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本編
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「ただいま帰りました」
私は校舎から出てすぐに女子寮へと帰り部屋へ入ると、私は手に持っている鞄を置き、机に座る。
侍女であるネオラは私が帰って来た姿を確認すると礼をして、すぐにお茶を淹れた。彼女は私の前に茶を置くと、トレイを抱えて私に尋ねた。
「お嬢様、衣装をお返しすることはできたのですか?」
「衣装?何のことを言っているのかしら。
そんなことより男爵家の令嬢、すごく腹が立つわね。あの女、絶対彼に媚び売っているもの。私のレヴォン様を奪うなんて許せない」
カップを手に持ちながら口を尖らせて話しお茶を飲むと、彼女は少し目を見開いて驚くが、すぐに納得したような表情になった。
「ネオラ、どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。それよりも今日は何があったのでしょうか」
「聞いてちょうだい。最近よくレヴォン様とシュゼットという名前の男爵令嬢が……」
私は今日彼と彼女と私の間で起きたことの話をして、愚痴をこぼす。彼女にはいつも学園から寮へ戻ると愚痴を話しているのだ。と言っても、愚痴をこぼすようになったのはここ二週間くらいの間のことで、それ以前は腹がたつようなことはほとんどなかったのだ。
急に愚痴を話すようになったのは、二週間前に行われたパーティーからだ。そのパーティーでは婚約者であるレヴォン様とファーストダンスを踊ったのだが、その踊っている最中に、彼はある令嬢の話をし始めた。
シュゼット・ファビウス男爵令嬢。それが彼の話した令嬢の名だった。
いつもは私が他の令嬢の話を彼の口からされるのを嫌がっているためにしないのだが、その時始めて彼から他の令嬢の話をされ、そのことに腹を立てながらも仕方なく話を聞いていると、とても良い人だと言っていた。
話をしている姿を見るに特に好意を寄せているようには見えなかったので、私はその話を聞いて腹を立てても彼に怒りはしなかった。
だがそのパーティーの後日、学園に行きいつも通り生活していると、レヴォン様とシュゼットがよく仲良く話をされている、という話をよく耳にするようになった。
何度も何度も話を聞くうちに、彼は彼女に騙されているのではないかと思い、早速行動に移したのが今日のこと。
私がネオラに愚痴をこぼしていると、彼と彼女のもとを去り教室に戻った時、なぜか私の手に袋があったことを思い出して、私はそれを鞄から取り出した。
「ねえネオラ、これが何かわかるかしら?庭園から教室に戻った時にいつのまにか私が持っていたのだけれど、こんなものを持って学園に行った記憶もどこかで手にした覚えもなくって…」
私は中に何が入っているのかも分からず、それを私が開けてしまうのは良くない行為だとわかっていたために彼女に袋ごと差し出す。
彼女はそれを受け取ると、それをじっと見つめた。
「…お嬢様は、本当に身に覚えがないのですね?」
「ええ。気がつけば手にあったのだもの」
彼女はわかりました、と返事をすると、そっと袋を開けて中身を覗き込んだ。危険なものではないとわかったからか、彼女は袋の中に手を入れ中の物を取り出す。彼女の手が掴んでいたものは、青みがかった男性用の、それもとても高貴な方が着ていそうな衣装だった。
「……緑色の衣装、ですわね」
「ええ、そのようです。…これを見ても、やはり思い当たる節はありませんか?」
「…ええ、全く」
そうですか、と彼女は返事をすると手に持ったその衣装を丁寧に袋に戻し、それを机の端へ置いた。
「後日一応学園の方へ届けさせていただきますね。学園で見つけられたものですから、誰かのものかもしれません」
「それがいいわね。ありがとう」
私がにこりと微笑みながら言えば、彼女は目を細め礼をする。少しだけその笑顔に何か引っかかるものを感じたが、気のせいだろうと思い気にしないことにした。
「……少し休んでもいいかしら。ちょっと疲れたみたい」
「はい、もちろんです」
私はカップの中にお茶がなくなったことを確認すると座っていた席から立ち、ベッドへ移動し寝転んだ。
胸のあたりがずっとモヤモヤしていた。ずっと消えなくて少し気持ちが悪い。
