異世界召喚されました……断る!

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2巻

2-3

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 翌日は賢者モードのため、朝食を抜いて惰眠だみんむさぼった。午前中いっぱいダラダラゴロゴロして回復に努める。
 赤モヒ達は冒険者なのか知らんが、街の外に出ているみたいだ。
 昼から外に出て、飯屋を探す。
 さすが商業都市。店の数も多く、料理も多種多様だった。迷うな。
 テクテク歩いていると、和の雰囲気を出す店を発見。客のりは良い。
 異世界で和って少し怖いけど、転移者の店かもしれない。入ってみるか。
 店の中は日本っぽさが強調されていた。
 お座敷に通され、たたみに座る。テーブルではなくちゃぶ台だ。
 厨房からは、ジュージューと、良い音と良い匂いが漂ってくる。これはアレだよな……まさか異世界産の豚カツが食えるとは。
 店員さんが湯呑ゆのみに水を入れて持ってくる。
 お茶は栽培さいばいできてないのか? と思いながら、サービスランチを頼んだ。
「サービス一枚っ!」と、厨房に向かい声を出す店員さん。
 少し待つと、定食が運ばれてきた。
 豚カツと山盛りのキャベツ、ライスとコンソメスープ、胡麻ごまの入った小鉢とお新香しんこのセット。
 うん、良い感じだ。
 カツを一口……うまい。ただ、ソースが少し残念だった。
 俺はタブレットで、日本産の中濃ソースと和辛子わがらしを購入。
 トンカツソースも良いが、俺は中濃派だ。
 中濃ソースを掛け、和辛子をちょっとつけて一口……うまいっ! すげぇ合うっ!
 汁物は、味噌みそがないのかコンソメスープだったが、まあまあうまかった。
 トータルで……これはかなりアリ!
 俺はライスを一度お代わりし、大満足で店を出た。ごちそうさまでした。
 豚カツ屋を出た俺は、一服してから、屋台や店を見て回った。
 食材や調理器具、服を買っていく。
 魔道具店に入り、何かあるかなぁ~と、棚を見ていく。

「……なん……だとっ?」

 以前、皇都のカフェで見た、エフェクター内蔵のギターが売っていた……。
 ぐぅ……旅にまったく必要ない、むしろ邪魔にしかならないが……欲しいっ! しかもレスポールタイプとか……若干シャレてる?
 値段を見ると結構お高い。結局、必要ないなとあきらめた。
 気を取り直して他の品物を見ていく。


 魔導コンロ:火の魔石に魔力を溜めて使用。強弱の調整可能。
 魔導送風機:風の魔石に魔力を溜めて使用。
 魔導食洗機:水の魔石と動力用の魔石を使用。


 魔導コンロが気になった。料理に火の強弱は必要だからな。他はスキルでどうにでもなる。
 結局、店内では、ギターとコンロ以外に目を引く物は見当たらなかった。
 ちょっと高いけど、コンロを購入。これで料理の幅が広がるな。
 ガラニカには図書館がないな、と思っていたら、資料館があった。
 古い絵などが展示されていて、思った以上に面白かった。
 資料館を出ると、いい時間だったので宿に戻る。
 ぬ……ロビーに赤モヒがいるな。俺はきびすを返し、宿から離れた酒場を探し、移動する。
 いい感じの酒場を見つけ、カウンターで一人飲み。
 おっ、この店ラガーがうまい。二杯三杯と飲み進める。つまみもうまかった。
 夜も更けたので、支払いをして宿に戻る。さすがに赤モヒ達も部屋に戻っているようだ。
 部屋に戻り、『転移』して外で一服。さて寝るか……。


 翌朝、ガラニカを出る準備をする。装備を整え、最後に腰に刀をす……よし。
 宿をチェックアウトして、皇都と反対側の門へ向かう。商人、貴族以外はノーチェックなので、すんなり通過した。

「……さて、行くかっ!」

 ガラニカを出て、国境まで続く街道を歩く。たまに出てくる魔物は『マグナム』で倒す。
 夜は野営地で、商人や冒険者を交えてのバーベキューだ。
 焼肉のタレはここでも大人気。一番活躍してるんじゃね?
 もう一つ、ガラニカで仕入れためんで、焼きそばを作った。鉄板も用意しておいたしな。
 この焼きそばも人気だった。理由はタブレットで購入した、日本産のウスターソースだろう。香ばしい匂いがたまらない。
 大満足のバーベキューだったが、警戒当番まで食い過ぎで動けなくなっているのはダメだろう?
 仕方ないので、今日は『結界』を広めに張っておく。『結界』先生、いつもありがとう。


