DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第八章

第三十八話

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おっさんが朝風呂に浸かり、
昇ってくる眩しい朝日に目を細め、
お盆を湯に浮かべ、ジョッキ焼酎大五郎とパステルの漬けたぬかみそにうつつを抜かし──

そして……昔習った小手先の技術で、破かれた畳をそれなりに補修し、

「しばらくのんびりすっぺか」

と、布団を被り、朝寝に入る頃……


遥か遠くに離れた、この国の王が城を構える都市──王都セリオンでは。

──おかしな異変が起きていた。

仕事に向かう者──恋人との待ち合わせに足を速める者。

店先に並べた花に水をかける者、
それを横目に、鎧やローブで装備を整え、ギルドを目指す者達。

それを追い越すように走る馬車。
治安維持の為に街を徘徊する騎士達。

朝日が登り、さして時間の経っていない大通りは、
活気に溢れて…この街には既に、目覚めたばかりとは思えないほどの熱と喧騒が広がっていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

人にぶつからない様に歩くのが、困難になってきた大通りには、昨日までの日常であれば……

道ゆく冒険者の通行を、小さな子供が邪魔してしまい、

「どけぇ!クソガキが!!」

などと怒号が飛んだり…

店先に並んだ焼けた串肉を盗んで走り去る男に、

「まてこらぁ!!騎士ども!!さっさとあのコソ泥を捕まえやがれ!!!」

巻き込まれた騎士達も、面倒そうに笛を吹いて、

合図を聞いた離れた者達が、窃盗犯を引きずり倒し、動けなくなるまで暴行を加える……

人も人種も多いこの都市では毎日の様に起こる細事なのだが──

今朝は何故か、柔らかな笑い声と爽やかな笑顔が大通りに溢れかえり、ボロを纏った浮浪者に近い様な者達にも、
冒険者ギルドが門戸を大きく開き、日雇いの簡単な仕事を斡旋したり…

母と逸れて泣く子供には、3メートル程もある巨人の騎士が、抱え上げ保護者を高所から探したりしていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

──変化は、王城の中でも。

遠く離れた土地を、国王から任されて領主となっている貴族達は、
そちらの治安や景気などは顧みずに、代官に仕事を押し付け……

自分たちは──いかに派閥に力ある貴族を取り込み、
へつらう相手を厳選し──

一滴でも多くの甘い汁を啜ろうと……

そんな事しか考えていない現代風にいうならば、町長、市長、県知事、それらを纏める国会議員。

国王の信念に心から寄り添う者などごく少数であり、

利権、たばかり、賄賂、汚職に精を出す心の底までドブの様に濁った者達が──

朝からゾロゾロと馬車を手配し、領地に帰ってゆくのだ。

その目は、昨日までの獲物を狙う爬虫類のような眼球ではなく、
鱗の剥がれた、今までの自身の行動を猛省し、一刻も早く領地を静定せねばと燃える。

初心を思い出した様な、立派な政治家達の顔が並んでいた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

これ程の人々の意識の変化が、一体どこから来たのか?

──新しい神や、教祖でも生まれたのか?

意外と、事実はそんな事ではなかった。

人々の心の排水溝が汚れ、嫉妬、羨望、軋轢といった、家系ラーメンの残り汁を冷ましたような……

ベッタリとこびりつき剥がれない…何百年という年月の間に付着した負の感情が、その流れを悪くしていたのだった。


どこぞのおっさん家族が──それを……
刈り取って、浄化し、猫に戻してしまった為…

怒り、嫉妬、哀しみ、といった、
幸せ、愛情、慈悲、などという流れ去ってしまいやすい感情を押し留め、
良い感じに薄め合いながら、どんどんと排出されて往くのだ。

全部ではない。何事にも、バランスというものはある。

だがそれが正常に混ざり合い流れ出てゆき、
世界の果て迄を巡り、いずれ…また流れ込んでくる。

これらの事態の結末を、人間達が認知できる様になるのはまだまだ先の話なのであるが……

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

だが、ここ王都がその昔…小さな農村であった頃から、
一志を貫徹して代々受け継がれてきた、
目指す未来に一切のブレのない国王や──

腹を割って話ができるごく少数の側近や大臣達は……
このささいな機微を敏感に察知していた。

「お前も、解るか…宰相よ。
なんだというのだろうな…この心の底から湧き出る機微は……」

横に控えた、王に負けるかという勢いでハゲあがった宰相は、

「うまくは言えんのですが…空気?の様なものが変わった…としか…私の胸中にもあったこの機微は……」




──キビが刈り取られて人々の機微が変わった。


まるで冗談みたいな話であった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

昼近くまでぐっすりと眠ったおっさんは──
妙な夢を見た。

I miss yお父さんou, Dad寂しいよ…

聞き覚えがあるような、ないような──
そんな声に、何度も何度も呼びかけられた気がした。

I want eveもっと…ryone 皆んなにto have 楽しんでmore fun欲しい

目を覚ましたおっさんの脳裏に浮かんだのは、あの人物──否、あの建物だった。

ボリボリと頭を掻きながら体を起こす。
家族に嫌われたくはないので、起き抜けでもスメルチェックは欠かさない。

階段をノソノソと降りていくと、リビングでは家族全員がそれぞれに寛いでいるようだった。

「メシ、くったんけ?」

誰にともなく声をかけてみると、セーブルとシェリーがトーストやサラダ、軽い朝食を用意してくれていたようだ。

コーヒーを淹れてもらい、それを啜りながら、夢の内容を思い出して口にする。

「なんかよぉ……あのデケえホテルあっぺよ?
アイツがよ……なんか呼んでるような夢を見たんだがよう……」

真っ先に反応したのはトゥエラだった。

「あーーー! ご飯いっぱい出てくるとこー?」

彼女にとって、あのビュッフェは夢のような贅沢なのだろう。

「パーパ……建物と会話してんの? マジウケるんですけど?」

空中に浮かべた光複写魔法女優ミラーを見つめながら、マツゲにのりたまみたいなマスカラをくっつけているダークエルフが、鼻で笑う。

「旦那様が建てられたお宿なのですよね?
魂が宿っていても……おかしくはありませんわ」

リリは何かにアクセスしているようだったが、ふと顔を曇らせ、「建物のゾンビ……?」と、不穏な呟きを漏らす。

「オジサマ、わたくしもまた行ってみたいですわ」

弾けるような笑顔を見せたパステルは──
生前のおっさんであったなら、間違いなく詐欺を疑がってしまうほど。
くらりとくるような美貌を、無邪気に放っていた。

おっさんは、配膳されたトーストを齧り……

相変わらずに甘い、新婚騎士達の蜜の様なジャムを、苦い顔で腹に収めるのだった。
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