6 / 27
一兵はシオリたちに指紋採取を実演してみせる
しおりを挟む
一兵は起き上がると、ベッドの上に置かれていた、やはりこれもまた特に本部鑑識課のプライドとも言うべき、
『MPD INVESTIGATION』
のキャップを取り上げた。やはり無事で、一兵はそれを頭に被(かぶ)るともう「戦闘モード」であった。
さらに一兵は「戦闘モード」を高める白手袋をはめると、いよいよ指紋採取の実演をしてみせることとした。
一兵は周囲を見回し、窓枠にガラス窓がはめられているのを目にした。
「ガラス…」
一兵がそう呟(つぶや)くと、やはりシオリが一兵の胸のうちを推し量ったようで、
「ガラスぐらい異世界にもありますわ…」
微笑を浮かべてそう答えてくれた。幾分(いくぶん)か自分に親しみを覚え始めたのではないかと、一兵にそう思わせた。
「それじゃあ…、この窓の真ん中の部分…」
一兵はその部分を白手袋をはめた右手の人差し指で指し示すと、
「この部分を誰か手で…、指で触ってもらえませんかね。勿論、その間、私はこの部屋から出て行きますから…」
そう提案した。
「誰が触ったのか…、誰の指なのか、そのシモンとやらで当てようと?」
タテがそう尋ねた。いかにもその通りではあるが、当てるという言い草には一兵は気に入らなかった。何だかまるでクイズにでも当ててみせるかのような、そんな言われようだったからだ。
尤(もっと)も、そんなことに腹を立てていても仕方ないと、一兵は気を取り直して、「ええ」と答えると、
「右手でも左手でもどちらの指でも構いません。勿論、親指でも人差し指でも…」
そう告げると、一兵は指紋採取の機材が入ったアルミケースを抱えていったんその部屋を後にした。アルミケースまでわざわざ抱える必要はないのかも知れないが、それでも捜査関係者以外だけしかいない場所に指紋採取の機材を置きっぱなしにすることは一兵にはできなかった。それはさしずめ本能のようなものであり、それは何も一兵に限らないだろう。すべての鑑識課員に共通する「本能」と言うべきであろう。
さて、そうして外で待機していた一兵の元を間もなくしてシオリが現れ、「終わりました」と告げた。
一兵はシオリと共に再び部屋に戻り、そして問題の窓の前へと近付くと、いよいよ本番である。
一兵はアルミケースから指紋採取の機材を取り出した。指紋の印章後、1時間どころか3分も経っていない、つまりは「出来立てほやほや…」の指紋であるので、ここはLA粉末を使うべきと、その検出液を取り出すと、それをタンポに染みこませ、そしてそのLA粉末が染みこんだタンポでもって窓のちょうど真ん中あたりを指紋を壊さぬようにと慎重な手付きでさらにLA粉末を染みこませ、小筆でもって刷いた。
するとあら不思議、一個の指紋が検出された。一兵はそれをゼラチン紙に転写した後で、今度はここにいる者たち全員の指紋を取ることにした。
即(すなわ)ち、ここにいる4人分に相当する4枚の協力者指紋原紙を取り出すと、1人ずつ、左手の人差し指、所謂(いわゆる)、示指の指紋から原紙に転写されていく。
まずはレディファースト、シオリの指紋から取ることにした。シオリは興味深げな様子で、一兵から言われた通り左手の人差し指に朱肉を含ませ、そして原紙の「示指」という部分に人差し指を擦り付けた。
この要領でもって4人全員の指紋採取を終えた。果たして魔術師らしき男は協力してくれるかと、一兵は内心、不安であったが、どうやらそれは杞憂(きゆう)であった。シオリに続いてタケ、ジュンが指紋を採らせてくれると、最後に魔術師らしき男も指紋を採らせてくれた。
さて、こうして4人全員の指紋採取を終えたところで、例の窓から検出された指紋とをルーペで覗き込み、比較するという対照作業に入る。
「へぇ…、変体紋だ…」
一兵はシオリの指紋をルーペで覗き込みながらそう呟(つぶや)いた。
「ヘンタイモン?」
シオリたちが声を揃(そろ)えて聞き返した。
「ええ…、指紋には大まかに渦状(かじょう)紋、蹄状(ていじょう)紋、弓状(きゅうじょう)紋、そしてこれらのいずれにも属さない変体(へんたい)紋に分かれておりまして、このうち日本人に多いのは…」
一兵はルーペを覗(のぞ)き込みながら講釈(こうしゃく)し始め、しかし、すぐにどうでも良いことだと思い直して口を噤(つぐ)み、対照作業に集中した。
そうしてそれから暫(しばら)くしてから漸(ようや)くにお目当ての指紋に行き着いた。
「タテさん…、左手の中指でもって触りましたね?」
一兵はルーペから顔を上げると、タテの方を向いてそう告げた。これにはタテは勿論、シオリたちも…、例の魔術師らしき男ですら驚いた様子をのぞかせた。
