26 / 66
真実に触れる頃
テキル星(8)御使いのお仕事
しおりを挟む
俺はシーナと腕を組みながら、王城の中を歩き回っていた。
この国では、一日に2回しか食事をしない文化らしく、朝食をたっぷり食べて、早目の夕食を摂るのが一般的の様だ。
なので、日中は夕食までの時間がたっぷりあるおかげで、様々な行動が出来る。
今朝シーナが仕掛けたデバイスの傍受は、今も部屋に置いている中継器に記録を続けている。
今日の夕食後にでもみんなで情報を共有するつもりだ。
ティアは俺達の少し後ろをずっと付いて来ている。
今日は俺をシーナにゆずるという約束をした事もあるのだろう。
先ほどまで3人一緒にベッドの上で汗をかいていたにも関わらず、ティアは一日、俺達を傍から見守る事にしたようだ。
そうそう、今回王城の中をブラブラしていてる時に思い出したのだが、俺達は気付かないうちに16歳になっていた。
俺達はクレア星を出てから2週間程度しか経過していないという感覚だが、光速航行やら何やらで、実際には5か月が経過しているので、肉体は15歳だが社会的には16歳という事だ。
デバイス情報では確かに16歳となっているが、これって今後も宇宙船の高速航行を何度か行ううちに、実年齢と肉体年齢が乖離していく事になるんだろうな。
前世の地球で読んだアインシュタインの特殊相対性理論はどうやら正しい様で、宇宙を光速移動していれば、俺達は浦島太郎の様に、500年後の世界なんかも見れたりするのかも知れない。
そんな事を考えながら、俺達は王城の裏庭にやって来た。
メルスとライドが乗り物を作っているはずなので、様子を見に来たという訳だ。
裏庭に入ると、二人はせっせと何かを組み立てている。
「よお、メルス、ライド」
と俺が声を掛けると、二人は振り返って俺達を見た。
「こんにちは、ショーエンさんにシーナも。あ、ティアも居たんだね」
とメルスは後ろから付いてくるティアを見て言った。
「乗り物の製作はどんな具合だ?」
「順調ですよ」
とライドが言って、俺を王城の壁際に連れて行き、シートを被せた四角い立方体の元へと案内してくれた。
メルスとライドが二人がかりでシートをはがすと、そこには金属のフレームを立方体に組んだ空間の中に、4つの車輪が付いた自動車のシャシーの様なものがあった。
「おお、だいぶいい感じだな!」
と俺が声を上げると、メルスが嬉しそうに
「はい! これは画期的な乗り物になると思いますよ!」
と自信に満ちた表情で応えている。
シャシーは自動車の様に見えるが、さっき2人が作ってた工作物を見ていると、金属を繋ぎ合わせたボディをこの上に被せるつもりのようだから、その姿はおそらく装甲車の様になるのではなかろうか。
俺はメルスに設計図を見せてもらい、内装の確認もしてみた。
ふむふむ、前面に3人が横並びになり、後部座席が通勤電車みたいに向かい合う様に4人分、そして、さらに後ろには荷物が詰めるラゲッジスペースがあるといった感じの7人乗りだ。
車幅は2メートルくらいで長さは5メートル。前世の2tトラックくらいの大きさだ。
動力は人力で、前席の前に自転車のペダルの様なものを3人分取り付けている。
3人同時に漕ぐ必要は無く、誰か一人がペダルを漕げば良いという仕組みだ。
ハンドルは自転車のハンドルに似た形状で、停車させる時には手元のレバーがブレーキになっている様だ。
やはりメルスとライドの技術力の中でも秀逸なのが、この動力効率の良さだ。
飛行機の時もそうだったが、軽い力で漕ぐだけで、ものすごい推力を得る事が出来る。飛行機と同じギア比で動力を設計しているようなので、おそらく俺が全力で漕げば、その速度は軽く200キロを超えるだろう。
