DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第七章

第十話

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複雑すぎる細工に、
夢中になっていたおっさんの耳に、
突如、怒号のような声が飛び込んできた。

『ブェブバボボゥブァ!!』

——なんだっぺか?

肩を怒らせノシノシと近寄ってきた…
声の主は、職人達の親方らしきホビット族の男。
年季の入った作業着に、ゴツゴツした手。目は本気マジだ。
恐らくだが、おっさんよりも年上の親方は、皆の仕事を見回り、指示や苦言を飛ばしているようだ。

………だが、彼らの言語には——
なぜか「ば行」しか存在しない。

バ、ビ、ブ、ベ、ボ。
それに加えて、発音不能な…
ヴェ”とか“ヴァ”とかのニュアンスまで入ってきて、もう意味不明。

おっさんは手を止めて、慌てて顔を上げる。
どうやら、自分の手先を見て何か言っているようだが……。

「サッパリ解らん!」

返事に困ったおっさんは、思わず愛想笑いしながら、
長年、愛用している刃物を見せてみる。

すると、親方は「ブベッ……ブファフォ……」と、
満足げなのか怒ってるのか、
全然読めない笑い声を漏らしつつ、
どこかへ行ってしまった。

とにかく、おっさんは——
また一つ、異世界の謎に触れてしまったのだった。



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ここでの建築には、釘や補強金物のたぐいを一切使わないようだ。

おっさんだって、過去には神社や仏閣の、
修理も新築も手がけたことがある。
たしかに──
そのときも、柱やけたはりといった骨組みは、
釘やビスのような接合金物は使わず、
精巧な加工だけで組み上げていた。

だが——

壁の板貼りや屋根、天井板から、果ては、床板まで…

釘を使わないなんて話は聞いたことがない。

だが、ここでは、
そのすべてを“組み”だけで施工しているのだ。

──と、いうか……だ。

そもそも「釘」や「ビス」で固定するという、
概念自体が存在していないように思える。

「M」と「V」という字をもっと複雑にさせたような凹凸オスメスの接合。
まるで寄木細工のように…

寸分の狂いもなく板をはめ込み、
それだけで天井の板材すらピクリとも動かない。

おっさんは…脳が──沸騰した。

なんという非効率馬鹿げたやり方
だが、なんという技術力職人根性

まるで石をもあざむく、緻密な木の工芸品。
数ミリの誤差も許されない世界。

——覚えたい。この技術わざを、俺の腕に。

静かに……
燃えるような憧憬どうけいと嫉妬のともしびが、おっさんの胸に灯る。
そしてそのまま、
無言でノミを握り、作業に戻っていった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

夕方になると、現場はあっさりと仕事を終えた。

どうやら、残業という文化は存在しないらしい。

大勢いるホビット職人達の中で、
親方が一際老けているのはなんとなくわかるのだが…

それ以外の、
ホビットたちの年齢感はまったく読めない。

「ビビェバ、ビビェバ~!」

と、嬉しそうにはしゃいでいる……若い衆?
なのだろうか?

それを横から、

「ヴァボヴィ、ヴァボヴィ……」

と、なだめているっぽい、
ベテラン職人……のような者がいる。

すべてが憶測だが、
なんとなく——
「酒を呑ませてくれ」的なやりとりなのでは?
と察したおっさん。

「そしたらば、任せとけ!」

そう呟いて腰袋をゴソゴソ漁り、

冷凍庫から、
キンッキンに冷えたジョッキをズラリと並べて、
そこにロックアイス樹海産天然水を満載し、
そして——4リットル焼酎大五郎をドバドバと注ぎ込む。

最後に、ノリと気合いとなんとなくの語感で、

バヴィッベ!呑みっしぇ!

とか叫んでみる。

一瞬の静寂の後——
カメムシ色のホビットたちが、ぞろぞろとおっさんを囲み始めた。

親方が、真っ先にジョッキを手に取り、
そのまま——グビリッ、とひと口。

そして目をカッと見開き、吠えた。

「ヴォウヴァアアアブ!!!」

どうやら……
美味かったらしい。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

カメム……じゃなかった、
ホビットたちは多少汗臭いが、

寡黙で真剣な仕事中とは打って変わって、
気の良い連中だった。

おっさんが並べたお徳用4㍑焼酎大五郎は……
ジョッキで溺れそうになるホビット達の
滑稽な呑みっぷりを笑ってる間に、

あっさりと2本空になり——

ホビットたちの赤みがかった緑肌は、
次第に黄色っぽく変色していった。

(えっ、体表の色変わるの!?)

驚きつつも観察していると、
機嫌の良い親方がバンバンと、
おっさんの背中をひっぱたいてくる。

地味に痛い…

口からは、いつものように
意味不明な「ヴァブバッブァ!」の連打。

だが、何となくわかる。

——どうやら「酒場次の店に行くぞ!」的なアピールらしい。

日本だったら、
これはもう完全に、
暴力パワハラ&飲み会強制アルハラの凄ハラ上司だ。

だが、ここは異世界。
そんな、しょうもない事は誰も気にしない。

結局、おっさんはそのまま…
肩を組まれ、連れていかれてしまったのだった——。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

親方のお気に入りのヴァヴィーちゃんがいるという、
香水臭くて暗いのあるスナック的な飲み屋に拉致られた。

会話なんぞ全く通用しない。

だがおっさんは日本語、
しかも、訛りの強い東北弁しか話せないのに、
欧米、北欧、東南アジア。
どこだろうが大工仕事をしてきた。

んだそうですねんだかそうなんですかそーけーそうだったんですねだっぱいそうだと思いました!」

この4リアクションがあれば、だいたい通じるのだ。

なので親方とも、肩を組み、
ヴァ~ヴィヴォ~もしもビヴォヴィべひとりじゃヴァバ~バァヴヴァなかったら~♪」

と日本でよく歌っていたカラオケも、
ホビットのリミックスで普通に熱唱出来る。

──ラップの部分もだ。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ベヴォベヴォと笑い転げていた親方が、
突然ピタリと動きを止めた。

空気が一瞬にして変わる。
周囲のホビットたちも、次々と姿勢を正し始めた。

「……なじょしたどうしたの?」

戸惑うおっさんの視線の先に、
スッと店の奥から現れたのは——

青汁みたいな色の……恐らく、女性ホビット。

その体色は深く濃く、つややかで、
カメムシ色のホビットたちとは明らかに風格が違う。

親方は、目を見開き、
蟷螂拳のような謎の構えでその女性を迎え入れる。

「……なるほど。
色が濃い方が、めんごいってことけ。」

おっさんは、頷きつつ、
若いカップルを見るような気持ちで、二人を見守った。

「ヴィーバッヴァヴァバッパ!」

親方の顔は紅潮して、語彙がますます意味不明に。

それに対し、女性も、
ほのかに笑みを浮かべながら——

「ヴバビヴァ~♡」

女性側もまんざらじゃないらしい。



おっさんは、グラスの氷が溶ける音を聞きながら、
ただ静かにその光景を見守っていた。
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