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2巻
2-2
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◇ ◇ ◇
「いやぁ、マサシ以外で、日本の知り合いが来るとは思わなかった」
ゲラゲラ笑うソウシ先輩。
「っ~か、何で若いんです? 孫までいるのに……」
「あぁ~、何かこっち来た時に、神の加護とかで若返って老けなくなった(笑)」
「(笑)じゃないですよ……まったく……」
「お前も若いじゃねえか?」
「俺も、神の加護と似たようなもんですね……」
「そうか……じゃ、仕方ねえなっ!」
ガッハッハと笑う姿は、昔と変わってねえ。これで孫がいるとか、冗談としか思えない。
「……あの~~~……二人は知り合いだったの?」
リサさんが尋ねてくる。
「先輩」
「後輩」
俺とソウシ先輩が同時に答えた。
「いや、それだけじゃ分かんないから……」
「まあ、そうだな。面倒だからトーイチ頼んだ(笑)」
「トーイチさん、お願いします……」
リサさんに頼まれ、分かりやすく説明を試みる。
「仕方ない……え~っと、地元の学校の二つ年上で、悪友……って感じかな」
「掻い摘まむとそんな感じだなっ!」
俺は先輩に向き直った。
「……で、先輩はこっち来てどのくらいなんです? 何歳の時に来たんですか?」
「ん~、三十歳くらいの時だったか。んで、そっから六十年は経ってるな……」
「……そうすると、俺の十四~五年前くらいですかね」
「ん、向こうだとそんなもんなのか?」
「そうですね。あぁ、これで先輩と音信不通になった理由が分かったわ」
「はっはっはっ、すまんな。まあ、そんな理由だよ」
マサシもそうだったが、召喚時に時間のズレがありすぎる。
「お前はどうなんだ?」
「ああ、俺は……」
俺は簡単に、ポークレア王国に召喚された際の話をした。
「ああ、あの国な……。先々代の国王もそんな感じだったな」
「その時はどうしたんです?」
「殴った(笑)」
先輩らしい……。先々代も俺が会った豚王みたいな感じなら、殴らない理由がない。
「親父、国王殴ってたのか!?」
「お祖父ちゃん、王様殴っちゃってたの!?」
慌て出すリサさん親子。
「あぁ、戦争すっから手伝えだのなんだの言ってきやがったからな。気に食わねえから、鼻を折ってやった」
二人が頭を抱えた。
……俺も暴言を吐いて逃げたから、先輩の事は何も言えん。
しばらく話をして、先輩の家に場所を移し、昼食をいただいた。
午後も、先輩が六十年間何をしてきたか、俺の一ヶ月間の出来事、先輩がいなくなってから日本であった事など、話は尽きなかった。
「そう言えばお祖父ちゃん。元の世界の人と会った事ないって言ってなかった? さっきの話だと、冒険者ギルドのマスターは同郷じゃないの?」
リサさんが先輩に聞く。
先輩は引きつった表情になった。
「ソンナコトイッタッケ?」
「……やっぱり嘘だったのね」
リサさんがゆらぁと立ち上がり、目を細めて、笑顔で先輩を見ている。ゴゴゴゴッと音がしそうなほど、威圧感が出ているけどな。
「はぁ……お祖父ちゃんの事だから、どうせ忘れてたんでしょ? もういいわ」
ヤレヤレみたいな感じで、座り直すリサさん。
「すまんな。そう、忘れてた」
先輩、謝り方が雑っ!
