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第七章
第十四話
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娯楽のない異世界。
飯を食ったら寝るしかやることはない。
それでは寂しいので、おっさんはオモチャを作った。
冒険者ギルドの建築中に出た、
建材になり得ない木端。
これを、ぴっちりとサイズを合わせ加工したのち、
敢えて鉋をかけコンマ数ミリ程度、歪ませ。
積み木を作った。
しかもフレコン数袋と大量に。
それを、おっさんは…
まず仮設足場をグルリと設置し、
3階建ての雑居ビル程度のタワーを積み上げた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
そしてゲームは始まるのだが、
恐ろしい事にこの積み木、
継ぎ目が見えないのである。
簡単に言えば、絹ごし豆腐で出来ているビル。
である。
そよ風にもプルプルと震え、非常に不安定。
トゥエラは珍しく真剣な顔で指をツンツンしている。
テティスには魔法禁止令を出しているので、
かなり苦戦している。
そんな中、リリはヒョイヒョイと小さな石材を抜いていく。
身体能力ではおっさんにも劣る、受付嬢であるが、
偽装や虚偽看破などは得意らしく、
みるみるとタワーを穴だらけにしてゆく。
おっさんは満足げに足を組み、
足場の天辺から携帯で動画撮影し、
酒を呑み、家族を眺めていた。
トゥエラとテティスは、共通の敵を見つけたようで、
協力しながらブロックを抜いている。
外せた石材は、頂上に再設置する。
というルールに従い、頭部分が重くなり、さらに不安定さを増し…
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
そろそろ倒壊するのか?と思いきや——
こいつら……いや、この石材たち。
呼吸し、肌を合わせ、
わずかな歪みすらも許容し、互いに支え合っている。
——共存してやがる。
おっさんは建築中、
この資材に『ストーンウッド』と名を付けた。
安直な命名ではある。だがそれ以外に、
この素材を表す言葉など存在しなかった。
そして、ただの玩具として積まれたこの石材たちは……
まるで、切り口に接木された植物のように——
静かに、そして確かに……根を張り始めたのだった。
「……これじゃ、ゲームになんねっぺな~」
そう言って、おっさんは足場を解体しながら苦笑い。
足元では、外したブロックたちが、まだ微かに身を寄せ合っていた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
以前、おっさんはホビット達と建てた冒険者ギルドについて、
一級建築士としての知識と技能を用いて、
構造上の強度計算を試みた。
あれほど広い建物なのに、
屋根や梁を支える為の柱が——明らかに少なすぎたからだ。
まぁ異世界だし、
地震や台風なんて想定しとらんのだっぺか?
そんなふうに最初は思っていた。
……だが、どうやら違ったようだ。
一個一個は、手で運べるブロック程度の大きさ。
それを緻密に加工し、継ぎ目すら消えるように積み重ね、
そしてさらに——素材同士が「根を張る」ともなれば。
もし、この石材だけで“島と島”を繋ぐ吊り橋を作ったとしても、
その強度は——おっさんが保証してもいいような気がしてきた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
こりゃ、うちに帰ってからの自宅の設計も、
見直さねばならんなぁ。と、嬉しい悩みを抱えながら、
車を走らせていた。
視界には幾分か前から、何度も小川を見ている。
多方向に流れていた綺麗な支流は、追っていけば、
恐らくどこかで大河になるのであろうが、
まだそれは見つかっていない。
それよりも…
不思議なものが見える。
車で入ればスタックするであろう、
一段窪んだ沼地の様なエリアに、
──稲が植っている。
ホビット族の街からも大分離れたこんな地で、
一体誰が田んぼを管理しているのだろう?
ワクワクしながら車を寄せて、観察して見ると。
……どうやら人が植えたものでは無い。
というか、稲ですら無かった。
沼地から生えたヒョロっとした茎のような雑草に、芋虫が集っているのだ。
見た目は稲穂にそっくりな、フランクフルト程の芋虫。
おっさんは、毒を警戒しゴム手袋を装着した上で、
蠢く生物を獲ってみる。
噛んだり刺したりしてくるわけでもない、
その虫はなぜか…アツアツだった。
果物ナイフでスッと斬ってみると……
中からチャーハンが出てきた。
炊き立てでだ。
異世界の理不尽さにも大概慣れたおっさんは、
躊躇うこともなく、箸で虫の中身を摘み食ってみる。
「焦がしネギとマー油香る焼飯け」
何匹か採取し、家族達も呼び寄せ昼食にした。
スプーンで刮いで皿に盛ってしまえば、
それが虫だったとは誰にも判らない。
さらに、オマケで極細ノズルのボトルに保管した、
ゴブリンの脳髄をトッピングし、出してやると。
最近は舌の肥えてきた娘達も大絶賛。
お替わりを所望された。
おっさんは胴長靴を着込み、ズブズブと田んぼを歩く。
大方の予想はついていたが、見た目の違う芋虫を数匹獲って戻ると、
人肌の酢飯、焼き目の入った卵リゾット、おかゆ。なんでもありだった。
適当な鮮魚の切り身で寿司を握ってやったり、
リゾットにチーズとマカロニを乗せ焼き直しドリアにしてやったりと、
大忙しであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
こりゃ補充しとねばならんな…と、
おっさんは使い慣れたフレコンバッグに、油性マジックで、
『保温、腐敗禁止』
と…無茶な管理指示を書き込み、
芋虫を満タンに詰め込んでゆく。
種類別に何袋も、白米、釜飯、ビビンバ、カルビクッパ、キンパ飯、ちまきご飯、ちらし寿司、雑炊、などなど…
