氷河期ホームレスの異世界転生 ~俺が失ったものを取り戻すまで~

おひとりキャラバン隊

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真実に触れる頃

テキル星(15)噂の商人

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「みんな、集まったな」
 と俺はみんなの顔を見回して言った。

 俺達が神殿から宿屋に戻った後、昼食をとるのも忘れて俺はティアとシーナとで「レプト星からの移住者の可能性」について色々な話し合いをしていた。

 結局その話し合いは夕方にまで及んだのだが、シーナが
「お腹が空いたのです」
 と言い出した事をきっかけに、
「そうね、一旦休憩にしましょ?」
 というティアも言い出し、俺達はみんなの帰りを待って夕食を摂る事にしたのだった。

 夕食は昨日と同じ、宿屋の2階にある酒場で食べる事にした。
 肉や野菜を焼いたり炒めたりした料理と、具沢山のスープがテーブルに並んでいて、今日は誰も酒は注文していない。

「じゃあ、みんなの情報を共有しようか」
 と俺が言うと、皆がデバイスを起動して情報共有を始める。

 周囲の客はそれぞれに酒や料理を楽しんでいる。
 俺達の姿は、黙って向かい合っている様にしか見えないだろう。

 ほどなく全員の情報を共有する事が出来た。

 まず、イクスとミリカは街の飲食店や衣装屋を中心に廻った様で、料理も衣装もそれぞれに色々な収穫があった様だ。

 特にこの国の庶民用の衣装については、ミリカの興味をそそるものが多くあり、馬に乗る為の衣装、農作業をする為の衣装、街に出かける為の衣装、旅人用の衣装、そして貴族や神官用の衣装等、それぞれの職種や階級によって様々な衣装があるのだと知る事が出来た様だ。

「なので、今私が持参している完成品の衣装は、この街だと貴族くらいしか購入出来ない様なクオリティになっていますので、今後は少しバリエーションを増やして、庶民の衣服文化を改善できる様にしたいと考えています」
 とミリカはそう言った。

 イクスの情報も秀逸で、この街の西にあった農場で収穫できる野菜や果物の情報の他に、メチル王国より北にある「ノシア王国」という国から輸入している「家畜用のエサ」が、どうやら俺が求めていた「米」に似ているという事らしい。

 米! ライス! ご飯! 

 呼び方はどうでもいいが、この世界に来て16年間、ずっと出会えなかった米への渇望が俺の中で急激に膨らむのを感じていた。

 他にもこの国の酪農や畜産は優秀で、ミルクを得る為に沢山の牛を飼ってるエリアを米を輸入している北方の西エリアに配置し、畜産も同様に北方の東側に向けて展開しているらしい。
 涼しくて動物の過ごしやすい環境でもあるようで、そちらに行けば、乳製品を色々研究できる見込みという事だ。

 バター、チーズ、ヨーグルト、ホワイトソースに生クリーム。

 乳製品で広がる料理の幅は広いからな。

 これは楽しみだ。

 次にライドとメルスの情報から分かった事は、この国の乗り物事情だ。

 基本的には馬車が主流で、貴族用の馬車、庶民も乗れる乗り合い馬車、あとは荷馬車くらいしか乗り物として実用化されているものは無いらしいが、王城に残されている過去の伝記で色々な乗り物の情報があるらしく、広く国民にも認知はされているのだとか。

 ただ、伝記に残されている乗り物は、重力制御で空を飛んだりする乗り物ばかりで、実用的というよりは「神の乗り物」として認知されている様だ。

 機械的に操縦できるペダル式の自転車等は存在せず、メルスが開発した「足漕ぎ式動力伝達技術」をこの国に普及させれば、
「他にも足漕ぎペダルで動く様々な機械が、一気にこの世界に広がって行く事でしょう!」
 とメルスが熱く語っている通りになるだろう。

 で、次は俺達の得た情報についてだが、これについては皆が驚いていた。

 まず、この国の庶民は四則演算が出来ない。
 せいぜい足し算と引き算を教えるだけで、大人になってもそれは変わらない。

 学校教育はあるが、前世の地球で言うところの小学校3年生程度までの学力で、それ以上は個々にお金を払って学ぶ必要があるんだとか。

 さらにバティカとメチルの戦争の歴史について、神殿で聞いた情報を見たみんなは、目を丸くして驚いた様に俺の顔を見た。

「バティカ王国で訊いた話とはまるで逆の認識にあるようですね」
 とメルスが言う。

「一つの出来事を違う視点で見るだけでここまで変わるものですか」
 とライドもメルスと同様の意見だ。

「しかし、神殿がバティカとの交易を求めているのであれば、これは良い傾向ではありませんか?」
 とイクスはご尤《もっと》もだがポジティブな意見で、ミリカもイクスに同意している。