まあ、実際には、ボディの重量もあるし、7人分の重量と荷物もあるから、実際の能力は半分くらいで見ておいた方がいいのかも知れないが。
ただ、乗り心地が少し心配ではある。
車輪を固定する車軸のサスペンションが、この世界の馬車を参考にしているせいで、ただの板バネになっているのだ。
ここは、コイル式のバネとオイル式の衝撃減衰を兼ね備えた、ダブルウィッシュボーン式の構造を伝授しておくべきだろう。
「よし、じゃあ乗り心地を良くしたいから、車輪の周辺だけは設計の変更を頼めるか?」
と俺は言いながらデバイスに取り込んだ設計図にサスペンションの理念を書き込んで、「こういう感じにすればいいと思うんだが、作れそうか?」
と訊いてみた。
ライドとメルスは俺がデバイスで送ったイメーシを見て、みるみる顔を輝かせる。
「すごい発想ですね!」
と二人が同時に言い、
「当然なのです!」
とシーナが俺の脇の下から付け足した。
そんなシーナの姿に、俺達の後ろでティアも「ふふっ」と笑っている様だ。
「じゃ、あとは任せたぜ!」
と俺はライド達に声をかけ、次は厨房に立ち寄る事にした。
厨房の勝手口はこの裏庭から近い。
30秒も歩かないうちに勝手口の扉が見えて来た。
扉の前ではイクスが作業台の様なものの上に何かを並べているのが見える。
「よお、イクス!」
と俺が声を掛けると
「こんにちは、ショーエンさんにシーナも」
と言って、「あ、ティアも一緒だったんだね」
と後ろから付いてくるティアにも挨拶をした。
俺は作業台の上に並べられているものを見て
「おお、これはキノコだな」
と言いながらそのうちの一つを持ち上げて、香りを嗅いでみた。
なるほど、形は少し違うが、これはシイタケだ。
「このキノコを干して乾燥させようとしているんだな?」
「その通りです!これは、出汁にもなるし、水で戻せば、元々よりも美味しくなる事が判っています」
そうなのだ。干しシイタケと酒と醤油があれば、他には適当な食材を煮るだけで筑前煮みたいな料理が出来る。和食メニューの肝になる食材といっても過言では無い筈だ。
「ここでの食事は牛乳から抽出した油の比率が高いので、食べ続けるのは健康的ではないと思いました。そこで、味の満足感を損なわない健康食品を考えてみたという事です」
とイクスはいつになく饒舌だ。
「おお、いい感じだぜイクス。この調子なら、旅に持っていける保存食にも困らない様だな」
と俺が言うと、
「はい、保存食になるものも徐々に増やしていますので、出発ギリギリまで作り続けますよ!」
とやる気満々だ。
こいつらは、仕事を与えると本当によく働く。
能力も高いし自発的に発想する事も出来るようになってきている。
「期待してるぜ」
「はい!お任せ下さい!」
と元気に返事をするイクスに手を振って、俺達はその場を離れる事にした。
前世では色々なバイトを転々としたが「自発的に発想する」という人間は俺の周囲にはあまり居なかった。
俺は色々なビジネス書も読んでいたから、マネジメントについてバイト先でも色々試してきた事がある。
働く人の傾向にはいくつかのパターンがあるが、「決められた仕事だけはしっかりやるが、他の仕事には見向きもしないタイプ」が圧倒的多数だった。
他にも「仕事をしているフリをして、定時になるまで出来るだけ楽をしようとするタイプ」も一定数居たし、逆に「テキパキと仕事をして上司に褒めてもらおうと頑張るタイプ」も一定数居た。
他にもいろいろなタイプが居たが、これらのタイプを野放しにしておくと、職場のサービスレベルも安定しないし顧客が感じる店舗の印象も悪くなる。
なのでマネジメントが必要で、その為に最も必要になるのが「目標」を設定する事だった。
