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本編
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「それでお嬢様はさっさとその場を去ってしまったと…だから王太子殿下の衣装を返すことも忘れ私のところへ戻って来られたのですね。
本当に昨日は驚きましたよ、突然急ぎ足で戻ってきたと思ったら説明なしに馬車を呼べと言ってきたのですから。何かあったのかと思えば、王太子殿下と喧嘩していたとは」
「ごめんなさいね、昨日は正気を保っていられなかったみたい」
レヴォン様の誕生日パーティーが行われたのは昨日のことで、私はその日彼を口で攻め、ネオラが待機していた場所まで戻り家の馬車を呼び帰ってしまったのだ。
そして1日経った今、昨日は何の説明もせず寝てしまったためにパーティーでのことを話していたのだ。
いずれ婚約破棄されるにせよ、現段階で私はまだ彼の婚約者だ。だというのに、彼の誕生日パーティーで貴族の方たちの挨拶に共にまわらず一人帰ってしまったのだ。
情けない、私はエヴラール家の恥だな、と心底思う。
「……本当に情けないわね」
さらに私は、彼におめでとうございますという言葉も伝えず、声を荒げ責め立てたという始末。
貴族の者としても令嬢の者としても最悪だ。いっそ『シェーヌ・エヴラールは王太子に対し、不敬を働いた』と言ってさっさとこの世から退場してしまいたい。どうせいつかその未来をたどるのだから。
「でもまさか王太子殿下が今までのことを覚えていないとは。記憶力は悪くはなかったですよね?」
「そういう問題ではなかったのよ、きっと。だってだった数時間前のことを忘れてしまわれていたのよ?」
「数時間前の会話をそんなにすぐに忘れるというのもおかしくないですか?馬車の中での様子を少し見ていましたけど、何も考えず適当に話していたようには見えませんでしたし」
入れたお茶を私の前に起き、もう何ものっていないトレイを手に持ち話す彼女は、昨日の馬車の中にも乗っており私の隣に座っていた。話しかけなかったのは、馬車に乗っている間は私のことはいない存在として扱ってくださいと言われていたためだ。
彼女の言うことはもっともだと思う。
私に初めから興味がなかったという考えが今も消えていないが、適当に話をしてはいなかったと思う。衣装の話をしていた彼の瞳には、確かに感情があったから。
私がバルコニーで話をしていた時、感情をコントロールできなかったのは馬車の中でのことがあっからかもしれないな、とその時のことを思い出しながら思う。あの時のあの空間は静かだったけれど落ち着いていて、心地が良かった。彼との会話に嫌な感情は湧かなくて、胸の痛みも不安も消してくれた。
もしかしたらあの時、少しだけ彼のことを見直していたのかもしれない、認めていたのかもしれない、絆されてしまっていたのかもしれない。
だからこそ私はあの時、彼が私との出来事を忘れてしまっていると聞いて胸が痛んだのかもしれない。
まあ全てただの予想だけど、と頭を振りその考えを捨てる。今はネオラと話しているのだと。
「もし他に理由があるのなら、レヴォン様は何故忘れているのかしら…」
「まあもう少し様子を見ましょう。何かわかるかもしれません」
「あまりそうとは思えないけれど…」
少し不安だという反応をすれば、彼女はまぁまぁと言って軽く笑った。彼女は勉学を抜けば私よりも頭が働くので、何か思うことがあるのかもしれないと思いそれ以上は何も言わなかった。
「退屈だわ」
私は一人、女子寮の中で一番小さな部屋で呟く。
今日はレヴォン様の誕生日。そのため王宮ではパーティーが開かれているらしいのだが、招待されている者は位の高い者がほとんどで、没落しかけの男爵令嬢である私は招待などされておらず寮で暇を持て余しているのだ。
