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第九章
第二十三話
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柔らかい朝日が、カーテンの隙間から差し込んでくる。
チュンチュンと、スズメに似た声の鳥がバルコニーの手すりにとまっている。
いつも通りに目を覚ましたおっさんは、
隣で静かな寝息を立てるリリの顔を見つめた。
彼女は──確か、26歳だったはずだ。
出会ってからしばらく経つので、リリも少しは大人になったのかもしれない。
おっさんは異世界に来る前、まだ五十には達していなかった。
今は──おそらく、それなりに歳を重ねているだろう。
生前、それも若い頃に共に暮らしていた妻との間に、子供は授からなかった。
だが、もし恵まれていたなら──リリくらいの年頃の娘になっていたかもしれない。
──そんな、娘のような存在であるリリと、肌を合わせた。
酔った勢いなどではなく、心から彼女を愛おしく思った。
スキルと呼ばれる、前の世界にはあり得なかった不思議な力に翻弄されながらも、自分の想いをしっかりと胸に抱き、不器用ながら毎日を生きている彼女。
そんな彼女と、これからも共に生きていきたいと強く願ったのだ。
起こさないように、そっと布団を抜け出し、朝食の支度でもしようかと身体を起こした──。
「……おはようございます、旦那様」
少し恥ずかしそうな顔を布団で隠しつつ、彼女が声をかけてくる。
「おはよう。まだ早ぇど?」
そう返すと──
「私は、貴方の専属受付嬢です。いつでも一緒ですから」
優しく微笑むと、リリは枕元のメガネをワサワサと探し始めた。
おっさんはそれを拾って、そっと彼女の顔に掛けてやる。
「その、まぁ……リリが婆さんになるまでは、俺ぁ生きちゃいらんけんどもよ。
それまでは、一緒に、楽しく暮らすっぺな」
その言葉に、リリは嬉しそうに胸へ飛び込み、
「はい」
と小さく頷いた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
おっさんがやれば一瞬で終わる作業だが、今日はリリと並んで台所に立った。
怪我をさせぬよう手元をそっと見守り、レタスを切らせ、卵を割らせ、パンの焼き加減も一緒に確認する。
焦らせず、ゆっくりと──朝食の支度は、いつもの何倍も時間をかけた。
香ばしい香りの中、美味しいコーヒーを淹れてもらい、リリは初めて自分で作ったベーコンエッグトーストを両手で持つ。
一口かじった瞬間、目がうるみ、頬がふわりとほころんだ。
その姿を見て、おっさんも思わず笑みをこぼす。
まるで、小学生の娘に初めて包丁を握らせた父親のような、胸の奥がじんわり温かくなるひとときだった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
朝メシを終えた俺たちは、とりあえず城へ向かうことにした。
トゥティパの三人を回収して、王様にいろいろ報告して、あとは好きにするーそんな流れだ。
リリのミニクーパーで王城前に乗りつけると、
王橋がガガガっと降りてくる。
そのまま玄関前まで直行、ミニはスッと腰袋に収納。
リリのスキル案内付きで、広すぎる城内を迷うことなくパステルの部屋まで一直線だ。
ノックをすれば──パステルの声が聞こえる。
そっと扉を開けて様子をうかがうと、皆そろって起きており、なんと王様まで一緒に朝食を取っていた。
「おとーさん、おっはよ~!」
元気いっぱいのトゥエラの声が響き、
「パーパ、どこで寝てたワケ~? あ、リリ姐も一緒!?