「この目標をクリアできたら特別ボーナスを出すぞ」とか、「この仕事が出来る様になったら時給UPするぞ」とか、次々とステップアップの道を示すと、大半が仕事を頑張る様になる訳だ。
しかしその為には個人に「夢や希望」が無ければだめで、「夢も希望も無い」という人には通用しない。
「最低限生きていられればいいので、生活できるだけの給料もらいながらできるだけ楽をしていたい」という働き方から抜けられない。
なので、「俺達の会社は、地域のみんなの生活を便利で幸せにする為のサービスを提供する会社です」みたいなビジョンが必要で、それに共感するメンバーだけを集める必要があるって事だな。
つまり前世の地球の様に、夢も希望も持てない絶望的な社会で「いい仕事をしろ」って言っても無理ゲーだって話だな。
「いい仕事をするからいい社会になる」のでは無いのだ。
「いい社会だからいい仕事ができる」のだ。
そしてその「いい仕事」が「いい環境」を作る「好循環」を生む訳だな。
腐った社会で「いい仕事」をしても、上司が成果を横取りして終わりだもんな。
前世の地球はそんな感じだったぜ。
「次は、ミリカの様子を見に行くか」
と俺が言うと、シーナが
「ミリカは部屋で衣装を作っているはずなのです」
と言って俺の腕に抱き着いている。
俺は頷いて王城の正面玄関に向かった。
王城に入り、2階まで階段で上がる。
廊下を右に曲がって真っすぐ行くと、俺達の部屋が並ぶエリアがある。
俺の部屋は一番奥で、その手前がイクスとミリカの部屋だ。
俺達の部屋の前にはメイドが一人ずつ立っていて、俺達の姿を確認すると、一番奥のメイドが
「おかえりなさいませ」
と言って俺の部屋の扉を開けようとした。
「いや、俺達が用があるのは、こっちの部屋だ」
と言ってミリカの部屋の前で立ち止まると、ミリカの部屋の前にいたメイドが扉をノックして
「ショーエン様、シーナ様、ティア様がいらっしゃっております」
と扉の向こうに呼び掛けている。
しばらくして部屋の扉が開き
「ショーエンさん、さ、入って下さい!」
と俺達を部屋に入る様に促した。
「ミリカ、衣装制作の調子はどうだ?」
と俺は様々な生地の切れ端が散らかった部屋を見回して言った。
「はい、こちらにどうぞ!」
と部屋の奥の壁に掛けられている6着の服を見せた。
「ほう・・・」
と俺は関心した様に声を出し、
「これは素晴らしいな」
と俺は言った。
まず、一番左にあるのは「メイド服」だ。
この王城で働くメイド達の作業効率を良くしたいと思ったのだろう。
前世でも、中世ヨーロッパのメイドといえばこの衣装だ。
やはり、メイドの立場と機能性を追求すると、紺色のこのデザインに行き着くものなのだろうか。
そして、左から2つ目が「ドレス」だ。
恐らくは王妃や姫が着ていた服にインスパイアされたものだとは思うが、以前に俺がアドバイスをしたフリルをふんだんに付ける事によって、よりキュートなイメーシを演出している。サイズが小さいあたり、これは姫に着せるつもりなのだろう。
そして、左から3つ目が「セーラー服」に似た服だ。
なるほど、スカートとズボンがある辺り、男女共にこのデザインの服を作ったという事か。
前世のセーラー服とは、元々は海兵隊等の船乗りが着ていた服だ。
海上は風が強く会話が聞き取れなくなる為、セーラー服の襟を立てて耳元に収音しやすくする為にできた画期的な服だ。
その後、何故か中高生の制服のスタンダードになっていたが、おそらくはリボンが付いていて「カワイイ」と思って女子の制服に採用したんだろうな。
「この服は、デバイスを使わなくても声を拾いやすくする為に作ったのか?」
と俺が念のために訊くと、ミリカは驚いた様に
