DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第七章

第二十一話

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噛むほどに味わい深く、
“極上のイカメシ”を堪能していたその時──

コトリ…という音もなく、
四人の前に漆器しっきの椀が、そっと置かれた。

香りは、まだ漂ってこない。

おっさんが静かに蓋を持ち上げると──
ふわりと、いその気配と、焦がし味噌の香ばしさが、
湯気とともにあたりに広がった。

──二品目は、かいの味噌汁。

その日の朝に採れたばかりの、
小ぶりながら旨みの強いヒオウギ貝緋扇貝を使い、
白味噌と焼き味噌あぶりみそを合わせて仕立てられている。

潮の香りがじわりと立ちのぼる、深い味噌の香ばしさ。

口に含めば──
まるで、干潮の岩場にできた潮だまりへ、
そっと掌を差し出したとき、
海が静かに、優しく包み返してくれるような……
そんなぬくもりを感じた。



甘じょっぱいイカ飯を──
深みのある貝出汁と焼き味噌の香りが、
静かに、けれど確かに洗い流していく。

味噌汁の余韻は、まるで舌をすすぐ潮騒のようだった。

塩気、旨味、香り……全部が絶妙竜宮城で押し寄せる。

しばし沈黙が流れる。

娘たちは、誰も口を開かない。
ただ、ぼんやりと眼を伏せて──
味の記憶を、じっと胸に刻んでいた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

そして空腹は…ゆっくりと浮上するように、

身を沈めていた味噌汁の主役──
ヒオウギ貝の身をそっと引き上げ、噛みしめる…

帆立のようにぷりっと弾ける歯ごたえの中に、
ほんのわずか、筋肉質なコリッとした噛み応えが混じる。

──そして何より、旨味が強すぎる。

トゥエラじゃないが、嚥下するのみこむのが惜しい。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

──ふと気づけば──

目の前にはすでに、

三品目と四品目が、静かに配膳されていた。

一つは、ワイングラスに注がれた
島野菜のスムージー。

片や、小鉢に盛られた、
見た目も涼やかな生ウニと海藻と甘夏のサラダ。



今し方まで生きていた、
殻付きのウニから剥ぎ取った実を──
豪快に、だが美しく盛り付けた逸品。

土台には、海藻とほぐした甘夏を和えたもの。
とろみのある酸味のタレが、素材を繋ぐ。

濃緑と橙のコントラストが美しく、
そこにぽってりと盛られたウニが、
ひときわ濃厚な“黄昏”を演出していた。

夜明けではない。
 それはまるで──夜景のようであった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

雲丹の上に数滴の醤油を落とし、
まずはそれだけを口へ……

舌の温度で溶けてしまうその身は…

噛むことも、飲むことも出来ない。

建築家として、気安く災害を表現には使いたくはない。
──ないのだが──

旨さの津波だ。

イカ飯と貝出汁の築き上げた防潮堤を粉砕する、
幸福の高潮が口内を蹂躙する。


次に、添えられていた大さじに、
海藻サラダとウニを盛りつけ咀嚼してみれば、

プチプチと弾ける柑橘の酸味に、
ねっとりとした海藻が絡み…
そして濃厚な雲丹が全てを纏めてくれる。

海葡萄うみぶどうのような茎海藻くきかいそうから出るとろみが、
早摘の柑橘をマイルドに包み、
そこへ協調性など欠片も持たない潮の暴力が
……不思議と調和する。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

潮騒が飽和を起こしそうな口へ、

色の濃いドリンクを迎えると、

海の幸とは真逆の…畑の恵み。

紫芋をベースに、赤紫蘇が悪戯を仕掛け、
完熟のブルーベリーが僅かに香る。



全てをリセットし、
大地に引き上げてくれる濃厚なスムージー。

この一巡が、綿密に図られた五島列島巡りであった。

器から全てが消え去るまで、恵の巡礼は続く…

量としては、ビュッフェの数皿にも及ばない、
頂の朝食。だが、家族達の表情は、満たされていた。
〆がまた、最後の料理もうめーんだっけ美味しいですよ

テーブルにあった食器が全て、
霧のようにふわっと消え去る。

そして、最後の器が召喚された。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

この一杯こそが、あの偏屈オヤジのすべてだった。

島の恵みだけを使い、
一本一本、手で引き延ばした──五島手延べうどん。

──そして、それに“乗せる”ことすら拒否した別皿のかき揚げ。

もう一皿、脇に添えられたのは、ただの粗塩。

言葉などいらない。
この三点で、“料理人の矜持”がすべて語られていた。

箸で麺を持ち上げ、汁をひと口、啜る──

……濃い。
だが、しょっぱくはない。

鼻に抜けるのは、焼きあごの強く香ばしい香り。

まるで、朝の浜辺で焚いた漁火のような、
野性と清廉を併せ持つ味わいだった。



指先に粗塩をひとつまみつけ──
それを舐め取ってから、
揚げたてのかき揚げに、かぶりつく。

サクッ……

音と同時に、おっさんの中で何かが崩れ落ちた。

──限界だった。

「おい! おんちゃんおっさん!!」

厨房の方角に向かって、思わず怒鳴ってしまう。

すると、ゴトン!

おっさんの目の前に、
大ジョッキに並々と注がれた島焼酎ロックが、
何も言わずに叩きつけられる。

おっさんは、まるで水でも飲むように、
それをガブガブと煽り──

「ゔぁ~~~っ……」

ひと息ついて、ぼそりと呟く。

「……でれすけアル中同士……わがってんでねぇの早く出せってんだ……」
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