上等だ

吉田利都

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平穏は過ぎ去る

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「よーし、目標は持ち手の三倍ゲットな!」

「そんなの出来るの?見たことないよ。」

「あたしにかかればよゆー。」

美咲は腕まくりをして一枚打ち込んだ。

一般的なメダルゲームだがこのゲーム気づけばあっという間に持ち手がなくなっていることが多い。

それ故に中毒性も高い。

「うーん、これはいけますな。」

「え、ほんと?」

「この高いタワーを倒してみせよう。」

美咲は三本立っているコインタワーを倒すように一枚一枚確実に

下の方に落としていった。

30分後、コインタワーが動き始める。

「ほれ、山が動いてきたぞ」

タワーはじりじりと押されこちら側の方へと寄ってきた。

「すごい・・・」

このでかいタワーが落ちる所なんて見たことがない。

「もうちょい・・・」

三本中の左一本に狙いを定めコインを放つ。

美咲の手持ちは残り10枚。

「う、ご、け・・・!」

美咲がうなだれる。

タワーはギリギリまで差し掛かったというのになかなか落ちてくれない。

「よし、ラスト5枚いくよ。」

「うん。」

1枚目、コインはうまく下に落ちタワーを押してくれた。

2枚目、重なってしまい失敗。

3枚目、いいところに打った!

4、5枚下に落ちる。

タワーをグンと押した。

「おちろ!おちろ!」

僕も心の中でそう叫ぶ。

ダーン!ジャララララララ

「うおー!!見ろ黒沢!」

「みてるよ!すごい!」

タワーは気持ちよく倒れ一気に数百枚のコインが美咲の手持ちに加算される。

「倒れたの初めて見たよ。」

「ナハハハ、言ったろ?倒すって。」

「ほんとに倒すとは。」

「じゃあ、次黒沢が倒しなよ。」

「無理だよ。」

「大丈夫、こんだけあるんだから。」

僕もさっきの光景を見たせいでいける気がしていた。

「じゃあ、やってみる。」

10分後、僕はすべてのコインを使い切った。

「なあ、黒沢。」

「な、なに?」

「お前、不器用なんだな。」

美咲が少し引いていた。

無理もない、さっきあれだけ美咲が

左狙いとは言え残り二本も少し動かしてくれていたというのに

僕はほんの10分で終わらしてしまった。

「そ、そうかな。」

「そうだろ。」

美咲が笑いだした。

僕もつられて笑った。

「それじゃあ、もう帰るか。」

「うん。そうだね。」

「ところで、さっきコンビニで何買ったの?」

美咲はコンビニ袋を一度も開けていなかった。

「あ、わすれてた!」

ガサガサとコンビニ袋から取り出したのはアイスだった。

「あちゃー、絶対溶けてるよな。」

「そうだね、袋から出さないほうがいいよ。」

「あーあ、食べたかったな。」

「家に帰ってまた冷やせば食べられるよ。」

「そうじゃないんだよ。黒沢君。」

「学校帰りに食べるから美味いんだよ。」

確かにそれは一理ある。

僕もたまに学校帰りにコンビニに寄ってお菓子やアイスを買う。


「ちなみに、黒沢の分もあるんだけどいる?」

「え、まじで?」

「ほれ」

同じアイスを取り出し見せてきた。

「絶対溶けてるよ。」

袋が一部膨張している。

「いらない?」

そう聞かれるともらわざるを得ない。

「いるいる。帰って僕も冷やすよ。」

「おう、すまんな。」

お互い溶けたアイスを持って家に帰った。

僕たちの仲もいずれ溶けてしまうとは知らずに。
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