「そうです! さすがショーエンさんですね! すぐに見抜かれてしまいました」
と驚きと称賛を表現してくれた。
「当然なのです」
とシーナは、俺が褒められた時にはいつもこう言って頷いている。
そして、次の服は、装飾の付いた厳かな衣装だった。
まるで威厳のある偉い人が式典に着ていくような衣装だ。
「これは国王に着せるものか?」
と俺が訊くと、ミリカは首を横に振り
「いえ、これはショーエンさんに着て頂こうと思っています」
と言った。
それを聞いて、シーナが
「おおお!ミリカはいい仕事をしているのです!」
と喜んでいるし、後ろで見ていたティアも
「素敵ね!」
と声に出して喜んでいる。
「おお、そうか・・・」
と俺は、「まあ、これが必要な時が来るかも知れないな」
言って最後の衣装を見た。
これも煌びやかに装飾が施された衣装だが、少し丈が短めのスカートになっている。
王妃に着せるにはスカートの丈が短すぎるとは思っていたが、もしやこれは・・・
「という事は、これは誰に着せるんだ?」
と念のために訊いてみた。
するとミリカは、
「これは、ティアとシーナに着て欲しいと思っています」
と言った。
「私はいつも感じていたんです。ショーエンさんがデザインしたこの衣装、しかも最も高貴な白の制服を着られる事の幸福を・・・」
とミリカは両手を胸の前で組み、「でも、やはりショーエンさんは特別な人。イクスと私を導いてくれた特別な人。そして、学園史上最高の成績上位者であり、私達のリーダー・・・」
と演説を始めたかと思うと、シーナとティアの方を見て
「更にショーエンさんが愛した二人の妻であるティアとシーナ・・・」
ミリカはそこでひと息ついて俺達を見た。
「だから私は、ショーエンさんには、特別な存在で居てほしいと思っているのです!」
とミリカが締めくくると、シーナがパチパチと拍手をしながら
「おおお~、ミリカはいい仕事をしているのです!」
とまた言って俺の服の袖を引っ張った。
「ショーエン! あの服を着てみて欲しいのです!」
(しょーがない。今日の俺は、シーナのものだからな)
「ああ、試してみよう」
と俺が言うと、
「キャーっ」
と歓喜するミリカとシーナ、そして後ろで歓喜しているティアの声も重なっていた。
俺は衣装を受け取り、一旦自室に戻った。
そしてミリカが作った、どこぞの傲慢な王族あたりが着ていそうな衣装を身に着け、部屋を出てミリカの部屋に移動した。
廊下で通りがかったメイド達が息を飲むのが分かる。
俺がメイドの顔を見ると、サッと目をそらして下を向く。
俺はそのままミリカの部屋の扉をノックすると、扉が開いて正面に居たのはシーナだった。
「おおおおお!!!!」
とシーナが雄たけびの様な声を上げ、「ショーエン!すっごくカッコイイのです!」
と飛び上がらんばかりに喜んでいる。
ミリカも目を星の様に輝かせて、そしてうっとりとしている様だ。
ティアはただただ見惚れているようで、潤んだ目をしながら、ほうっと吐息が漏れている。
「なあミリカ、ティアとシーナの分はもう出来てるのか?」
と俺が訊くと、
「ティアの分は壁に掛けているのがそうですが、シーナの分は、正に今制作中です」
と言った。
「そうか、なら二人の分が完成したら教えてくれ。その時にみんなで衣装を着て街に出てみよう」
と俺は言った。
その後のミリカ、シーナ、ティア達女3人の狂喜乱舞は、それはそれは凄まじいものだった。
街に出たら何が起こるか分かったもんじゃないが、みんなが喜んでいるなら「それもいいか」と思える。
ティアとシーナが手を取り合って喜んでいる姿は、俺に幸福感を与えてくれるしな。
「じゃ、そろそろ部屋に戻ろうぜ」
と俺は言って、ミリカに「宜しく頼んだぜ」
と手を振って、部屋を出たのだった。