 そんな皆の意見を聞きながら、ティアとシーナは顔を見合わせ、
「だけど、その戦争の裏で怪しげな集団が暗躍していたという情報もあるのですよ」
 とシーナが口火を切った。

「そうだ、レプトから脱走したプレデスの奴が居るんじゃないかと俺達は考えている」
 と俺は言い、「しかし、宇宙ステーションの無いこの星に来るには、大気圏突入が可能な船が必要だ」
 と俺は続けた。

 内容はこうだ。

 仮にレプト星から脱出しようとしたとしても、そもそもレプト星にある宇宙船が、テキル星まで移動できるほどに燃料を積んでいるとは思えない。

 脱出抑止の為にも、燃料の積載は最小限のはずで、どんなに多くてもクレア星やプレデス星を往復できる程度の燃料しか積んでいない筈だ。

 なので、レプト星からテキル星までの惑星軌道を計算して、それが可能かどうかを突き止める事にした。

 仮にレプト星からプレデス星やクレア星に移動する事を考えた場合、最も軌道が遠いタイミングの時には往復で6日間の光速航行が必要になる。

 となると、最低でも6日間の光速航行が可能な燃料は積んでいたと考えるのが妥当だろう。

 レプト星は、プレデス星やクレア星と同じ星系のさらに外側の軌道にあり、その公転周期はクレア星の30倍だ。

 テキル星もシン星系の軌道を3年で公転し、さらに同じ銀河系の中でもシン星系とプレデス星系は近づいたり遠ざかったりを繰り返している。そしてその周期はおよそ2億年だ。

 一見、レプト星からテキル星までの移動なんて不可能に見えるが、計算の結果、およそ105年前にプレデス星とレプト星が最も近づくタイミングと、テキル星がプレデス星系に最も近づくタイミングとが重なっていた事が判った。

 俺達は今回、クレア星から光速移動で2週間程度、実際の時間で5か月かけてテキル星に移動したが、105年前のこの時に同じ移動方法を採った場合、光速移動で8日間、実際の時間で2か月半位で到達できる事が解った。

 およそ半分の距離だ。

 しかもレプト星はクレア星よりも外の起動を通っているので、テキル星までの距離がさらに近付くタイミングになっていた。
 いわば、プレデス、クレア、レプト、テキルの4つの星がほぼ一直線に並んだという事だ。

 もしレプト星からの脱出を計画した連中が居たとして、この千載一遇の機会を逃すとは思えない。

 他にもっと近くの惑星もあるから、そこに逃げた連中も居るかも知れないが、そういった連中の対処はプレデス星の政府も計算の内だろう。

 けれど、テキル星との距離は、計算上では「到達不可能」な距離なので、プレデス星の政府AIは、こう考えるんじゃないのか?

「生存不可能」と。

 しかし実際には光速航行を短くすれば、燃料の消費をせずに慣性移動で来ても、体感時間10日間で、実際の時間でも3か月弱でテキル星まで到達できるだろうって事が、俺達が行った様々なシュミレーションで判ってきた。

 もし脱獄者たちが実際にそうしたとして、そして何とかこの星に着陸する事ができたとして、それはどこに着陸したんだろう?

「普通に着陸を試みるなら、テキル星の自転速度に合わせて着陸するはずですね」
 とライドは宇宙船の事にまで理解があるらしい。

「そうだな、つまり、テキル星の赤道上のどこかに着陸したと考えていいだろう」

 と言って、俺はデバイスに仮想の地図を表示した。

「これは、バティカの歴史とエイムの神殿で得た情報を統合して、この星の大陸に築かれた国々の分布を落とし込んだ地図だ」

 バティカ王国は大陸の北西に位置していて、バティカより西には海しか無い。
 バティカ王国より北は氷の世界が広がり、とても人間が住める環境では無くなってくる。
 バティカ王国の東には俺達が飛び越えてきた山脈があって、バティカ王国の南には赤道周辺に広がる砂漠があるだけだ。