大量の米料理をゲットしたのであった。
飯を食ったら寝るしかやることはない。
それでは寂しいので、おっさんはオモチャを作った。
冒険者ギルドの建築中に出た、
建材になり得ない木端。
これを、ぴっちりとサイズを合わせ加工したのち、
敢えて鉋をかけコンマ数ミリ程度、歪ませ。
積み木を作った。
しかもフレコン数袋と大量に。
それを、おっさんは…
まず仮設足場をグルリと設置し、
3階建ての雑居ビル程度のタワーを積み上げた。
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そしてゲームは始まるのだが、
恐ろしい事にこの積み木、
継ぎ目が見えないのである。
簡単に言えば、絹ごし豆腐で出来ているビル。
である。
そよ風にもプルプルと震え、非常に不安定。
トゥエラは珍しく真剣な顔で指をツンツンしている。
テティスには魔法禁止令を出しているので、
かなり苦戦している。
そんな中、リリはヒョイヒョイと小さな石材を抜いていく。
身体能力ではおっさんにも劣る、受付嬢であるが、
偽装や虚偽看破などは得意らしく、
みるみるとタワーを穴だらけにしてゆく。
おっさんは満足げに足を組み、
足場の天辺から携帯で動画撮影し、
酒を呑み、家族を眺めていた。
トゥエラとテティスは、共通の敵を見つけたようで、
協力しながらブロックを抜いている。
外せた石材は、頂上に再設置する。
というルールに従い、頭部分が重くなり、さらに不安定さを増し…
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そろそろ倒壊するのか?と思いきや——
こいつら……いや、この石材たち。
呼吸し、肌を合わせ、
わずかな歪みすらも許容し、互いに支え合っている。
——共存してやがる。
おっさんは建築中、
この資材に『ストーンウッド』と名を付けた。
安直な命名ではある。だがそれ以外に、
この素材を表す言葉など存在しなかった。
そして、ただの玩具として積まれたこの石材たちは……
まるで、切り口に接木された植物のように——
静かに、そして確かに……根を張り始めたのだった。
「……これじゃ、ゲームになんねっぺな~」
そう言って、おっさんは足場を解体しながら苦笑い。
足元では、外したブロックたちが、まだ微かに身を寄せ合っていた。
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以前、おっさんはホビット達と建てた冒険者ギルドについて、
一級建築士としての知識と技能を用いて、
構造上の強度計算を試みた。
あれほど広い建物なのに、
屋根や梁を支える為の柱が——明らかに少なすぎたからだ。
まぁ異世界だし、
地震や台風なんて想定しとらんのだっぺか?
そんなふうに最初は思っていた。
……だが、どうやら違ったようだ。
一個一個は、手で運べるブロック程度の大きさ。
それを緻密に加工し、継ぎ目すら消えるように積み重ね、
そしてさらに——素材同士が「根を張る」ともなれば。
もし、この石材だけで“島と島”を繋ぐ吊り橋を作ったとしても、
その強度は——おっさんが保証してもいいような気がしてきた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
こりゃ、うちに帰ってからの自宅の設計も、
見直さねばならんなぁ。と、嬉しい悩みを抱えながら、
車を走らせていた。
視界には幾分か前から、何度も小川を見ている。
多方向に流れていた綺麗な支流は、追っていけば、
恐らくどこかで大河になるのであろうが、
まだそれは見つかっていない。
それよりも…
不思議なものが見える。
車で入ればスタックするであろう、
一段窪んだ沼地の様なエリアに、
──稲が植っている。
ホビット族の街からも大分離れたこんな地で、
一体誰が田んぼを管理しているのだろう?
ワクワクしながら車を寄せて、観察して見ると。
……どうやら人が植えたものでは無い。
というか、稲ですら無かった。
沼地から生えたヒョロっとした茎のような雑草に、芋虫が集っているのだ。
見た目は稲穂にそっくりな、フランクフルト程の芋虫。
おっさんは、毒を警戒しゴム手袋を装着した上で、
蠢く生物を獲ってみる。
噛んだり刺したりしてくるわけでもない、
その虫はなぜか…アツアツだった。
果物ナイフでスッと斬ってみると……
中からチャーハンが出てきた。
炊き立てでだ。
異世界の理不尽さにも大概慣れたおっさんは、
躊躇うこともなく、箸で虫の中身を摘み食ってみる。
「焦がしネギとマー油香る焼飯け」
何匹か採取し、家族達も呼び寄せ昼食にした。
スプーンで刮いで皿に盛ってしまえば、
それが虫だったとは誰にも判らない。
さらに、オマケで極細ノズルのボトルに保管した、
ゴブリンの脳髄をトッピングし、出してやると。
最近は舌の肥えてきた娘達も大絶賛。
お替わりを所望された。
おっさんは胴長靴を着込み、ズブズブと田んぼを歩く。
大方の予想はついていたが、見た目の違う芋虫を数匹獲って戻ると、
人肌の酢飯、焼き目の入った卵リゾット、おかゆ。なんでもありだった。
適当な鮮魚の切り身で寿司を握ってやったり、
リゾットにチーズとマカロニを乗せ焼き直しドリアにしてやったりと、
大忙しであった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
こりゃ補充しとねばならんな…と、
おっさんは使い慣れたフレコンバッグに、油性マジックで、
『保温、腐敗禁止』
と…無茶な管理指示を書き込み、
芋虫を満タンに詰め込んでゆく。
種類別に何袋も、白米、釜飯、ビビンバ、カルビクッパ、キンパ飯、ちまきご飯、ちらし寿司、雑炊、などなど…
大量の米料理をゲットしたのであった。
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