「そんな事より、トーイチ、今日は泊まってけ! もう少し話そうぜ!」
「先輩、ノリ……変わってないですね……」
「はっはっはっ!」
その後、先輩の部屋(まさかの和室)に行き、布団を並べて遅くまで話をした。
やっぱりと言うか、異世界より日本の話が多くなった。マサシより俺の方が、年が近いからな。
翌朝、朝食をいただき、リビングでこれからの予定を話す。
「次は、アライズ連合国に行こうと思ってます」
「えっ? トーイチさん、ルセリア帝国出ちゃうんですか?」
「ああ、世界を回りたくてね」
リサさんの問いに答えると、クラウさんが口を開く。
「トーイチ。出る前に焼肉のタレ、置いてって」
……クラウさんはブレないな。
「おう、じゃあコレ持ってけ」
先輩が小さな箱を取り出した。
「ソレは?」
「双方向通信が可能な魔道具だ。ダンジョンや特殊な『結界』の外なら、電話のように通じる」
「貴重なんじゃ……」
「確かに貴重だけどな、だからこそ、渡す人間は選んでる」
ニカッと笑う先輩から、俺は箱を受け取った。
「……まったく……。ありがたくいただきますね」
「おうっ!」
そして、コソッと耳打ちしてくる先輩。
「呼び出したら『転移』で来いよ。そんで、タバコとビールを置いていけ。金は払う」
「そんな事だろうと思ったよっ! ちくしょうっ!」
「ガッハッハッ!!」
バンバン肩を叩いてくる。痛ぇからっ!
「じゃあ、気を付けて行ってこい!」
「トーイチさん、ありがとうございました」
笑顔で手を振る先輩と、頭を下げるリサさん。
「それじゃ、またっ!」
俺は先輩達と別れて歩き出す。カーク達への挨拶がまだなので、一先ず宿へ戻った。
宿に戻ったが日中だったので、当然カーク達はいなかった。
仕方ないので、俺はギルドへ向かった。
ギルドに行くと、怖いオーラを纏ったティリアさんが、仁王立ちで出迎えてくれた。
「……トーイチさん、何か言う事はありますか?」
「エーット……タダイマ?」
「何故戻ったらすぐ、ギルドに来ないんですか?」
「……? そんな規約ないでしょ?」
「それでも、です」
「……?」
「……コホン。で、今日のご用件は?」
「ああ。街を出るので、挨拶をと思いまして」
「……えっ? ベルセを出ちゃうんですか?」
「そうです、今回はアライズ連合国に向かう予定です」
「……ソンナ」
「まあ、そういう事なんで。次、ベルセに来ることがあったら挨拶に来ますね。お世話になりました」
「アッ、ハイ……」
俺はギルド内のロビーを見渡すが、他に知り合いもいないので、ギルドを後にした。
その足で図書館に行って、旅の経路を確認する。
皇都を経由して西へ行き、ルセリア帝国最大の商業都市を抜け、国境を越えたらアライズ連合国か……。
徒歩で二十日前後ってところかな。足りるとは思うけど、もう少し食料買っておくか。
各商店を回り、食料を追加し終わったところで、近くの店で昼食を取る。
まだ早い時間だけど、宿に戻ってカーク達を待つか……。
ゴロゴロしたり外に出て一服したりして時間を潰しているうちに、夕方になった。
そろそろかな、とロビーに降りると、カーク達がちょうど戻ってきた。
「お帰り」
「「「「ただいまですっ!」」」」
一緒に夕食をいただき、食べ終わって一息ついたところで話を切り出した。
「明日、ベルセを出る事にしたよ」
「……そうですか。寂しいですね」
カークが肩を落とした。
「まあ、そのうちまた会えるさ。こっちに知り合いもいるしな」
「カーク達はずっとベルセにいるのか?」
「そうですね……しばらくはベルセの周りでやっていくと思います」
「そっか……まあ土産は期待しないで待っていてくれ。戻ってきた時はちゃんと探すから」
「「「「はいっ!!」」」」
談笑しているうちに、夜は更けていく。
「明日は見送りとかいらないから、ここでお別れだ。四人とも、頑張れよ! ほら、右手の拳を握って、前に出しな」
俺は四人と、順番に拳を合わせていく。
「おやすみ。じゃあ、またな」
「「「「おやすみなさいっ!! またどこかでっ!!」」」」
こうしてカーク達と別れを済ませ、俺は宿を出て、歓楽街へ向かった。
翌朝。賢者モードの俺は、ダルい体を押して起き上がる。
「うぅ~~~……ダリィ~」
しかし無理してでも、今日ベルセを出発しなければっ!