──マジで? そーゆー感じなワケ!?」
何かと鋭いテティスに、こちらから何も語っていないのに、あっさりと勘付かれてしまった。
「オジサマ、おはようございます」
パステルも優しく笑って挨拶をしてくれた。
昨日、自分の種族がハーフフェアリーだと知ってから、背中がムズムズすると言っていたが──どうやら気のせいではなかったらしい。
昨日見た妖精女王よりは小ぶりな、透ける羽根がパタパタと、彼女の背中で泳いでいた。
「来たのか、公爵よ。──朝から驚く話ばかり聞かされて、もう眠りたい気分だわい…」
王様は、天井を見上げながら、どこかグッタリした様子で呟いた。
どうやら三人から昨日の報告はすでに済んでおり、王城の古文書にも記されていなかった──
ツンダー初代国王のことや、セリオン家に妖精の血が混じっていたことなどで、頭がすっかりパニックになっているらしい。
「んだがら、あれ夢じゃなかったんだべなぁ。
パステルにも羽根が生えっちまってっしなぁ……」
とりあえず皆の座る輪に加わり、しばらく色々と話をする。
国民にどう発表するかなど、難しい話は宰相さんら重鎮を交えて相談していくとのこと。
妖精女王は目的を果たすと、小さな大量の妖精に分裂し、街中の公園や魔素の多い住みやすい場所へと散っていったらしい。
いずれは国民の目に触れることになるだろう。
「して──お主らは、なぜ手を繋いでおるのだ?」
王様にツッコまれて気がついたが、隣で頬を染めて俯くリリが、おっさんの手をそっと握っていた。
パステルまでこっちを見て、顔を赤くしている。
「あーそのー……このリリをよ、嫁に貰う事にしたんだっけ」
「よめ~?」
「ガチか~…」
「オジサマ…」
「それは構わんが……ワシの娘も、もらってくれるんだろうな?」
ボッと赤くなるパステル。
わたわたと慌てるリリ。
朝っぱらから、やけに慌ただしい空気になってきた。
「いやいや……姫は無理だっぺよ!? 俺の歳、アンタと大して変わらんだろう?」
国王にアンタ呼ばわりするおっさん。
ガヤガヤと皆にあれこれ言われ、パステルまで寂しそうな顔をするものだから、さすがに気まずくなってしまった。
そこで、とりあえずその話は先送りにし、強引に話題を切り替える。
「おめたちも、セーブルの結婚式さ行くか?
あの指輪さもらったから、入れるんでねえべか?」
トゥエラ、テティス、パステルの三人に聞いてみると、喜んでついて来ると言った。
──とは言っても、船旅に飽き飽きして王都に戻ってきた訳なので、まだすぐには戻りたくない。
何か事件や問題があれば、セーブルから電話がかかってくると思うし、
何か違うことをして時間を潰したい。
そういえば──と、おっさんは腰袋からゴトリ、と重そうな金属片を取り出した。
これは、海賊船の船底付近の部屋にかかっていた南京錠、それの破片だ。
重さも質感も、鉄にそっくりなのだが──
湿気っぽい潮の効いたあの場所で、小さな錆一つ付かずに鈍く輝いていた金属なのだ。
船旅の暇つぶしに、いくつか試してみた。
まず──磁石はくっ付かない。つまり、鉄ではなさそうだ。
次に、温泉で汲んだ湯を瓶に移し、その中へ浸して一晩置いてみる。だが、腐食も変色も一切なし。
最後に、金槌で軽く叩いてみると──キィィィィン、と澄んだ音が甲板に響き渡った。
「王様よぉ、あっちさの国は確か、宝石が有名なんだっぺ?」
そう尋ねると、それどころじゃない考え事をしていた王は顔を上げ、
「ん?……あぁ、隣国か。あそこの石は良いぞ。
色もそうだが、魔素が漲っておってな、魔装具として使っても秀逸だ」
と答えた。
ならば──と、おっさんは思いつきを形にすることにした。
「ちっと、ブーカのやづ探して、これの加工頼んでくっからな」
そう言い残し、家族には「ゆっくりしてろ」とだけ告げて、城を後にした。
ブーカは「騎士団の詰め所に行けば大体会える」と聞き、トラックに乗り込んだ。
石畳の道をガタポコと揺られながら、およそ十分。
以前にも訪れたことのある、大きな建物が見えてくる。
王都を流れる清流をまたぐように建てられた――
『橋のようなビル』と言えばいいだろうか。
そこが騎士たちの本部だった。
ブーカのような巨人の騎士も在籍しているため、扉はかなり大きく、三メートル以上の高さがある。
門番に顔を見せると、すぐに対応してくれた。
おっさんも、いよいよ最高位貴族として認知されてきたのかもしれない。
中へ入ると、数人の騎士が打ち合わせをしており、ブーカは二階の訓練所にいると教えてくれた。
巨人対応の階段は、相変わらず段差が高く、脚にこたえる。
まるで登山のようにヒィヒィ言いながら登り、だだっ広い部屋に足を踏み入れると──
物凄い熱気と怒号の中、巨人と普通の人間が実戦さながらの訓練を繰り広げていた。
中には腕や足が金属製の者もおり、その部分で剣を受け、弾き、鋼鉄の拳で盾をへこませたりもしている。
「すげぇんでねぇの? 毎日こんな殺し合いみてぇな訓練してんのがい?」
おっさんは目を丸くして呟いた。
もっとも、見慣れているセーブルの訓練は、あいつが見えないほどの速さで動くため、それに比べれば見劣りする。
戦争も内乱もないこの国で、ここまでの研鑽が必要なのか──と一瞬首を傾げたが、
よく考えれば、この世界にはどでかい魔物がそこら中にいることを思い出した。
部屋の隅に目をやると、観光バスほどの大きさの荷車が、変形して「巨人用屋台のおでん屋」のような形になっていた。
だが、並んでいるのはおでんではなく、身体を欠損した人間用の義手や義足だ。
中には、腰から下の両足ごと作られたパーツもある。
どうやって動かすのかは……まぁ、魔法なのだろう。
その作業台に真剣な眼差しを向け、ハンダゴテのような機械で繊細な作業をしている男が、こちらに気付いた。
ドン・ブーカである。
「おおっ、公爵閣下! ひさしぶりだな!」
彼は相変わらず、ガラスが震えるような大声でおっさんに声を掛けてきたのだった。
チュンチュンと、スズメに似た声の鳥がバルコニーの手すりにとまっている。
いつも通りに目を覚ましたおっさんは、
隣で静かな寝息を立てるリリの顔を見つめた。
彼女は──確か、26歳だったはずだ。
出会ってからしばらく経つので、リリも少しは大人になったのかもしれない。
おっさんは異世界に来る前、まだ五十には達していなかった。
今は──おそらく、それなりに歳を重ねているだろう。
生前、それも若い頃に共に暮らしていた妻との間に、子供は授からなかった。
だが、もし恵まれていたなら──リリくらいの年頃の娘になっていたかもしれない。
──そんな、娘のような存在であるリリと、肌を合わせた。
酔った勢いなどではなく、心から彼女を愛おしく思った。
スキルと呼ばれる、前の世界にはあり得なかった不思議な力に翻弄されながらも、自分の想いをしっかりと胸に抱き、不器用ながら毎日を生きている彼女。
そんな彼女と、これからも共に生きていきたいと強く願ったのだ。
起こさないように、そっと布団を抜け出し、朝食の支度でもしようかと身体を起こした──。
「……おはようございます、旦那様」
少し恥ずかしそうな顔を布団で隠しつつ、彼女が声をかけてくる。
「おはよう。まだ早ぇど?」
そう返すと──
「私は、貴方の専属受付嬢です。いつでも一緒ですから」
優しく微笑むと、リリは枕元のメガネをワサワサと探し始めた。
おっさんはそれを拾って、そっと彼女の顔に掛けてやる。
「その、まぁ……リリが婆さんになるまでは、俺ぁ生きちゃいらんけんどもよ。
それまでは、一緒に、楽しく暮らすっぺな」
その言葉に、リリは嬉しそうに胸へ飛び込み、
「はい」
と小さく頷いた。
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おっさんがやれば一瞬で終わる作業だが、今日はリリと並んで台所に立った。
怪我をさせぬよう手元をそっと見守り、レタスを切らせ、卵を割らせ、パンの焼き加減も一緒に確認する。
焦らせず、ゆっくりと──朝食の支度は、いつもの何倍も時間をかけた。
香ばしい香りの中、美味しいコーヒーを淹れてもらい、リリは初めて自分で作ったベーコンエッグトーストを両手で持つ。
一口かじった瞬間、目がうるみ、頬がふわりとほころんだ。
その姿を見て、おっさんも思わず笑みをこぼす。
まるで、小学生の娘に初めて包丁を握らせた父親のような、胸の奥がじんわり温かくなるひとときだった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
朝メシを終えた俺たちは、とりあえず城へ向かうことにした。
トゥティパの三人を回収して、王様にいろいろ報告して、あとは好きにするーそんな流れだ。
リリのミニクーパーで王城前に乗りつけると、
王橋がガガガっと降りてくる。
そのまま玄関前まで直行、ミニはスッと腰袋に収納。
リリのスキル案内付きで、広すぎる城内を迷うことなくパステルの部屋まで一直線だ。
ノックをすれば──パステルの声が聞こえる。
そっと扉を開けて様子をうかがうと、皆そろって起きており、なんと王様まで一緒に朝食を取っていた。
「おとーさん、おっはよ~!」
元気いっぱいのトゥエラの声が響き、
「パーパ、どこで寝てたワケ~? あ、リリ姐も一緒!?
──マジで? そーゆー感じなワケ!?」
何かと鋭いテティスに、こちらから何も語っていないのに、あっさりと勘付かれてしまった。
「オジサマ、おはようございます」
パステルも優しく笑って挨拶をしてくれた。
昨日、自分の種族がハーフフェアリーだと知ってから、背中がムズムズすると言っていたが──どうやら気のせいではなかったらしい。
昨日見た妖精女王よりは小ぶりな、透ける羽根がパタパタと、彼女の背中で泳いでいた。
「来たのか、公爵よ。──朝から驚く話ばかり聞かされて、もう眠りたい気分だわい…」
王様は、天井を見上げながら、どこかグッタリした様子で呟いた。
どうやら三人から昨日の報告はすでに済んでおり、王城の古文書にも記されていなかった──
ツンダー初代国王のことや、セリオン家に妖精の血が混じっていたことなどで、頭がすっかりパニックになっているらしい。
「んだがら、あれ夢じゃなかったんだべなぁ。
パステルにも羽根が生えっちまってっしなぁ……」
とりあえず皆の座る輪に加わり、しばらく色々と話をする。
国民にどう発表するかなど、難しい話は宰相さんら重鎮を交えて相談していくとのこと。
妖精女王は目的を果たすと、小さな大量の妖精に分裂し、街中の公園や魔素の多い住みやすい場所へと散っていったらしい。
いずれは国民の目に触れることになるだろう。
「して──お主らは、なぜ手を繋いでおるのだ?」
王様にツッコまれて気がついたが、隣で頬を染めて俯くリリが、おっさんの手をそっと握っていた。
パステルまでこっちを見て、顔を赤くしている。
「あーそのー……このリリをよ、嫁に貰う事にしたんだっけ」
「よめ~?」
「ガチか~…」
「オジサマ…」
「それは構わんが……ワシの娘も、もらってくれるんだろうな?」
ボッと赤くなるパステル。
わたわたと慌てるリリ。
朝っぱらから、やけに慌ただしい空気になってきた。
「いやいや……姫は無理だっぺよ!? 俺の歳、アンタと大して変わらんだろう?」
国王にアンタ呼ばわりするおっさん。
ガヤガヤと皆にあれこれ言われ、パステルまで寂しそうな顔をするものだから、さすがに気まずくなってしまった。
そこで、とりあえずその話は先送りにし、強引に話題を切り替える。
「おめたちも、セーブルの結婚式さ行くか?
あの指輪さもらったから、入れるんでねえべか?」
トゥエラ、テティス、パステルの三人に聞いてみると、喜んでついて来ると言った。
──とは言っても、船旅に飽き飽きして王都に戻ってきた訳なので、まだすぐには戻りたくない。
何か事件や問題があれば、セーブルから電話がかかってくると思うし、
何か違うことをして時間を潰したい。
そういえば──と、おっさんは腰袋からゴトリ、と重そうな金属片を取り出した。
これは、海賊船の船底付近の部屋にかかっていた南京錠、それの破片だ。
重さも質感も、鉄にそっくりなのだが──
湿気っぽい潮の効いたあの場所で、小さな錆一つ付かずに鈍く輝いていた金属なのだ。
船旅の暇つぶしに、いくつか試してみた。
まず──磁石はくっ付かない。つまり、鉄ではなさそうだ。
次に、温泉で汲んだ湯を瓶に移し、その中へ浸して一晩置いてみる。だが、腐食も変色も一切なし。
最後に、金槌で軽く叩いてみると──キィィィィン、と澄んだ音が甲板に響き渡った。
「王様よぉ、あっちさの国は確か、宝石が有名なんだっぺ?」
そう尋ねると、それどころじゃない考え事をしていた王は顔を上げ、
「ん?……あぁ、隣国か。あそこの石は良いぞ。
色もそうだが、魔素が漲っておってな、魔装具として使っても秀逸だ」
と答えた。
ならば──と、おっさんは思いつきを形にすることにした。
「ちっと、ブーカのやづ探して、これの加工頼んでくっからな」
そう言い残し、家族には「ゆっくりしてろ」とだけ告げて、城を後にした。
ブーカは「騎士団の詰め所に行けば大体会える」と聞き、トラックに乗り込んだ。
石畳の道をガタポコと揺られながら、およそ十分。
以前にも訪れたことのある、大きな建物が見えてくる。
王都を流れる清流をまたぐように建てられた――
『橋のようなビル』と言えばいいだろうか。
そこが騎士たちの本部だった。
ブーカのような巨人の騎士も在籍しているため、扉はかなり大きく、三メートル以上の高さがある。
門番に顔を見せると、すぐに対応してくれた。
おっさんも、いよいよ最高位貴族として認知されてきたのかもしれない。
中へ入ると、数人の騎士が打ち合わせをしており、ブーカは二階の訓練所にいると教えてくれた。
巨人対応の階段は、相変わらず段差が高く、脚にこたえる。
まるで登山のようにヒィヒィ言いながら登り、だだっ広い部屋に足を踏み入れると──
物凄い熱気と怒号の中、巨人と普通の人間が実戦さながらの訓練を繰り広げていた。
中には腕や足が金属製の者もおり、その部分で剣を受け、弾き、鋼鉄の拳で盾をへこませたりもしている。
「すげぇんでねぇの? 毎日こんな殺し合いみてぇな訓練してんのがい?」
おっさんは目を丸くして呟いた。
もっとも、見慣れているセーブルの訓練は、あいつが見えないほどの速さで動くため、それに比べれば見劣りする。
戦争も内乱もないこの国で、ここまでの研鑽が必要なのか──と一瞬首を傾げたが、
よく考えれば、この世界にはどでかい魔物がそこら中にいることを思い出した。
部屋の隅に目をやると、観光バスほどの大きさの荷車が、変形して「巨人用屋台のおでん屋」のような形になっていた。
だが、並んでいるのはおでんではなく、身体を欠損した人間用の義手や義足だ。
中には、腰から下の両足ごと作られたパーツもある。
どうやって動かすのかは……まぁ、魔法なのだろう。
その作業台に真剣な眼差しを向け、ハンダゴテのような機械で繊細な作業をしている男が、こちらに気付いた。
ドン・ブーカである。
「おおっ、公爵閣下! ひさしぶりだな!」
彼は相変わらず、ガラスが震えるような大声でおっさんに声を掛けてきたのだった。
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