今世は絶対、彼に恋しない

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本編

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 レヴォン様の誕生日パーティーから二週間、私は返し損ねた彼の衣装を返すことも、あの日の失礼な行為に対する謝罪をすることもできずにいた。
 学園の中にいるとこの二週間の間に、レヴォン様とシュゼットがよく話をされている、という話をよく周りにいる令嬢からされるようになった。
 そういえば、前々世で彼女に初めて接触したのもこの時期くらいだったなと思い出す。

 話は戻って衣装のことだが、彼は以前と変わらず私のもとに来ることもなく、私が彼に行くことには怯えてしまい行けず、というのが現状のために何もできていない。
 あれだけ失礼なことをしておいて、今更合わす顔もない。…ということがただの言い訳であることには、もう気づかされいた。
 私は怖いのだ。

『俺は、君と過ごしていた日々の記憶がないんだ』

 突然の謝罪の内容は、それだった。
 私は、また忘れられているかもしれないことに怯えている。
 あれだけ胸を痛めたことを、彼はまたあっさり忘れてしまっているかもしれないということに腹を立てている。
 衣装を返した時に不思議そうな表情で、いつのことだったけ、と彼の口からでることに恐れている。

 まだ返せていないと愚痴をネオラにこぼすと、彼女に言い当てられてしまったのだ。
 怖いのですね。また拒否されてしまうかもしれないことに恐れているのですね、と。
 言われて少し考え、否定しようとして、できなかった。
 彼女の言うことは何一つ間違っていなかったからだ。

 本当に情けない話である。パーティーの時の私の感情に任せた行動に、それについての謝罪をできずにいる今の現状。
 情けない。どんどん自分が嫌になっていく。


 こんなことにいつまでも悩んでいても仕方がない、と一度深呼吸をすると顔を上げる。
 やっと会いに行く気になったのだ、行くなら今しかないと自分の席から立ち上がり教室から出る。この時だけは隣のクラスでよかったなと思いながら教室を覗くが彼の姿は見えず、クラスの方に聞くと少し前に教室を出たがどこに行ったのかは知らないとのことだった。
 ここで諦めてしまえばきっとまた会う気をなくしてしまうと思い、校内を歩きまわる。が、彼はなかなか見つからない。このままではチャイムが鳴って会えないかもしれないと少し不安になりながらも歩いていると、庭園まで歩いていた。

 胸がざわついた。
 なんとなくこのまま前に進まなければいけない気がして、私はゆっくりと前へ前へ足を進める。
 少しだけ、意識がぼんやりとしてきたなと思いながらも、その"行かなければいけない"という直感のままに歩き、目の前にベンチが見えて、立ち止まった。

 腰まで伸びた桃色の髪が風になびいてふわりと広がっている様子が、ひどくゆっくりとした動きに見えた。
 それが見えて、ようやく気がついた。


 ああ、やはり運命は変えれないのね。


 再び前へ進み始めた足に、立ち止まろうと力を入れるが、足はその動きを止めることなく彼女のいる場所へと進む。
 少し焦り始めさらに力を込めるが、やはり止まることはない。
 結局その力に抗うことができず、私は彼女のいる目の前に立ち、ようやく立ち止まった。


 私は、この情景を、よく知っている。


 彼女の目の前で立ち止まったところで、すぐに抵抗をやめた。
 これは運命で、変えることなどできぬものなのだと気がついたからだった。
 頭に言葉が浮かび上がる。


 そうだ。私はこの言葉も、よく知っている。


「貴方、軽々しく私のレヴォン様に近づかないでくださりませ。あの方は私の婚約者ですのよ?」

 口が私の意に反し動き、その口から出た言葉は、身に覚えのある言葉だった。


 そういえば、あの時は怒りで頭の中はいっぱいで、先日の愚かな私と同じように感情に任せた行動をしていたわね。


 頭の端に残る、前々世の記憶を思い出しながらものんびりと考える。
 私の声に反応した彼女は私の方へ顔を向け、私の緑の瞳と彼女の青い瞳の視線がぶつかった。
 その瞬間に、フッと視界が暗くなった。
 そのことに慌てることはなかった。なんとなく、本当になんとなくだが、そうなるとわかっていた。と思った。


