理不尽フットボール~ただボールを蹴っただけなのに

砂糖水色

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1章

6話 トレーニングマッチ

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  クラブハウス横のピッチは観客席などなく、周囲に立っているのはスタッフと十数人の報道陣だけだった。  
芝を蹴るスパイクの音や選手同士の掛け声が、スタジアムよりもずっと生々しく耳に届く。  
  そんな中、垣谷紀香が笑顔で話しかけてくれる。
俺の人生にこんなターンが来るとは思っていなかった。
垣谷さんの胸元に目線をやらないよう気をつけながら垣谷さんの友人2人と談笑していると、顎髭の中年男性が
「スポーツ神奈川県の高橋です。佐古君インタビューいいかな?」
 そう言ってマイクを向けてきた。垣谷さん達はそそくさと立ち去っていく。そもそも部外者立ち入り禁止だと思うのだけど。
「分かりました。」
そう答えるとほかの報道の人達も周りにやってきた。
マイクやレコーダーを突き出されて、思わずのけ反りそうになる。
芸能人みたいだな、俺。
「この間の試合後インタビュー切り上げちゃったのは何があったの?」
「俺初めてのヒーローインタビューだったんですけどね。」
報道の人達があははと笑ってくれる。
「スタッフの人に耳打ちされてそそくさと帰っちゃったよね」
高橋さんがマイクを向けてくる。
「静岡に住んでるおばあちゃんが倒れたって聞いたんです。父親の車で病院に向かいました。
まあ、病院に着いたらばあちゃんケロっとしてたんですけどね。」
あぁ大変だったね。と周りから聞こえてくる。
「ばあちゃんはJリーグ始まった時から磐田のガチガチのファンで、興奮しすぎたらしいです。超笑顔で泣きながら罵られましたよ」

「面白い話だね。」
男性が言った。
「佐古くんはGKから転向したばっかりだって聞いたけどホント?」
今度はパンツスーツに身を包んだ30代くらいの気の強そうな女性が聞いてきた。
「そうですね。ユースに入れてもらってからなので、まだ1ヶ月も経ってないです。」
「ほ、ほんとうだったんだ。転向した直後にプロの試合でハットトリックしたのは凄いわね。」
「ありがとうございます。遠藤さんや仲川さんがお膳立てしてくれたので…僕はただ蹴っただけです。」
おぉーと小さい歓声が起きる。
「おーい佐古ーミーティングするぞー」
ムッキムキのフィジカルコーチが呼んでいる。
俺は報道の人達に軽くお礼を言ってミーティングに入った。


  
  ベンチに座って目の前の試合のレベルの高さに、選手達の熱量に驚く。
トレーニングマッチの熱量ではない。
つい最近まで普通の公立高校のサッカー部員だった俺と、このレベルでプレーしている選手達との差は大きい事を実感する。
 プロの選手は声の大きさもそうだが、よく通る声を出す。
コートの反対側のGKの声やコーチたちの指示が聞こえてくる。
スピード、パワー、技術。
そして1番違いを感じるのは判断の速さ。
そして当たり前だけど、プロンタールは強かった。
毎年J1で優勝争いをし、ACLアジアチャンピオンズリーグでも上位常連の強豪だ。
日本代表に選出される選手も珍しくない。
 方やうちのチームはJ2降格ギリギリ。
当然現役の代表選手はいない。
お互い主力ではない選手がメインの試合とはいえ実力差は歴然としていた。
 
  前半30分。
0-2とそこまでスコアに開きがないのはウチのチームが割り切ってFWの選手まで守備に奔走しているからだろう。
特に目立っているのはプロンタール右サイドの14番伊藤。
身長は175位細身だけど、スピードがありラストパスのクオリティが高く、何よりプレーの判断スピードが速い。
1点目の起点になり、2点目は23番垣谷陽一へのファーへの高速クロスでのアシストだ。
かなり若い選手だと思うけど、飄々と高いレベルのプレーをしている。
今日のトレーニングマッチは30分×3本。
俺の出番は最後の1本30分。
そう言われている。
俺が出場すれば目の前でマッチアップする相手だ。
交代人数に制限はないから交代後かもしれないが。
今日は監督に
「基本的にロングキックは蹴るな。試合でお前の基本能力を見たい」
そう限定されている。
俺はあの14番相手に何が出来るのかを模索すべく試合を凝視する。

 

 

 
 
 
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