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第九章
第六十三話
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おっさんは、ウナギの化け物を本気で誘い出すため、とっておきのドラゴン肉と、使い道に困っていた余り物の調味料を惜しげもなく谷底へとぶち撒けた。
「これで出てこなきゃ嘘だろ……!」
谷の奥へと漂う異様な匂いと魔力が、闇を刺激し、やがて……。
ドドドドドッパァァァァァァァァン!!
谷底から轟音が響き、
まるでミサイルが飛来するかのように──
八つのウナギの顔が、黒い閃光となって飛び出してきた。
「いきますわっ!──フェアリーワープゲート!」
リリの声と共に、
目の前に美しい草花でできたトンネルが現れ、
迫りくる巨大ウナギを丸ごと飲み込んでいく。
「……魔封波みてぇだな」
おっさんが呟く中、ウナギのグネグネとした巨体は
すべて花のトンネルに吸い込まれた。
──フワッ。
最後の花びらが消えると、そこには静寂が戻り、
残されたのは、おっさんとリリだけの谷間の景色だった。
テティスが穿った穴には、
軌道修正用の小さなワープゲートが点々と配置されていた。
その先を、ウナギは意思があるのかないのか──
ただひたすらに目の前の岩盤を砕きながら、
奥へ奥へと潜り進んでいく。
残されたのは、細かく砕かれた砂利のような膨大な土砂だけ。
おっさんとパステルは転移で現場に戻ると、
その残土に向かって大きなフレコンバックを
パサッと被せた。
袋の脇に記された備考欄には──『残土吸引』の文字。
すると、うず高く積もった土砂は
ゴォォォッと音を立てながら袋に吸い込まれ、
みるみるうちに跡形もなく消えていく。
遥か奥、穴の闇の向こうに
一瞬だけウナギの尻尾がチラリと見え──
そして、静かに消えていった。
そして──その後に残ったものは、
おっさんが何となく予想していた通りの光景だった。
ウナギが進むたびに滲み出していたヌルヌルとした体液。
それは、まるで速乾モルタルのように砕かれた岩肌に染み込み、
荒々しい断面を滑らかに覆い隠していく。
気づけば、そこにはまるで人工物のような──
完璧な真円を描く、テッカテカに磨かれた洞窟が完成していた。
おっさんは思わず口元を引きつらせながら、ぽつりと呟く。
「……これ、手間いらずだな」
こうなってしまうと、おっさん達には何もやる事がない。
普通のトンネル工事であれば、道路面となる部分は後から舗装するのであるが、底にもウナギの体液が溢れたらしく、ピッタリと水平なコンクリートのように固まっている。
「アレだっぺな……照明や換気扇なんかは取り付けないとダメだっぺな」
おっさんは腕を組みながら、できたばかりのピカピカの洞窟を見上げた。
距離が長い洞窟では、外気を奥まで届ける工夫をしなければ、
中に入った人間が窒息してしまう危険がある。
それに、灯りがなければ盗賊や魔物に待ち伏せされる恐れもある。
日本製のLEDライトも、大型換気扇も腰袋には揃ってはいる。
だが、おっさんはそれらを取り付けることを躊躇していた。
──この世界の人間が維持できるものじゃないと、俺が死んだあと困っちまう。
換気扇が壊れたら修理も交換もできねぇんじゃ、意味がねぇべ……。
「パーパ?ナニ悩んでんの? コレでよくね?」
不意に声をかけてきたテティスが、にゅっと差し出してきたものを見て、
おっさんは目を丸くした。
「これは……白出汁と──ミントの魔石け?」
手のひらに載っていたのは、
おっさんが普段、メシやお菓子作りにわりと多用している白と緑の魔石だった。
どちらも魔物から取り出した素材で、もっぱら“調味料“扱いされてきたものだ。
「旦那様……魔石をおろし金で削って、調味料にされる方なんて……
この世界で旦那様くらいですよ?」
リリが呆れたように微笑みながら言う。
その白い魔石を壁に固定した瞬間──
ぼわぁっと淡い光が洞窟を満たした。
まるで蛍光灯のような、優しくぼんやりとした灯り。
「……おお。
こりゃ、換気扇よりエコで、交換も簡単だっぺ!」
おっさんは思わず笑みをこぼし、
光り輝く洞窟を見渡しながら、未来の維持管理まで考えた妙案に深く頷いた。
ミントの魔石は天井近くに、パステルの魔法でふわりと浮かせて固定した。
すると、そよそよと優しい風が生まれ、洞窟内にこもっていた生臭いウナギ臭を心地よく散らしてくれる。
──シールドマシンの進行速度は予想以上に速い。
設備工事を施しながら追いかけても、なかなかその尻尾に追いつけないほどだ。
おっさんたちは延々と続く道を進みながら、換気と照明を順番に設置していく。
どれほど歩いたか分からない……
数時間は経っただろうか。
その時、前方から突然──
まばゆい光が差し込んできた。
「もう……開通したのですか?」
パステルが目を細めながら呟くと、
おっさんも思わず足を止め、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
そういえば、ウナギの化け物はどこへ行ってしまったんだ?
この辺りに住んでいる人族などはいないとも思うが、放置してどこかの人里まで壊しに行かれては困る。
そう思っておっさんは周りをキョロキョロと見渡すと──
なんだか変なものが足元にいた。
まず、ゴルフクラブくらいの長さのある太いウナギが七匹。
グッタリと地面に転がっている。エラっぽい部分を見ると、金属風のブレードがくっ付いていたので、恐らくさっきのウナギが弱体化して分裂したのだろう。
そしてもう一匹……
卵を丸呑みした蛇のように、ボゴォっと胴体の膨らんだウナギが転がっていた。
それを見ていると、だんだんと腹は膨らみ、破け始め──
中から猫が出てきた。
「これで出てこなきゃ嘘だろ……!」
谷の奥へと漂う異様な匂いと魔力が、闇を刺激し、やがて……。
ドドドドドッパァァァァァァァァン!!