昨日、明日出る事にしたよ(キリッ)とか、しなければ良かった……。
朝食を食べたら宿をチェックアウト。
皇都側の門に向かい、いつもの門番さんに挨拶して、ベルセを出た。
賢者モード中なので、ゆっくり歩く。
ちょくちょく休憩を挟んだのだが、気が付いたら夜で、魔物の死骸に囲まれていた。
「……アレッ?」
よく分からんが魔物が全滅している……見てみると、どうやら俺が広範囲雷属性魔法でやったっぽい。賢者モード恐るべし。
とりあえず、ドロップアイテムを回収回収。
街道から少し離れて『結界』を展開。
野営開始。野営地ではないので、今日は一人だ。
六日後の夕方、俺は皇都に到着した。ギルドマスターのマサシに見つかって面倒を押し付けられないよう、感知系無効の『結界』を展開。これで安心だ。
宿でチェックインして夕食を取り、さっさと休む。
翌日は図書館に行き、アライズ連合国への道を確認。
昼食を取り通りを散策。早めの夕食後、歓楽街へ。
さらに翌日は賢者モード突入、一日休む。
四日目、いよいよ皇都を出発する事にした。
皇都から西――ベルセから見たら北西に向かう。
途中の野営地では、商人や冒険者達とバーベキューして酒盛りだ。
商人には焼肉のタレの小瓶を一つ売った。よっぽど気に入ったのか、高値で買ってくれた。異世界で大活躍だな。
道中、ゴールデンホーンラビットなるレア種が出てきた。
素材も魔石も高く売れ、肉も絶品と『鑑定』先生が教えてくれた。
ただし、動きがメチャ速いらしい。
「……見える。私にも見えるぞっ!」
俺は雷属性強めの『マグナム』で狙い撃った。
ゴールデンホーンラビットに近付くと、痺れているだけだったので、とどめを刺し、回収・解体した。肉が楽しみだ。
狩りと野営を繰り返す事数日、俺は商業都市ガラニカに到着した。
「……おおっ……皇都に負けず劣らずって感じか。さすが帝国最大の商業都市」
入場審査のために、長い行列に並ぶ。
門は貴族用、商人用、一般用と分かれ、列も区別されていた。
貴族用の出入口はがらがら。商人用の出入口は一人頭の時間が長いみたいだ。
一般用は列こそ長いものの、サクサク進んでいる。俺の番まで二十分は掛かったけど……。
入場審査も手続きもすんなり終わり、都市内部に入った。
「おおっ! 賑わってんなぁ!」
凄い人の数だ。新宿駅ほどではないが、横浜駅くらいは人がいそう。
俺は門の近くにあった案内板に目を通し、各ギルドと宿屋の場所を確認した。
まずは冒険者ギルド、ガラニカ支部に入る。
受付に行き、買取カウンターへ。素材と魔石を売り、ホクホクで今度は商人ギルドへ。
商人ギルドでは、ゴールデンホーンラビットの素材を売る。
解体も綺麗で状態が良かったのに加え、市場に滅多に出ないとの事で、大分高く買ってくれた。
肉はないのか? と聞かれたが、俺が食べるから売らない。
冒険者はだいたい冒険者ギルドで素材を売ってしまうが、物によっては、商人ギルドの方が高く買ってくれる。
冒険者はわざわざ商人ギルドに行くのを面倒くさがるのだ。俺も面倒だと思うけど、お金は大事。
「金のために魔物と戦ってるんだから、高く売れる方が良いよな」
商人ギルドを出て、宿に向かい歩く。
すると、ガラの悪い五人組に道を塞がれた。
「よう兄ちゃん、景気良さそうだなぁ。俺達に分けてくれ――」
「断るっ!」
「ああっ? んだとっコラぁっ!! 痛い目見てえのかっ、あぁんっ?」
後をつけているのは、『マップEX』で知っていた。
……赤いモヒカンが一人に、スキンヘッドが四人。何で五人とも、トゲ付きの肩当てしてんだよ? 赤モヒは隊長機のつもりなの?
