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第八話

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「今日は良い天気だな…」


 私は部屋の窓から青空を見上げつぶやく。視線を空から離さない、いや離したくない。目の前の現実を見るのが怖くて現実逃避をしているのだ。それを許さない人物が一人いる。


「聖女様!集中して下さい!」


 みんなご存じカナさんだ。この人は本当に何でもできる優秀な人で特に勉学に関してはかなりの成績を残してきたらしい。私の目の前には山のように教科書や参考書が積まれている。私は今カナさんに勉強を教えてもらっているのだ。何故こんなことになっているのか、それは少し前の話。



「クイズ王決定戦?あの?」


「はい、我が国で一番の視聴率を誇っている有名人や著名人などがクイズで勝負をする人気番組です」


「知ってるよ、面白いよねあれ。でもどうして急にその話が出てきたの?」


「実は今度のクイズ王決定戦に聖女様が招待されたのです」


「ほんと!?それは楽しみだな~。カッコいい俳優さんとかに会えるかも」


「私としても聖女様にはこの番組に出て頂きたいのです。ここで活躍すれば知名度はさらにアップし加護の効果も強まるでしょう」


「活躍って私そんなに頭良くないから活躍は出来ないと思うよ」


「え?冗談ですよね?」


「いや冗談じゃないよ。私聖女になる為の修業ばかりしてたから勉強なんてやってないんだよ」


「そんな…このままでは聖女様の痴態が全国民に見られてしまう。それだけは避けなければ!聖女様、勉強しましょう!」


 こうして今現在に至る。私は勉強をやってこなかったせいで勉強に苦手意識がありどうしても集中が出来ない。何とか逃れようと泣いたり叫んだりしたけどダメだった。あ~あ空が青いな…


「聖女様、集中して下さい」


「無理」


「はぁ…どうしたらやる気を出してくれるのですか?」


「う~んそうだな~、ならファンタズマエールがご褒美であるならいいよ」


 ファンタズマエールは世界に三本しか残っていない伝説のお酒、その貴重性からもはや国宝とどう価値となっており入手することなどまず不可能。これで私は勉強しなくて済む。そう思っていた…



「分かりました、すぐに手配させます」


「え?」


 カナさんは部下を数人呼ぶと何かを伝える。するとすぐに部下たちはどこかに消え一日と立たず帰って来た。ファンタズマエールを持って…


「これで勉強して頂けますね?」


「ま、待って!こんな貴重なものどうやって手に入れたの?」


「この国の王様が一本所有してまして少しお願いしたらくれました」


 そんなわけないだろう!このお酒のラベルがかすかに濡れている。これは確実に王様がカナさんに渡すときに流した涙だ。一体何なんだこの人!


「さぁ聖女様、勉強の時間です」


 それから私はカナさん指導の元勉強に励みクイズ王決定戦では優勝は逃したものの準優勝という誇れる結果を残した。


 ファンタズマエール、最高でした。ごめんね、王様。
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