DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

文字の大きさ
131 / 279
第七章

第十六話

しおりを挟む
大きなベッドでぐっすり眠った翌朝。
囲炉裏を囲んで、みんなで釜揚げうどんをずるずる啜る。

洗濯乾燥も済ませた作業服をおのおの着込み、
再びトラックを走らせる。

やがて木立が徐々に密度を増し、
「森」と呼べるほどの深緑へと入った。
無理をすれば車でも進めそうだが、
今回の旅の目的は食材の確保だ。
ここでエンジンを止め、トラックは腰袋へ仕舞う。

ここからはのんびりと、徒歩での探索が始まる。

樹海と比べてしまえば、陽の光も程々に届く、
歩きやすい環境であるが、
それでも猛獣や化け物の類も、
奥に行けば潜んでいるかもしれない。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

毒虫や蛇にも注意して、家族全員の装備を確認する。
編み上げブーツの安全靴、
防刃ぼうば機能を持つ手袋。
ヘルメット。
各自腰に装着した道具入れには、
護身用に小振りなマチェットナイフを。

トゥエラは持ち手の取り外し可能な斧がある。
テティスは魔法が成長した事により、
昔背負っていた弓はフレコン物置行きになった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
山菜のような草やキノコ類を見つけては、
リリが「書類魔法図鑑観閲」とやらで王都の図書院にアクセスし、
可食かどうかの判定を依頼する。

「この青い花の茎は、少し苦味があるようで御座います。
こちらのキノコは……かなり高級な品種ですね!」

豊富に生える山の恵みを、次々と採取していく一行。

やがて、おっさんは木になった巨大な柘榴ざくろのような実を見つけて、もぎ取ってみた。

パックリと割れ目の入ったラグビーボールのような…
果実…?
外見は赤いが、中には里芋のような塊がギッシリと詰まっている。

そのとき、背後から突然トゥエラの声が飛ぶ。

「おとーさん、どいてー!」

慌てて身を屈めたおっさんの頭上を——

ギュルルルルルルッ!!

と、円盤のような斧の刃だけが宙を裂いて
飛んでいった。

高空を舞っていた、
鳥のような魔物の首を鮮やかに刎ね、
そのまま凄まじい勢いで刃が戻ってくる。

思わずヒヤリとしたが、トゥエラはいつものニコニコ顔。
手に持ったティファール部分で、シャキーン!と見事にキャッチしていた。

かつては便利な料理道具として使っていたものを、
こんなふうに武器に転用されているのを見て——

「いや、逆だっぺか?」

おっさんは、ちょっぴり申し訳ない気持ちになった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

折角の獲物を墜落させては、
肉がダメになるかもしれない。と、
おっさんはダッシュで場所を予想して、
落下防止ネットを木の枝に簡易的に張る。

バッサァァァァ!

と落ちて来た首と胴体は、辻褄が合っていない。

頭は鷹のような鳥類だが、体は馬…
さらに蝙蝠のような羽根もあった。

リリの魔法によれば、
グリフォンとかいう魔物の一種の様だ。
危険度とやらで見れば、騎士団が一部隊で取り囲んで戦う様な化け物だと、驚いていた。

さっそくおっさんは、簡単な足場を組み立て、ウインチから降ろした鎖を、馬の後ろ脚に結びつけ…

逆さまに釣り上げる。

血抜きと解体を同時にこなせるテクニックである。
胴体もなかなかにデカく、
乗ってきたトラックくらいはあるかもしれない。

馬の体にも、羽毛?が生えているのでまずそれを毟り取る。
内臓を破かない様に刃を入れ、

生前、どこかの風呂場解体リフォーム工事で出た浴槽を取り出し
そこに落とす。

あとは部位ごとに切り分け、皮を剥ぎ洗浄し、
肉として保管してゆく。
どんな味わいなのかは、夕方のお楽しみだ。
魔石は、頭と胸付近とで二つもあった。

鳥でもあり馬でもあるって事なのだろうか?

これも水ですすぎ袋に仕舞えば、
足場を片付け、重機で地面に穴を掘り、
遺体を深めに埋めて、合掌。のち埋め戻す。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

テティスが見えないな?と思ったら、
森の奥の方からフワフワと飛んで戻ってきた。

その背後には…大きな氷塊ひょうかいに閉じ込められた、これまた巨大なワニ?のような何か。

娘達が頼もしすぎて、嬉しいやら呆れるやら……
またおっさんの出番である。

魔法で半解凍された、ワニと蠍を混ぜた様な化け物。

如何にもファンタジーと思える様な、
カッコ良さがある。



「仕方あんめ~」
とフレコンを一枚取り出しワニの顔に被せる。
そのままスルリと袋の中に消えたので、
口紐を縛り、小さく畳む。
まるでイリュージョンだが、
さらにおっさんは、マジックで大きく、
『真空冷凍保存』と…無理難題を書き込み、
腰袋にするっとしまう。

