DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第八章

第二十七話

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目の下にクマを作り、やややつれたリリが帰ってきた。

パステルはキッチンでなにやら悪戦苦闘しており、
家族全員が揃ったわけだ。

今日はおっさんの欲望の為に一日を過ごし、
結果的にはトゥエラも家族を思い出すことができて良かったのだが……

セーブルのお陰もあり、家もほぼほぼ仕上がった。

本来ならば、家の骨組みを建てた時に行う祝いの席なのだが、今日でも構うまい。

上棟式じょうとうしきを行うことにした。

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まだ時間も早く、中天をやや過ぎたくらいである。
おっさんは、テティスとトゥエラに伝言役を頼み、各所へと走ってもらった。

疲れた顔で帰ってきたリリには、まず一言の労いと共に風呂をすすめる。

──もちろん、屋根に設けた展望露天風呂だ。

日本製の硫黄成分が配合された入浴剤610ハップを投入し、湯に香りと濁りを加える。

街並みを見渡せるこの特等席で、リリの肩の力もきっと抜けるだろう。

昼間は、青空と緑が織りなす絶景。
夜になれば、灯りは少ないぶん、満点の星空が期待できる。

水のかからない場所には、しっかりマッサージチェアも設置済み。

過去と現在に追われ、心身ともに疲弊していた美女を癒すには、これ以上ない時間だ。

──気分は、まるで山梨の絶景温泉。

宴の準備はこれから。
だが今だけは、頑張ってきた彼女に「何もしない時間」を贈ってやりたかった。

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おっさんは忙しい。

先ほど娘たちに、客人を招くための伝言役を頼んだばかりだが──
この町での知り合いといっても、そう多くはない。

それでも、冒険者ギルドのマスターや、ホビット族の大工の親方など……
いざとなれば、それなりの面々が集まってくるかもしれない。

そうなれば、いつもより量もメニューも多めに用意せねば、失礼にあたる。

だが──
おっさんにはある算段があった。

「さて、君たち!こういったものがあるのだが──」

そう言ってビートル君たちを呼び寄せると、
自慢げに取り出したのは、かの万能調理器具……

──保温調理鍋シャトルシェフ

「これがな、こう二重構造になっててな……
火を止めても何時間も、ぐつぐつ煮えてくれるんだっぺよ」

得意げに語るおっさんを、ビートル君たちが興味深そうに取り囲む。
蒸留施設ですら創り出した連中だ。

調理器具のひとつやふたつ、再現など容易いのではなかろうか──

そう目論んだわけである。

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地下室に積まれたストーンウッドや材木、
金属類は、いつだかの依頼で廃棄処分になった剣などの武具、

使いたければ黄金も売るほどある。
それから魔石類、おっさんにとっては調味料でしかないのだが、この石は魔物の体内にあった命の結晶。

魔力だか魔素だかも入っているはずだ。

それらを説明すると、一斉に材料に殺到する虫達。

おっさんは端にシステムキッチンを出して、
下ごしらえに取り掛かる。メニューも漠然としか決まってないが、野菜や肉を切ったり、魚介類をおろしたり、砂を吐かせたり……

そうこうして後ろを振り返ると……
立派な鍋が10個ほど並んでいた。

「はえーんでねーの?」

多少色褪せたオリジナルの隣、新品の鍋を開けてみると……

なんと──
鍋の内側が、三重構造になっていた。

外鍋・中鍋・内鍋。それぞれが微妙に独立して回転しているようにも見え、
何をどうすれば使えるのか、まったく見当がつかない。

「……こりゃ、さっぱりわがんねぇな」

困ったおっさんは、腰袋をゴソゴソとまさぐり──
一冊の、くたびれた本を取り出す。

       『男の料理100選』

簡単な炒め物に始まり、煮魚、ラーメン、
手打ち蕎麦、

果ては刺身の美味しい切り方まで網羅された、頼れる愛読書である。

「えーと……このメニューと……こいつと、これと……」

ページを繰り、いくつかの料理を指さして見せると──

反応したのは、後ろに控えていたビートル君たち。

ざわ……と微細な音を立てて集合し、ワラワラと合体し始める。

そして──

「って、八本も手ぇあるじゃねーか……!」

どこからどう見ても人型の料理人。
しかも腕が八本、背中にはレードルとフライ返し、腰にはミニまな板。

──ドワーフの叡智 × ビートル君の変態へんたい能力。

まさにここに降臨したのは、伝説の調理者。

【パーフェクトシェフ:起動】

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

下ごしらえを終えた材料を見せると、
シェフは動かなかった。
手が、伸びるのだ。

「ヨガ、リョーリ!かよ。」

実際には体内でビートル君達が物凄い速度で移動しているだけなのであろうが、
野菜クズ一つ溢す事もなく、数台の鍋を使い振り分けて入れてゆく。

おっさんも使い方を覚えたいと思い、鍋の側に移動して見学していると……
一番内側の鍋には肉が入り、高速で回転しながら炒められている。
その外側の鍋には、野菜とスープが煮込まれ、灰汁アクはさらに外側の鍋に落ちてゆく。

