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10 オレの従兄弟が面倒くさい
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「兄上!」
バンッと勢いよく開かれる扉。
コウラン国第一王子にして、王太子であるルーカス・フォン・コウランの執務室では、現在従兄弟にしてルーカスの側近、トール・キュロスと、ルーカスの妹であり、トールの婚約者である第一王女ティリス・フォン・コウランが仲良く仕事をしている最中だった。
そこに、ノックもなく扉が開かれ、大きな声で部屋の主を呼ぶ人物が入って来た。
その人物の登場に、ルーカスは目を細め、ティリスは驚いた表情になる。
そんな中、トールはと言うと…………。
うーわー。
タイミング悪ぃー。
どうも、この物語の主人公シフォンの従兄妹、トールです。
現在、オレとルーカス、そしてティリスの三人は、数ヶ月後に行われるルーカスの婚約式に向けて、私的な招待客の選別作業をしていた。
本来であれば、招待客の選別は宰相をはじめ高位の文官の仕事なのだが、今回は特別、人数制限はあるが友人枠で何人か呼んでも良いと宰相からあったのだ。
あの叔父は本当に娘に甘い。
まぁ、普段鬼の様に厳しい宰相閣下しか知らない者があの溺愛っぷりを見たら卒倒するだろうな。
と言う訳で、オレ達は親しい友人の中から誰を呼ぶかなど話し合っていた…………のだが。
「兄上、貴方ですね!トールからミカにあんな指示を出させたのは!」
突然の訪問者。しかもよく見知った人物の登場に頭を抱えた。
だが、名指しされたルーカスはといえば、その人物を見るなり一気に不機嫌になる。
「煩いぞ、アルフォンス。それと、部屋に入る時はノックをしろ」
淡白に、だが、かなり不機嫌に口を開いた従兄弟殿。
ったく、勘弁しろよ。お前ら兄弟の喧嘩なら空き時間にしやがれ!今忙しいの!空気読めよ、特にアルフォンス!
ただでさえ、友好国を含め、付き合いが長く友人と呼べる人数は多いのだ。
その中から、自分達と特に繋がりがある…………言い方は悪いが、将来有益になる人物を選ばなくてはならないというのに。
兄弟喧嘩なら他所でやってくれ!
と、まぁ、お察し頂けただろうか。
先程この部屋に乱入して来た人物は、ルーカスとティリスの弟である「アルフォンス・フォン・コウラン」だ。
と言っても、その血はルーカスとは半分しか繋がっていない。
正妃様のお子であるルーカスと違い、アルフォンスは第二妃様の子供なのだ。因みに補足すると、ティリスとアルフォンスは母も同じ実の姉弟になる。
とは言え、ここの兄妹仲は悪くない。むしろとても良いだろう。
だが、半月前に事態は一変した。
ルーカスとシフォンの婚約だ。
「兄上!貴方は、どこまで彼女を縛る気ですか!それに…………シフォンはっ!…っ」
「それに?…………何だ?今更シフォンに自分の気持ちでも伝えるつもりだったのか?」
おいーーー!
今それ言うなよ!
傷口に塩塗りまくりじゃねぇか!
このマヌケ…………ではなく、アルフォンスがシフォンに好意を抱いていた事は、本人を除く殆どの人間が知っている。
知らないのはシフォンだけだ。
アルフォンスは、今は良くなったが、幼い頃は体が弱く大変だった。しかも、アルフォンスを出産後、第二妃様は体を壊され、普段の生活が難しくてなってしまった。
それに、アルフォンスが「王子」という事が面倒を引き起こした。
第二妃派の連中が調子に乗り、次期王太子の座をアルフォンスにと影で動き始めていたのだ。
これには、正妃様との仲が良かった第二妃様がかなり心を痛められた。
そこで、色々ありアルフォンスは第二妃様の遠縁だったシフォンの実家であるレイモンド公爵家に預けられる事になったのだ。
アルフォンスが生まれた時、ちょうどレイモンド公爵夫人もミカエルを産んで間もない時期で、第二妃様との縁もあり、乳母として望まれた経緯があるというのも大きかった。
ここで疑問に思うだろうが、何故、シフォンだけがその事実を知らないのか。
アルフォンスとシフォンが出会ったのは、まだ二人が幼い頃というのもあったが、アルフォンスが望んだのだ。
シフォンには自然体で接してもらいたいと。第二王子ではなく、ただのアルフォンスという幼馴染として接してほしいと。
「兄上、貴方は卑怯だ!僕だってずっと彼女の事を想っていたのに、今更横から奪う様な事をするなんて。兄上だってご存知だったはずではないですか!それなのに、今更っつ」
そう、アルフォンスはずっとシフォンを大事にしていた、だが、大事にするあまり自分の気持ちを伝えられずに過ごしていたのだ。
それを、いきなり兄が婚約者にしてしまった。
それは、まぁ…………キレるわな?