朝はなんともなかったはずなのに、いつからだっただろうか。と、今日一日の行動を思い出していると、彼女と、シュゼットと庭園で話した時あたりのところで引っかかるものがあった。
あのときだ。彼女と対面したときから、ずっと胸がざわついてモヤモヤしていた。
腹を立てているためだろうか。彼を騙して、媚びを売っていることにイライラして、それが胸のざわつきに変わったのだろうか。
なんとなくだが、それは違う気がした。
何か、忘れている気がする。とても、何か、大きなことを。
目を閉じてじっと考える。
何かとても大事なことだった気がするのだ。何か、忘れてはならないものだったような。
しばらく目を閉じて考えていると、浮かび上がってきたものはその考えに対する答えではなく、愛しい彼の笑顔だった。
大好きで、愛して止まない私の婚約者。
庭園で対面したときの彼は少し怖く感じた。だけど、それでも、大好きなのだ。きっと一生変わらない。
今日見た彼の表情を思い出していると、頭がズキリと痛む。
彼が関係しているような気がした。私の、何か、抜けてしまったものに。
思い出せば、彼だけではない。違和感を感じるのは……彼と、ネオラだ。彼らへの認識は何も間違っていないはずなのに、何か違和感を覚えるのだ。
大好きで、私を好きだと言ってくれた婚約者。
学園に入る少し前になった、私の侍女。
それ以上でも、それ以下でもない。何も、何一つ間違っていない。おかしいことなど一つもない。
なのに、彼らに関する何かとても大事なものを忘れている気がしてならない。
対面したときの彼の瞳を思い出す。
彼の瞳は、表情と同じように静かで何を考えていたのかわからなかった。
でも、と思う。
あの時は気が荒れていて気がつかなかった。でも、あの時、あの方の静かな目には、戸惑いの感情があった。ただの記憶ではあるのだが。そして戸惑いだけではなく、焦りもあったように思う。
戸惑いと、焦り。
彼があの時、何を考えていたのかわからない。なぜその感情が浮かんだのか、もだ。
わからないことが多い。多すぎて、頭がおかしくなりそうだ。
私は何を覚えていて、何を忘れていて、何か間違っている…?
それが、それらが、何なのか、私にはわからない。
私は校舎から出てすぐに女子寮へと帰り部屋へ入ると、私は手に持っている鞄を置き、机に座る。
侍女であるネオラは私が帰って来た姿を確認すると礼をして、すぐにお茶を淹れた。彼女は私の前に茶を置くと、トレイを抱えて私に尋ねた。
「お嬢様、衣装をお返しすることはできたのですか?」
「衣装?何のことを言っているのかしら。
そんなことより男爵家の令嬢、すごく腹が立つわね。あの女、絶対彼に媚び売っているもの。私のレヴォン様を奪うなんて許せない」
カップを手に持ちながら口を尖らせて話しお茶を飲むと、彼女は少し目を見開いて驚くが、すぐに納得したような表情になった。
「ネオラ、どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。それよりも今日は何があったのでしょうか」
「聞いてちょうだい。最近よくレヴォン様とシュゼットという名前の男爵令嬢が……」
私は今日彼と彼女と私の間で起きたことの話をして、愚痴をこぼす。彼女にはいつも学園から寮へ戻ると愚痴を話しているのだ。と言っても、愚痴をこぼすようになったのはここ二週間くらいの間のことで、それ以前は腹がたつようなことはほとんどなかったのだ。
急に愚痴を話すようになったのは、二週間前に行われたパーティーからだ。そのパーティーでは婚約者であるレヴォン様とファーストダンスを踊ったのだが、その踊っている最中に、彼はある令嬢の話をし始めた。
シュゼット・ファビウス男爵令嬢。それが彼の話した令嬢の名だった。
いつもは私が他の令嬢の話を彼の口からされるのを嫌がっているためにしないのだが、その時始めて彼から他の令嬢の話をされ、そのことに腹を立てながらも仕方なく話を聞いていると、とても良い人だと言っていた。
話をしている姿を見るに特に好意を寄せているようには見えなかったので、私はその話を聞いて腹を立てても彼に怒りはしなかった。
だがそのパーティーの後日、学園に行きいつも通り生活していると、レヴォン様とシュゼットがよく仲良く話をされている、という話をよく耳にするようになった。