いかんっ! 超笑いそう。俺が我慢してプルプルしていると、男達が口々に言った。
「おいおい、下向いてブルッちまってんじゃん」
「あんま威圧すんなよ、リーダー」
「ああっ? 威圧なんかしてねえよっ!」
リーダーと呼ばれた赤モヒが怒鳴る。
やっぱりお前が隊長機かっ! 俺は堪えきれず噴き出したっ!
「ブハハハハハハッ!! ヒーッ……ブフッ! ククククク……」
ヤバいっ! 面白過ぎて呼吸が(笑)。
「……はあ……はあっ……はあ……」
俺が顔を上げて、涙目で五人組を見ると、凄く睨まれていた。
「何笑ってんだ! 舐めてんのかっコラ、ああっ!?」
「ふぅ……いや、すまん」
ようやく落ち着いた。
なんか怒ってんな。早くチェックインしたいんだが……。
そんな俺の考えが顔に出たのか、キレた五人組が殴りかかってきた。
まずは雷属性魔法で、五人組の動きを止める。
次の瞬間、赤モヒ以外の四人を蹴り飛ばす。
四人は頭から建物の壁に突き刺さり、愉快なオブジェになった。
赤モヒは驚き、俺を睨み付けてくる。
ほう……さすがリーダー。まだやる気か。三倍速いのか? 若さ故の過ちか?
赤モヒが膝を曲げて腰を落とし、前傾姿勢になった。レスリングに近い構えだ。
そして、流れるように……
「すみませんでしたぁーっ!」
……土下座した。
「アニキ! 宿はこっちですっ!」
「……」
「アニキ! あそこの屋台の串焼きはなかなかうまいですよ!」
一気に腰が低くなった赤モヒに、俺は冷たく言い放つ。
「アニキって言うな」
「……じゃあ親分、先輩、なんて呼べば良いんですか?」
「そもそも舎弟にした覚えはないっ! 付いてくんなっ!」
「アニキ! あっちの屋台もなかなか良い味出してるんですよ!」
「話聞いてるっ!?」
俺は宿とは反対方向に歩く。しかし、赤モヒは付いてくる。
宿から十分離れたところで『気配遮断』発動。『縮地』で距離を稼ぎ、『転移』で宿の近くへ。
これで見失ったろう。俺の逃走コンボは最強かもしれない。
俺はチェックインして部屋へ行く。
おかしい、商人ギルドを出た時はニコニコだったはずなのに疲れた……。
部屋で昼寝をして起きると、夕方を過ぎていた。
……寝過ぎたと思っていると、腹が鳴った。昼飯抜いちゃったからなぁ。
一階に降りると、食堂の入口に近いテーブルに、例の五人組が座っていた。
「あ、アニキ! この宿だったんスね!」
他の四人はビビッているが、赤モヒだけは遠慮なく話かけてくる。
俺は無視してカウンター席に座り、食事を注文した。
「アニキ、あっちのテーブルで一緒に食いましょうよ」
「嫌だよ。俺は一人で食べる」
赤いモヒカンが悲しそうな顔をしたって、可愛くもなんともないんだよっ!
「ほら、早く戻れっ」と、俺は大きく手を振った。
赤モヒが、「明日は一緒しましょうね」とテーブルに戻っていく。……ヤだよ。
俺は素早く食べ終わると、気配を消し、『縮地』で食堂を出た。
部屋へ戻り、『転移』で城壁の上へ跳び、一服する。
「すぅ……ふぅ……」
紫煙を吐き、夜風に当たる。
今日はまだまだ時間があるし、昼寝したから眠気もない。なら行くかっ!
火を消して携帯灰皿へ。『転移』で部屋に戻り、『マップEX』を確認。
五人組はどうやら部屋に戻っているようだ。ならロビー通っても平気だな。
俺は宿を出て、歓楽街を探して歩く。
くそぅ、昼間のうちに探しておくつもりだったのに……赤モヒめっ、今度会ったらドラゴンスクリューな!
