理不尽フットボール~ただボールを蹴っただけなのに

砂糖水色

文字の大きさ
8 / 18
1章

8時 次の展開

しおりを挟む
  コート内外が何だかざわざわしている。
それはそうだ。
距離80m以上あったはずだ。
 
サッカーボールってあんな距離を飛ぶのか。
しかもGKのゴールキックのように助走を取って蹴った訳ではない。
トラップしてワンステップ。それだけだ。
そこまでの距離を正確に飛ばせるサッカー選手は世界中に沢山いるのだろうか。
コートから少し離れたベンチから見ていた私は興奮にも似た感情を覚えた。
一緒に来てくれた友人藤井ちゃんが不思議そうに聞いてきた。
「アリなの?今の」
「アリだよ。何も問題はない…」
藤井ちゃんはあまりサッカーに詳しくはない。
「でも見た事ないよ。あんな遠くからゴール」
「…そうだね。ハーフラインからとかでも相当に珍しいと思う」
サッカー経験者の私も一度も見た事がない。
小学生の時は稀にあった。
GKのパントキックがそのまま入ってしまったと聞いた事がある。
「もしかして、と、とんでもない?」
私は何も言わずに首を縦に振った。
さっきまで14番にやられっぱなしだった、佐古君を全ての人が怪訝だったり、不思議な顔で見ている。
 
 …宇宙人を見るような顔。
 
とんでもない物を見てしまった気がする。
 
  今のキックを佐古君がいつでも出来るとしたら、キーパーは常にゴールに張り付いている必要がある。
サッカーのロングボールをキャッチするのは見た目よりかなり難しい。
 私は本当に苦手だった。
ボールが小さな野球と違ってサッカーボールは風の影響を大きく受ける。
 落下地点が大きく変わることも珍しくない。
それにパスを受ける為に前に出るのが難しくなってしまう。
そうなると次に起こるのは…。

ゲームが再開されると、さっきまで軽快に繋がっていたプロンタールのパスワークがぎこちない気がする。
J1の強豪プロンタールが…佐古君のワンプレーに動揺している。
あっさりと藤沢がボールを奪い攻守が入れ替わる。
藤沢の左サイドの32番がドリブルでペナルティエリア付近までボールを進めた。
 左サイドバックの佐古君がオーバーラップをする。
 32番が佐古君をチラッと見るとディフェンダーが釣られて少しスペースを作った。
その隙間を通すようにFWの選手とのワンツー。
リターンからのダイレクトでのシュートは大柄なディフェンダーに寄せられ、力なくキーパーの正面に飛んでしまった。
さっきまでプロンタールがやっていたようなサッカーを藤沢がやっている。
プロンタールのゴールキーパーがオーバースローで佐古君の上がったポッカリと空いたサイドへボールを送る。
佐古君が全力で戻るが、さすがプロンタール。
藤沢よりも明らかに攻守の切り替えが早い。
あっという間にシュートまで持っていった。
地を這うようなシュートに藤沢のGKジジマールが横っ飛びで弾くとセンターバックの選手がコートサイドに蹴り出した。
そのボールは戻ってきた佐古君の足元へ収まる。
 大きく息を切らしたまま佐古君がボールを蹴ろうとする。
プロンタールの14番、伊藤が叫びながらプレスに来る。
「やらせるかボケぇ!」
佐古君は振り上げた足を途中で止め、切り返す。

そして左足を振りぬいた。
「どーせお前の左足は飾りやろぉ」
 伊藤が叫ぶのが聞こえた。
プロンタールのキーパーはゴールの近くにいる。
佐古君が左足で蹴ったボールはペナルティエリア手前で落ちる。
そこへ右サイドハーフ新人のブラジル人ロニーニョがゴールに向かって斜めに走り込み、キーパーと1対1になる。
ロニーニョが右足を振り上げるとプロンタールのキーパーはXのような形に体をめいっぱい広げる。
 ロニーニョはそれを見て軽やかに足を止めボールをズラす。キーパーをかわしたところで左足でゴールにパスをした。
 
  ネットが揺れた瞬間ピッチが静まり返った。
私も藤井ちゃんも松井ちゃんも気が付いたらベンチから立ち上がっていた。
プロンタールのベンチでは私の兄陽一が佐古君を親の仇のような顔で睨んでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...