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白い痛み
17話
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「あーん」
「ぁ、ん」
広がる脂の味に舌鼓を打つセーレは違和感に首を傾げるが、また運ばれる焼き魚に口を開ける。丁寧に骨を取られた身が食べやすくて、丸ごとは食べないことを知った。
「あーん、」
「んむ、」
「はは、可愛い」
「っ!!」
勇者の笑う声で状況の異様さに気づいた。なんで俺、勇者から食べさせてもらってるんだろう。魚の残骸を見て我に帰る。爛れた掌は数日前に完治しているのに、勇者に甘えるなんて何を考えていたんだ。硬く口を引き締めてとりあえず俯いた。
「、?」
唇に甘い汁が付いた。開かなくなった口に勇者が首を傾げる。プルプルと瑞々しい真っ白な果肉がいく宛なく宙を彷徨っている。再度、近づいた果肉に顔を背けて、避ければ頬をニ本の指先が柔く潰す。ムグ、とついてでた呻きにセーレの緊張感とは比例して勇者は表情を和らげた。
「あー、」
「……」
「食べないのか?」
今更抵抗するのなんて無駄なことはわかっているけれど、一旦頭を整理したくて唇を引き結ぶ。すると勇者は行き場がなくなった果肉を食んでみせた。滴る果汁が皿に音を立てる。毒味をしてみせるように勇者は嚥下すると果肉を突き刺した。
「あーん」
「……、ん」
拒否にも動じない勇者に根負けしたのはセーレだった。頷いた勇者は癪だけれど、仕方がないと無理やり納得することにする。そんな細かいことを一つ一つ考えていたら魔物のプライドが粉々になっていることに気づいてしまう。
「いい子」
無事に空になった皿に意志薄弱な自分を悔しく思う。追い討ちに勇者の掌が頭を撫でるから首をすくめた。勇者は反抗するこちらなど何も気にしていない様子で傷の経過観察を始めるので居心地が悪い。魔物なんて人間よりも丈夫なのに硝子を突くように優しく触れられると混乱するからやめてほしい。
「はあ、」
ベッドに寝転がるのも五回目。ついに、セーレは真理に気づかざるを得なくなっていた。自身のここでの待遇が囚人でも捕虜でもなく、客人であることに。果実までついた3食のご飯と用意された衣、それに加えて勇者の態度だ。あんなの魔王にする態度ではない。セーレの力量は測れているはずで油断させる意味がないことなんて理解したはずなのだ。なのに、勇者は幼子を相手するように甲斐甲斐しく世話をして、警戒を解き、剣さえ穿いていない。もてなされているという事実に辿り着いたセーレは数回、水差しを零しては動揺にぽかんと口を開いていた。
「……なんで?」
待遇と勇者の態度がわからない。疑問が駆け抜けて起き上がると頭を抱えた。和平をするにも交渉の一つもされない。
そして、悩みの種はそれだけではない。いや勇者関連といえばそうなのだが、セーレは勇者に絆されまくっていた。気づけばセーレは、朝勇者が起こしてくれることを待っているし、毎日小さく切られた果実を楽しみにしてしまっているし、何より勇者の微笑みを待つ自分がいる。こんなのおかしいと押さえつける理性に抗う鼓動と火照る頬が自覚させていた。
「こんなの、だめ。俺は魔王なんだから」
叶うはずがない。叶っていいはずがない。きっと、今も魔王城は混乱状態だし、カミラの激怒する姿が思い浮かぶ。こんなもてなされ甘やかされる生活に浸っているままではいけない。離れなくては。
決心した心はズキズキと燃やされるような痛みを訴えて、頭を振る。丁度襲った眠気に身を任せて身体を沈めた。
「ぁ、ん」
広がる脂の味に舌鼓を打つセーレは違和感に首を傾げるが、また運ばれる焼き魚に口を開ける。丁寧に骨を取られた身が食べやすくて、丸ごとは食べないことを知った。
「あーん、」
「んむ、」
「はは、可愛い」
「っ!!」
勇者の笑う声で状況の異様さに気づいた。なんで俺、勇者から食べさせてもらってるんだろう。魚の残骸を見て我に帰る。爛れた掌は数日前に完治しているのに、勇者に甘えるなんて何を考えていたんだ。硬く口を引き締めてとりあえず俯いた。
「、?」
唇に甘い汁が付いた。開かなくなった口に勇者が首を傾げる。プルプルと瑞々しい真っ白な果肉がいく宛なく宙を彷徨っている。再度、近づいた果肉に顔を背けて、避ければ頬をニ本の指先が柔く潰す。ムグ、とついてでた呻きにセーレの緊張感とは比例して勇者は表情を和らげた。
「あー、」
「……」
「食べないのか?」
今更抵抗するのなんて無駄なことはわかっているけれど、一旦頭を整理したくて唇を引き結ぶ。すると勇者は行き場がなくなった果肉を食んでみせた。滴る果汁が皿に音を立てる。毒味をしてみせるように勇者は嚥下すると果肉を突き刺した。
「あーん」
「……、ん」
拒否にも動じない勇者に根負けしたのはセーレだった。頷いた勇者は癪だけれど、仕方がないと無理やり納得することにする。そんな細かいことを一つ一つ考えていたら魔物のプライドが粉々になっていることに気づいてしまう。
「いい子」
無事に空になった皿に意志薄弱な自分を悔しく思う。追い討ちに勇者の掌が頭を撫でるから首をすくめた。勇者は反抗するこちらなど何も気にしていない様子で傷の経過観察を始めるので居心地が悪い。魔物なんて人間よりも丈夫なのに硝子を突くように優しく触れられると混乱するからやめてほしい。
「はあ、」
ベッドに寝転がるのも五回目。ついに、セーレは真理に気づかざるを得なくなっていた。自身のここでの待遇が囚人でも捕虜でもなく、客人であることに。果実までついた3食のご飯と用意された衣、それに加えて勇者の態度だ。あんなの魔王にする態度ではない。セーレの力量は測れているはずで油断させる意味がないことなんて理解したはずなのだ。なのに、勇者は幼子を相手するように甲斐甲斐しく世話をして、警戒を解き、剣さえ穿いていない。もてなされているという事実に辿り着いたセーレは数回、水差しを零しては動揺にぽかんと口を開いていた。
「……なんで?」
待遇と勇者の態度がわからない。疑問が駆け抜けて起き上がると頭を抱えた。和平をするにも交渉の一つもされない。
そして、悩みの種はそれだけではない。いや勇者関連といえばそうなのだが、セーレは勇者に絆されまくっていた。気づけばセーレは、朝勇者が起こしてくれることを待っているし、毎日小さく切られた果実を楽しみにしてしまっているし、何より勇者の微笑みを待つ自分がいる。こんなのおかしいと押さえつける理性に抗う鼓動と火照る頬が自覚させていた。
「こんなの、だめ。俺は魔王なんだから」
叶うはずがない。叶っていいはずがない。きっと、今も魔王城は混乱状態だし、カミラの激怒する姿が思い浮かぶ。こんなもてなされ甘やかされる生活に浸っているままではいけない。離れなくては。
決心した心はズキズキと燃やされるような痛みを訴えて、頭を振る。丁度襲った眠気に身を任せて身体を沈めた。
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