 数日後、ルセリア帝国最西方の街に到着。この街は、魔王国と連合国との交易都市らしい。
 獣人族やエルフ族、ドワーフ族に魔族が普通に歩いていた。
 彼らはこの街から西側でしか行動しないため、皇都側から来た俺は会うことがなかった。


 獣人族:身体能力が高く近接戦に強い。獣化のスキルを持つ者もいる。モフモフ。脳筋多め。
 エルフ族:魔力が高く弓の扱いが上手い。寿命が長く豊富な知識を持つ。耳が長く美男美女が多い。
 ドワーフ族:身体能力は高いが腕力特化。酒と鍛冶をこよなく愛す。女は幼い容姿。男はずんぐり、あとひげ
 魔族:身体能力と魔力に優れ戦闘力は高い。褐色の肌に金色の瞳を持つ。寿命は長い。


『鑑定』してみると、こんな感じだった。
 この街では全ての種族が友好的に暮らしているみたいだ。うん、良いね。
 宿にチェックインしてから、散策開始。通りを歩いていく。
 獣人さんモフモフだなぁ、でてぇ~。エルフさん美人やなぁ~。魔族さん金色の瞳カッコいいなぁ~。ドワーフさん、あの腕ぶら下がれそうだなぁ~。
 店や屋台には、交易都市だけあって、目新しい物がたくさんあった。様々な土地の物が集まっているのだろう。
 これから国外に出るので、今回は見るだけに留める。楽しみは取っておこう。
 そんな理由で、交易都市は一泊だけして出発した。


 交易都市を出て、野営を一回挟み、ついに国境に到着。出国手続きの列に並ぶ。
 国境の先は、死の山岳地帯の北側で、ふもとには中立都市へリオが栄えているらしい。
 死の山岳地帯という事で、冒険者が多く集まっている。彼らの目当ては、強い魔物がドロップする貴重な素材や魔石である。
 反対の南側は、ポークレア王国が都市建設に反対したため、未開の地のままだとか。
 順番が来たので、ギルドカードを提示し、犯罪歴を確認された。
 問題なく出国すると、へリオまでは徒歩で三日程度。
 とりあえず、この国境にある野営地で一泊だな。
 人が多いので、バーベキューは控えた。テント内で、『アイテムボックスEX』に入れてある串焼きなどで腹を満たす。今日はもう寝よう。


 翌日、中立都市を目指して出発。
 帝国内の街道より人が多い。戦闘は避けた方が良さそうだ。
 といっても魔物は出てくるワケで……仕方ないので、刀を抜いて近接戦闘。
 ベルセダンジョンよりレベルの高いオーク、オーガの上位種も現れた。
 苦戦はしないが、縛りプレイとか面倒くさいな……目立つよりは良いけど。
 他の冒険者も苦戦せずに戦ってるし、馴染なじんでいるだろう。


