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みつお、正則に豊臣が徳川に滅ぼされることを打ち明ける。
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みつおは正則と重成を率いて、多くの家臣に警護されながら船に乗り移った。船内にも既に多くの家臣が乗り込んでおり、みつおを出迎えた。いや、彼らにしてもみつおを秀頼と思い込んでいることだろう。何しろ、秀頼薨去の事実は大坂城の一部首脳陣しか知らないからだ。
それでも彼ら…、末端の家臣は秀頼の顔を知らずとも、身長ぐらいは知っている筈であり、みつおの身長は秀頼のそれに比べて明らかに低く、家臣らの中にはみつおの歩く姿を目の当たりにして怪訝な表情を浮かべる者もいた。みつおは何だかいたたまれなくなり、思わずうつむいてしまった。すると真後ろを歩いていた正則に背中を拳で叩かれた。
「気にするな。前を向いて、堂々と歩け」
正則は低い声で…、周りの家臣に聞かれぬよう低い声で、みつおをカツを入れた。それでみつおも顔を上げた。
船に乗ったみつおは人気のないところに…、特に聞き耳を立てられる恐れのないところに正則を誘った。正則と二人だけで話したいことがあったからだ。すると既に長益と且元もついて来ようとしたので、
「ついて来ないでくれ」
みつおがそう言ったにもかかわらず、それでも二人はついて来ようとしたので、正則が刀の柄に手をかけてようやく二人を追い払った。だが長益と且元のことである。盗み聞きをしようと、近付かないとも限らない。みつおは重成に長益と且元を見張ってくれるように頼んだ。
みつおはそうしておいて正則とその人気のない場所へと移動した。
「それで何の用だ?」
正則にそう尋ねられた。
「さっきはありがとう…」
「何のことだ?俺はあいにく、ここが悪くてな…」
正則は自分の頭を指差すと、「すぐに忘れてしまう…」と付け加えた。
みつおはそんな正則に対して微笑むと、正則も微笑みを返した。
だがそれもつかの間、正則はすぐに元の表情に…、元の引き締まった精悍なる表情へと戻ると、
「それで何の用だ?まさかに…、感傷に浸りたくて俺と二人きりになったわけではなかろう?」
そう尋ねた。
「ああ。実は正則様に頼みがあって…」
「そうか。ああ、その前に、俺のことは正則と呼んでくれ。主が家来を様で呼んでは不自然ゆえ…」
「そうか。それなら俺のことも、みつおと呼んでくれて構わない」
「主を呼び捨てにするわけには参らん」
「二人きりの時だけだ。今みたいに…」
「そうか…、それなら相分かった。それでみつおよ、何の用だ?」
「これから少し言いにくいことを言う…、正則にとっては聞きたくない部類の話になるだろうが…」
「前置きは良い。何だ?」
みつおは腹に力を入れると、一気に吐き出した。
「豊臣家はいずれ滅ぶ」
「豊臣家はいずれ滅ぶ、とな?」
正則が聞き返した。
「ああ」
「それは、徳川方に、という意味だな?」
「そうだ。大坂夏の陣で、大坂城は炎上、淀殿と秀頼母子は自害…、というのが史実だ」
「それが、みつおがいた世における史実、というわけだな?」
「そうだ」
「だが、大坂城炎上はともかく…、秀頼ぎみは自害ではなかった…」
「ああ、病死だ。恐らくは俺がこの時代に転生しちまったことで、歴史を歪めたんだろうが…、それはともかく徳川方は…、家康はいずれ間違いなく豊臣を滅ぼすだろう。秀頼に扮した俺と共にな…」
「分からぬことがある」
「どうして大坂城が炎上したか、ってか?」
みつおは正則の疑問を当ててみせた。
「左様。あれだけの…、正に堅牢無比な大坂城がそう易々と落ちるとも思えん。まして内府殿は野戦はそこそこ上手なれど、城攻めはそれほど得意でないからのう…」
「それはだな、夏の陣の前に冬の陣があったんだ」
「その間に和睦したということか?」
「そうだ。その時の和睦の条件だが…」
「そこから先は言わずとも分かる。濠を埋めることだな?」
「そうだ。勿論、全部の濠を埋めちまう、ってな条件を持ち出したら、まとまる和睦もまとまらないから、とりあえず一部の濠だけ埋めるって条件で和睦したんだ…」
「豊臣家を油断させたわけだな?そうしておいて、全ての濠を埋め尽くしたと…」
「ああ。約束を破ったもん勝ちってばかりにな」
「なるほど…、堅牢無比な大坂城も濠を埋められてしまえば裸城も同然…」
「ああ。それで大坂城は炎上したってわけさ…」
「その後は徳川方の天下、というわけだな?」
