妹の婚約者の娼婦になった私

京月

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 オリンと私は店のコンシェルジュに連れられ別の部屋に移動する。
 この店は貴族、特に成人の儀を終えた青年が娼婦を身請けする際によく使われる娼館で、お試しを行うことが出来る部屋が用意されているのだ。
 ここで1晩夜を共にし相性を確かめる。
 オリンはそのことを知っているため恥ずかしさからか顔が少し赤い。


「そんなに緊張なさらないでくださいオリン様」
「す、すまない。どうしても力が入ってしまって…」



 コンシェルジュに案内されたのは部屋の大きさには似合わないほど広々としたベットが置かれた部屋、ここで私とオリンは夜を過ごす。
 部屋に入るなり緊張してどうしたらいいのか迷っているオリンを誘導するように私はベットの淵に座った。


「オリン様もこちらへ座ってください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「フフフ、オリン様って何だか可愛らしいですね」
「それは褒めているのか?」
「もちろんです。まだ会って数刻しか経ってませんが、オリン様の性格の良さが伝わってきます」


 私はいつものように部屋に備え付けられた飲み物をグラスについでオリンに渡す。


「ありがとう」
「やっぱりオリン様はお優しい人です。ここのお客さんは私達娼婦にお礼なんて言いません。私達を道具としてしか見ていない人ばかりなんですよ」
「それは…ひどいな」
「それが当たり前なのです。生きていけることだけでも感謝するくらい私達娼婦は弱い。それぞれが何かしらの事情で逃げてきた子ばかりですから」
「…ラーナは何でここに?」


 娼婦の過去を聞くのはご法度、それはオリンも承知している。
 だがそれでも気になってしまったのだ。


「あまり面白みのない話ですがー」


 そう言って私は自分の過去について話した。
 父親がろくでもないクズで日々暴力に恐怖する幼少期を送ったこと、母親が私をおいて自分1人で逃げたこと。食べる物に困り残飯をあさりながら気づけば朝になっていたこと。
 聞けば気が滅入るような話をオリンに聞かせた。


「気が付けば私は娼婦、体は汚れてしまいましたが、夢だけはまだ持っているんです」
「夢?」
「…生き別れの妹に会うことです。私を慕い私自身も大好きだった妹、今どこで何をしているのかは分かりませんがいつか必ず再開したい」


 オリンは私の話を聞き涙を流す。
 私は慌てて布で拭こうとするがオリンは私の手を取ると曇りない瞳で目を見つめてくる。


「必ず会える!僕がライラを助けるよ!」
「…ありがとうございます」


 そのまま私達は唇を合わせベットへと倒れこむ。
 オリンとライラの秘め事は一晩中続いた。



◇◇◇◇



 翌朝、まだ夢の中にいるオリンを横目にライラは部屋の洗面所に向かう。
 そこには一枚の大鏡が取り付けられ、一糸まとわぬ姿がはっきりと映る。


「初めてなら仕方ないけどこれは跡が残りますね。それにして本当に優しくて心の清いお方。これならすぐに懐柔できますね」


 ベットに戻ると寝顔を晒すオリンの額に口付けをするライラ。




(ごめんなさいオリン。あなたに話した私の過去の話……全部嘘なの)
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