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第三章
第十四話
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「寒…」
おっさんは震えながら目を覚ました。
ガスも薪も使わず、ひとまず電気湯沸器をスイッチオン。
湯気が上がるまでの数分を、咥えた煙草の煙と一緒にやり過ごす。
やがてシュゴゴ…と音が鳴り、
即席日本蕎麦のフタを開けて湯を注ぐ。
残ったお湯でコーヒーもいれて、一旦腰を下ろす。
「……さて、3分か」
何気ないその時間に、ふと脳内が動き出した。
携帯電話を取り出し、ポチポチと計算してみる。
⸻
1年=52週
52週 × 2個=年間104杯
カップ麺歴:48歳~13歳=35年
104杯 × 35年=3,640杯
3分 × 3,640杯=10,920分
10,920分 ÷ 60=182時間
182時間 ÷ 24=約7.6日
⸻
「……一週間か……」
おっさんは、驚愕した。
たかがカップ麺の“3分”を待つためにおっさんが今まで費やした人生の時間が、
まるまる一週間を超えていたのだ。
どこかへ旅行できたかもしれない。
資格のひとつやふたつ、取れてたかもしれない。
──だが今ここにあるのは、伸びはじめたソバである。
コシは……帰ってこない。
「……もったいねぇ人生だな、どっちの意味でも」
フーフーしながら、ひとくちすすった。
悪くない朝だった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
石の運搬方法に頭をひねる。
この樹海の悪路の中をトラックで走れるわけもなく、
そもそも“車で帰る”という選択肢がない。
──召喚送還……「そうか」
呟くと、腰袋からアームロール運搬車が現れる。
背中にでっかい鉄の箱を背負ったようなトラック。
この箱は、地面に下ろすことができるのが特徴だ。
容量は20立米。
鉄の箱を地上に設置し、さらにレッカー車を呼び出す。
岩石にワイヤーを掛ける。
もちろん玉掛け資格保持者である。
バランスをとりながら、
少しだけ持ち上げて重心を確認し、
ゆっくり、慎重に箱の中へ……。
それを繰り返す。
──バラバラになったサイは、棺桶に納まった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
昔――
残土の処分に頭を抱えていた時期がある。
合法な処分先も限られており、下手に流せばトラブル必至。
悩んだ末、知り合いに相談してみたところ、
「きちんと造成してくれるなら受け入れるよ」
と紹介してもらったのが、とある山奥の地主だった。
そこは、オフロードバイクのコース場。
ガチのやつだ。
広大な土地に、クレイジーな角度のジャンプ台や、
崖を駆け上るようなセクションが組まれていて、
阿鼻叫喚の絶叫が木霊する中、
土を入れて地形を整える仕事が始まった。
──そして、意気投合したオーナーから、
「これ、よかったらやるよ」と一台のバイクを譲られた。
そのバイクにまたがって帰路につく。
ヴァーンヴァーンと甲高いエンジン音をジャングルに轟かせ爆走する。
丸太橋をガポガポと音を立てて渡り、切り株を跳ね、草をかき分け、枝を弾き飛ばし、崖を駆け上り、谷を滑り落ち、沼を巻き上げ…
巨木に辿り着いた。
おっさんは震えながら目を覚ました。
ガスも薪も使わず、ひとまず電気湯沸器をスイッチオン。
湯気が上がるまでの数分を、咥えた煙草の煙と一緒にやり過ごす。
やがてシュゴゴ…と音が鳴り、
即席日本蕎麦のフタを開けて湯を注ぐ。
残ったお湯でコーヒーもいれて、一旦腰を下ろす。
「……さて、3分か」
何気ないその時間に、ふと脳内が動き出した。
携帯電話を取り出し、ポチポチと計算してみる。
⸻
1年=52週
52週 × 2個=年間104杯
カップ麺歴:48歳~13歳=35年
104杯 × 35年=3,640杯
3分 × 3,640杯=10,920分
10,920分 ÷ 60=182時間
182時間 ÷ 24=約7.6日
⸻
「……一週間か……」
おっさんは、驚愕した。
たかがカップ麺の“3分”を待つためにおっさんが今まで費やした人生の時間が、
まるまる一週間を超えていたのだ。
どこかへ旅行できたかもしれない。
資格のひとつやふたつ、取れてたかもしれない。
──だが今ここにあるのは、伸びはじめたソバである。
コシは……帰ってこない。
「……もったいねぇ人生だな、どっちの意味でも」
フーフーしながら、ひとくちすすった。
悪くない朝だった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
石の運搬方法に頭をひねる。
この樹海の悪路の中をトラックで走れるわけもなく、
そもそも“車で帰る”という選択肢がない。
──召喚送還……「そうか」
呟くと、腰袋からアームロール運搬車が現れる。
背中にでっかい鉄の箱を背負ったようなトラック。
この箱は、地面に下ろすことができるのが特徴だ。
容量は20立米。
鉄の箱を地上に設置し、さらにレッカー車を呼び出す。
岩石にワイヤーを掛ける。
もちろん玉掛け資格保持者である。
バランスをとりながら、
少しだけ持ち上げて重心を確認し、
ゆっくり、慎重に箱の中へ……。
それを繰り返す。
──バラバラになったサイは、棺桶に納まった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
昔――
残土の処分に頭を抱えていた時期がある。
合法な処分先も限られており、下手に流せばトラブル必至。
悩んだ末、知り合いに相談してみたところ、
「きちんと造成してくれるなら受け入れるよ」
と紹介してもらったのが、とある山奥の地主だった。
そこは、オフロードバイクのコース場。
ガチのやつだ。
広大な土地に、クレイジーな角度のジャンプ台や、
崖を駆け上るようなセクションが組まれていて、
阿鼻叫喚の絶叫が木霊する中、
土を入れて地形を整える仕事が始まった。
──そして、意気投合したオーナーから、
「これ、よかったらやるよ」と一台のバイクを譲られた。
そのバイクにまたがって帰路につく。
ヴァーンヴァーンと甲高いエンジン音をジャングルに轟かせ爆走する。
丸太橋をガポガポと音を立てて渡り、切り株を跳ね、草をかき分け、枝を弾き飛ばし、崖を駆け上り、谷を滑り落ち、沼を巻き上げ…
巨木に辿り着いた。
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