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「ど、どいうことですか?」


 突然のことに理解が追い付かない。
 あの冷血王子マルサ様が私の全てを欲しがっているという事実が私の頭を混乱させていた。
 

「先ほども申した通りだ。我がこの契約で臨む要求はただ一つ、レイナの全て」


 …こんなのあり得ないわ。
 いくら次期王様と皇帝との契約だとしても私にだって人権はあるのよ。
 それに私はゼスファー様の婚約者、将来の結婚相手を欲しいと直談判するなんて非常識だわ、こんな失礼な申し立てゼスファー様なら断るに決まってる!


「分かりました。では私は帝国の指定した鉱山を我が国と独占契約する。これでどうでしょう?」
「っ!!待ってください!!」
「…なんだいレイナ?」
「ゼスファー様…私を売られるのですか?」
「ああ、そうだよ」


 …私は婚約者なのよ。
 なのにどうしてそんなひどいことが即答できるの?


「こんなの嘘に決まってます!ゼスファー様が私を売るなんてそんな…私はあなたを愛しているのです。それなのに…嫌ではないのですか!?愛する者が他人に奪われるのですよ!?」


 乱れる気持ちが涙となって溢れ出しまう。
 そんな私を見てゼスファー様は呆れた表情をしていた。


「レイナ…君はもう少し頭のいい人間だと思っていたんだけどな。考えてもみろ、君一人がマルサ王子の物になるだけでボルトス王国はさらに繁栄することが出来る。天秤にかける必要すらない選択だ。それに愛する者と言ったが私は君をそこまで愛したことは無いぞ」
「…え」
「公爵令嬢という肩書が私の隣に立つにふさわしかっただけだ。思い出せ、私が一度でも君を愛していると口にしたことがあったか?」


 …本当だ、私は今まで一度もゼスファー様から愛していると言われたことが無い。
 それなのに私はただ優しくしてくれているだけのゼスファー様に本気になって…馬鹿みたい。
 膝から崩れ落ちたレイナを尻目にゼスファーは視線をマルサに戻す。


「申し訳ないマルサ王子、お見苦しい所を見せた。何只の癇癪に過ぎない。数日もすれば受け入れるだろう」
「…気に食わんな」
「…それはどういう意味ですかな?もしやこの契約を無かったことにと?それはいくら何でも許容できかねます」
「そうではない。ゼスファー殿のレイナに対する評価が気に食わないのだ」


 私に対する評価?


「契約に追加だ。我は変わらずレイナの全てを要求する。そしてボルトス王国には…そうだな帝国領土の半分をくれてやろう」
「正気かマルサ王子!」


 今まで余裕のあったゼスファー様が驚きのあまり立ち上がる。
 そんな私もあまりの衝撃で数秒ほど思考が停止してしまった。
 帝国の半分といえばボルトス王国の3倍ほどの領土になる。鉱山資源も豊富で川や森林もあるから畑だって問題なく広げることが出来る。
 これは戦争にすらなりかねないほど異様な契約だ。


「もちろん正気だとも。我は次期皇帝、逆らうやつなどおらん。それともこれでは不服か?」
「…いやそうではないが…契約は絶対不屈、取り消すことは出来ないぞ?」
「くどい!何度も言わせるなゼスファー殿」
「そうだな…ではこれをもって契約を完了した物とする。すぐにでもレイナはそちらにお渡ししよう」
「ああ。こちらも帝国の半分は速やかに引き渡す。よい契約が出来た」


 握手をする2人。
 私は帝国の半分と引き換えにマルサ王子に買われた。
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