何度も何度も話を聞くうちに、彼は彼女に騙されているのではないかと思い、早速行動に移したのが今日のこと。
私がネオラに愚痴をこぼしていると、彼と彼女のもとを去り教室に戻った時、なぜか私の手に袋があったことを思い出して、私はそれを鞄から取り出した。
「ねえネオラ、これが何かわかるかしら?庭園から教室に戻った時にいつのまにか私が持っていたのだけれど、こんなものを持って学園に行った記憶もどこかで手にした覚えもなくって…」
私は中に何が入っているのかも分からず、それを私が開けてしまうのは良くない行為だとわかっていたために彼女に袋ごと差し出す。
彼女はそれを受け取ると、それをじっと見つめた。
「…お嬢様は、本当に身に覚えがないのですね?」
「ええ。気がつけば手にあったのだもの」
彼女はわかりました、と返事をすると、そっと袋を開けて中身を覗き込んだ。危険なものではないとわかったからか、彼女は袋の中に手を入れ中の物を取り出す。彼女の手が掴んでいたものは、青みがかった男性用の、それもとても高貴な方が着ていそうな衣装だった。
「……緑色の衣装、ですわね」
「ええ、そのようです。…これを見ても、やはり思い当たる節はありませんか?」
「…ええ、全く」
そうですか、と彼女は返事をすると手に持ったその衣装を丁寧に袋に戻し、それを机の端へ置いた。
「後日一応学園の方へ届けさせていただきますね。学園で見つけられたものですから、誰かのものかもしれません」
「それがいいわね。ありがとう」
私がにこりと微笑みながら言えば、彼女は目を細め礼をする。少しだけその笑顔に何か引っかかるものを感じたが、気のせいだろうと思い気にしないことにした。
「……少し休んでもいいかしら。ちょっと疲れたみたい」
「はい、もちろんです」
私はカップの中にお茶がなくなったことを確認すると座っていた席から立ち、ベッドへ移動し寝転んだ。
胸のあたりがずっとモヤモヤしていた。ずっと消えなくて少し気持ちが悪い。
朝はなんともなかったはずなのに、いつからだっただろうか。と、今日一日の行動を思い出していると、彼女と、シュゼットと庭園で話した時あたりのところで引っかかるものがあった。
あのときだ。彼女と対面したときから、ずっと胸がざわついてモヤモヤしていた。
腹を立てているためだろうか。彼を騙して、媚びを売っていることにイライラして、それが胸のざわつきに変わったのだろうか。
なんとなくだが、それは違う気がした。
何か、忘れている気がする。とても、何か、大きなことを。
目を閉じてじっと考える。
何かとても大事なことだった気がするのだ。何か、忘れてはならないものだったような。
しばらく目を閉じて考えていると、浮かび上がってきたものはその考えに対する答えではなく、愛しい彼の笑顔だった。
大好きで、愛して止まない私の婚約者。
庭園で対面したときの彼は少し怖く感じた。だけど、それでも、大好きなのだ。きっと一生変わらない。
今日見た彼の表情を思い出していると、頭がズキリと痛む。
彼が関係しているような気がした。私の、何か、抜けてしまったものに。
思い出せば、彼だけではない。違和感を感じるのは……彼と、ネオラだ。彼らへの認識は何も間違っていないはずなのに、何か違和感を覚えるのだ。
大好きで、私を好きだと言ってくれた婚約者。
学園に入る少し前になった、私の侍女。
それ以上でも、それ以下でもない。何も、何一つ間違っていない。おかしいことなど一つもない。
なのに、彼らに関する何かとても大事なものを忘れている気がしてならない。
対面したときの彼の瞳を思い出す。
彼の瞳は、表情と同じように静かで何を考えていたのかわからなかった。
でも、と思う。
あの時は気が荒れていて気がつかなかった。でも、あの時、あの方の静かな目には、戸惑いの感情があった。ただの記憶ではあるのだが。そして戸惑いだけではなく、焦りもあったように思う。
戸惑いと、焦り。
彼があの時、何を考えていたのかわからない。なぜその感情が浮かんだのか、もだ。
わからないことが多い。多すぎて、頭がおかしくなりそうだ。
私は何を覚えていて、何を忘れていて、何か間違っている…?
それが、それらが、何なのか、私にはわからない。
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