皇帝陛下ちちうえに奏上してくれ」

 首脳部ともいえる有力貴族たちに指示を出し、ロンドに向き直る。

「商隊が長旅をするとなれば、夜は暇だよな?」
「ですね……?」
「私費で吟遊詩人を付けよう。全部は難しいかもしれないが、主だった商隊にはつけられるよう手配をする」
「吟遊詩人……なるほど。きっと素敵な物語を吟じて下さるのでしょうね」
「ああ、絶望の中を必死に戦い抜き、人々を癒し、街を救ったの話なんかどうだ?」
「素晴らしいですね」

 アーヴァインの目的がはっきりと示されたところで、参加している貴族全体に呼びかける。

「芸術は人の心を豊かにする。奨励するために素晴らしい作詩をしてくれる者を推薦してくれ」
「コンテストですか?」
「いや、各々が工夫を凝らした詩をつくるだろう。提出した者には一律で報奨金を出す。それから食事だな」
「なるほど。最近話題の料理を売り込みに行くのですね?」
「ああ。斬新で美味な料理に、素晴らしい名前がついている。これも宣伝に使え」

 ブレナバンが聖女に何をしたのか。
 聖女がどのような存在なのか。
 それを流布することで、ブレナバンに恩を売ろうとする動きを潰す算段だった。

(心情的にブレナバンに味方したい者はいなくなる。それどころか、ブレナバンに付く者を責める者が増えるだろうな)

 単純な損得勘定でいえば、他国の反感を買ってまで得なければならないほどの利益がなければ、ブレナバンの味方はできないだろう。

「ブレナバン王国に報復しない作戦、ほかに意見のある者はいるか?」

 帝国の宮殿まくつで牙を研いでいた獣たちが、血の流れない戦いに向けて動き出す。

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