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後日談

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 元・ブレナバン王国の王城跡地。
 簡単なテントを張って臨時本部になっているそこの一角からは、王都全体が見渡せる。

 もうもうと上がる白い煙は、戦いによるものでもなければ死者を焼くためのものでもない。
 炊事の煙だ。

「ようやく他国からの応援も届きましたが……高ランクの魔物肉を山のように持っているとは驚きました」
「いつか食べるかなって」
「挨拶したいというものが大挙しておりまして」
「えー……私もう聖女じゃないし、やだなぁ」
「ははは。マリアベル様をだと思っている人はいませんよ」

 私が全力で魔法を放ったことで、マーカスは痕跡すら残さずに消えた。
 それどころか暴走気味だった回復魔法はブレナバン全域を癒し、麦角も疫病も消し去ってしまったのだ。

 私はすぐさま気を失ってしまったけれど、その時の光景を、この国の全員が奇跡と呼んでいた。

「下の広場に集めておりますので、上から手を振るだけでもお願いできませんか?」
「分かった」

 臨時で財務を握っているロンドさんに連れられて端っこまで移動すると、手を振った。
 同時に、空気が爆発したんじゃないかってくらいの大歓声があがる。

「御使い様! ありがとうございます!」
「息子を救ってくださり感謝します!」
「女神様ー! ありがとー!」
「死んだパパがね、お別れに来てくれたの! 女神様のお陰だよ!」
「お袋に別れの挨拶ができました! ありがとうございます!」

 本来ならば、生命を穢す王は冥界を管理する存在だったらしい。
 私がそれを消し飛ばしたせいで一時的に冥界と現世との行き来ができるようになった。

 死んだ人を生き返らせることはできないけれど、理不尽で唐突な死を迎えた人々は、残した家族や恋人の元にいって挨拶ができたんだとか。
 実際に自由になれたのは10分かそこらだったみたいだけれど、それでもきちんとお別れができたというのは大きい。

 区切りがないと、人は前を向けないから。

 そう気づいたのは、私がマーカスを消し飛ばしてからだ。

 こころのが取れたように、私は大きく気持ちが変わっていた。
 復興までたどり着いていないけれど、瓦礫をどけたり炊き出しに参加したりと、未来に向けて動き出した人の姿が見えたのも良かったのかもしれない。

「さて。そろそろ行こっかな。もう食料は私が使っても大丈夫なんだよね?」
「ええ。今後も復興のために商人ギルドが総力を掛けて輸送しますので……ジグには煮え湯を飲んでもらいますけど」
「全額借金、だっけ? ちょっとかわいそうな気もするけど」
「王族……元王族の責務だと本人も言っていましたから」

 私が目覚めた後で、首を差し出そうとしたジグさんだけど、臨時政府のトップに就任した。
 炊き出しの手伝いを始めた私に首を、首を、と迫ってきたので、ノノが𠮟ってくれたのだ。

「馬鹿なことを言っている暇があるなら復興を手伝いなさい! お嬢様が必死に料理をなさっているのが見えないのですか!」

 最初は料理の手伝いをしようとしてたけれど、どちらかというと邪魔になるから、と連れ出されて今は元王族として政治系のとりまとめに忙しくしてる。「全部終わったら辞任して首を届けに行く」なんて言ってるらしいので私は全力で逃げようと思う。

 そして、当のノノは昨日まで徹夜で炊き出しの指示をとって、今はリーアと一緒に寝ているはずだ。
 本当は私も寝てたんだけれど、やりたいことがあったから起きてきた、というわけだ。

「さて、それじゃあ頑張りますか」

 うーん、と伸びをすると、私はふらりと歩き始めた。

 ***

 ノノが目を覚ました時、抱くようにして一緒に床に就いたはずのマリアベルが見えなかった。

「お嬢様……?」
「んむ……マリィなら二時間ほど前にベッドから出ていったぞ?」
「気づいていたならなぜついていかなかったのです!」

 悲鳴を上げて走り始めたノノに、寝ぼけ眼のリーアが追随する。

「過保護じゃの。マリィは妾よりもずっとナノマシン適合率が高いのじゃ。滅多なことで遅れなど取らんというに」
「その滅多なことが起きたらどうするのですか!?」

 バタバタと王城を走り回り、中庭や裏手を確認したノノの鼻腔に、嗅ぎなれない匂いが刺さった。
 嫌な臭いではない。
 どちらかといえば、食欲をそそるような、肉が焼ける時の匂いだ。

 とはいえ、炊き出しではありえない。
 多くの人々を賄わねばならない炊き出しでは野菜をたくさん摂れるスープに、エネルギー源として大量生産したパンがほとんどなのだ。
 多少のバリエーションがあったとしても、肉を焼くようなメニューが出るはずなかった。

 もしや、と匂いを追いかければ、

「あ、ノノ! おはよう!」
「お嬢様! ご無事でしたか!」
「? うん。いま起こしに行こうと思ってたの」

 瓦礫を片づけて作った簡易的なキッチンスペースに、マリアベルが立っていた。

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