DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん

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第九章

第七話

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一歩踏み入って最初に目に入ったのは、
辺りを埋め尽くす金銀財宝の山。

などではなかった。

今、ここにいるはずのない人がそこに居た。

王女パステリアーナ、その人が一糸纏わぬ姿で…
王座のような豪華な椅子に腰掛け、妖艶に微笑んでいた。

「パ……パステルけ?」

しかし、呼びかけに対して眉ひとつ動くこともない彼女は……

「人形……け?……」

はぁ、と息をついて、胸を撫で下ろす。
いくら一緒に住む家族とはいえ、おっさんなりには気をつかって暮らしている為、
女性陣の裸体など見たことはない。

トゥエラに関しては、臭かった時に風呂場で丸洗いをしたことがあるが、
そこはノーカウントである。

しかし、日本の技術で作られたリアルなラブドールといった物を、生前に見る機会があったが──
そんなものではない、近づけば顔の毛穴まで見えそうな造形美。
目が合うと気まずくなってしまい、とりあえずリリが爆衣した時によく投げていたバスタオルを数枚取り出し、身体に被せてみる。

最初から目の端には入っていた。
──金銀財宝の山。
それは、壁際にキラキラと静かに輝いている。

 

だが、おっさんにとってはそれほど重要ではなかった。
……いや、正確にはその構図が、すごすぎたのだ。

 

中央奥に、鎮座するパステル。
その足元から入り口に向かって、真っ赤な絨毯が敷かれている。
そして、彼女を囲うように高く積まれた金銀財宝。

 

──まるで、悪徳領主か犯罪組織のボスである。

 

とても、に愛され、清らかに育った王女には見えなかった。
否応なしに、視線が泳ぐ。

 

部屋の隅には、艶やかなドレスがズラリとかけられ、
木目の美しい箪笥を開けると……整然と畳まれた下着が収められていた。

 

装飾品に化粧品、付け爪や眼鏡、香水に至るまで──
おおよそ女性の身支度に必要そうな物は、すべて揃っていた。

 

「……あの亡霊王子、パステルのこと……
  好きだったんだべか?」

 

おっさんの脳裏に、以前セーブルから聞いた後日談が蘇る。

結納の儀式の直前、突然パステルが脱走。
それを知り激怒した王子は、国交の断絶すら口にして喚き散らし、
その振る舞いを咎められて、身分剥奪。国外追放──

 

聞けば、二人は幼い頃から親交があり、
周囲からも「将来を誓い合う仲」と見なされていたらしい。

 

けれど──
今となっては、彼の胸の内など、誰にもわからない。

亡霊となった王子は、正気も失い「殺す」などと喚いていたが──

もしかすると、本当は……
心の底から、彼女を愛していたのかもしれない。

 

おっさんは黙って踵を返し、甲板へと戻った。

 

その道中──
腰袋から取り出した工業機械用の燃料ガソリンを、
船底から床板の隙間にまで染み渡るように、惜しげもなく撒き散らす。

 

やがて甲板に出ると、朝もやの空の下、静かに歩き出す。
その背に、夜が終わりを告げ始める。

 

導火線のように伸びたガソリンの筋へ、くわえていた煙草を投げ捨てる。
──パチリと火が走り、朱の光が船内へと飲み込まれていく。

 

ハシゴを降りた頃には、ちょうど船員たちも起き始めていた。
「急いで船を離せ」とだけ告げると、碇が巻き上げられ、貿易船と海賊船はしだいに距離が離れてゆく。

 

しばらくして──
赤々と燃え上がる帆。
鉄のように硬かった部屋も、燃え溶け、砕け、
船は、炎の衣をまとったまま、静かに……海へと沈んでいった。

 

「……想いは、届かなかったかもしんねぇが──」

 

あっちあの世さ送ってやっからよ……」
おめ貴方の愛した王女は、責任持って守って
   やっからよ見せますので……ゆっくり眠れ……」

 

その言葉に応えるように、海の果てから朝陽が昇る。
光は、ただ静かに、そして優しく、
燃え尽きた海賊船と、その哀しき恋を──

金色のヴェールで包み隠していった。

──そして亡霊騒ぎは終幕を迎えた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

──結局。

 

金貨の一枚すら拾うことなく、
おっさんは全ての財宝を海の底へ沈めてしまった。

 

よく考えれば、あの山のような財宝も──
元はと言えば、海賊行為の末に、誰かから奪い取った物かもしれない。

だったら……
これから向かう国にでも、せめて一部を奉納してやった方が良かったんじゃないべか?

……そんな考えが、あとになってふと頭をよぎる。

 

だが、すべてはもう遅い。

沈んだものは戻らないし、
そこに“何があったか”を知るのは──

この世界で、おっさんただ一人だけだった。

 

それにしても、あの人形は──
精巧を通り越して、生きているようだった。

怖くて、触れることすらできなかったが……
まさか、あれを燃やしちまったことで……
パステルの身に、何か良からぬことが起こったりしてねぇべか?