アルフォンスは、婚約が決まってから、一切城に近付かなかった。
だが、今回の護衛の件で我慢ならなくなったのだろう。
「馬鹿が、お前のは自業自得だ」
「自業自得ですか?では、兄上はシフォンの何を知っているのですか!夜会や催事でしか彼女に会った事がないくせに!」
うーん、こいつはこいつで、何も知らないんだよな~。
ルーカスは、アルフォンスが言うように何も知らない訳じゃない。むしろ、アルフォンスと同じくらいよく知っていると言っても過言ではないだろう。
ま、これもシフォンは知らない事なんだがな。
ギャーギャーと喚くアルフォンスに、どんどん不機嫌になるルーカス。
そんな面倒くさい空気の中、ツンツンと、服の裾が引っ張られた。
「トール、二人の事は少し放置しましょうか?…………面倒ですから」
呆れた表情のティリスだった。
ブロンズ色の髪にアイスブルーの瞳を持つ美しい彼女は、その笑顔だけでも相当な破壊力がある。
「…………ティリス」
従兄妹にして我が婚約者殿は、本当に面倒くさそうな表情でオレを見上げていた。
まぁ、その気持ちは物凄く分かる。
「いーのかよ、アレ放置で?…………オレ、一応ルークの側近なんだけど」
「仕方ないわよ。大体、二人とも自業自得でしょ?お兄様もアルも言葉が足らなすぎるわ。あれで、あの鈍いシフォンに分かってもらおうと思うのがいけないのよ」
うん、相変わらずど正論なご発言ですね。
「んじゃ、別の部屋でお茶でもしますか?ちょうど休憩挟みたかったし」
「そうね。アルは後でミカエルにでも押し付けるわ。お兄様の事は貴方が宜しくね?」
「って、丸投げっすか?姫」
うん、相変わらずな姐さんっぷり…………でも。
「大丈夫。貴方の事は、後で私が慰めてあげるから…ふふ」
本当に、飴とムチがお上手なお姫様ですこと。
バンッと勢いよく開かれる扉。
コウラン国第一王子にして、王太子であるルーカス・フォン・コウランの執務室では、現在従兄弟にしてルーカスの側近、トール・キュロスと、ルーカスの妹であり、トールの婚約者である第一王女ティリス・フォン・コウランが仲良く仕事をしている最中だった。
そこに、ノックもなく扉が開かれ、大きな声で部屋の主を呼ぶ人物が入って来た。
その人物の登場に、ルーカスは目を細め、ティリスは驚いた表情になる。
そんな中、トールはと言うと…………。
うーわー。
タイミング悪ぃー。
どうも、この物語の主人公シフォンの従兄妹、トールです。
現在、オレとルーカス、そしてティリスの三人は、数ヶ月後に行われるルーカスの婚約式に向けて、私的な招待客の選別作業をしていた。
本来であれば、招待客の選別は宰相をはじめ高位の文官の仕事なのだが、今回は特別、人数制限はあるが友人枠で何人か呼んでも良いと宰相からあったのだ。
あの叔父は本当に娘に甘い。
まぁ、普段鬼の様に厳しい宰相閣下しか知らない者があの溺愛っぷりを見たら卒倒するだろうな。
と言う訳で、オレ達は親しい友人の中から誰を呼ぶかなど話し合っていた…………のだが。
「兄上、貴方ですね!トールからミカにあんな指示を出させたのは!」
突然の訪問者。しかもよく見知った人物の登場に頭を抱えた。
だが、名指しされたルーカスはといえば、その人物を見るなり一気に不機嫌になる。
「煩いぞ、アルフォンス。それと、部屋に入る時はノックをしろ」
淡白に、だが、かなり不機嫌に口を開いた従兄弟殿。
ったく、勘弁しろよ。お前ら兄弟の喧嘩なら空き時間にしやがれ!今忙しいの!空気読めよ、特にアルフォンス!
ただでさえ、友好国を含め、付き合いが長く友人と呼べる人数は多いのだ。
その中から、自分達と特に繋がりがある…………言い方は悪いが、将来有益になる人物を選ばなくてはならないというのに。
兄弟喧嘩なら他所でやってくれ!