酒場の多そうな通りを見つけたので、裏通りへ行くと、目的地を見つけた!
俺はその路地に吸い込まれていった……。
「いやぁ、マサシ以外で、日本の知り合いが来るとは思わなかった」
ゲラゲラ笑うソウシ先輩。
「っ~か、何で若いんです? 孫までいるのに……」
「あぁ~、何かこっち来た時に、神の加護とかで若返って老けなくなった(笑)」
「(笑)じゃないですよ……まったく……」
「お前も若いじゃねえか?」
「俺も、神の加護と似たようなもんですね……」
「そうか……じゃ、仕方ねえなっ!」
ガッハッハと笑う姿は、昔と変わってねえ。これで孫がいるとか、冗談としか思えない。
「……あの~~~……二人は知り合いだったの?」
リサさんが尋ねてくる。
「先輩」
「後輩」
俺とソウシ先輩が同時に答えた。
「いや、それだけじゃ分かんないから……」
「まあ、そうだな。面倒だからトーイチ頼んだ(笑)」
「トーイチさん、お願いします……」
リサさんに頼まれ、分かりやすく説明を試みる。
「仕方ない……え~っと、地元の学校の二つ年上で、悪友……って感じかな」
「掻い摘まむとそんな感じだなっ!」
俺は先輩に向き直った。
「……で、先輩はこっち来てどのくらいなんです? 何歳の時に来たんですか?」
「ん~、三十歳くらいの時だったか。んで、そっから六十年は経ってるな……」
「……そうすると、俺の十四~五年前くらいですかね」
「ん、向こうだとそんなもんなのか?」
「そうですね。あぁ、これで先輩と音信不通になった理由が分かったわ」
「はっはっはっ、すまんな。まあ、そんな理由だよ」
マサシもそうだったが、召喚時に時間のズレがありすぎる。
「お前はどうなんだ?」
「ああ、俺は……」
俺は簡単に、ポークレア王国に召喚された際の話をした。
「ああ、あの国な……。先々代の国王もそんな感じだったな」
「その時はどうしたんです?」
「殴った(笑)」
先輩らしい……。先々代も俺が会った豚王みたいな感じなら、殴らない理由がない。
「親父、国王殴ってたのか!?」
「お祖父ちゃん、王様殴っちゃってたの!?」
慌て出すリサさん親子。
「あぁ、戦争すっから手伝えだのなんだの言ってきやがったからな。気に食わねえから、鼻を折ってやった」
二人が頭を抱えた。
……俺も暴言を吐いて逃げたから、先輩の事は何も言えん。
しばらく話をして、先輩の家に場所を移し、昼食をいただいた。
午後も、先輩が六十年間何をしてきたか、俺の一ヶ月間の出来事、先輩がいなくなってから日本であった事など、話は尽きなかった。
「そう言えばお祖父ちゃん。元の世界の人と会った事ないって言ってなかった? さっきの話だと、冒険者ギルドのマスターは同郷じゃないの?」
リサさんが先輩に聞く。
先輩は引きつった表情になった。
「ソンナコトイッタッケ?」
「……やっぱり嘘だったのね」
リサさんがゆらぁと立ち上がり、目を細めて、笑顔で先輩を見ている。ゴゴゴゴッと音がしそうなほど、威圧感が出ているけどな。
「はぁ……お祖父ちゃんの事だから、どうせ忘れてたんでしょ? もういいわ」
ヤレヤレみたいな感じで、座り直すリサさん。
「すまんな。そう、忘れてた」
先輩、謝り方が雑っ!