 

船の燃え跡が消えていく水平線を見つめながら、
おっさんは、静かにため息を吐いた。

──過ぎたことは戻らない。

 

……だが、妙に胸に引っかかる。

ほんの、少しだけ。
火の粉をあげて消えていったあの人形が……
おっさんに、何かを訴えていたような、そんな気がした。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

「ティー姉~もうだいじょーぶだよ~」

ヨシヨシと、トゥエラはテティスの頭を撫でてあげる。
視界に映ったドットのキャラクターは動きもしないが、確かにその小さな手で頭を慰められた温かな感触がテティスにはあった。

「べ…別に!?ビビってねーし?
 結界とか張ればどーって事なかったし!?」

慌てて涙を拭い、いつもの強気ギャルの姿勢に戻ろうとした彼女だが……
普段、どんな極限魔法を使おうが、決壊したことのない心のダム尿意が、今回ばかりは恐怖と焦りがそこにヒビを入れ、
護符装備安心パットを少々湿らせたことは──彼女だけの秘密である。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

落ちたメダルを拾い集めてみると、
先程パステルが使用した〈P〉のほかにも、
〈R〉や、〈H〉といった文字の描かれた物もあった。

「これらは、全て良い効果が現れるのでしょうか…?
 罠…といったものが混ざって無ければよいのですが…」

開始早々、地面は落とし穴だらけ、矢は雨のように飛んでくるダンジョンである。
ボスの出したアイテムが罠、という辛辣なこともあるかもしれない。

「まぁ~使ってみるしかねーっしょ?
 さっきパーちんだったから、次はあーしとトゥーね~」

テティスは、〈P〉を一つと〈R〉を一つ拾って両手で握った。──すると、

頭上に灯った★はパステルと変わらずだが、
全員の視界に変化が起こった。

スーパーファミコンのドット絵程度だった、
トゥティパの見た目が……

往年のポリゴン格闘技ゲームバーチャファイターのような、八頭身に変化したのだった。

まぁ、トゥエラは四頭身程度であるが……



「うわ~なんか、すっごい動きやすくなったね~!」

先程までは二色の⚪︎でしかなかったトゥエラの斧も、ちゃんと柄もつき、素振りをする姿も、若干カクカクとした動作ではあるが、
普段の動きを再現できていた。

「ふ~ん、なんか紙風船っぽくてちょいダサいけど……さっきよりはマシっぽ?」

テティスもあちこちに火球や氷塊を飛ばしている。
実際の炎とは比べるべくも無いが、それでも⚪︎よりはマシなようで、機嫌良くポーズを決めたりしている。

「わ…わたくしの法具も……」

パステルの黒石のついた首飾りは、ポリゴンではイマイチ再現が難しいのか、
うねるようないつもの妙技は出来ないが、直線的な攻撃であれば、ネックレスとは思えないような距離まで鎖を伸ばせるようになった。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

「とりま~帰んね?あーしトイレ行きたいんですケド?」

テティスの提案で、初日の探索を終えることにしたトゥティパの三人は、
転移魔法によって王城へと帰還した。

おっさんの転移現場移動とは違う、無駄に派手で眩い光線を放ちながら、謁見の間のど真ん中に現れた三人は、ズラリと並んだ高位貴族達と、国王を驚かせた。

パーパーパパーちんのパーパじゃ~ん☆彡 トイレどっち?なるハヤでおねしゃーっすって?……」


──その時、その場で行われていたのは…
隣国の外務官との話し合いであった。

トゥティパが現れる寸前までは、空気が張り詰める国交の重大な危惧を話し合っている最中であった。

「お…お父様、このような場に急に現れて申し訳ありません!」

パステルは一瞬で場の空気を理解し、優雅な礼節で父と周囲の貴人達に敬礼の体をとったのだが────

ブッフゥーーーーーーーー!!

諸見の間に紅きスターマイン鼻血の噴水が舞い散った。

国王は、なんとか堪えた。

──今朝、既に見たからだ。
この状況は、仕方のない話しである。
パステルの装備した、魔蝶蘭のチェーンメイルは、
娼婦ですら顔をしかめるような、視えすぎる鎧である。
もちろん、素肌に着ている訳ではなく体にフィットする刺突耐性のあるタイツを纏っているのだが──

見る者からすれば……裸鎖である。

「リーナ、着替えてらっしゃい。」

 どこからともなく姿を現した王妃が、穏やかな口調で王女を嗜めると、
パステルは「はい……」と素直にうなずき、二人を連れてその場を退いた。

 それだけで、あれほど混乱しかけていた謁見の間の空気がすっと鎮まる。
王妃の威光と気品により、誰ひとり命を落とすこともなく、場は平穏を取り戻した。

「王よ──先程の件、海上の輸送保安についてでありますが──」

 静けさを取り戻した空間で、再び議論が再開される。

 口を開いたのは、隣国からの外務官──
亡霊王子の弟にあたる若き第二王子だった。

 ここ数年、貴族を乗せた外遊船の“失踪”が相次いでいた。
両国の合意で編成された海上保安軍も、まったく機能を果たせていない。
船は忽然と消え、目撃者も、残骸すらも残らない。

 どれほど協議を重ねようと、打開策は見つかっていなかった。



 ──そして数刻後。

 風呂と着替えを済ませた三人娘──パステル、トゥエラ、テティスは、
ダンジョン初日の報告を行うため、王の私室へと向かっていた。
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