DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第七章

第二十七話

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猫が喋った。

……まぁ、今さらと言えば、驚くほどでもない。

ただ、たらふく呑んだ焼酎が……
その、みぞおちを踏まれるとちょっとキツい。

「重たいから、どいてくんちぇ」

と声をかけると、

「ぐぺ……」

飛び退く一瞬がいちばんダメージ大きいことを、
すっかり忘れていた。

 

みーちゃんが言うには——


天気が良かったので魔素が暴走してたから

縄張りの外異界との狭間散歩していた調査していたら」

カラス魔界の斥候突かれ矢を射られうっかり落っこちた不本意ながら逃走した。」

二回転半ワープゲートを召喚して着地転送すれば問題なかったのに」

おっさん下僕しがみジャレついてきて」

重い板次元の狭間挟ま飲み込まれて死んだここに戻された。」


と、いうことらしい。


あー……なるほどね。

おっさんの、あの決死の首チョンパは——

無駄チョンパだった、ってことか。

……まぁ、過ぎたことは仕方がない。

どれほどのベテランだろうと、
現場では、
ほんの些細な判断ミスで大事故が起きることもある。

悔やむべきは、会社とお施主様への甚大な迷惑。

それ以外のことは、ぜんぶ——
成り行き任せケセラセラだ。

 

みーちゃんは、淡々ニャーニャーと語る。



美味いご飯異界を巡る魔素をくれたおっさん矮小な存在を」

見殺しにする無限地獄に落ちるには……どうでもいいんだけどどうでもいいんだけど

転生どうせ帰るしついでに、その辺大樹海投げ飛ばし転生させといた」

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

やけに大きく、
本物の動物のようにフサフサだったみーちゃんが——
次第に萎むように縮んでいき、
さっきまでの、幽霊のようなもやもやとした姿へと戻ってしまった。

「スン」

と、不機嫌そうに鼻を鳴らすと、
みーちゃんはヨタヨタと鳥居の奥へ歩いていき、そのままゴロンと横になって眠ってしまった。

 

「家族は……?」

あたりを見渡すと、
純白猫毛ベッドかたまりの上で、三人がスヤスヤと眠っていた。

 

みーちゃんは、神経質で、ツンで、デレないが——
優しい子だ。
おっさんは、それをよく知っていた。

でも、そんな相棒が、やけに弱々しく見えるのは……なぜだろう?

 

まず気になるのは——このヒビ割れた地面だ。

干からびた土、というよりは……
どこか、下の方から“何か”が呻いているような…
不気味な違和感があった。

試しに、おっさんはひとつ、
魔石味の素を、地面の割れ目に投げ入れてみた。

 

………待つこと、数十秒。

ギウィィイィー……ゴギャァ……ザザァ……

何とも不快な、
ズブの素人が無理やり楽器を奏でたような——
もしくは…言葉にならない叫びのような——

嫌な音色が、谷の底から響いてきた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

なんだか、ヘドロのような悪臭まで漂ってきた。

「……なんか詰まってんであんめーか?」

おっさんは、
現場で培った経験をフル回転させて頭を捻る。

だが、こんな割れ目に自分で降りていくなんて——
論外絶対に嫌だ。

霊媒師でもないので詳細は分からないが、
この底にいる“何か”が、話の通じる相手でないことだけは……はっきり分かる。

「怨念が……おんねん。……てか?」

 

この臭い。
この濁り。
この詰まり。

澱んだ汚れを流すとなれば、使うものは——もう決まっている。

 

おっさんは、腰袋から劇物の瓶を取り出した。

蓋を開けても無臭。中身は氷砂糖のように見えるが……
決して、口に入れてはいけない。死ぬからだ。

その正体は——

水酸化カリウム、
水酸化ナトリウム、
過炭酸塩、
オルトケイ酸ナトリウム……。

一般人では絶対に入手できない、
大工専用の超強力・配管クリーナーPPスルーK.MAX

 

おっさんはそれを——大量に。
それはもう、大量に取り出し、
中身をバラバラと地面の割れ目へと投げ入れていく。

ついでに、空き瓶もポイ。

ザラザラと音を立てながら、隅から隅まで、たっぷりと撒き終えたそのとき——

 

フレコンに保管して良い子はあったホテルの温泉絶対にをぶち込み真似してはいけません

みーちゃんをガッと抱え、ダッシュ!
続けて、家族たちも大声で叩き起こし、
一同ワタワタと、花畑の方まで全力で避難した。

 