『MPD INVESTIGATION』
のキャップを取り上げた。やはり無事で、一兵はそれを頭に被(かぶ)るともう「戦闘モード」であった。
さらに一兵は「戦闘モード」を高める白手袋をはめると、いよいよ指紋採取の実演をしてみせることとした。
一兵は周囲を見回し、窓枠にガラス窓がはめられているのを目にした。
「ガラス…」
一兵がそう呟(つぶや)くと、やはりシオリが一兵の胸のうちを推し量ったようで、
「ガラスぐらい異世界にもありますわ…」
微笑を浮かべてそう答えてくれた。幾分(いくぶん)か自分に親しみを覚え始めたのではないかと、一兵にそう思わせた。
「それじゃあ…、この窓の真ん中の部分…」
一兵はその部分を白手袋をはめた右手の人差し指で指し示すと、
「この部分を誰か手で…、指で触ってもらえませんかね。勿論、その間、私はこの部屋から出て行きますから…」
そう提案した。
「誰が触ったのか…、誰の指なのか、そのシモンとやらで当てようと?」
タテがそう尋ねた。いかにもその通りではあるが、当てるという言い草には一兵は気に入らなかった。何だかまるでクイズにでも当ててみせるかのような、そんな言われようだったからだ。
尤(もっと)も、そんなことに腹を立てていても仕方ないと、一兵は気を取り直して、「ええ」と答えると、
「右手でも左手でもどちらの指でも構いません。勿論、親指でも人差し指でも…」
そう告げると、一兵は指紋採取の機材が入ったアルミケースを抱えていったんその部屋を後にした。アルミケースまでわざわざ抱える必要はないのかも知れないが、それでも捜査関係者以外だけしかいない場所に指紋採取の機材を置きっぱなしにすることは一兵にはできなかった。それはさしずめ本能のようなものであり、それは何も一兵に限らないだろう。すべての鑑識課員に共通する「本能」と言うべきであろう。
さて、そうして外で待機していた一兵の元を間もなくしてシオリが現れ、「終わりました」と告げた。
一兵はシオリと共に再び部屋に戻り、そして問題の窓の前へと近付くと、いよいよ本番である。
一兵はアルミケースから指紋採取の機材を取り出した。指紋の印章後、1時間どころか3分も経っていない、つまりは「出来立てほやほや…」の指紋であるので、ここはLA粉末を使うべきと、その検出液を取り出すと、それをタンポに染みこませ、そしてそのLA粉末が染みこんだタンポでもって窓のちょうど真ん中あたりを指紋を壊さぬようにと慎重な手付きでさらにLA粉末を染みこませ、小筆でもって刷いた。
するとあら不思議、一個の指紋が検出された。一兵はそれをゼラチン紙に転写した後で、今度はここにいる者たち全員の指紋を取ることにした。
即(すなわ)ち、ここにいる4人分に相当する4枚の協力者指紋原紙を取り出すと、1人ずつ、左手の人差し指、所謂(いわゆる)、示指の指紋から原紙に転写されていく。
まずはレディファースト、シオリの指紋から取ることにした。シオリは興味深げな様子で、一兵から言われた通り左手の人差し指に朱肉を含ませ、そして原紙の「示指」という部分に人差し指を擦り付けた。
この要領でもって4人全員の指紋採取を終えた。果たして魔術師らしき男は協力してくれるかと、一兵は内心、不安であったが、どうやらそれは杞憂(きゆう)であった。シオリに続いてタケ、ジュンが指紋を採らせてくれると、最後に魔術師らしき男も指紋を採らせてくれた。
さて、こうして4人全員の指紋採取を終えたところで、例の窓から検出された指紋とをルーペで覗き込み、比較するという対照作業に入る。
「へぇ…、変体紋だ…」
一兵はシオリの指紋をルーペで覗き込みながらそう呟(つぶや)いた。
「ヘンタイモン?」
シオリたちが声を揃(そろ)えて聞き返した。
「ええ…、指紋には大まかに渦状(かじょう)紋、蹄状(ていじょう)紋、弓状(きゅうじょう)紋、そしてこれらのいずれにも属さない変体(へんたい)紋に分かれておりまして、このうち日本人に多いのは…」
一兵はルーペを覗(のぞ)き込みながら講釈(こうしゃく)し始め、しかし、すぐにどうでも良いことだと思い直して口を噤(つぐ)み、対照作業に集中した。
そうしてそれから暫(しばら)くしてから漸(ようや)くにお目当ての指紋に行き着いた。
「タテさん…、左手の中指でもって触りましたね?」
一兵はルーペから顔を上げると、タテの方を向いてそう告げた。これにはタテは勿論、シオリたちも…、例の魔術師らしき男ですら驚いた様子をのぞかせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる