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第九章
第四十七話
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車から降り立ったセーブルとシェリー、それにリリ。
目の前にそびえるのは、不可思議で、荘厳で、脳が理解を拒むような建物。
二人は言葉を失い、ただ静かに涙を流した。
それは恐怖ではなく、魂に直接触れるような畏怖と感動だった。
──そして数歩後ろから降り立ったオルテメが、その光景を見て絶叫する。
「な……ナニコレ……?
カ……カッコイイ?……ヘンテコ?
ア…アタマが追いつかない……YO!?
オ、オ、オオォ~~~マァァイィ~~~ガッッッ!!」
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
リリがセーブル達を連れて帰ってきた。
それは良いのだが……アレはなんだ?
たぶん――初日に挨拶した国王だと思うのだが。
いや、違うか?
ルー氏とか、●ャニー氏とか……色々混ざったような……
やたら喧しい人まで一緒に来てしまったようだ。
おっさんは、完成の余韻に浸りながら、建物を眺めて一杯やっていた所であった。
娘達には取り敢えず、焼きそばと焼き肉をササっと作って、ご馳走はうちに帰ってからゆっくりとな、と宥めておいた。
本来ならばコンクリート打ちっぱなしという工法の建物は、無機質な艶のあるグレー色の仕上がりであり、型枠の補強のための、『Pコン』と呼ばれる10円玉くらいの凹みが無数に残るものである。
しかし、テティスの魔法による型枠と、塗装魔法。
柱や梁の木目までも再現された細部装飾魔法。
これがコンクリートだと、誰に言っても信じないであろう、途轍もない仕上がりとなっていた。
まぁ、殴ってみれば、固いからわかるのだがな。
「親方…この建物は……?」
セーブルが、シェリーを伴って側までやってきて、八角形にそびえる堂々たる社殿を見上げながら聞いてきたので、教えてやった。
「これはな、俺の故郷の方で言う所の、『神様の家』
みてぇなもんでな、まぁよ、この世界に神様が居るのかどうかは知らねぇんだけんどもよ……
ここを使って結婚式さをやればよ、何つーかアレだべ?
──色々と縁起が良さそうだっぺ?」
向こうのほうで、「うごく石像」みたいなポーズで固まっていた、王様っぽい人が、突然動き出し──
「ヘェェイ!!公爵!
YOUはホントにアンビリーバボーに
スッバラシィィんだゼ!!
THIS PLACE IS神の家だって!?
ナンテコッタ!?AMAZING!?!?
AHHH……ナミダでBUILDINGがミエナイYO!!」
──これはアレか?
おっさんの訛った東北弁への当てつけなのか?
厚切りな大柴感のある人みたいなノリの芸人…もとい王様が、オーバーリアクションで大騒ぎをしている。
まぁたしかに、我ながら良い出来だとは思う。
地球ならば──魔法という理不尽なパワー…
……いかん、感染りそうだ…
不思議な力がなければ、絶対に不可能な工法であり、窪んでいた土地に一日で完成したなんて言った日には……イリュージョンなアメイジングだと思われてしまうだろうゼ……
「あんちゅーだっぺ…」
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
大勢のお客さんが集まるのかどうかはともかく、そういった披露宴は後日に行えば良いとして、今日は二人の式だけをやってしまおうかと目論んだわけだ。
今回の工事においては、テティスとパステルが大活躍をしてくれたのだが、トゥエラが何もしていなかった訳ではない。
朝のうちは、おっさんの後をぴょこぴょこと付いてきて、鉄筋の溶接なども手伝っていてくれたのだが──
ふと、地上を見下ろした彼女は、「あれ~~?」
とか言って、降りていってしまったのだ。
まぁおっさん一人でも、差し支えない仕事だったので別によいのだが、途中でチラッと下を見ると、トゥエラは何やら、朝退けた巨大な貝殻を、おっさんの腰袋から、
──いつの間にか勝手に取り出したグラインダーで、チュインチュインと磨いていたのだ。
グラインダーの刃も、切断用ではなく、ワイヤーブラシのついた研磨用に交換して……
──使い方教えたっけか?
ひたすらに、サビみたいな汚れを落としていた。
コンクリート打設が終わって、後は足場を解体すれば──
と思っていた所に、トゥエラがスキップをしながらルンルン♪とやって来て、
「おっとーさん!コレねー!中に入りたいんだってー!」
と、手のひらに乗せた貝殻を見せにやって来た。
入りたい?よくわからないが、その辺でトゥエラが見つけた貝殻なのかと思い、
「まぁ、好きなとこさに飾ったらいいべ?」
と言っておいた。
そして、鉄パイプで組んだ仮設足場を、ひょいひょいと腰袋に収納しながら周回し、立派な新築社殿は完成したのだが──
入り口の木戸や、窓までは終わらなかったので、とりあえず内部の確認を、と思って入ってみれば──
どデカい貝殻が、床に置かれていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
それは…間違いなく、今朝、ここの窪地に半分程埋まっていた貝殻であった。
しかし、見た目がまるで違う。
朝、土から掘り起こした時は、赤錆というか…ぶ厚いコケというか、そんな感じのがベッタリと付いていて、おっさんの中では「でっけえスクラップだな?」くらいの意識しかなかった訳なのだが…
今、目の前に鎮座するコレは、
荘厳で美麗で神々しい?──パールホワイトに煌めく、畳六枚くらいはある巨大な美術品みたいになっていた。
後ろを振り返っても、玄関の間口はそんなに広くはない。
一体何処から入って来たのか──
と思っていると、トゥエラが貝殻の影で何かをやっていた。
「おとーさん♪あっのね~、もーっと、ツルツルにしたいんだって言ってたよー?」
見れば、彼女の手には紙ヤスリが。
グラインダーだけでは物足りず、仕上げの研磨を手作業で行っていた。
「言っていた…っちゃー…誰が?」
と尋ねると──
「んふふ~なんかねー?恥ずかしいからちょっとしか開けたくないんだってよー?」
と、貝殻の正面側を指差している。
「だ、誰か入ってんのけ!?」
と覗いてみると、貝先が…ほんの数㍉開いていて、
そこから何やら声のようなものが……
『…………………………』
ものすごく小さい、蟻のセリフみたいな声量なのだが……何故かおっさんの耳にはしっかりと聴こえた。
「本当に…誰か入ってるんだわ……」
おっさんが首を捻っていると、トゥエラが腰袋に手を突っ込んで、ペコさんみたいな顔で舌を出して──
「んーっと、んーっと、あー!あったー!」
と、工芸品の超仕上げ用の、耐水紙ヤスリを勝手に取り出して、ついでにバケツや水まで引っ張り出し、シャカシャカと、#2000番辺りのヤスリから、最後は#30000番まである──
『──あぁそうか、だいぶ以前に、樹海の家でレジンテーブルをこさえてた時に、俺が使ってるのを見て覚えていたのか』
頭の中で合点がいったおっさんは、まぁまぁの面積もある事だし、何よりトゥエラがめんごいので手伝ってやる事にし、一緒に仲良くシャカシャカとやり──
水をつけながらヤスリを細かくしてゆけば、どんどんとツルツルになって──
最終的には、ペーパーサンダーの機械に、艶出しバフを取り付けて、コンパウンドを塗りながら、
ヴイィィィィ~~と全体を磨けば……
それはもう、自分の顔が映り込むほどの貝殻と仕上がっていた。
──それが夕方近くまでかかり、テティスからブーイングが飛んできたので、慌てて焼きそばなどを用意して、とりあえずのツノを引っ込めて貰った訳で……
またしても異世界の不思議に触れたおっさんは、
あんな隙間から「大義であったぞ」け…と、思い出して笑いそうになりながら酒を呑んでいたのだ。
すると程なくして、リリのミニクーパーが滑り込んできたのだった。
目の前にそびえるのは、不可思議で、荘厳で、脳が理解を拒むような建物。
二人は言葉を失い、ただ静かに涙を流した。
それは恐怖ではなく、魂に直接触れるような畏怖と感動だった。
──そして数歩後ろから降り立ったオルテメが、その光景を見て絶叫する。
「な……ナニコレ……?
カ……カッコイイ?……ヘンテコ?
ア…アタマが追いつかない……YO!?
オ、オ、オオォ~~~マァァイィ~~~ガッッッ!!」
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
リリがセーブル達を連れて帰ってきた。
それは良いのだが……アレはなんだ?
たぶん――初日に挨拶した国王だと思うのだが。
いや、違うか?
ルー氏とか、●ャニー氏とか……色々混ざったような……
やたら喧しい人まで一緒に来てしまったようだ。
おっさんは、完成の余韻に浸りながら、建物を眺めて一杯やっていた所であった。
娘達には取り敢えず、焼きそばと焼き肉をササっと作って、ご馳走はうちに帰ってからゆっくりとな、と宥めておいた。
本来ならばコンクリート打ちっぱなしという工法の建物は、無機質な艶のあるグレー色の仕上がりであり、型枠の補強のための、『Pコン』と呼ばれる10円玉くらいの凹みが無数に残るものである。
しかし、テティスの魔法による型枠と、塗装魔法。
柱や梁の木目までも再現された細部装飾魔法。
これがコンクリートだと、誰に言っても信じないであろう、途轍もない仕上がりとなっていた。
まぁ、殴ってみれば、固いからわかるのだがな。
「親方…この建物は……?」
セーブルが、シェリーを伴って側までやってきて、八角形にそびえる堂々たる社殿を見上げながら聞いてきたので、教えてやった。
「これはな、俺の故郷の方で言う所の、『神様の家』
みてぇなもんでな、まぁよ、この世界に神様が居るのかどうかは知らねぇんだけんどもよ……
ここを使って結婚式さをやればよ、何つーかアレだべ?
──色々と縁起が良さそうだっぺ?」
向こうのほうで、「うごく石像」みたいなポーズで固まっていた、王様っぽい人が、突然動き出し──
「ヘェェイ!!公爵!
YOUはホントにアンビリーバボーに
スッバラシィィんだゼ!!
THIS PLACE IS神の家だって!?
ナンテコッタ!?AMAZING!?!?
AHHH……ナミダでBUILDINGがミエナイYO!!」
──これはアレか?
おっさんの訛った東北弁への当てつけなのか?
厚切りな大柴感のある人みたいなノリの芸人…もとい王様が、オーバーリアクションで大騒ぎをしている。
まぁたしかに、我ながら良い出来だとは思う。
地球ならば──魔法という理不尽なパワー…
……いかん、感染りそうだ…
不思議な力がなければ、絶対に不可能な工法であり、窪んでいた土地に一日で完成したなんて言った日には……イリュージョンなアメイジングだと思われてしまうだろうゼ……
「あんちゅーだっぺ…」
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
大勢のお客さんが集まるのかどうかはともかく、そういった披露宴は後日に行えば良いとして、今日は二人の式だけをやってしまおうかと目論んだわけだ。
今回の工事においては、テティスとパステルが大活躍をしてくれたのだが、トゥエラが何もしていなかった訳ではない。
朝のうちは、おっさんの後をぴょこぴょこと付いてきて、鉄筋の溶接なども手伝っていてくれたのだが──
ふと、地上を見下ろした彼女は、「あれ~~?」
とか言って、降りていってしまったのだ。
まぁおっさん一人でも、差し支えない仕事だったので別によいのだが、途中でチラッと下を見ると、トゥエラは何やら、朝退けた巨大な貝殻を、おっさんの腰袋から、
──いつの間にか勝手に取り出したグラインダーで、チュインチュインと磨いていたのだ。
グラインダーの刃も、切断用ではなく、ワイヤーブラシのついた研磨用に交換して……
──使い方教えたっけか?
