DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第八章

第五十話

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旧式ミニクーパーの狭い助手席──
その膝の上で、今回は何の出番もなかったトゥエラは、ぷぅっと頬を膨らませていた。

「つまんなかったぷーん!
 トゥエラも斧とか投げたかったもーん!」

ピンクの髪をゆるく撫でながら、姉役のテティスは苦笑する。

「いや、マジわかるし~。
死んでもい~よ~な奴らだったんだけども~」

なだめるように、ぽんぽんと背中をさすりながら続ける。

「今はダメだったんしょ~、色々とさぁ~?
ほらあとで、トゥエたん大好きな、
ウニタピオカ丼くわしたるからさ~。
よっちよち、ギャルの愛で機嫌なおそ~~」

──そして、その助手席よりもさらに狭小な後部座席から、

第一王女・パステリアーナ・がすっと降りてくる。

手に持っていたのは、無数の風船のような紐──
だが、空に浮かんでいたのは風船ではない。

罪を裁かれるべき者たち、盗賊百余名の身体だった。

王城正門前──
普段は閉ざされた壁が、その広場に特別な“橋”として降ろされる。

それは『王橋キングブリッヂ』──
式典の時などにしか現れない、城と街をつなぐ象徴の大橋だ。

橋の向こうから、ゆっくりと姿を現すのは国王。
凛とした騎士たちを従え、威厳ある足取りで歩を進める。

──本当は、パステルの安否が心配で走り出したいのは内緒だ。

そしてその背後に、なぜか俯きながらトボトボとついてくる男が一人。

急遽着替えさせられた、エリマキトカゲのような派手すぎる貴族服に身を包み──
おっさんは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに歩いていた。

そして王城前の広場には、すでに……
まるで祭りのように押し寄せた群衆がびっしりと詰めかけていた。

その混み具合は、朝の山手線ラッシュさながらであった──。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

パステルは、の前に立ち──
ミニスカートにへそ出しトップというラフな服装ながら、どこか品のある、美しい仕草で挨拶カテーシーをおこなった。

「お父様──盗賊を、捕まえて参りましたわ!」

そう言って、首元のネックレスをひと撫でする。

瞬間、王城前の石畳に──
バラバラと、風船のように空を漂っていた盗賊たちが、無力なまま落下していった。

すでに悪用された義体義手・義足はすべて解除され、誰も動けぬ状態。
兵士たちは無言で近づき、順に拘束していく。

地下牢へと引きずられる数多の犯罪者たち──
それと入れ替わるように、セーブルに付き添われて地上へ姿を見せたのは、かの義足職人・ドン・ブーカ。

ざわめく民衆の中には──
かつて彼の義体技術によって社会復帰を果たし、今も街を支えている者たちの姿もあった。

「ブーカ様だ……!」「助けてもらったんだ、俺も!」

やがて群衆から自然と、拍手が巻き起こる。

──王女の誇り高き行動に。
──そして、自らを責め、それでも誰かを救い続けた職人に。

熱を帯びたその喝采は、王城の高壁すらも揺らすかのように、空へと響いていった──。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

大男は、その膝を地につけ、慟哭をあげた。
それは、街中に響き渡るサイレンのような、魂の底からの泣き声であった。

身の丈は三メートルほど。腕は一般人の胴回りほどもある──

ドン・ブーカ。巨人族にして、かつて“最硬”の盾職と謳われた男。

だが──
突然変異のオーガの群れには、彼でさえ歯が立たなかった。

両脚を失い、盾を構えなくなった鍛治師。

そう──彼は、鍛治師でもあった。
手先の器用さは折り紙付きで、“最硬”と謳われた巨盾も、元は彼自身が打ったものである。

工事現場の敷き鉄板のように分厚く、無骨なその盾は、
幾多の戦場で彼と共に在り、命を幾度となく救ってきた。

そしてその日も──
突然変異のオーガの群れに包囲され、彼は仲間たちを守るため、逃がす為、その盾を決して手放さなかった。

──その結果、両脚こそ失ったが、命だけは守られたのだった。

やがて、身体の傷が癒え始めた頃から、ブーカは鍛冶場の前に座り込んだ。

彼は、長年の相棒だったその盾を、自らの手で炉にくべた。
溶けゆく金属に、巨人族特有の魔力をゆっくりと、繊細に込めていく。

──それはまさに、“誓い”のような作業だった。

そして創り上げた一対の脚。
最初は、苦痛の連続だった。
立つだけで骨が軋み、歩けば炎の中を進むような痛みが走った。

だがそれを越えた時──
ブーカは、冒険者時代すら凌駕する脚力を手に入れていた。

盾を脚に。守りを進みに。
かつての“最硬の盾職”は、再び立ち上がったのだった。

それから──彼はすべてを手放した。

愛着ある自宅を売り払い、冒険者時代に蓄えた金も惜しみなく投じて、彼は一つのものを作り上げた。

“動く鍛冶場”──。

大型ダンプにも匹敵する巨大な荷車。
鉄の土台に炉を積み、工具と材料を詰め込んだそれは、まるで鍛冶工房そのものが走り出したかのような威容であった。

それを己の義足で引きながら、彼は静かに街の片隅へ、闇の中へと歩いていった。

誰も彼の背中を見送らなかった。

だが──

彼の残した足跡には、確かに……
“奇跡の種”が、ひとつ、またひとつと蒔かれていたのだった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

国王の凛とした声が、広場に集まった群衆と──
その奥へと続く石畳の大通りを貫いた。

「──この英雄を、讃えよ!!」

その声は、決して大音量ではない。
スピーカー越しのような拡声もなく──
だが、まっすぐに放たれたその言葉は……

都市の隅々にまで、確かに届いた。

まるで、それだけで空気が震えるようだった。

……これは、“威厳”というスキルなのだろうか?

──おっさんには、微塵も持ち合わせていないものであった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

王のひと言で場は静まり、騒ぎは粛々と幕を閉じた。

そして──
おっさん一家は、改めて王城へと招待されることとなった。



「ぶふっ……ぷっ……パーパ……腹筋……千切れるからマジ許して……っぐふっ……!」

おっさんが纏う、トランプのジョーカーのような貴族衣装。
それを見たテティスはツボに入り、体を震わせながら爆笑している。



おっさんとしては一刻も早く普段着作業服に着替えたい。
──が、王や貴族たちに囲まれたこの場の“高貴な空気”が、それを許してはくれなかった。



晩餐会の会場には、煌びやかな料理がズラリと並ぶ。

華やかな令嬢たちはパステルの元に集い、武勇伝にうっとりと耳を傾けているが──
当の本人は、ネックレスでの捕縛シーンしか記憶にない様子で、困ったように笑っていた。

一方、おっさんはというと──

(……中世あるあるか?)
出てくる料理のすべてに、スパイスと塩が効きすぎていて、血圧によろしくない。

伝説級の公爵として迎えられてはいるが、
“高貴な方々”はどこか距離を取り、遠巻きに見つめているだけであった。



「……着替えてぇ……」

そう呟いたおっさんは、こっそりリリに頼み、厨房への道を案内してもらう。

物陰で素早く着替えを済ませ、作業服いつもの姿に戻ったおっさんは──
そのまま、堂々と厨房へと足を踏み入れた。

驚く料理人たちに軽く会釈し、腰袋から出した冷蔵庫の中をザッと見て、即興で数品のツマミを作ってゆく。

ほどなくして、奥から睨みつけるような視線とともに現れたのは、調理長。

おっさんが勝手に作った皿をじろりと睨み──
思わず一口。

「……っ!?」

──腰を抜かしたのは、イカの生姜醤油焼き・マヨ七味載せ。

その絶妙な香りと彩り、しみる味わいに……
調理長の顔が、音もなく赤らんでいった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

トゥエラは、今日の鬱憤うっぷんを晴らすべく──
おっさんに腰袋のようにぴったりと張り付き、
料理ができるそばから、つまみ食いを始めていた。

「おとーさんこれなぁに!? んまっ、んまっ! こっちは!? ……んまーーっ!!」

「ちょっ、火ぃ入ってねぇから! 待て待て待て!」

そんなやりとりも、もはやいつもの光景。
……もちろん、おっさんも最初から“つまみ食い係”を見越して、多めに仕込んでいる。



適当に見えて、計算ずくの大皿料理とデザートの数々。
それらをワゴンに載せ、公爵自らが晩餐の間へと運び込む。

──凡庸な顔と体型の中年男。
ひとたび作業服に戻れば、その正体に気づく者はいない。

ただの“厨房の誰か”が、料理を運んで来ただけ──
そう思われるのも当然だった。



貴族たちの喧騒から少し外れた円卓にて。
おっさんは、娘たちと肩を並べ──

焼酎大五郎を傾けながら、
ほんの少し、微笑むのだった。
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