招待されていないが王宮行ってみようかとも一度考えたのだが、招待されていない者が王宮に行けば捕まる可能性が高い。何よりも、ゲームの中でこのパーティーがあったという描写はなかったのでシュゼットは参加していなかったということになるだろうし、前々世の私も参加していなかった。強制力の働かない場で手荒な真似をするのは危険だろうと考え、行かなかったのだ。
夜に暇になることはいつものことなのだが、この学園の中にレヴォン様がおらず、彼が他の女たちと話したり踊ったりしていると考えるだけで腹がたつ。
しかも今回はシェーヌが彼のパートナーとして参加していることだろう。私と彼の邪魔をする鬱陶しい女。彼に愛されていないくせに、私を排除すれば彼の気持ちを受け取れると勘違いして、私をいじめる残念な女。それが彼の婚約者。
どうせ婚約破棄されるのだから別に気にしなくてもいいとは思っていても、やはり彼のパートナーとなり偉そうにしていると考えるとはらわたが煮えくりかえる。彼が愛しているのは私なのに相思相愛である私たちがパートナーになれず、ただの勘違い女が彼の隣に立っていると考えるだけでも頭に血がのぼった。
「まあ今の間だけだもの、いずれ彼は私のもとに来るのだし、仕方なく譲ってあげなくてはね」
寮ですでに用意されていた、ファビウス家のベッドよりも豪華なものに仰向けに倒れこむ。目を閉じれば、シュゼット・ファビウスと中西茜の記憶が蘇る。
『お嬢さん、何かお困りですか?』
私と彼が初めて出会ったとき。
『好きだ』
あの女と婚約破棄をして言ってくれた言葉。
『ありがとうございます、中西さん』
初めて名前を呼ばれて、初めて会話したとき。
『俺、中西さんのこと好きになってしまったみたいなんだ。付き合ってください』
デートの別れ際に言ってくれた言葉。
今でも忘れてない。大丈夫、強制力なんかなくったって、彼が愛するのは私一人だ。
前々世では振り向いてもらえなかったけど、今世こそは。
今世こそは、愛して。私だけを見ていて。
前世みたいに、他の女に殺されるような残念な、私を幻滅させるような終わり方は、しないで。
本当に昨日は驚きましたよ、突然急ぎ足で戻ってきたと思ったら説明なしに馬車を呼べと言ってきたのですから。何かあったのかと思えば、王太子殿下と喧嘩していたとは」
「ごめんなさいね、昨日は正気を保っていられなかったみたい」
レヴォン様の誕生日パーティーが行われたのは昨日のことで、私はその日彼を口で攻め、ネオラが待機していた場所まで戻り家の馬車を呼び帰ってしまったのだ。
そして1日経った今、昨日は何の説明もせず寝てしまったためにパーティーでのことを話していたのだ。
いずれ婚約破棄されるにせよ、現段階で私はまだ彼の婚約者だ。だというのに、彼の誕生日パーティーで貴族の方たちの挨拶に共にまわらず一人帰ってしまったのだ。
情けない、私はエヴラール家の恥だな、と心底思う。
「……本当に情けないわね」
さらに私は、彼におめでとうございますという言葉も伝えず、声を荒げ責め立てたという始末。
貴族の者としても令嬢の者としても最悪だ。いっそ『シェーヌ・エヴラールは王太子に対し、不敬を働いた』と言ってさっさとこの世から退場してしまいたい。どうせいつかその未来をたどるのだから。
「でもまさか王太子殿下が今までのことを覚えていないとは。記憶力は悪くはなかったですよね?」
「そういう問題ではなかったのよ、きっと。だってだった数時間前のことを忘れてしまわれていたのよ?」
「数時間前の会話をそんなにすぐに忘れるというのもおかしくないですか?馬車の中での様子を少し見ていましたけど、何も考えず適当に話していたようには見えませんでしたし」
入れたお茶を私の前に起き、もう何ものっていないトレイを手に持ち話す彼女は、昨日の馬車の中にも乗っており私の隣に座っていた。話しかけなかったのは、馬車に乗っている間は私のことはいない存在として扱ってくださいと言われていたためだ。