 しかし、山脈の東側にある、ここメチル王国からは色々な国と繋がりを持つ事が出来て、「北のノシア」「西のイスラ」「南のオスラ」とは既に同盟を結んでいるとの事だ。

 更に、ノシア王国からは米の輸入をしていたりと交易もしているし、西のイスラ王国とは、鉱石採掘で交易を行っている。南のオスラは海に囲まれていて海洋資源が豊富らしい。
 今のところは海産物の運搬技術が無いので交易には至っていないが、イスラ王国はメチルに海産物の輸出が出来ないかと試行錯誤を繰り返しているらしい。

「このイスラ王国が、赤道上に位置する国のようですね・・・」
 とメルスが言う。

「ああ、そうだな。全部で12の国があるはずなんだが、今解っているのは4つだけだ」
 と俺は言いながら、地図の一部に印をつける。「で、宇宙船を不時着させるなら、この辺りが妥当だろうと考えている」
 と俺は、イスラ王国の東、山脈から流れる川が通る辺りを指した。

「なるほど・・・」
 とイクスが頷く。「川があるから、きっと砂漠の中でもオアシスになっているはずですね」

「そうだな。俺はこの辺りに宇宙船が不時着し、恐らくはここに、どこの国にも属さない集落を作ったんじゃないかと考えている」

「それは、何の為に?」
 とティアが訊いた。

 俺はティアを見て
「そうだなぁ・・・」
 と顎に手を充てながら言った。

「これはあくまで可能性の話だが、プレデス星にしろ、クレア星にしろ、レプト星に送還される連中ってのは強欲で傲慢、そして怠惰な連中の筈だろ?」
 と俺が言うと、みんなは「それはそうだ」と頷いた。

「そういう連中がこの星で、まずは何をすると想像する?」
 と俺は続けてみんなの意見を待った。

「そうですね・・・」

 とみんなは考え込み、そんなみんなを見ながら、俺は前世の地球の事を考えていた。

 地球に生きてて「なんだか人間が本格的におかしい」と感じたのは21世紀に入って間もない時だ。

 人間同士がいがみ合い、妬み合い、お互いが相手を押しのけて上に上がろうとする、激しい競争社会。

 そして、競争に敗れた者達は貧しい生活を余儀なくされ、それでも日々を生きていく為にコツコツと自分なりの努力を続けていた。

 不公平、不平等、理不尽な抑圧、一部の資産家だけが肥え太る社会構造。
 そしてそんな構造を率先して作って来た政治家達。

 今にして思えば、あれらは全て「一部の支配者によって作られた金融システムの支配を広げる為」でしかない事は明らかだった。

 しかし2026年の第三次世界大戦の終結時には、もう既に「支配者達による世界支配の構造」は完成されていた。

 人知を超えた兵器を持つ西側諸国。

 その技術はどうやって手に入れた?

 この世に無い物を次々と開発する発想力。

 それは本当に地球人の発想力だったのか?

 誰かヒントを与えた者が居る筈だ。

 そしてそれはレプト星から来たプレデス星人じゃないのか?

 俺はこれまで「惑星開拓団に悪事を働く者が居るのでは」という疑念を抱いて来た。

 しかしテキル星でも、規模は違えど「同じ様な事」が起こっている気がしてならない。

「ねえ、ショーエン。聞いてる?」
 とティアの声がした。

 ハッとして顔を上げると、ティアが心配そうに俺を見ていた。

「ああ、すまない。少し考え事をしてた」
 と俺はみんなの顔を見まわし「で、何だって?」
 と俺が言うと、ティアは身体を起こし、
「だから、さっきの話。レプト星から来た罪人がこの星で最初に何をするかって話よ」
 と言った。

「ああ、それで?」
 と俺が言うと、ティアは話を続けた。
「私はこう思うの。この星の砂漠に着陸したなら、まずは水を確保したいって」

 ティアの話はこうだ。

 まずは水の確保。近くに川があるならそこを拠点にする。
 次に食料の確保。
 砂漠には動物が少ないから、川で魚を捕るはず。
 次に人や文化を探す。
 人に会う為に人工物を探す。
 人工物があれば、あとは人を待つ。
 あとは出会った人との関係次第で変わって来るだろう。

 というものだ。

 (うん、妥当なところだろうな。)