と、まぁ、お察し頂けただろうか。
先程この部屋に乱入して来た人物は、ルーカスとティリスの弟である「アルフォンス・フォン・コウラン」だ。
と言っても、その血はルーカスとは半分しか繋がっていない。
正妃様のお子であるルーカスと違い、アルフォンスは第二妃様の子供なのだ。因みに補足すると、ティリスとアルフォンスは母も同じ実の姉弟になる。
とは言え、ここの兄妹仲は悪くない。むしろとても良いだろう。
だが、半月前に事態は一変した。
ルーカスとシフォンの婚約だ。
「兄上!貴方は、どこまで彼女を縛る気ですか!それに…………シフォンはっ!…っ」
「それに?…………何だ?今更シフォンに自分の気持ちでも伝えるつもりだったのか?」
おいーーー!
今それ言うなよ!
傷口に塩塗りまくりじゃねぇか!
このマヌケ…………ではなく、アルフォンスがシフォンに好意を抱いていた事は、本人を除く殆どの人間が知っている。
知らないのはシフォンだけだ。
アルフォンスは、今は良くなったが、幼い頃は体が弱く大変だった。しかも、アルフォンスを出産後、第二妃様は体を壊され、普段の生活が難しくてなってしまった。
それに、アルフォンスが「王子」という事が面倒を引き起こした。
第二妃派の連中が調子に乗り、次期王太子の座をアルフォンスにと影で動き始めていたのだ。
これには、正妃様との仲が良かった第二妃様がかなり心を痛められた。
そこで、色々ありアルフォンスは第二妃様の遠縁だったシフォンの実家であるレイモンド公爵家に預けられる事になったのだ。
アルフォンスが生まれた時、ちょうどレイモンド公爵夫人もミカエルを産んで間もない時期で、第二妃様との縁もあり、乳母として望まれた経緯があるというのも大きかった。
ここで疑問に思うだろうが、何故、シフォンだけがその事実を知らないのか。
アルフォンスとシフォンが出会ったのは、まだ二人が幼い頃というのもあったが、アルフォンスが望んだのだ。
シフォンには自然体で接してもらいたいと。第二王子ではなく、ただのアルフォンスという幼馴染として接してほしいと。
「兄上、貴方は卑怯だ!僕だってずっと彼女の事を想っていたのに、今更横から奪う様な事をするなんて。兄上だってご存知だったはずではないですか!それなのに、今更っつ」
そう、アルフォンスはずっとシフォンを大事にしていた、だが、大事にするあまり自分の気持ちを伝えられずに過ごしていたのだ。
それを、いきなり兄が婚約者にしてしまった。
それは、まぁ…………キレるわな?
アルフォンスは、婚約が決まってから、一切城に近付かなかった。
だが、今回の護衛の件で我慢ならなくなったのだろう。
「馬鹿が、お前のは自業自得だ」
「自業自得ですか?では、兄上はシフォンの何を知っているのですか!夜会や催事でしか彼女に会った事がないくせに!」
うーん、こいつはこいつで、何も知らないんだよな~。
ルーカスは、アルフォンスが言うように何も知らない訳じゃない。むしろ、アルフォンスと同じくらいよく知っていると言っても過言ではないだろう。
ま、これもシフォンは知らない事なんだがな。
ギャーギャーと喚くアルフォンスに、どんどん不機嫌になるルーカス。
そんな面倒くさい空気の中、ツンツンと、服の裾が引っ張られた。
「トール、二人の事は少し放置しましょうか?…………面倒ですから」
呆れた表情のティリスだった。
ブロンズ色の髪にアイスブルーの瞳を持つ美しい彼女は、その笑顔だけでも相当な破壊力がある。
「…………ティリス」
従兄妹にして我が婚約者殿は、本当に面倒くさそうな表情でオレを見上げていた。
まぁ、その気持ちは物凄く分かる。
「いーのかよ、アレ放置で?…………オレ、一応ルークの側近なんだけど」
「仕方ないわよ。大体、二人とも自業自得でしょ?お兄様もアルも言葉が足らなすぎるわ。あれで、あの鈍いシフォンに分かってもらおうと思うのがいけないのよ」
うん、相変わらずど正論なご発言ですね。
「んじゃ、別の部屋でお茶でもしますか?ちょうど休憩挟みたかったし」
「そうね。アルは後でミカエルにでも押し付けるわ。お兄様の事は貴方が宜しくね?」
「って、丸投げっすか?姫」
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