谷底から轟音が響き、
まるでミサイルが飛来するかのように──
八つのウナギの顔が、黒い閃光となって飛び出してきた。
「いきますわっ!──フェアリーワープゲート!」
リリの声と共に、
目の前に美しい草花でできたトンネルが現れ、
迫りくる巨大ウナギを丸ごと飲み込んでいく。
「……魔封波みてぇだな」
おっさんが呟く中、ウナギのグネグネとした巨体は
すべて花のトンネルに吸い込まれた。
──フワッ。
最後の花びらが消えると、そこには静寂が戻り、
残されたのは、おっさんとリリだけの谷間の景色だった。
テティスが穿った穴には、
軌道修正用の小さなワープゲートが点々と配置されていた。
その先を、ウナギは意思があるのかないのか──
ただひたすらに目の前の岩盤を砕きながら、
奥へ奥へと潜り進んでいく。
残されたのは、細かく砕かれた砂利のような膨大な土砂だけ。
おっさんとパステルは転移で現場に戻ると、
その残土に向かって大きなフレコンバックを
パサッと被せた。
袋の脇に記された備考欄には──『残土吸引』の文字。
すると、うず高く積もった土砂は
ゴォォォッと音を立てながら袋に吸い込まれ、
みるみるうちに跡形もなく消えていく。
遥か奥、穴の闇の向こうに
一瞬だけウナギの尻尾がチラリと見え──
そして、静かに消えていった。
そして──その後に残ったものは、
おっさんが何となく予想していた通りの光景だった。
ウナギが進むたびに滲み出していたヌルヌルとした体液。
それは、まるで速乾モルタルのように砕かれた岩肌に染み込み、
荒々しい断面を滑らかに覆い隠していく。
気づけば、そこにはまるで人工物のような──
完璧な真円を描く、テッカテカに磨かれた洞窟が完成していた。
おっさんは思わず口元を引きつらせながら、ぽつりと呟く。
「……これ、手間いらずだな」
こうなってしまうと、おっさん達には何もやる事がない。
普通のトンネル工事であれば、道路面となる部分は後から舗装するのであるが、底にもウナギの体液が溢れたらしく、ピッタリと水平なコンクリートのように固まっている。
「アレだっぺな……照明や換気扇なんかは取り付けないとダメだっぺな」
おっさんは腕を組みながら、できたばかりのピカピカの洞窟を見上げた。
距離が長い洞窟では、外気を奥まで届ける工夫をしなければ、
中に入った人間が窒息してしまう危険がある。
それに、灯りがなければ盗賊や魔物に待ち伏せされる恐れもある。
日本製のLEDライトも、大型換気扇も腰袋には揃ってはいる。
だが、おっさんはそれらを取り付けることを躊躇していた。
──この世界の人間が維持できるものじゃないと、俺が死んだあと困っちまう。
換気扇が壊れたら修理も交換もできねぇんじゃ、意味がねぇべ……。
「パーパ?ナニ悩んでんの? コレでよくね?」
不意に声をかけてきたテティスが、にゅっと差し出してきたものを見て、
おっさんは目を丸くした。
「これは……白出汁と──ミントの魔石け?」
手のひらに載っていたのは、
おっさんが普段、メシやお菓子作りにわりと多用している白と緑の魔石だった。
どちらも魔物から取り出した素材で、もっぱら“調味料“扱いされてきたものだ。
「旦那様……魔石をおろし金で削って、調味料にされる方なんて……
この世界で旦那様くらいですよ?」
リリが呆れたように微笑みながら言う。
その白い魔石を壁に固定した瞬間──
ぼわぁっと淡い光が洞窟を満たした。
まるで蛍光灯のような、優しくぼんやりとした灯り。
「……おお。
こりゃ、換気扇よりエコで、交換も簡単だっぺ!」
おっさんは思わず笑みをこぼし、
光り輝く洞窟を見渡しながら、未来の維持管理まで考えた妙案に深く頷いた。
ミントの魔石は天井近くに、パステルの魔法でふわりと浮かせて固定した。
すると、そよそよと優しい風が生まれ、洞窟内にこもっていた生臭いウナギ臭を心地よく散らしてくれる。
──シールドマシンの進行速度は予想以上に速い。
設備工事を施しながら追いかけても、なかなかその尻尾に追いつけないほどだ。
おっさんたちは延々と続く道を進みながら、換気と照明を順番に設置していく。
どれほど歩いたか分からない……
数時間は経っただろうか。
その時、前方から突然──
まばゆい光が差し込んできた。
「もう……開通したのですか?」
パステルが目を細めながら呟くと、
おっさんも思わず足を止め、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
そういえば、ウナギの化け物はどこへ行ってしまったんだ?
この辺りに住んでいる人族などはいないとも思うが、放置してどこかの人里まで壊しに行かれては困る。
そう思っておっさんは周りをキョロキョロと見渡すと──
なんだか変なものが足元にいた。
まず、ゴルフクラブくらいの長さのある太いウナギが七匹。
グッタリと地面に転がっている。エラっぽい部分を見ると、金属風のブレードがくっ付いていたので、恐らくさっきのウナギが弱体化して分裂したのだろう。
そしてもう一匹……
卵を丸呑みした蛇のように、ボゴォっと胴体の膨らんだウナギが転がっていた。
それを見ていると、だんだんと腹は膨らみ、破け始め──
中から猫が出てきた。
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