「後で丁寧に解体して、美味しく頂くけ」

娘達に言い聞かせ、ふとリリの方を見れば…
「あ…あんな怪物…ギルドのデータにも載っていませんよ……」
と腰を抜かしてへたり込んでいる。

そうけ?と簡単に返事をし、背中におぶってやる。
おっさんは樹海虚無の森で、もっと理不尽な化け物達を、捌いて食っていたため、
鱗の華麗さは見惚れたが、
さほどヤバい魔物だとは思わない。

そうゆう面では、キングス冒険者である。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

そろそろ酒が呑みたくなってくるおっさん。

本音を言えば、朝からでも呑みたいのだが、
それでは冒険にならないので、
体感で午後3時、くらいまでは我慢する。

樹木の切れ間、ポッカリと空いた背の高い草むらを
見つけたおっさんは、
最後の力を振り絞り、草刈機を振り回す。

ざっと歩ける程度になったなら、これで良い。と、

今日の寝床を取り出す。

いつものプレハブでは、
化け物も多いし危険かもしれない…

と思い切って……

ズドオォォォォォォォォン!と大地を震わせ、

シーサイドホテルを腰袋から取り出し、森に建てた。

地上七階建て。
全室オーシャンビューが堪能できる、
離島に建てられた楽園。

…の工事の大部分に関わっていたので、
もしやと思い、腰袋に手を入れれば、
ガシッと掴めてしまった。

まるで、ペットボトルのジュースを取り出し、
床に置く様な感覚で、
リゾートホテルを召喚してしまった。



➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

出してしまった物は仕方がない。
——ので、ゆっくりとくつろぐ事にしよう。

家族を見れば、もう諦めた顔で、いちいち驚くことも辞めたらしい。
自動ドアが開き、エントランスホールに入る。
無論のこと、中は無人である。

だがおっさんはこのホテルの建設に、
設計は勿論、
プランニングの段階から関わっていた為、
館内の施設やマップはすべて頭に刷り込まれている。

「先ずは風呂さ入っぺ」

そう言って家族を先導し、大浴場へと向かう。

脱衣所の前で、男湯と女湯の両方を点検する。
誰もいないのは当然だが、
どちらの湯船にも天然温泉がたっぷりと湧き出しており、湯の温度や清潔さにも問題はない。
シャワーや脱衣所の備品もきちんと整っており、
おっさんはほっとひと息ついた。

「ゆっくり入ればいいべ~」

と声をかけて、自分は男湯へと退散する。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

本来なら、全面ガラス張りの大浴場からは、
夕陽が水平線に沈みゆく絶景が広がっているはずなのだが——

見えるのは、鬱蒼とした森。
と、その木陰から覗く、
手足の多い気色の悪い化け物の気配。

……それでも、温泉というのは良いものだ。

かけ湯だけして、ざぶんと湯船に身を沈める。
誰に迷惑が掛かるでもないと、
遠慮なく汗を流し、垢を浮かべる。

「あ~~、極楽極楽……」

ふと、外に“とっておき”があるのを思い出す。

ガラス扉を開き、露天デッキへ。
夕暮れのヒンヤリとした風が頬を撫でる。
ややぬるめに設定されたヒノキ風呂が、全身を優しく包む。

そして——
おもむろに立ち上がり、

焼酎セットジョッキ、氷、大五郎を握りしめ、ぐいっと流し込む。
勿論、左手は腰に添える。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

楽しそうな女性陣の声が聞こえて目をやれば、
積み上がった岩の上に格子状の竹屏。
その向こうは女湯である。
まぁ、その石垣も積んだのはおっさんなので、
驚くことでは無いのだが。

「お~い、おたち、メシは何がいいんだ~?」
と、大きめの声で呼びかけると、

「あーし、めっちゃお腹空いたしー、色々たべたいし~?」
「おとーさん、トゥエラねー、ごはんと~ピザと~ラーメンと~ケーキー」
「旦那様……貴方の至高の晩餐を……アファァン」

甘えられて、嬉しいのだが、
おっさんもリゾートホテルに来てしまった訳だし、
ちょっとめんどくさくなってしまった。

「どうすっぺかなぁ……」
とこぼしながら、風呂を上がって浴衣に着替える。

「ん? 浴衣……?」

違和感を覚え、よくよく考えて……ピンとくる。

客も従業員も無人のこのホテルなのに、
誰がおっさんの浴衣を用意したのか?

なぜ、源泉掛け流しの大浴場が既に溢れていたのか?

——つまり、アレだ。

今いるこのホテルは、開業直前の、プレオープン状態という訳だ。

従業員の姿が見えないのは、
何らかの異世界のルールなり、ご都合なりがあるのだろう。が、

だとすれば……

「メシさ食いに行ってみっぺ」

湯上がりで火照った家族たちを引き連れ、
おっさんは夕食会場へ向かった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...