 もし私が、まだ彼に恋をしていたのなら。
 もし私が、また彼に恋をしていたのなら。
 もし私が、彼を恨んでいなければ。

 それならば私は、もっと必死で抵抗していたかもしれないわね。


 そう考えながらも、手足も頭も全身のどこかを動かそうという気も起きず、真っ暗な視界に身を委ねる。


 "ごめんなさいね。でも貴方は、とるべき行動をとろうとしなかったから。"


 しばらく聞いていなかった、私ととても似た声の女性の言葉が頭に響き渡る。


 ええ。私はいずれこうなると、心のどこかで理解していたみたい。


 口を動かした感覚はないが呟く。
 声は聞こえなかったけれど、彼女は笑った気がした。
 真っ暗な空間に少しだけ光が差す。きっと私ではないが、動くのだろうなとぼんやり思った。
 その光が少しずつ強くなっていくのを黙って眺めていると、最後の最後に私の頭には、彼の笑顔が浮かんだ。


 ああ、なぜ貴方はいつも、私の心を掻き乱すのでしょうね。せっかく、穏やかに身を任せられると思っていたのに、今貴方を思い出せばーーー


 私はまだ、"私"で、貴方と話していたかった。


 光に包まれる直前に少しだけ身体のどこかを動かそうとしたが動いた感覚はせず、私はそのまま強い光に包まれた。





「あの、私から話しかけたことはないのですが…」

 ベンチに座り、私に見下ろされている彼女は少し怯えた表情で訂正する。

 この女は何を言っているのだろうか?そんなことがあるわけないだろう。確かに彼は没落しかけの男爵家の令嬢などにも他の人と同じように接するような優しい方だが、話しかけることが一度ならまだしも、何度も何度も弱い家の者に話しかけるような方ではないだろう。
 目の前に座る少女が絶対にありえないような嘘をついたことに腹が立ち、私の顔が怒りで赤くなっていく。

「そんなわけないでしょう?レヴォン様は同じ女性に何度も話しかけたりするような方ではございませんわ」

「そのように言われましても、本当のことですし…」

 私がさらに目を細め睨むようにして話すと、彼女の肩はびくりと動く。だがその表情に変化はなかった。

「あな…」

「シュゼットの言う通りだよ、シェーヌ。彼女から話しかけてきたことはほとんどと言って良い程ない」

 彼女がまだ性懲りもなく嘘をつくことにさらにムカムカと腹が立ち、声を荒げて話しそうになったところで、私の愛しくて愛しくて仕方がない方の声が背後から聞こえ言葉を止める。
 直接彼女の勘違いを正してくださるのね、と期待し振り返るが、その愛しい方の口から出た言葉は、私の考えを否定するものだった。
 彼は私たちの方へ歩み寄ると、私と向かい合い彼女の前へ庇うように立ち、私の目を静かな表情で見つめる。視線の絡んだ彼の瞳を見るが、彼が何を考えているのかを読み取ることはできなかった。

「…それは、本当ですの?」

 私の考えを否定するような言葉が、彼の口から発せられたことを信じられず、私は問いかける。

「ああ、今そう言ったじゃないか」

 彼の表情は冷たく、少し怖く感じたが引くわけにはいかず、私はまた問いかける。

「…なぜ、彼女に話しかける必要があったのです」

「ただ話をしたかっただけだ。それ以外に理由なんてない」


 ありえない‼︎貴方はそんな方ではないでしょう⁉︎


 そう叫びたかったが、彼に彼を否定するような言葉はかけたくなくて、私は口を閉じる。
 今の言葉だけ聞けば、まるで彼が、彼女に気があるようではないか。

 ありえない。
 認めない。
 貴方が好きなのは私でしょう?

 否定的な言葉ならたくさんでるのに、それ以外の言葉は見つからず、私は少し黙り込む。
 涙が出そうになった。彼が私に言ってくれた言葉を否定されたような気がして。

『貴方を必ず幸せにする。僕と結婚してください』
『俺はシェーヌと初めて会った時から、1人の女性としか見てない。好きだよ』


 そう言ったのは貴方でしょう?
 私は、認めないわ。


「…そうなのですか。シュゼット様、誤解をしてしまい申し訳ございませんでした。失礼いたします」

 今にも溢れそうになる涙を堪え彼女と彼に礼をし、私は早口で捲し立てると身を翻してその場を去った。


 絶対、貴方と彼女の関係は、認めない。
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