現場指紋係主任は転生先の異世界でも指紋捜査官として活躍します

ご隠居

文字の大きさ
19 / 27

異世界カジノ贈収賄事件 ~ガーニー官房長官の犯罪を暴け~ 3

しおりを挟む
きわめてスジの良い贈収賄じゃありませんか…」

 一兵は思わずそんな感想をらした。

 カッツとアンリ夫妻、とりわけアンリはカジノ業者の選定…、どこの遊技機メーカーに賭場とば仕切しきらせるか、その「職務しょくむ権限けんげん」があり、そこで遊技機メーカーのガセミックはカッツとアンリ夫妻にとっての親分とも言うべきガーニー官房長官に3000枚もの金貨…、日本円にして3億もの金を贈り、そのうちの半額の1500枚もの金貨…、日本円にして1億5千万がカッツとアンリ夫妻に流れ、結果、ガセミックが見事みごと、カジノを取り仕切ることになった…、ガセミックが金を贈ったガーニー官房長官にこそ「職務しょくむ権限けんげん」はないものの、それでも「職務しょくむ権限けんげん」のある子分のカッツとアンリ夫妻に対してガセミックより贈られた金の半額を渡して、ガセミックにカジノを仕切しきらせることにさせたのだから、これはもうすじの良い…、言うなれば「綺麗きれい」な贈収賄、それも斡旋あっせん収賄しゅうわいであった。

「しかもカッツとアンリはその1500枚もの金貨を前の選挙でばらいた疑いもあります」

 ワセダ長官はそう付け加えた。

「ばらいたって…、それって買収ってことですか?」

「その通りです」

 ワセダ長官によると、カッツはカープ県全県区選出の国民議会議員であり、一方、女房のアンリはお隣のスサノオ県全県区選出の国民議会議員であった。

 カープ県、スサノオ県共に、定数3の選挙区であるが、直近ちょっきんの総選挙でアンリが夫のカッツの選挙区であるカープ県全県区に「くにえ」を果たしたのであった。

「カープ県はそれまで与党のミンジが2、野党のシュミンが1と仲良く棲み分けがなされていたのですが…」

 そこへ急遽きゅうきょ、与党・ミンジ所属のアンリが割り込んできた。表向き、与党での選挙区独占を狙ってのことだが実際には違う。

 カープ県全県区選出の与党議員はカッツと、それにミゾヤンであった。ミゾヤンは現首相にして党総裁でもあるアヴェガーに対して批判的な立場を取る議員の一人として知られており、そこでアヴェガーはこのミゾヤンを落選させるべく、アンリを第三の候補としてカープ県へと「くにえ」、要は割り込ませることにしたのであった。カープ県は定数が3で、そのうち1議席は野党がるので、与党が3議席独占するなど不可能であった。

 必然的に与党3候補のうち、1人が落選するわけだ。無論むろん、アヴェガーはミゾヤンを落選させるためにアンリを立たせたのであった。

 ちなみにアンリに白羽しらはの矢が立ったのは他でもない、アンリが亭主ていしゅのカッツ共々ともども、総理総裁のアヴェガーの「お友達」だからだ。

 ともあれこうして派手な選挙戦が展開された。いや、派手な選挙戦を展開したのはカッツとアンリ夫妻であり、この夫婦は派手な「実弾じつだん攻勢こうせい」を仕掛しかけたそうな。

 結果、見事にカッツと共にアンリも初当選を果たし、そして下馬評げばひょう通り野党・シュミンも1議席をったことから、現職議員のミゾヤンがはじき飛ばされた格好となった。

「我々、検察としてはカッツとアンリの公職選挙法違反、買収をも視野に入れて捜査しております」

 ワセダ長官の説明に一兵は、「成程なるほど…」と納得したような声を出すと、

「それで…、捜査そうさ端緒たんちょ…、何がきっかけで捜査を?」

 一兵はずっと気になっていたことを尋ねた。

「金貨を…、3000枚もの金貨を実際に官房長官のガーニーサイドに運んだガセミックの役員だった男の供述がきっかけです」

「役員だった男…、ああ…、何かのきっかけで会社を…、ガセミックを追われ、それで腹いせに検察にんだ…、そんなところですか?」

 一兵はそんな絵図えずを頭の中で思い描き、そしてそれはその通りであったらしく、ワセダ長官をうなずかせた。

「その通りです。で、その男…、ミライズの供述によりますと、議員会館に入居するガーニー官房長官の事務所に金貨を…、3000枚もの金貨を届けたそうです…」

「カジノという賭場とばをガセミックで仕切しきらせてもらう代わりに、ですね?」

「そうです」

「議員会館ということは…、面会証は…」

勿論もちろんさえました」

「ということは記録があったと?」

「ええ。ミライズが供述した日時の面会証、それをさえることに成功しました」

「その、ガーニーに贈った3000枚もの金貨、そのうちの半分の1500枚もの金貨が子分であるカッツとアンリ夫妻、とりわけ職務しょくむ権限けんげんのあるアンリ夫人に流れることもミライズ…、と言うよりはガセミックは勿論もちろん承知しょうちしていたと?」

「その通りです。その結果、我々はガーニーの事務所…、議員会館に入居する事務所は地元事務所、さらに自宅に同時に捜索そうさくをかけました」

「それでガサ…、捜索そうさくの結果は?」

「ハマ県にある地元事務所の金庫から金貨200枚を押収おうしゅうすることに成功しました」

「200枚…、3000枚の金貨のうち半分は子分のカッツとアンリ夫妻に贈ったから、ガーニーの手元に残っているのは同じく1500枚の金貨のはず…、やはり1300枚の金貨も選挙の…、ガーニー自身の選挙に使ったとか?」

「それもないとは言えないでしょうが、恐らくは他の子分の議員の選挙に使ったのではないかと…」

成程なるほどねぇ…、まぁ、ともあれタマリ…、金貨が出たのならもう逮捕状が取れるでしょうに…」

「それがそうはいかないんですよ」

 ワセダ長官は難しい顔付きでそう否定した。

「どうして?」

「その200枚の金貨ですが、正規の政治資金だと…」

「正規の政治資金?」

「そうです。決して、ガセミックから贈られた金貨ではなく、他の企業からの政治献金だと…、勿論もちろん、政治資金収支報告書にもそのむね、記載されていると…」

「つまり表の金だと、そう言ってるわけですね?」

「その通りです」

「で、検察としてはガーニーのその言い訳をくつがえせないと?」

「残念ながらその通りです」

 ワセダ長官は如何いかにも無念そうにそうつぶやいたかと思うと、一転いってん、力強い調子で、

「そこで是非ぜひともイッペイさん…、いえ、イッペイ捜査官のお力をお借りしたく…」

 一兵にそう懇請こんせいしたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...