「そんな事より、トーイチ、今日は泊まってけ! もう少し話そうぜ!」
「先輩、ノリ……変わってないですね……」
「はっはっはっ!」
その後、先輩の部屋(まさかの和室)に行き、布団を並べて遅くまで話をした。
やっぱりと言うか、異世界より日本の話が多くなった。マサシより俺の方が、年が近いからな。
翌朝、朝食をいただき、リビングでこれからの予定を話す。
「次は、アライズ連合国に行こうと思ってます」
「えっ? トーイチさん、ルセリア帝国出ちゃうんですか?」
「ああ、世界を回りたくてね」
リサさんの問いに答えると、クラウさんが口を開く。
「トーイチ。出る前に焼肉のタレ、置いてって」
……クラウさんはブレないな。
「おう、じゃあコレ持ってけ」
先輩が小さな箱を取り出した。
「ソレは?」
「双方向通信が可能な魔道具だ。ダンジョンや特殊な『結界』の外なら、電話のように通じる」
「貴重なんじゃ……」
「確かに貴重だけどな、だからこそ、渡す人間は選んでる」
ニカッと笑う先輩から、俺は箱を受け取った。
「……まったく……。ありがたくいただきますね」
「おうっ!」
そして、コソッと耳打ちしてくる先輩。
「呼び出したら『転移』で来いよ。そんで、タバコとビールを置いていけ。金は払う」
「そんな事だろうと思ったよっ! ちくしょうっ!」
「ガッハッハッ!!」
バンバン肩を叩いてくる。痛ぇからっ!
「じゃあ、気を付けて行ってこい!」
「トーイチさん、ありがとうございました」
笑顔で手を振る先輩と、頭を下げるリサさん。
「それじゃ、またっ!」
俺は先輩達と別れて歩き出す。カーク達への挨拶がまだなので、一先ず宿へ戻った。
宿に戻ったが日中だったので、当然カーク達はいなかった。
仕方ないので、俺はギルドへ向かった。
ギルドに行くと、怖いオーラを纏ったティリアさんが、仁王立ちで出迎えてくれた。
「……トーイチさん、何か言う事はありますか?」
「エーット……タダイマ?」
「何故戻ったらすぐ、ギルドに来ないんですか?」
「……? そんな規約ないでしょ?」
「それでも、です」
「……?」
「……コホン。で、今日のご用件は?」
「ああ。街を出るので、挨拶をと思いまして」
「……えっ? ベルセを出ちゃうんですか?」
「そうです、今回はアライズ連合国に向かう予定です」
「……ソンナ」
「まあ、そういう事なんで。次、ベルセに来ることがあったら挨拶に来ますね。お世話になりました」
「アッ、ハイ……」
俺はギルド内のロビーを見渡すが、他に知り合いもいないので、ギルドを後にした。
その足で図書館に行って、旅の経路を確認する。
皇都を経由して西へ行き、ルセリア帝国最大の商業都市を抜け、国境を越えたらアライズ連合国か……。
徒歩で二十日前後ってところかな。足りるとは思うけど、もう少し食料買っておくか。
各商店を回り、食料を追加し終わったところで、近くの店で昼食を取る。
まだ早い時間だけど、宿に戻ってカーク達を待つか……。
ゴロゴロしたり外に出て一服したりして時間を潰しているうちに、夕方になった。
そろそろかな、とロビーに降りると、カーク達がちょうど戻ってきた。
「お帰り」
「「「「ただいまですっ!」」」」
一緒に夕食をいただき、食べ終わって一息ついたところで話を切り出した。
「明日、ベルセを出る事にしたよ」
「……そうですか。寂しいですね」
カークが肩を落とした。
「まあ、そのうちまた会えるさ。こっちに知り合いもいるしな」
「カーク達はずっとベルセにいるのか?」
「そうですね……しばらくはベルセの周りでやっていくと思います」
「そっか……まあ土産は期待しないで待っていてくれ。戻ってきた時はちゃんと探すから」
「「「「はいっ!!」」」」
談笑しているうちに、夜は更けていく。
「明日は見送りとかいらないから、ここでお別れだ。四人とも、頑張れよ! ほら、右手の拳を握って、前に出しな」
俺は四人と、順番に拳を合わせていく。
「おやすみ。じゃあ、またな」
「「「「おやすみなさいっ!! またどこかでっ!!」」」」
こうしてカーク達と別れを済ませ、俺は宿を出て、歓楽街へ向かった。
翌朝。賢者モードの俺は、ダルい体を押して起き上がる。
「うぅ~~~……ダリィ~」
しかし無理してでも、今日ベルセを出発しなければっ!