この国では、一日に2回しか食事をしない文化らしく、朝食をたっぷり食べて、早目の夕食を摂るのが一般的の様だ。
なので、日中は夕食までの時間がたっぷりあるおかげで、様々な行動が出来る。
今朝シーナが仕掛けたデバイスの傍受は、今も部屋に置いている中継器に記録を続けている。
今日の夕食後にでもみんなで情報を共有するつもりだ。
ティアは俺達の少し後ろをずっと付いて来ている。
今日は俺をシーナにゆずるという約束をした事もあるのだろう。
先ほどまで3人一緒にベッドの上で汗をかいていたにも関わらず、ティアは一日、俺達を傍から見守る事にしたようだ。
そうそう、今回王城の中をブラブラしていてる時に思い出したのだが、俺達は気付かないうちに16歳になっていた。
俺達はクレア星を出てから2週間程度しか経過していないという感覚だが、光速航行やら何やらで、実際には5か月が経過しているので、肉体は15歳だが社会的には16歳という事だ。
デバイス情報では確かに16歳となっているが、これって今後も宇宙船の高速航行を何度か行ううちに、実年齢と肉体年齢が乖離していく事になるんだろうな。
前世の地球で読んだアインシュタインの特殊相対性理論はどうやら正しい様で、宇宙を光速移動していれば、俺達は浦島太郎の様に、500年後の世界なんかも見れたりするのかも知れない。
そんな事を考えながら、俺達は王城の裏庭にやって来た。
メルスとライドが乗り物を作っているはずなので、様子を見に来たという訳だ。
裏庭に入ると、二人はせっせと何かを組み立てている。
「よお、メルス、ライド」
と俺が声を掛けると、二人は振り返って俺達を見た。
「こんにちは、ショーエンさんにシーナも。あ、ティアも居たんだね」
とメルスは後ろから付いてくるティアを見て言った。
「乗り物の製作はどんな具合だ?」
「順調ですよ」
とライドが言って、俺を王城の壁際に連れて行き、シートを被せた四角い立方体の元へと案内してくれた。
メルスとライドが二人がかりでシートをはがすと、そこには金属のフレームを立方体に組んだ空間の中に、4つの車輪が付いた自動車のシャシーの様なものがあった。
「おお、だいぶいい感じだな!」
と俺が声を上げると、メルスが嬉しそうに
「はい! これは画期的な乗り物になると思いますよ!」
と自信に満ちた表情で応えている。
シャシーは自動車の様に見えるが、さっき2人が作ってた工作物を見ていると、金属を繋ぎ合わせたボディをこの上に被せるつもりのようだから、その姿はおそらく装甲車の様になるのではなかろうか。
俺はメルスに設計図を見せてもらい、内装の確認もしてみた。
ふむふむ、前面に3人が横並びになり、後部座席が通勤電車みたいに向かい合う様に4人分、そして、さらに後ろには荷物が詰めるラゲッジスペースがあるといった感じの7人乗りだ。
車幅は2メートルくらいで長さは5メートル。前世の2tトラックくらいの大きさだ。
動力は人力で、前席の前に自転車のペダルの様なものを3人分取り付けている。
3人同時に漕ぐ必要は無く、誰か一人がペダルを漕げば良いという仕組みだ。
ハンドルは自転車のハンドルに似た形状で、停車させる時には手元のレバーがブレーキになっている様だ。
やはりメルスとライドの技術力の中でも秀逸なのが、この動力効率の良さだ。
飛行機の時もそうだったが、軽い力で漕ぐだけで、ものすごい推力を得る事が出来る。飛行機と同じギア比で動力を設計しているようなので、おそらく俺が全力で漕げば、その速度は軽く200キロを超えるだろう。
まあ、実際には、ボディの重量もあるし、7人分の重量と荷物もあるから、実際の能力は半分くらいで見ておいた方がいいのかも知れないが。