「そうだ。磐石なる徳川幕府が完成した、ってわけさ」
「そうか…」
正則は仕方ないといった表情をした。もしかしたら正則にしても豊臣がいずれ徳川に滅ぼされることを心のどこかで予期していたのやも知れぬ。
それでも彼ら…、末端の家臣は秀頼の顔を知らずとも、身長ぐらいは知っている筈であり、みつおの身長は秀頼のそれに比べて明らかに低く、家臣らの中にはみつおの歩く姿を目の当たりにして怪訝な表情を浮かべる者もいた。みつおは何だかいたたまれなくなり、思わずうつむいてしまった。すると真後ろを歩いていた正則に背中を拳で叩かれた。
「気にするな。前を向いて、堂々と歩け」
正則は低い声で…、周りの家臣に聞かれぬよう低い声で、みつおをカツを入れた。それでみつおも顔を上げた。
船に乗ったみつおは人気のないところに…、特に聞き耳を立てられる恐れのないところに正則を誘った。正則と二人だけで話したいことがあったからだ。すると既に長益と且元もついて来ようとしたので、
「ついて来ないでくれ」
みつおがそう言ったにもかかわらず、それでも二人はついて来ようとしたので、正則が刀の柄に手をかけてようやく二人を追い払った。だが長益と且元のことである。盗み聞きをしようと、近付かないとも限らない。みつおは重成に長益と且元を見張ってくれるように頼んだ。
みつおはそうしておいて正則とその人気のない場所へと移動した。
「それで何の用だ?」
正則にそう尋ねられた。
「さっきはありがとう…」
「何のことだ?俺はあいにく、ここが悪くてな…」
正則は自分の頭を指差すと、「すぐに忘れてしまう…」と付け加えた。
みつおはそんな正則に対して微笑むと、正則も微笑みを返した。
だがそれもつかの間、正則はすぐに元の表情に…、元の引き締まった精悍なる表情へと戻ると、
「それで何の用だ?まさかに…、感傷に浸りたくて俺と二人きりになったわけではなかろう?」
そう尋ねた。
「ああ。実は正則様に頼みがあって…」
「そうか。ああ、その前に、俺のことは正則と呼んでくれ。主が家来を様で呼んでは不自然ゆえ…」
「そうか。それなら俺のことも、みつおと呼んでくれて構わない」
「主を呼び捨てにするわけには参らん」
「二人きりの時だけだ。今みたいに…」
「そうか…、それなら相分かった。それでみつおよ、何の用だ?」
「これから少し言いにくいことを言う…、正則にとっては聞きたくない部類の話になるだろうが…」
「前置きは良い。何だ?」
みつおは腹に力を入れると、一気に吐き出した。
「豊臣家はいずれ滅ぶ」
「豊臣家はいずれ滅ぶ、とな?」
正則が聞き返した。
「ああ」
「それは、徳川方に、という意味だな?」
「そうだ。大坂夏の陣で、大坂城は炎上、淀殿と秀頼母子は自害…、というのが史実だ」
「それが、みつおがいた世における史実、というわけだな?」
「そうだ」
「だが、大坂城炎上はともかく…、秀頼ぎみは自害ではなかった…」
「ああ、病死だ。恐らくは俺がこの時代に転生しちまったことで、歴史を歪めたんだろうが…、それはともかく徳川方は…、家康はいずれ間違いなく豊臣を滅ぼすだろう。秀頼に扮した俺と共にな…」
「分からぬことがある」
「どうして大坂城が炎上したか、ってか?」
みつおは正則の疑問を当ててみせた。
「左様。あれだけの…、正に堅牢無比な大坂城がそう易々と落ちるとも思えん。まして内府殿は野戦はそこそこ上手なれど、城攻めはそれほど得意でないからのう…」
「それはだな、夏の陣の前に冬の陣があったんだ」
「その間に和睦したということか?」
「そうだ。その時の和睦の条件だが…」
「そこから先は言わずとも分かる。濠を埋めることだな?」
「そうだ。勿論、全部の濠を埋めちまう、ってな条件を持ち出したら、まとまる和睦もまとまらないから、とりあえず一部の濠だけ埋めるって条件で和睦したんだ…」
「豊臣家を油断させたわけだな?そうしておいて、全ての濠を埋め尽くしたと…」
「ああ。約束を破ったもん勝ちってばかりにな」
「なるほど…、堅牢無比な大坂城も濠を埋められてしまえば裸城も同然…」
「ああ。それで大坂城は炎上したってわけさ…」
「その後は徳川方の天下、というわけだな?」
「そうだ。磐石なる徳川幕府が完成した、ってわけさ」
「そうか…」
正則は仕方ないといった表情をした。もしかしたら正則にしても豊臣がいずれ徳川に滅ぼされることを心のどこかで予期していたのやも知れぬ。
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