昨日、明日出る事にしたよ(キリッ)とか、しなければ良かった……。
朝食を食べたら宿をチェックアウト。
皇都側の門に向かい、いつもの門番さんに挨拶して、ベルセを出た。
賢者モード中なので、ゆっくり歩く。
ちょくちょく休憩を挟んだのだが、気が付いたら夜で、魔物の死骸に囲まれていた。
「……アレッ?」
よく分からんが魔物が全滅している……見てみると、どうやら俺が広範囲雷属性魔法でやったっぽい。賢者モード恐るべし。
とりあえず、ドロップアイテムを回収回収。
街道から少し離れて『結界』を展開。
野営開始。野営地ではないので、今日は一人だ。
六日後の夕方、俺は皇都に到着した。ギルドマスターのマサシに見つかって面倒を押し付けられないよう、感知系無効の『結界』を展開。これで安心だ。
宿でチェックインして夕食を取り、さっさと休む。
翌日は図書館に行き、アライズ連合国への道を確認。
昼食を取り通りを散策。早めの夕食後、歓楽街へ。
さらに翌日は賢者モード突入、一日休む。
四日目、いよいよ皇都を出発する事にした。
皇都から西――ベルセから見たら北西に向かう。
途中の野営地では、商人や冒険者達とバーベキューして酒盛りだ。
商人には焼肉のタレの小瓶を一つ売った。よっぽど気に入ったのか、高値で買ってくれた。異世界で大活躍だな。
道中、ゴールデンホーンラビットなるレア種が出てきた。
素材も魔石も高く売れ、肉も絶品と『鑑定』先生が教えてくれた。
ただし、動きがメチャ速いらしい。
「……見える。私にも見えるぞっ!」
俺は雷属性強めの『マグナム』で狙い撃った。
ゴールデンホーンラビットに近付くと、痺れているだけだったので、とどめを刺し、回収・解体した。肉が楽しみだ。
狩りと野営を繰り返す事数日、俺は商業都市ガラニカに到着した。
「……おおっ……皇都に負けず劣らずって感じか。さすが帝国最大の商業都市」
入場審査のために、長い行列に並ぶ。
門は貴族用、商人用、一般用と分かれ、列も区別されていた。
貴族用の出入口はがらがら。商人用の出入口は一人頭の時間が長いみたいだ。
一般用は列こそ長いものの、サクサク進んでいる。俺の番まで二十分は掛かったけど……。
入場審査も手続きもすんなり終わり、都市内部に入った。
「おおっ! 賑わってんなぁ!」
凄い人の数だ。新宿駅ほどではないが、横浜駅くらいは人がいそう。
俺は門の近くにあった案内板に目を通し、各ギルドと宿屋の場所を確認した。
まずは冒険者ギルド、ガラニカ支部に入る。
受付に行き、買取カウンターへ。素材と魔石を売り、ホクホクで今度は商人ギルドへ。
商人ギルドでは、ゴールデンホーンラビットの素材を売る。
解体も綺麗で状態が良かったのに加え、市場に滅多に出ないとの事で、大分高く買ってくれた。
肉はないのか? と聞かれたが、俺が食べるから売らない。
冒険者はだいたい冒険者ギルドで素材を売ってしまうが、物によっては、商人ギルドの方が高く買ってくれる。
冒険者はわざわざ商人ギルドに行くのを面倒くさがるのだ。俺も面倒だと思うけど、お金は大事。
「金のために魔物と戦ってるんだから、高く売れる方が良いよな」
商人ギルドを出て、宿に向かい歩く。
すると、ガラの悪い五人組に道を塞がれた。
「よう兄ちゃん、景気良さそうだなぁ。俺達に分けてくれ――」
「断るっ!」
「ああっ? んだとっコラぁっ!! 痛い目見てえのかっ、あぁんっ?」
後をつけているのは、『マップEX』で知っていた。
……赤いモヒカンが一人に、スキンヘッドが四人。何で五人とも、トゲ付きの肩当てしてんだよ? 赤モヒは隊長機のつもりなの?
いかんっ! 超笑いそう。俺が我慢してプルプルしていると、男達が口々に言った。
「おいおい、下向いてブルッちまってんじゃん」
「あんま威圧すんなよ、リーダー」
「ああっ? 威圧なんかしてねえよっ!」
リーダーと呼ばれた赤モヒが怒鳴る。
やっぱりお前が隊長機かっ! 俺は堪えきれず噴き出したっ!
「ブハハハハハハッ!! ヒーッ……ブフッ! ククククク……」
ヤバいっ! 面白過ぎて呼吸が(笑)。
「……はあ……はあっ……はあ……」
俺が顔を上げて、涙目で五人組を見ると、凄く睨まれていた。
「何笑ってんだ! 舐めてんのかっコラ、ああっ!?」
「ふぅ……いや、すまん」
ようやく落ち着いた。
なんか怒ってんな。早くチェックインしたいんだが……。
そんな俺の考えが顔に出たのか、キレた五人組が殴りかかってきた。
まずは雷属性魔法で、五人組の動きを止める。
次の瞬間、赤モヒ以外の四人を蹴り飛ばす。
四人は頭から建物の壁に突き刺さり、愉快なオブジェになった。
赤モヒは驚き、俺を睨み付けてくる。
ほう……さすがリーダー。まだやる気か。三倍速いのか? 若さ故の過ちか?
赤モヒが膝を曲げて腰を落とし、前傾姿勢になった。レスリングに近い構えだ。
そして、流れるように……
「すみませんでしたぁーっ!」
……土下座した。
「アニキ! 宿はこっちですっ!」
「……」
「アニキ! あそこの屋台の串焼きはなかなかうまいですよ!」
一気に腰が低くなった赤モヒに、俺は冷たく言い放つ。
「アニキって言うな」
「……じゃあ親分、先輩、なんて呼べば良いんですか?」
「そもそも舎弟にした覚えはないっ! 付いてくんなっ!」
「アニキ! あっちの屋台もなかなか良い味出してるんですよ!」
「話聞いてるっ!?」
俺は宿とは反対方向に歩く。しかし、赤モヒは付いてくる。
宿から十分離れたところで『気配遮断』発動。『縮地』で距離を稼ぎ、『転移』で宿の近くへ。
これで見失ったろう。俺の逃走コンボは最強かもしれない。
俺はチェックインして部屋へ行く。
おかしい、商人ギルドを出た時はニコニコだったはずなのに疲れた……。
部屋で昼寝をして起きると、夕方を過ぎていた。
……寝過ぎたと思っていると、腹が鳴った。昼飯抜いちゃったからなぁ。
一階に降りると、食堂の入口に近いテーブルに、例の五人組が座っていた。
「あ、アニキ! この宿だったんスね!」
他の四人はビビッているが、赤モヒだけは遠慮なく話かけてくる。
俺は無視してカウンター席に座り、食事を注文した。
「アニキ、あっちのテーブルで一緒に食いましょうよ」
「嫌だよ。俺は一人で食べる」
赤いモヒカンが悲しそうな顔をしたって、可愛くもなんともないんだよっ!
「ほら、早く戻れっ」と、俺は大きく手を振った。
赤モヒが、「明日は一緒しましょうね」とテーブルに戻っていく。……ヤだよ。
俺は素早く食べ終わると、気配を消し、『縮地』で食堂を出た。
部屋へ戻り、『転移』で城壁の上へ跳び、一服する。
「すぅ……ふぅ……」
紫煙を吐き、夜風に当たる。
今日はまだまだ時間があるし、昼寝したから眠気もない。なら行くかっ!
火を消して携帯灰皿へ。『転移』で部屋に戻り、『マップEX』を確認。
五人組はどうやら部屋に戻っているようだ。ならロビー通っても平気だな。
俺は宿を出て、歓楽街を探して歩く。
くそぅ、昼間のうちに探しておくつもりだったのに……赤モヒめっ、今度会ったらドラゴンスクリューな!
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