ただ、乗り心地が少し心配ではある。
車輪を固定する車軸のサスペンションが、この世界の馬車を参考にしているせいで、ただの板バネになっているのだ。
ここは、コイル式のバネとオイル式の衝撃減衰を兼ね備えた、ダブルウィッシュボーン式の構造を伝授しておくべきだろう。
「よし、じゃあ乗り心地を良くしたいから、車輪の周辺だけは設計の変更を頼めるか?」
と俺は言いながらデバイスに取り込んだ設計図にサスペンションの理念を書き込んで、「こういう感じにすればいいと思うんだが、作れそうか?」
と訊いてみた。
ライドとメルスは俺がデバイスで送ったイメーシを見て、みるみる顔を輝かせる。
「すごい発想ですね!」
と二人が同時に言い、
「当然なのです!」
とシーナが俺の脇の下から付け足した。
そんなシーナの姿に、俺達の後ろでティアも「ふふっ」と笑っている様だ。
「じゃ、あとは任せたぜ!」
と俺はライド達に声をかけ、次は厨房に立ち寄る事にした。
厨房の勝手口はこの裏庭から近い。
30秒も歩かないうちに勝手口の扉が見えて来た。
扉の前ではイクスが作業台の様なものの上に何かを並べているのが見える。
「よお、イクス!」
と俺が声を掛けると
「こんにちは、ショーエンさんにシーナも」
と言って、「あ、ティアも一緒だったんだね」
と後ろから付いてくるティアにも挨拶をした。
俺は作業台の上に並べられているものを見て
「おお、これはキノコだな」
と言いながらそのうちの一つを持ち上げて、香りを嗅いでみた。
なるほど、形は少し違うが、これはシイタケだ。
「このキノコを干して乾燥させようとしているんだな?」
「その通りです!これは、出汁にもなるし、水で戻せば、元々よりも美味しくなる事が判っています」
そうなのだ。干しシイタケと酒と醤油があれば、他には適当な食材を煮るだけで筑前煮みたいな料理が出来る。和食メニューの肝になる食材といっても過言では無い筈だ。
「ここでの食事は牛乳から抽出した油の比率が高いので、食べ続けるのは健康的ではないと思いました。そこで、味の満足感を損なわない健康食品を考えてみたという事です」
とイクスはいつになく饒舌だ。
「おお、いい感じだぜイクス。この調子なら、旅に持っていける保存食にも困らない様だな」
と俺が言うと、
「はい、保存食になるものも徐々に増やしていますので、出発ギリギリまで作り続けますよ!」
とやる気満々だ。
こいつらは、仕事を与えると本当によく働く。
能力も高いし自発的に発想する事も出来るようになってきている。
「期待してるぜ」
「はい!お任せ下さい!」
と元気に返事をするイクスに手を振って、俺達はその場を離れる事にした。
前世では色々なバイトを転々としたが「自発的に発想する」という人間は俺の周囲にはあまり居なかった。
俺は色々なビジネス書も読んでいたから、マネジメントについてバイト先でも色々試してきた事がある。
働く人の傾向にはいくつかのパターンがあるが、「決められた仕事だけはしっかりやるが、他の仕事には見向きもしないタイプ」が圧倒的多数だった。
他にも「仕事をしているフリをして、定時になるまで出来るだけ楽をしようとするタイプ」も一定数居たし、逆に「テキパキと仕事をして上司に褒めてもらおうと頑張るタイプ」も一定数居た。
他にもいろいろなタイプが居たが、これらのタイプを野放しにしておくと、職場のサービスレベルも安定しないし顧客が感じる店舗の印象も悪くなる。
なのでマネジメントが必要で、その為に最も必要になるのが「目標」を設定する事だった。
「この目標をクリアできたら特別ボーナスを出すぞ」とか、「この仕事が出来る様になったら時給UPするぞ」とか、次々とステップアップの道を示すと、大半が仕事を頑張る様になる訳だ。