ひたすらに、サビみたいな汚れを落としていた。
コンクリート打設が終わって、後は足場を解体すれば──
と思っていた所に、トゥエラがスキップをしながらルンルン♪とやって来て、
「おっとーさん!コレねー!中に入りたいんだってー!」
と、手のひらに乗せた貝殻を見せにやって来た。
入りたい?よくわからないが、その辺でトゥエラが見つけた貝殻なのかと思い、
「まぁ、好きなとこさに飾ったらいいべ?」
と言っておいた。
そして、鉄パイプで組んだ仮設足場を、ひょいひょいと腰袋に収納しながら周回し、立派な新築社殿は完成したのだが──
入り口の木戸や、窓までは終わらなかったので、とりあえず内部の確認を、と思って入ってみれば──
どデカい貝殻が、床に置かれていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
それは…間違いなく、今朝、ここの窪地に半分程埋まっていた貝殻であった。
しかし、見た目がまるで違う。
朝、土から掘り起こした時は、赤錆というか…ぶ厚いコケというか、そんな感じのがベッタリと付いていて、おっさんの中では「でっけえスクラップだな?」くらいの意識しかなかった訳なのだが…
今、目の前に鎮座するコレは、
荘厳で美麗で神々しい?──パールホワイトに煌めく、畳六枚くらいはある巨大な美術品みたいになっていた。
後ろを振り返っても、玄関の間口はそんなに広くはない。
一体何処から入って来たのか──
と思っていると、トゥエラが貝殻の影で何かをやっていた。
「おとーさん♪あっのね~、もーっと、ツルツルにしたいんだって言ってたよー?」
見れば、彼女の手には紙ヤスリが。
グラインダーだけでは物足りず、仕上げの研磨を手作業で行っていた。
「言っていた…っちゃー…誰が?」
と尋ねると──
「んふふ~なんかねー?恥ずかしいからちょっとしか開けたくないんだってよー?」
と、貝殻の正面側を指差している。
「だ、誰か入ってんのけ!?」
と覗いてみると、貝先が…ほんの数㍉開いていて、
そこから何やら声のようなものが……
『…………………………』
ものすごく小さい、蟻のセリフみたいな声量なのだが……何故かおっさんの耳にはしっかりと聴こえた。
「本当に…誰か入ってるんだわ……」
おっさんが首を捻っていると、トゥエラが腰袋に手を突っ込んで、ペコさんみたいな顔で舌を出して──
「んーっと、んーっと、あー!あったー!」
と、工芸品の超仕上げ用の、耐水紙ヤスリを勝手に取り出して、ついでにバケツや水まで引っ張り出し、シャカシャカと、#2000番辺りのヤスリから、最後は#30000番まである──
『──あぁそうか、だいぶ以前に、樹海の家でレジンテーブルをこさえてた時に、俺が使ってるのを見て覚えていたのか』
頭の中で合点がいったおっさんは、まぁまぁの面積もある事だし、何よりトゥエラがめんごいので手伝ってやる事にし、一緒に仲良くシャカシャカとやり──
水をつけながらヤスリを細かくしてゆけば、どんどんとツルツルになって──
最終的には、ペーパーサンダーの機械に、艶出しバフを取り付けて、コンパウンドを塗りながら、
ヴイィィィィ~~と全体を磨けば……
それはもう、自分の顔が映り込むほどの貝殻と仕上がっていた。
──それが夕方近くまでかかり、テティスからブーイングが飛んできたので、慌てて焼きそばなどを用意して、とりあえずのツノを引っ込めて貰った訳で……
またしても異世界の不思議に触れたおっさんは、
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