「シーナはどう思う?」
 と俺が訊くと、シーナはティアとは少し違う意見だった。

「レプト星から来る罪人は、きっとコミュニケーション能力が低いはずなのです」
 とシーナが話し出す。

 シーナの話はこうだ。

 もともとコミュ障のプレデス星人が、罪人としてレプト星で監獄暮らしをしていたのだとすると、そのコミュ力は絶望的な筈。
 なのでこの星に到着しても、自分達で何とかしようとした筈。
 まずは水の確保、次に食料確保。次は人工物の探索。
 ただし、その次は現地人とのコミュニケーションでは無くて、現地人には分からない方法を使って物を手に入れる事をしたんじゃないかという事だ。

 なるほど。

 どっちかというと、俺もシーナの意見に近いな。

「可能性の話だから、どちらが正しいかは分からないが、優秀な二人の意見で一致しているのが、まずは水と食料確保ってところだ」
 と俺は立ち上がり、「ならば不時着した宇宙船を拠点にして行動した跡が残るはずだよな?」
 と言った。

「まずは、イスラ王国を目指し、そこを拠点に、赤道周辺を調べてみよう」
 と俺は言った。

「じゃあ、役割を分担しよう」
 と俺は、みんなを見渡して指示を出す事にした。

「イクスとミリカは、この街の商会で俺達が商売できるように準備を進めてくれ」

「ライドとメルスは足漕ぎ自動車を3台ほど作ってくれ」

「俺とティアとシーナは、みんなのデバイスがどこでも使える様に、中継器を設置してくる」

 俺の指示を聞いたみんなは「はい!」と返事をして、テーブルの食事をガツガツと食べ始めたのだった。

 △△△△△△△△△△△△

 その日の夜、街が寝静まった頃を見計らい、俺とティアとシーナは、各々のキャリートレーに中継器を一つずつ積んで、街の3か所に別々に移動して中継器を設置いった。

 上空から見る街の景色は暗闇に紛れて何も見えない。

 ただ、神殿の周囲の大きな建物群は分かりやすい位置にある。

 建物が少ない街の東側には、広い庭のある貴族達の住居が集まっている様だ。

 なるほど。王都が東にあるから、貴族達の住居は王都に近い方に集中しているという事か。

 俺は街の貴族街の角まで飛び、塀の上に中継器を設置した。

 ティアとシーナもそれぞれが街の塀の角に中継器を設置してくれるだろう。

 俺はそのまま引き返し、宿屋がある神殿のエリアに向かって飛行していた。

 よくあるファンタジー漫画とかだと、こういう時は街の通路で暴漢に襲われる美少女が居たりするものだが、眼下に見える街道や路地にもそういった雰囲気は無い。

「ほんと、野蛮な民族って話はどこに行ったんだか・・・」
 俺はそんな独り言をつぶやきながら、神殿が近付いて来るのを見ていた。

 すると、神殿の5階部分の窓に、小さな明かりが見えた。

「こんな時間に誰か起きてる人間がいるのか?」
 と俺は気になって、キャリートレーを神殿の5階の窓の近くまで寄せて行った。

 そっと窓から中を覗くと、中には2人の男が居た。

 一人は神官風の衣装を着た男で、もう一人は見た事の無いデザインの衣装を着ていた。

 いや、例えるならあの衣装は、前世のアフリカ辺りで着られていた民族衣装の様にも見える。
 緑や赤といった派手なカラーリングの柄が描かれたローブの様な衣装で、炎が揺らめくランタンをテーブルに置いて、神官風の男に何か話していてる様だ。

 声は聞こえないが、神官風の男はそのランタンを見て驚いている様に見える。

 神官風の男はランタンを手に取り、あちこちにかざして、その光が消えない事にまた驚いている様だ。

 なるほど、何らかの燃料を使った、アルコールランプの様なタイプのランタンらしい。

 という事は、バティカでジューンが石油資源を採掘する前に、こちらでは誰かが既にアルコールか灯油あたりの燃料精製を完成させていたという事になる。

 そういえば、一昨日に農夫達が言ってた「小さな棒で火を着ける商人」が居るとか言ってたな。

 (あいつの事か?)

