DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

文字の大きさ
200 / 279
第八章

閑話 リリ

しおりを挟む
──私には、家の記憶がない。

私にとっての居場所は、冒険者ギルドの託児所。

父は──いつも白衣を着ていた。
母は──スーツを着ていた。

両親は、何かの研究調査が仕事だったみたい。

いつも私をギルドに預けて、護衛の冒険者を雇って、何処かへ居なくなった。

託児所には、同じくらいの歳の子達が大勢いた。

夕方になると、親が迎えに来て──嬉しそうに帰っていった。

私にだけは……迎えが来なかった。
夜は小さな部屋に連れて行かれて、あまり美味しくないパンとスープを食べて、一人で眠った。

長い時は、何週間も帰って来なかった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

文字が読める歳になった頃から、私は本を読むようになった。

最初は、実在したのかも判らない──勇者が魔王を倒すお話だった。

王都の冒険者ギルドには、地下が埋め尽くされる程の本があった。

薬草の図鑑、剣の振り方、王国の歴史──

どれほど読んでも、飽きることはなく、寂しさも薄れた気がした。

だけど、沢山の本を読んでいくと…前に読んだ本の内容を思い出せなくなった。

地理の本に書いてあった筈のいろいろな国の名前──

その後に読んだ冒険の話で、変わった名前の国が出てきたんだけど、
それが地理の本に載ってたかどうか──

思い出せなかった。

自分なりに、忘れないように、
リズムをつけて本を読むようにした。

トン、トン、ツー、トンツー、ツートントン、

指で机を叩きながら文字を読むと、
何十冊も読んだ後でもその文章を完璧に思い出せるようになった。

トン、トン、ツー、ツー、

そうして、あれ程あった本の山は──
全て壁の棚に綺麗に整理整頓されて、
何万冊あるのかの総数はわからないのだけど、

トン、トン、と指を叩けばどの本が何処にあるのか、すぐにわかった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ある時、両親が亡くなったと言われた。

私が13歳の時だった。

ただの孤児になってしまった私は、
ギルドで無料でご飯を貰うわけにはいかない。

たぶん、私を預けるのにもお金を払っていたはずだ。

「何か──働ける事はありませんか?」

職員さん達にお願いして、ギルド内での雑用をやらせてもらえることになった。

ほうきと雑巾を持って、広いギルドの中を磨いて回った。

いつの間にか、指を使わなくても──頭の中でリズムが聞こえるようになって、
それは、掃除でも、怖そうな冒険者でも、優しい職員さんも、全てを思い出せるようになった。

効率よく掃除をして行くと、
ちょうど一日ピッタリでギルドはピカピカになった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

それから数年経って、職員さんの仕事も手伝えるようになった。

登録されている、全冒険者の名前、性別、年齢、得意不得意──

遥か昔から現在までの、依頼の内容とその危険度と報酬額の傾向と対策。

モンスターの特徴と危険度の少ない戦い方。

とはいっても、非力なリリは重そうな剣など持ち上げることも出来ない。

全ては頭の中の、空想の話であり、ゴブリン一匹すら実際に見た事はない。

リリは自覚していなかったのだが、
この頃には、ギルドの経理よりも、ギルドマスターよりも、ギルドの内情に精通してしまっており、

それが故に──ちょっとした計算ミス不正も見つけてしまうようになってしまった。

癒着。賄賂。談合。裏帳簿──

片っ端から暴いてしまい、本人は悪気もなく報告を済ませると……

職員さん達の顔ぶれがガラッと変わった。

リリが幼い頃から、あまり美味しくないパンを届けてくれていたお姉さんは、今も受付に座っていて、
手招きで呼ばれた。

「あんたねぇ、私でも気付けなかったうみを全部出しちゃったのは凄いけど──気をつけなさいよ……
ギルドの外に、絶対に一人で出てはダメよ。」

リリには何のことだかピンと来なかったのだが、
そもそもギルドに住んでいるリリは、ここから外出する必要は一つもなく、
給金も頂けるようになった今は、併設されている酒場で、お肉の入ったスープも、
焼きたてのパンも食べれるようになった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

ある時──自分の身体から、変な音がした。

『ピポパピポパ────ポーポーポー──
ピーヒョロロ~~──ガガガガ──』

ギルド中の視線がリリに向けられる。

異世界人にとって聞いたこともない電子音は、とても奇妙で……不快だった。

「あ、三日前に討伐に出かけた『白波の結末ショアブレイク』さん達一行が──
西の──山間で──オー…ガ?の群れに襲われていて危険です。直ぐに増援を──」

伝令が駆け込んできた訳でもないのに、机に座って書類を整理していた少女が、突然荒唐無稽な事を言い出した。

「バカ言うな!西の山にオーガなんざ居るわきゃねぇだろ!」

怖そうな冒険者が大声でリリを叱責してきた。

騒つくギルド内を一括したのは──ギルドマスターだった。

「鎮まれ!!──おいリリ、おめぇどこでそんな話を知った?」

筋肉ムキムキの黒猫が、仁王立ちで問い詰めてくる。

「あの、頭の中に聴こえたんですよね……
あと半日遅れれば全員死亡して、そのオーガは南下して小さな村を襲うとも──」

ギョッとした顔をするギルマスは、それでも大きな声をだし、

「Bランク以上のパーティ!直ぐに集まれ!!
馬も各自に貸す!!直ぐに増援に走れ!!」


後日──満身創痍の白波の結末ショアブレイクは、それでも命を拾い王都に帰還した。

増援に向かった冒険者達もベテランだった事もあり、何とか死者は出さずにオーガの群を鎮圧し切れたようだ。


それからも度々、リリから妙な音声が響くようになり──
気味悪がって距離を置く者、
感謝して崇拝する者、

様々な人物と関わりを持ちながらも──

色恋沙汰も「い」の字もなく、26歳になってしまった。


そんなある日、風体の冴えない中年の男性が、
ギルドを訪れてきたのだが──

──この話は、ここまでとしよう。


閑話   リリ        完
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...