おっさんには分かっていた。
この澱みは、砂やセメントでどうこうできるレベルじゃない。

だからこそ——
劇薬で、“詰まり”を通す。

それが、現場のプロというものである。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

本来、あの薬は——
水で溶かして使うものだ。

温泉硫黄水と混ぜて良いわけがない。

プリンのような、ねっとりとした黄色い煙が、
地面の割れ目から立ち昇る。
ボコボコと地鳴りのような音が響き、地面はかすかに震えていた。

ズズズズズズズズズズズズズズ……

おっさん達は、決して風下に入らぬよう、
噴煙の行方を見ながら、立ち位置をじりじりと変えていく。

 

やがて——
20分ほどが経った頃だろうか。

先ほどまでの轟音と噴煙が、嘘のようにおさまり、
辺りには、静寂が戻ってきた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

万全を期すため、
今日のところは現場鳥居には戻らず、
おっさんは風情あるハイテク古民家を召喚して、
ゆっくり寛ぐことにした。

囲炉裏を囲みながら、家族みんなで晩飯タイムだ。

吊るされたIH内蔵鉄鍋の中には、
ぐつぐつと煮込まれる味噌うどん。
今日はきしめん風の幅広麺に打った。
長ネギ魔物とワニ鶏ササミ肉が踊っている。
虹色魔石粉末ゆず入り七味唐辛子も用意し、
ほんのり出汁の香りが立ち上り、
冷えた体を優しく包み込む。

床暖房の効いた浮造りの床板には、
みーちゃんが、
——まるで液体のように寝そべっている。

……心なしか、その毛並みも、輪郭も、少し戻ってきたように見えた。

 

そんなみーちゃんの前に、
解したムカデカニ肉を山盛りにお供えしてやる。

そういえば——
火山の三毛ドラゴン、ミケのエサだった巨大な魔石。

ミケに許可をもらって、ほんの少しだけ砕いて保管していたのを、おっさんは思い出した。

 

トゥエラの国では、それを“魔素”と呼び、資源エネルギーとして利用していたらしい。
だが、ミケに言わせれば——

「潤いたっぷりのチュールにゃ」

らしい。

 

おっさんも、一度は料理に使えないかと試したことがある。
が、どうやっても、ただの生臭いだけの液体にしかならなかった。

 

みーちゃんと、こんなかたちで再会できたんだ。
お礼がわりに、くれてやるか。

そう思い、冷蔵庫の奥に放置されていた——
ペットボトルサイズの割れ魔石を皿に乗せて差し出してみた。

 

その瞬間。

「ゔぅぅぅぅぅぅ…うにゃぁぁぅぅぅぅ……」

俺たちを威嚇しながら、狂ったように舐め倒し始めた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

すらりとした、
スタイリッシュな白猫だったはずの——
みーちゃんは。

 

突 然、

「ボファ!!」

という爆音とともに、毛が炸裂した。

その瞬間、そこに現れたのは——
ペットショップのガラスケースに鎮座していそうな、
超・高級長毛種のもふもふ神猫。

まるで誰かが、極上のブラッシングを10時間くらいかけて仕上げたかのような、圧倒的な艶と毛並み。

 

そして、その毛先から——

星が、こぼれ始めた。

よく寝不足のとき、視界の隅にチラつくような……
そんな、現実味を帯びた幻のきらめき。

それが、まるで“もふもふのオーラ”のように、
空間に舞い、ゆらりと漂っていた。

一頻り、
カニとチュールをむさぼり尽くした白猫は……

大きな欠伸をひとつ。

そのついでに——

 

「……我は、始祖にゃ~りふぁわ~~にゃ……」

 

……カミングアウトした。

 

そのまま、ズデンッ。

セルフ大外刈りみたいに、勢いよく地面に崩れ落ち、
ゴロゴロと喉を鳴らしながら……そのまま、寝てしまった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

目を丸くしたおっさんの家族たちは、
それでも無言のまま、味噌煮込みうどんを啜り続けていた。

 

——どこから突っ込めばいいのか分からない。
だが、とにかく温かくて、美味しい。

 

そして。

何かのツボに入ったらしいおっさんは、
ジョッキ焼酎片手に、腹を抱えてゲラゲラと笑い転げた。

 

それを見たトゥエラとテティスも、つられてくすくす。
リリも頬を染めて笑い、みーちゃんは——寝たまま、ゴロゴロと喉を鳴らす。

 

こうして、古民家の夜は——静かに、更けていった。
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