 その男は、神官風の男から金銭を受け取ると、自らももう一つのランタンにマッチを使って火を点けて、そのまま部屋を出て行った。

 やっぱりそうだ。あいつが「噂の商人」だ。

 俺は窓から離れ、神殿の屋根の上からエントランスの方を見ていた。

 すると後ろから何者かの気配がしてハッと振り向くと、ティアとシーナが来るところだった。

「ショーエン、どうしたの?」
 とティアが言うのを「しっ!」と指を口に当てて制した。

 二人は口を押えて声をつぐみ、俺の横に並んで俺の視線の先を追っていた。

 しばらくすると、エントランスの扉が少し開き、ランタンを持ったさっきの男が現れた。

「あれは誰なのですか?」
 とシーナが俺の耳元で小声で訊いた。

「おそらく、あれが噂になってるっていう旅の商人だ」
 と俺も小声で返した。

 その男は俺達が宿泊している宿屋から2軒離れて建っている別の宿屋の方に向かっている様だ。

 すると、宿屋の入口からもランタンを持った別の人間が現れて、旅の商人を出迎えている様に見える。

 もう一人の方はフードを被っていて顔は判らないが、少し身長が低く見える辺り、もしかしたら女かも知れない。

 二人はそのまま宿屋の中へと入っていき、姿が見えなくなった。

 俺達は辺りを見回して他に人が居ない事を確かめると、俺達が宿泊する宿屋の壁に近づき、開けっぱなしにしていた5階の窓からキャリートレーごと中に入った。

 部屋の中に入ると俺達はキャリートレーを壁に立てかけ、
「ふうっ」
 と息を吐いて顔を見合わせた。

「あの人が持っていたのは、アルコールを燃料にした照明器具なのです」
 とシーナが言った。

「なぜ分かる?」
 と俺が訊くと、シーナは手に握っているピンポン玉の様な機器を見せた。

「ああ、通信傍受か」
 と俺は言ってから、首を傾げた。「って、あいつらデバイスなんて装備してないだろう?」
 と俺が訊くと、シーナは首を横に振って、
「装備してるのです」
 と言った。

「さっき聞こえたのは、店から出てきた女が無声通話で、アルコールがもうあまり無い、って言って、神殿から出てきた男が、3日後にはギルドに帰るって言ってたのです」

「おいおい、マジかよ。デバイスを装備してる奴が、この国にも居るのか」
 と俺は言って、「そのギルドってのが気になるな」
 と言って二人を見た。

「ギルドって何なの?」
 とティアが訊く。

「ギルドってのは、同じ志を持つ者が集まってできた集団の事だ。規模の大きさにもよるが、規模の大きなギルドになると、国を裏から動かす事だって出来るようになる」
 と俺は答えた。

「なら、私たちもギルドなのです」
 とシーナが言い、俺の左腕に抱き着いた。

「本当ね、同じ志を持って集まった仲間だもん、私たちもギルドって事ね!」
 と、ティアも俺の右腕に絡みつく。

「ハハッ、確かにそうかも知れないな」
 と俺は言いながら、「そろそろ寝ようぜ」
 と言って二人を抱えてベッドに向かうのだった。

 △△△△△△△△△△△△

 俺は眠れずにいた。

 俺の両腕にはティアとシーナが静かな寝息を立てている。

 俺も目を瞑ってはみたものの、頭の中がグルグルとしていて、どうにも落ち着かなかった。

 何だろう、こんな事はこの世界に来て初めてだ。

 情報津波を使っている訳でもないのに、頭の中がザワザワとしている。

 まるで俺の頭の中が、何かに呼び寄せられてでもいるかの様に落ち着かないのだ。

 ギルド・・・ねぇ。

 前世の地球でも、過去の歴史を紐解けば、沢山のギルドがあった。

 大抵のギルドは、国や政府の庇護を受けられず、自分達の身を守る事を目的として、同じ志を持つ者が集い、お互いを絶対に裏切らないという血の盟約を結ぶ事で信頼し合う事ができた様だ。

 しかし、中には国や政府から大金を貰って裏切ろうとする者も居て、そうした者達は一人残らず殺される事になる。

 そうしなければ、自分達が国や政府に殺されてしまうからだ。

 前世でも歴史的に有名なのは「石工せっこうギルド」だろうな。

 国王より王城の建築を任されていた石工達は、ある国王の命により王城を建築した。しかしその国王は、王城が完成すると「王城の秘密を守る為」として石工全員を殺してしまったのだという。
 石工達は怒り、「次に同じ事をしたら、王城の図面を敵国に売り渡してやる」と言って、石工達の身を守る為にギルドを作り、国王さえ下手に手が出せないような組織へと成長した。

 ただ、石工ギルドは、王城の秘密を知る者でもあり、国王の喉元に「敵国に情報を売るぞ」という剣を突き立てている様なものだ。
 それだけの力があるのなら、影で国を操る事など造作も無いだろう。

 国王の弱みを知っているのだから、貴族達をたぶらかして「次の国王はあなたにしよう」と担ぎ上げれば、簡単に国は転覆できるし、貴族達から多額の援助も得られる様になるだろう。

 そうしていつしか莫大な富を得て、欲しいものを全て手に入れた次に考えるのは、人間達をひざまつかせて頂点に立つ、いわば「世界征服」といったところか。

 そう考えれば前世の地球で起こっていた、全ての戦争や騒乱も、そうしたギルドが起こした事なのかも知れないと思えてくる。
 特に金融支配をしていたのはそうした連中だったのだろう。

 しかしそんな暴虐を、惑星開拓団がいつまでも放置しておくだろうか?