蓋は、結界的なものがあるのか湯気も汁跳ねもない。

恐らく、材料と調理工程から察するに──
一つ目の鍋で調理されているのは、
豚バラ肉の中華風うま煮であろう。

肉を炒めた際に滲み出た油やゼラチン質、
それらは鍋の構造を通じて、内鍋 → 中鍋 → 外鍋へとゆっくり移動し、
スープは自然ととろみを蓄えながら、徐々に量を減らしていく。

他の鍋も覗き込んでみると──
それぞれ明確な目的を持って稼働していた。

最初に目についたのは、うっすらと振動していた鍋。
ただの熱対流かと思いきや……なんと、

──麺を打ってやがる──

中鍋では、その麺に合わせるスープが着実に仕上がっていく。

そして──
おでんもあった。
肉類と魚類の香りが喧嘩しないよう、内鍋には結界のような仕切りが設けられており、
中鍋でははんぺん、じゃがいも、卵たちが程よく揺れていた。

さらに視線を向けると──サラダ。

……サラダ? 鍋で?
一瞬、理解が追いつかないが……

どうやらこの鍋、加熱だけでなく冷却機能も備えているらしい。
キンッキンに冷やされた生野菜と、ドレッシングは分離された状態で保存され、
いつでもベストな状態で「合体」できるように保たれている。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

稼働している最後の鍋をみると、スポンジケーキと生クリームが同時に作られていた……

そしておっさんは……職を失った。

せめて会場のセッティングでも行うか。と、地上に上がれば…

すでに大きめのテーブルが並び、純白のクロスも敷かれ、椅子も並んでいて準備万端であった。

そうこうしていると娘達が帰ってきた。

「おとうさん、ただいま~」
「パーパー喉乾いたしー」

二人にはジュースと軽い酒を振る舞い、
成果を尋ねる。

「お疲れさん、何人くらい来るんでぇ?」

聞けば、ギルマス、親方、受付嬢や関わったことのある冒険者達。
それからなんと、ダークエルフの女神像達まで、一時的に擬態して参加するのだとか。

よし、とデカいポリバケツを出し、氷水で満たしてから酒瓶を放り込む。

料理の進捗を確認しに地下へ降りると、
全て完成していて、
銀色のドーム蓋のついた皿に盛り付け済みらしい。
更には、冷めない、伸びない謎機能付きらしい。

いや、ビートル君達は喋らないのだが、
恐らくそうなのであろう……

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

陽が傾き始めた頃、ゾロゾロと客人達が集まってきた。
料理は既にテーブルに並び、蓋を取るだけである。

来訪者達は全員大人なので、トゥエラ以外には酒を振る舞う。
まずは、アレしかない。

「孤島十八年」

聞いただけで、どれ程頭がおかしい酒である事がお分かり頂けるだろうか?

おもりを付け、海底に放流した酒樽を……
GPSによる管理だけで十八年間、世界中の海を漂わせ、奇跡的に破損せずピックアップされた樽なのだ。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

「本日は、皆様お忙しい中集まって頂きありがとうございます。

私事の内祝いで申し訳ないのですが……
家族みんなの協力があって、この家が完成しました。

大したもてなしは出来ませんが、メシと酒は豊富にあります。

……好きなだけ食って呑んで、
騒いでいってくんちぇ下さいませ!…乾杯!!」


        「「「「「「「「乾杯!!!」」」」」」」」


蓋が取られ、蒸気を上げるご馳走たち。

いきなり濃すぎてもいかんと思い、
水割りで提供したのだが……
割った水は樹海産の、魔素の奔流ほんりゅう

部屋いっぱいに集まった客人達は一瞬、

メデューサに睨まれた石像のように固まった。

そこからは、笑いと、怒号と、驚愕と、

部屋のテーマ異奇雰魔法も切り替え、火山の山頂へ。

大黒柱は立ち昇る噴煙、
その周りを、天まで登る様なガラスの階段に変えたり……

ダークエルフの女神像達にも驚いた。
なんと、ホビット族の大工の親方の取り巻きに偽装していたのだ。

機嫌良く酒の進む親方と、隣に寄り添う親方お気に入りの呑み屋の美女。

天井には満点の星空と紅い月。

途中、パステルがキッチンから持ってきたのは、
第一王女自らがヌカに腕をぶち込んで捏ねたぬかみそきゅうり。

いい塩梅のしょっぱさで箸休めになる。

孤島は最初に振る舞った一杯でボトルが空いたので、

ドワーフ帝国で仕入れてきた蒸留酒、
ウイスキー、焼酎なども出し、女性達にはジンなどを工夫してカクテルも振る舞う。

セーブルは屈強そうな冒険者達と腕相撲に励み、
その全てを駆逐してゆく。……指2本でだ。

テティスもギャルのノリで客人達を盛り上げる。

リリは温泉が効いたのか、すっかり元気を取り戻し……衣類の爆散に抗っていた。

王女とトゥエラは、おっさんに寄り添い……

しゃっくりのお迎えが来ても上機嫌に呑み続ける公爵閣下を微笑ましく見つめるのであった。
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