しかしその為には個人に「夢や希望」が無ければだめで、「夢も希望も無い」という人には通用しない。
「最低限生きていられればいいので、生活できるだけの給料もらいながらできるだけ楽をしていたい」という働き方から抜けられない。
なので、「俺達の会社は、地域のみんなの生活を便利で幸せにする為のサービスを提供する会社です」みたいなビジョンが必要で、それに共感するメンバーだけを集める必要があるって事だな。
つまり前世の地球の様に、夢も希望も持てない絶望的な社会で「いい仕事をしろ」って言っても無理ゲーだって話だな。
「いい仕事をするからいい社会になる」のでは無いのだ。
「いい社会だからいい仕事ができる」のだ。
そしてその「いい仕事」が「いい環境」を作る「好循環」を生む訳だな。
腐った社会で「いい仕事」をしても、上司が成果を横取りして終わりだもんな。
前世の地球はそんな感じだったぜ。
「次は、ミリカの様子を見に行くか」
と俺が言うと、シーナが
「ミリカは部屋で衣装を作っているはずなのです」
と言って俺の腕に抱き着いている。
俺は頷いて王城の正面玄関に向かった。
王城に入り、2階まで階段で上がる。
廊下を右に曲がって真っすぐ行くと、俺達の部屋が並ぶエリアがある。
俺の部屋は一番奥で、その手前がイクスとミリカの部屋だ。
俺達の部屋の前にはメイドが一人ずつ立っていて、俺達の姿を確認すると、一番奥のメイドが
「おかえりなさいませ」
と言って俺の部屋の扉を開けようとした。
「いや、俺達が用があるのは、こっちの部屋だ」
と言ってミリカの部屋の前で立ち止まると、ミリカの部屋の前にいたメイドが扉をノックして
「ショーエン様、シーナ様、ティア様がいらっしゃっております」
と扉の向こうに呼び掛けている。
しばらくして部屋の扉が開き
「ショーエンさん、さ、入って下さい!」
と俺達を部屋に入る様に促した。
「ミリカ、衣装制作の調子はどうだ?」
と俺は様々な生地の切れ端が散らかった部屋を見回して言った。
「はい、こちらにどうぞ!」
と部屋の奥の壁に掛けられている6着の服を見せた。
「ほう・・・」
と俺は関心した様に声を出し、
「これは素晴らしいな」
と俺は言った。
まず、一番左にあるのは「メイド服」だ。
この王城で働くメイド達の作業効率を良くしたいと思ったのだろう。
前世でも、中世ヨーロッパのメイドといえばこの衣装だ。
やはり、メイドの立場と機能性を追求すると、紺色のこのデザインに行き着くものなのだろうか。
そして、左から2つ目が「ドレス」だ。
恐らくは王妃や姫が着ていた服にインスパイアされたものだとは思うが、以前に俺がアドバイスをしたフリルをふんだんに付ける事によって、よりキュートなイメーシを演出している。サイズが小さいあたり、これは姫に着せるつもりなのだろう。
そして、左から3つ目が「セーラー服」に似た服だ。
なるほど、スカートとズボンがある辺り、男女共にこのデザインの服を作ったという事か。
前世のセーラー服とは、元々は海兵隊等の船乗りが着ていた服だ。
海上は風が強く会話が聞き取れなくなる為、セーラー服の襟を立てて耳元に収音しやすくする為にできた画期的な服だ。
その後、何故か中高生の制服のスタンダードになっていたが、おそらくはリボンが付いていて「カワイイ」と思って女子の制服に採用したんだろうな。
「この服は、デバイスを使わなくても声を拾いやすくする為に作ったのか?」
と俺が念のために訊くと、ミリカは驚いた様に
「そうです! さすがショーエンさんですね! すぐに見抜かれてしまいました」
と驚きと称賛を表現してくれた。
「当然なのです」