 星の統治を正常化する為に、惑星開拓団なら、いわば救世主の様な人間を派遣するのではないのか?

 又は、クラオ団長がしたように、龍を放って壊滅させたりするのではないか?

 そうした「神の裁き」の伝説は、地球上のどこの国にも神話に刻まれていた。

 なのに、少なくとも2035年の地球には、そんな救世主は現れなかった。

 世界は絶望に満ちていた。

 彼らは一様に自尊心を奪われ、ただ支配者の為に働くだけの生活になっていた。

 毎日をそうして過ごすだけでストレスが蓄積し、人々は病気がちになり、いわゆる「普通の暮らし」をする為に、みんなが資本家の奴隷の様に働かされていた。

 病気になって病院に行けば、高額な治療と薬でさらに生活を苦しくする。
 だけど、その薬が欲しくて更に無理をして働いて、どんどん不健康になっていく。

「金融支配」とは、そうした構図を生み出していたのだった。

 そんな社会人の成れの果てを、俺は傍から見ていたんだろうな。

 俺の様にホームレスになって社会からドロップアウトした人間の方が、ストレスは少なかったのかも知れない。

 だからここでは「金融支配」はさせてはならない。
 もっと原点に立ち返るんだ。

 そうすれば、自ずと浮かび上がってくるはずだ。

 強欲で傲慢ごうまんな、そして怠惰たいだな者達が何をしようとしているのか・・・

 俺はそこまで考えて「ふう」と息をついて天井を見た。
 気が付けば、ティアとシーナが俺の身体を抱く様にして眠っている。

 二人の体温が俺を優しく包み込む。
 それを感じていると、いつしか俺の心が安らいだ。

 人肌の温もりが、こんなにも俺を安らかにさせてくれるものだったとはな・・・

 俺は二人の頭にキスをして、

「お前たちのおかげで、俺は幸せだぞ」
 と呟き、目を瞑って深呼吸をした。

 そして、二人の体温を感じながら、いつしか眠りに落ちていたのだった。

 △△△△△△△△△△△△

 翌朝、俺達は少し遅めの起床になった。

 昨夜は夜更かしをして中継器の設置を行っていたせいで、眠るのが遅くなってしまったからな。

 俺が目覚めると、俺の身体に抱き着いたままのティアとシーナが
「おはよう、ショーエン」
 と言って、俺の両頬にキスをしてきた。

「ああ、おはよう。今日はお前達の方が早く目覚めたんだな」
 と俺が言うと、ティアはクスっと笑ってから
「ショーエン、もうすぐお昼だよ?」
 と言った。

「何!?」
 と俺はガバっと身体を起こして窓の外を見ると、神殿の周りのロータリーには、既に露店が並んでおり、多くの人通りがあった。

「随分と寝坊をしちまったな」
 と俺は頭を掻きながらそう言い、「起こしてくれれば良かったのに」
 とティア達を見て言った。

「メルス達とイクス達が、出かけるからって挨拶に来たのです。だけどショーエンがまだ眠っていたから、きっと疲れているはずだって寝かせておこうとみんなで合意したのです」
 とシーナが言った。

「で、私達はショーエンの寝顔を見ながら、目覚めるまでずっと添い寝してたって訳ね」
 とティアが言った。

「ああ、そうか。何だかすまなかったな」
 と俺が言うと、ティアは首を振って、
「違うよ、これまではショーエンばかりに負担を押しつけてたから、これからは私たちも自分の考えで動いて、ショーエンの役に立とうって思ってるんだよ」

「そうか・・・、そりゃあ、ありがとな」
 俺はそう言ってまた頭を掻き、「じゃあ他の事はあいつらに任せて、俺達は、噂の商人とやらに接触してみるとしようか」
 と言って、身支度を始めた。

 ティアとシーナは力強く頷き、二人も身支度を始めるのだった。
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