 ゆっくり進んで、国境を越えてから四日目。
 一日多くかかっちゃったな、と思いながら、中立都市へリオに到着した。
 門は開放されていて、出入り自由みたいだ。
 門の左右に、凄ぇ強そうな奴らが立っている。人の出入りじゃなく魔物の警戒のようだ。
 俺は都市内に入り街並みを見渡した。
 国境前の交易都市よりはるかに大きい。城壁もかなり頑強そうだ。
 まあ、三国の国境が接する大陸の中心だからな。文化が入り交じって、栄えて当然か。
 俺は案内図を見て、宿屋へ向かう。
 チェックインを済ませ、中央部へ向かう。そこには、役所や各ギルドが並んでいた。
 俺は商人ギルドに入り、素材の買取をしてもらう。
 商人ギルドに入った理由は、冒険者ギルドに行って、下手に冒険者ランクが上がると面倒かな? と思ったからだ。とりあえず今のDランクで十分だろう。
 全体的に、帝国より買取額が高い気がするので、理由を職員に聞いてみた。
 この都市では、役所は全ての商人から税金を徴収している。
 役所は集めた税金の一部を、各ギルドに配分する。
 その分、ギルドは依頼報酬や買取額を高く設定する。
 商人は税金を取られる分、他の都市より高値で販売する。
 報酬や買取額が高額なので、冒険者には金が入り、物価が高くても困らない。
 そんな感じらしく、上手く回ってるな、と俺は思った。
 これは、昔の転移者が始めた政策なんだそうだ。
 導入した当時は、利権目的で、賄賂わいろを持った貴族や商人が取り入ろうとしたが、転移者に軒並のきなみ殴られて追い返された。
 逆恨さかうらみして実力行使に出ようとしたら、戦闘前に全て潰された。容赦ねえな。
 そんな事もあり、手を出すアホはいなくなったみたいだ。
 買取が終わった俺は、商人ギルドを出た。とりあえず昼飯にしようかな?
 昼食を終え、通りを散策。交易都市よりも目を引く物が多いな。
 途中カフェに入り、アイスコーヒーを注文。自前の水筒に入れてもらった。
 この水筒は、以前の街で買ったのだが、スポーツボトルタイプでそのまま飲めるので楽だ。保冷機能も付いてるので、半日くらいは大丈夫。
 コーヒーはブラックだったので、ミルクとシロップを購入し、サッと投入。
 水筒を振って混ぜて一口……ん、ちょうど良いくらいかな。
 コーヒーを飲みながらテクテク歩く。
 大通りを往復し、また中央部に戻ってきた。
 さてコーヒーもなくなったし、いい時間になったから、そろそろ宿に戻るか。
 そう思っていると、冒険者ギルドの前に人だかりができていた。
 野次馬根性を出してみると、貴族っぽい男と魔族の女(冒険者かな?)が揉めていた。
 男がギャーギャー騒ぎ、女は落ち着いてあしらっている……テンプレ感満載だな。
 よし、宿に戻ろう!
 ところが歩き始めると、俺の前に、さっきの貴族っぽい男が吹き飛ばされてきた……えぇぇぇ~。

「……うぐぐぐ。クソっ、魔族のクセに」

 うわぁ、一言で面倒くさいよコイツ。おい、こっち見んなっ。
 俺が嫌そうにしていると、男はこっちを見て口を開く。

「おい、貴様っ。手を貸せっ! あの魔族の女に痛い目を見せるぞ!」
「……はぁっ? ヤだよ、断るっ!」
「おい貴様、ちょっと待て! 私の言う事が聞けんのかっ?」
「何で俺が、お前の言う事を聞くと思ったんだよ。今、断っただろ! もう話かけんなっ!」
「なっ!? き……きき……貴様っ!」
「あとお前の相手はあっちだろ? ほら、こっち来てるぞ。じゃあな」
「……なっ!? おい待っ」

 俺が背を向けて歩き出すと、魔族の女の声が聞こえた。

「アンタの相手はアタシだろ? キ・ゾ・ク・サ・マ」

 男の悲鳴が聞こえてきたが、まあ気にする必要もないだろう。


 宿で夕食を済ませ、部屋に戻り、『転移』で無人の城壁の上へ。

「……ふぅ。あんなテンプレ貴族……いるんだなぁ」

 タバコを吹かしながら思う。もしかして、日本の異世界モノ小説って、作者がこっち来て帰ってから書いてるのかな?

「ま、いいか。……ふぅ……」

 アライズ連合国までもう少しってトコだな。サクサク行こうか。
 その時、俺は不穏な気配を感じ取った。

「あの貴族……やっぱり兵隊集めてんな」

『マップEX』でマーキングしておいて良かった。城壁の近く、人気のない広場に不穏な連中が集まっている。

「俺も狙われてるのかな?」

 まあ、人気のない広場ってのは都合が良い。スゥッと、人差し指を貴族達に向ける。

ちろっ! カトンボっ!!」

 ドンッッッ!!!
 大きな発射音を残し、あかい閃光が走るっ!

「「「「「ギャアアアアアッ!?」」」」」

 よし、全員生きてるな。雷属性ちょい強めで撃ったけど、ちょうど良かった。
 さて、騒ぎになる前に戻るか。
 俺はタバコの火を消し、携帯灰皿に入れ、『転移』で部屋に戻った。

「寝よ。ふわぁ……っ」


 中立都市へリオを出て数日、アライズ連合国の国境が見えてきた。

「……お~~~、見えた。結構時間掛かったなぁ!」

 俺は意気揚々と、入国審査の列に並ぶ。
 十分くらい経過して、俺の番が回ってきた。
 ギルドカードを提示し、水晶型魔道具で犯罪歴の審査。どういう原理なんだろう?
 すぐ側には、警備らしき獅子の獣人が、四人控えていた。
 凄ぇ強そうなのにモフモフしてやがる。くっモフりてぇ……。
 審査が終わり国境内へ。入国完了ぉっ!!
 さっと周りを見ると、詰所のような建物があり、その横にトイレ、反対側に喫煙所があった。
 喫煙所なんて珍しいな。ルセリア帝国にも喫煙者はいたが、数は少なかった。
 これで堂々とタバコが吸えるなっ! よし、一服するか!

「スゥ……ふぅ~」

 喫煙所に入った俺は、ぷかぁっと紫煙を吐く。
 しかし、気が付くと俺は……というか、喫煙所が獣人に囲まれていた。
『マップEX』に敵対を示す赤表示はいなかったから、完全に油断していた。どういう事だ?
 獣人の一人が話しかけてくる。

「ニホンの方ですね、ようこそ、アライズ連合国へ。歓迎致します」
「……っ!?」
「フフッ。何で、という顔ですね。実はこの喫煙所を示す外の表示板……ニホン語なのです」
「はっ? えっ、マジでっ?」
「フフ、後で確認してみて下さい。ま、そんなワケでこの場所を喫煙所として使用する人は、ニホン語の分かる方なんです」
「ん~、理屈に穴がある気もするけど……まあ納得しておこう」

 青表示だし、敵対する事はないだろう。

「はははは詰所の方でお茶でもお出ししますよ。どうですか?」
「うん、せっかくだしいただくよ」

 タバコの火を消し喫煙所を出る。ああ、確かに日本語だわコレ。
 俺は表示板を確認して、獣人達と詰所に入った。

「どうぞ」

 コトッと湯呑みが置かれる。この香りは……。

「気付きました? そうです、緑茶です」

 一口飲む。落ち着くというかなんというか……うん、うまい。

「どうして緑茶が?」
「この国に来たニホンの方によって栽培され、連合国内では一般的に飲まれています」

 へぇ~一般に広まってるのか。富裕層だけじゃないんだな。
 俺はタブレットで買えるけど黙っておこう。この緑茶、普通にうまいし……。

「それで、俺に何か用でも?」
「ははは、特にありません。ただ我々、獣人族がニホンの方にお世話になったので、感謝をしたいだけです」
「俺は関係ないのに?」
「はい。何故かニホンの方は、この連合国に来る方が多いんです。皆さん、我々に良くしてくれるんですよ」

 獣人がはははっと笑った。
 うん、それはまあ……俺も含めてだけど、モフモフ好きが多いからじゃないかな?

「全ての人々が感謝しています。叶うなら私もお礼を言いたいものです」

 俺はズズッとお茶を飲み、話に耳を傾けた。
 なんだろう。俺とまったく関係の無い日本人の話なのに、なんとなく照れくさい。

「コレ……お茶と話のお礼です」

 俺はそう言って、ゴールデンホーンラビットの肉を渡す。日本の物にするか、とも思ったが、俺が自分の力で得た物の方が良いと考え直した。

「ゴールデンホーンラビットの肉……良いのですか? こんな高級食材……」

 俺はコクリと頷き、笑顔で詰所を後にする。なんとなく照れくさいので早歩きだ。


 アライズ連合国に入国して最初の野営地に到着し、準備を始めた。
 詰所で、もっとこの国の情報を聞けば良かったと、若干反省中である。
 お茶飲んで「うまい……」とか言ってる場合じゃなかった。
 まあ過ぎた事は仕方ない。気持ちを切り替えて料理をしよう。
 ぼ~っとしながら料理を終えると、いつの間にか獣人達がよだれを垂らして、俺を囲んでいた。
 しまった。『結界』張るの忘れて、焼肉のタレを使ってしまった。匂いがだだ漏れだな。

「……食べます?」
「「「「「いいのっ!?」」」」」

 俺が言った瞬間、獣人達が一斉に群がり始めた。
 俺の分は残るのだろうか? ……あと、アンタら誰よ?


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