とシーナは、俺が褒められた時にはいつもこう言って頷いている。
そして、次の服は、装飾の付いた厳かな衣装だった。
まるで威厳のある偉い人が式典に着ていくような衣装だ。
「これは国王に着せるものか?」
と俺が訊くと、ミリカは首を横に振り
「いえ、これはショーエンさんに着て頂こうと思っています」
と言った。
それを聞いて、シーナが
「おおお!ミリカはいい仕事をしているのです!」
と喜んでいるし、後ろで見ていたティアも
「素敵ね!」
と声に出して喜んでいる。
「おお、そうか・・・」
と俺は、「まあ、これが必要な時が来るかも知れないな」
言って最後の衣装を見た。
これも煌びやかに装飾が施された衣装だが、少し丈が短めのスカートになっている。
王妃に着せるにはスカートの丈が短すぎるとは思っていたが、もしやこれは・・・
「という事は、これは誰に着せるんだ?」
と念のために訊いてみた。
するとミリカは、
「これは、ティアとシーナに着て欲しいと思っています」
と言った。
「私はいつも感じていたんです。ショーエンさんがデザインしたこの衣装、しかも最も高貴な白の制服を着られる事の幸福を・・・」
とミリカは両手を胸の前で組み、「でも、やはりショーエンさんは特別な人。イクスと私を導いてくれた特別な人。そして、学園史上最高の成績上位者であり、私達のリーダー・・・」
と演説を始めたかと思うと、シーナとティアの方を見て
「更にショーエンさんが愛した二人の妻であるティアとシーナ・・・」
ミリカはそこでひと息ついて俺達を見た。
「だから私は、ショーエンさんには、特別な存在で居てほしいと思っているのです!」
とミリカが締めくくると、シーナがパチパチと拍手をしながら
「おおお~、ミリカはいい仕事をしているのです!」
とまた言って俺の服の袖を引っ張った。
「ショーエン! あの服を着てみて欲しいのです!」
(しょーがない。今日の俺は、シーナのものだからな)
「ああ、試してみよう」
と俺が言うと、
「キャーっ」
と歓喜するミリカとシーナ、そして後ろで歓喜しているティアの声も重なっていた。
俺は衣装を受け取り、一旦自室に戻った。
そしてミリカが作った、どこぞの傲慢な王族あたりが着ていそうな衣装を身に着け、部屋を出てミリカの部屋に移動した。
廊下で通りがかったメイド達が息を飲むのが分かる。
俺がメイドの顔を見ると、サッと目をそらして下を向く。
俺はそのままミリカの部屋の扉をノックすると、扉が開いて正面に居たのはシーナだった。
「おおおおお!!!!」
とシーナが雄たけびの様な声を上げ、「ショーエン!すっごくカッコイイのです!」
と飛び上がらんばかりに喜んでいる。
ミリカも目を星の様に輝かせて、そしてうっとりとしている様だ。
ティアはただただ見惚れているようで、潤んだ目をしながら、ほうっと吐息が漏れている。
「なあミリカ、ティアとシーナの分はもう出来てるのか?」
と俺が訊くと、
「ティアの分は壁に掛けているのがそうですが、シーナの分は、正に今制作中です」
と言った。
「そうか、なら二人の分が完成したら教えてくれ。その時にみんなで衣装を着て街に出てみよう」
と俺は言った。
その後のミリカ、シーナ、ティア達女3人の狂喜乱舞は、それはそれは凄まじいものだった。
街に出たら何が起こるか分かったもんじゃないが、みんなが喜んでいるなら「それもいいか」と思える。
ティアとシーナが手を取り合って喜んでいる姿は、俺に幸福感を与えてくれるしな。
「じゃ、そろそろ部屋に戻ろうぜ」
と俺は言って、ミリカに「宜しく頼んだぜ」
と手を振って、部屋を出たのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる