上等だ

吉田利都

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CD屋に入るとまず見るのが新譜コーナーだ。

「黒沢、これみて。」

「うお、くるりの新譜出てるじゃん。」

「ナハハハ」

「何で笑うんだよ。」

「くるりなんて大体の人が知らないからな。」

「そ、そうかな」

他にも漁ったがこれといって惹かれるものはなく僕たちは洋楽コーナーも見に行った。

CD屋の雰囲気ってやっぱりいいな。

それにいつもより今日はよく周りを見渡せている気がする。

僕はいつも下向いてたからな。

友達がいるってこんなにも景色が変わって見えるんだな。

「黒沢、黒沢!」

「声が大きいよ。」

「すまん、これ見て!前から欲しかったCD」

美咲が手に持っていたのはWeezerのラディテュードというアルバムだった。

「どこ探しても何故かおいてなくてさ。」

「へえ、確かに僕も持ってない。」

「この犬のジャケ写がいいんだよねぇ~」

犬が空中を飛んでいる様子だ。可愛い。

「買おっかな~いくらだろ。」

「ゲッ2500だ。」

「高くないじゃん。」

「あたし今1000円しか持ってない。。」

よくそれで買おうという気になったな。

「貸そうか?」

ほんとはお金の貸し借りはよくないが美咲なら大丈夫だろう。

「いいの!?」

「ちゃんと返してね?」

「おう!まかせろ!」

とはいえ映画館でのチュロス代もいまだに返ってきていない。

急に心配になったがもう美咲の手に渡ってしまった。

やったーと喜ぶ美咲の顔を見てるとまあいいかという気になれた。

「それで、僕におすすめしてくれるんじゃなかったっけ?」

「あ、そうだそうだ。ちょっと待ってて。」

そう言うと邦楽の方へと歩みだす。

洋楽じゃないんだな。

「あ、あったあった。こっちこっちー」

下の段の片隅に置いてあったCDを見てみる。

「これは・・・なんだ?」

Syrup 16gというアーティストのCOPYというアルバムらしい。

初めて見るものだった。

「お、これは知らなかったか。」

ニヤニヤする美咲に聞いた。

「どういうジャンルなの。」

「んー。あたしからすれば小説みたい。」

「なんだそれ、ロックじゃないの?」

「もちろん、ロックだよ。」

「その中でも『生活』って曲が一番好き。」

「ふーん、聞いてみるよ。」

「お、お買い上げですか。」

「買うよ。」

レジに向かい支払うときに気づいたが、結構ぎりぎりだった。

お金貸しといて自分のCDが買えなかったらすごく恥ずかしかっただろうな。


ありがとうございました~


CD屋を出ると少し小雨が降り始めていた。

「やばいね、ちょっと急いで帰ろ。」

「うん」

しかし、そんな二人をあざ笑うかのように雨は強くなった。

「やべーよ黒沢!雨宿りしよう。」

頭の上にカバンを掲げるがそれじゃ全然足りなかった。

さっとバスの停留所にある屋根の下に入った。

「これ、しばらく止みそうにないね。」

僕は椅子に座り、ぼーっと雨を眺める。

「あたしの家洗濯物干しっぱなしだろうなー」

「とにかくCDは守らないとね。」

カバンを漁っている美咲は雨に濡れていて髪がぐしゃぐしゃだった。

そのまま視線を下にずらすと制服が透けて見えてしまっていた。

僕は思わず「あっ」と声を出し前を向く。

「なんだよ。」

「別に何もないよ。」

美咲も女なんだよな。

そう思うと変に緊張してきた。

「雨、上がらなかったらどうする?」

その質問は今の僕には変にいかがわしく聞こえる。

「どうしようか。一応折り畳みの傘持ってるけど。」

「は!?持ってんのかよ。早く言えよな」

「でもこの雨じゃもたないよ。それに一つだけだし。」

「いいんだよ。どうせ止まないだろこれ。」

指さした雨はますます強さを増している。

梅雨はまだ終わってなかったんだ。

バサッ

僕から取り上げた傘を美咲は開く。

「狭いけど二人で入れなくはないよ。帰ろ」

「え、それ相合が・・・」

「うるせぇ、気にすんな!」

ガッと肩をつかまれて強引に引っ張られた。

「いくぞ。」

「うん」

お互い近くて顔を合わせられなかったけど少しだけ美咲の方を見てみた。

すると美咲とバッチリ目が合ってしまった。

二人とも同じ考えだったのだろう。

「なんだよ。」

「なにもないよ。」

「みてんじゃねぇよ!」

「そっちも見てたじゃないか!」

ここでため息をつき美咲が言った。

「あたしたち、いつまで友達でいられるんだろうね。」

その問いはどうとらえるべきかわからず

「美咲が友達でいたいと思うときまで友達でいいんじゃないかな。」

と言っておいた。

美咲はずるいと言って僕の頭を殴った。

しかしそれはまったく痛くなく、むしろむず痒かった。

「じゃ、この辺でいいよ。」

「え、家この辺じゃないよね。」

美咲の家はまだもう少し先の住宅地。

「ちょっとお母さんの仕事場に寄りたくて。」

「そうなんだ。」

「じゃあな。」

こちらを見ずに手を振る。

「また。」


分かれると僕は下を向き、ただ雨が溝に流れていく様をずっと見ていた。
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