彼女の言うことはもっともだと思う。
私に初めから興味がなかったという考えが今も消えていないが、適当に話をしてはいなかったと思う。衣装の話をしていた彼の瞳には、確かに感情があったから。
私がバルコニーで話をしていた時、感情をコントロールできなかったのは馬車の中でのことがあっからかもしれないな、とその時のことを思い出しながら思う。あの時のあの空間は静かだったけれど落ち着いていて、心地が良かった。彼との会話に嫌な感情は湧かなくて、胸の痛みも不安も消してくれた。
もしかしたらあの時、少しだけ彼のことを見直していたのかもしれない、認めていたのかもしれない、絆されてしまっていたのかもしれない。
だからこそ私はあの時、彼が私との出来事を忘れてしまっていると聞いて胸が痛んだのかもしれない。
まあ全てただの予想だけど、と頭を振りその考えを捨てる。今はネオラと話しているのだと。
「もし他に理由があるのなら、レヴォン様は何故忘れているのかしら…」
「まあもう少し様子を見ましょう。何かわかるかもしれません」
「あまりそうとは思えないけれど…」
少し不安だという反応をすれば、彼女はまぁまぁと言って軽く笑った。彼女は勉学を抜けば私よりも頭が働くので、何か思うことがあるのかもしれないと思いそれ以上は何も言わなかった。
「退屈だわ」
私は一人、女子寮の中で一番小さな部屋で呟く。
今日はレヴォン様の誕生日。そのため王宮ではパーティーが開かれているらしいのだが、招待されている者は位の高い者がほとんどで、没落しかけの男爵令嬢である私は招待などされておらず寮で暇を持て余しているのだ。
招待されていないが王宮行ってみようかとも一度考えたのだが、招待されていない者が王宮に行けば捕まる可能性が高い。何よりも、ゲームの中でこのパーティーがあったという描写はなかったのでシュゼットは参加していなかったということになるだろうし、前々世の私も参加していなかった。強制力の働かない場で手荒な真似をするのは危険だろうと考え、行かなかったのだ。
夜に暇になることはいつものことなのだが、この学園の中にレヴォン様がおらず、彼が他の女たちと話したり踊ったりしていると考えるだけで腹がたつ。
しかも今回はシェーヌが彼のパートナーとして参加していることだろう。私と彼の邪魔をする鬱陶しい女。彼に愛されていないくせに、私を排除すれば彼の気持ちを受け取れると勘違いして、私をいじめる残念な女。それが彼の婚約者。
どうせ婚約破棄されるのだから別に気にしなくてもいいとは思っていても、やはり彼のパートナーとなり偉そうにしていると考えるとはらわたが煮えくりかえる。彼が愛しているのは私なのに相思相愛である私たちがパートナーになれず、ただの勘違い女が彼の隣に立っていると考えるだけでも頭に血がのぼった。
「まあ今の間だけだもの、いずれ彼は私のもとに来るのだし、仕方なく譲ってあげなくてはね」
寮ですでに用意されていた、ファビウス家のベッドよりも豪華なものに仰向けに倒れこむ。目を閉じれば、シュゼット・ファビウスと中西茜の記憶が蘇る。
『お嬢さん、何かお困りですか?』
私と彼が初めて出会ったとき。
『好きだ』
あの女と婚約破棄をして言ってくれた言葉。
『ありがとうございます、中西さん』
初めて名前を呼ばれて、初めて会話したとき。
『俺、中西さんのこと好きになってしまったみたいなんだ。付き合ってください』
デートの別れ際に言ってくれた言葉。
今でも忘れてない。大丈夫、強制力なんかなくったって、彼が愛するのは私一人だ。
前々世では振り向いてもらえなかったけど、今世こそは。
今世こそは、愛して。私だけを見ていて。
前世みたいに、他の女に殺されるような残念な、私を幻滅させるような終わり方は、しないで。
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