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11 私の従兄弟達が面倒くさい
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「で?…………何故私がアルフォンスを迎えに来ないといけなかったんだ?」
ルーカス殿下の執務室内にて、私は頭を抱えた。
状況から見て、何故自分が呼ばれたのか大体察しはつくが…………うん。
「…………一人で帰宅しても良いだろうか?」
さて、先ずは挨拶から。
私の名は、ミカエル・レイモンド。この物語の主人公シフォンの兄だ。
申し訳ないが、少し愚痴らせてもらいたい。
なんと言うか、今日は厄日か何かなのだろうか。
昨日、ルーカス殿下の命をトール兄上より聞き、それに従うため妹の護衛を兼ねて彼女の側に居たというのに、その妹から言われた言葉は「お兄様自身が「面倒くさい方」になっておりますわ」だった。
しかも、話した事もない令嬢達から今日はやたら話しかけられる始末。
何故芋や南瓜からやたらと話しかけられなくてはならないのだ!寒気がする。
最終的には妹から「鈍い」と言われてしまった。
こればかりは、アイツには言われたくないセリフだ。シフォンの方が余程鈍いくせに。
全く不快だ。妹へは普段通りの接し方しかしていないはずなのに、どうしてああなったのか。
もう溜息しか出てこない。
本当に、私が何をしたというのだろうか。
全く、ここ最近王族絡みでろくな事がない!
大体、ルーカス殿下の妹への好意は知っていたし、妹も殿下の事を少なからず気にしているのは知っていた。
(……………と、まぁ今この話をすべきではないな。いずれ、この事は皆が知る事になるのだから。)
とにかく、それは追々として、今回陛下の打診もあり、父上も折れたため、二人は婚約する事となった訳だが、それに伴う面倒事が多すぎた。
まず、殿下の二つ名でもある「氷の王子」。その仮面が未だ取れない。
いい加減、腹を括っていただきたいのだが、いかんせん、殿下の「アノ」性格だ。
これだから兄上に根暗だのとチクチク言われるのだ。
しかも、ルーカス殿下だけでなく、兄上も面倒事を直ぐに持ってくる。
今回、殿下の命を私に伝えに来た時も、ミミリアから来たという苦情がたっぷり書かれた五十枚以上にも及ぶ手紙を持参していた。
しかも、それを私も読めと言うのだ。自分だけ受ける理不尽をお前も巻き添えで受けろと…………。
とんだ八つ当たりだった。
で、最終的に「コレ」だ。
アルフォンス殿下…………アルが妹に向ける好意は、あの鈍い妹以外、家族をはじめリリアナですら昔から知っていた。
そう、実の兄であるルーカス殿下も。
だが、アルフォンスは妹が大事なあまり、その気持ちを伝える事なくズルズル…………。
見ている此方がイライラする程だった。
そしてつい先日、事態が動いた。
妹と、アルフォンスの兄ルーカス殿下の婚約だ。
公爵家の人間というのもあり、妹はルーカス殿下の求婚を受け入れた。
貴族に生まれたからには、お家のために嫁ぐのも仕方ない。そう割り切っての婚約だったのだが、その事実を知ったアルフォンスの心情は大変荒れた。
アルフォンスはルーカス殿下が妹と以前から接触している事を知らない。
それもあり、ルーカス殿下が横から奪った様に感じているのだ。
「それで、私はアルフォンス殿下を連れて帰ればよろしいので?」
しかめっ面のルーカス殿下に、疲れた顔のトール兄上。そして、いつもの様に凛とした空気を纏い、非常に落ち着いてらっしゃるティリス殿下。
そして、問題の人物であるアルフォンス殿下は、魔法により拘束されていた。
まったく、この男は何を仕出かしたんだ。
「本当に、手間をかけるわねミカ?弟はあまりにも煩いから黙ってもらったの」
ティリス殿下は、ニコリと美しい笑みをつくるが、仰る内容はとんでもなかった。
いくら弟でも、煩いから拘束したなど…………はぁ。
本当に、何を言ったのやら………まぁ、大体の想像はつくが。
「だって、お兄様の執務室に入るなり大声で喚くのですもの。自分の事は棚に上げてるし、聞いていて少しイラつきましたの。それに、今お兄様の婚約式の段取りで忙しいんですのよ?こんな愚弟の愚痴に構っている時間が勿体ないですわ」
相変わらずの正論と、辛口。
私には関係ないが、この方が次期公爵夫人となられた日には…………確実に兄上は尻に敷かれるだろうな。
「すまないな、オレ達は今忙しくてな。ミカにしか頼める人物がいなかったんだよ」
「いえ、状況を見るに、姫と兄上の仰る事は理解できますが」
本当に、アルフォンスは何をしているのか。
どうせ、今日の私の行動に溜まっていたものが溢れたんだろうが。
私は一つ溜息を吐くと、拘束され、床に転がされているアルフォンスの前で膝をついた。
私を視殺せんとばかりな視線を向けるアルフォンスに、このまま放置してやろうかと思ってしまう。
「アル、お前は…………いや、アルフォンス殿下、少しは現実を見られた方が宜しいかと存じますよ?今この場で喚き散らしたところで、何か変わるのですか?貴方は言いたい事を言っただけで満足されるのですか?…………違うでしょう?」
静かに、そして諭す様に。
私に今できる事はそれしかないからな。
これで素直に城下にある彼の屋敷に帰ってくれたら問題ないのだが。
「…………僕は、兄上が許せない」
根が深い…………。
そう簡単にはいかないか。
「でも、今日は帰る…………僕の行動は王族としては失格だ」
うん、どうやら落ち着いてはきたらしい。
本来の冷静さが戻って来たようだ。
「分かった。では屋敷までうちの馬車で送ろう」
「…………すまない」
今回、この馬鹿は怒りのあまり学園から城まで自らの足で来ていた。
聞いた時には目眩がしたぞ…………王族ともあろう者が「徒歩」とは。
いくら城の外で育てられたとは言え、少しは自覚をもてと言いたい。
因みにだが、アルフォンスは現在当家所有の屋敷に住んでいる。
本人の希望もあり、城へは学園卒業後に戻る事になっている。
「まぁいい。少しぐらいなら愚痴も聞いてやる」
「少し…………か?」
「…………はぁ、少しだ!」
相変わらずのワンコ気質のこいつには呆れるな。
まぁいい、兄上からの呼び出しを受けた時点で今日の予定は全てキャンセルした。
兄上が絡んでまともに事が終わった試しが無いからな。
そう言う訳で、今日はコイツの愚痴聞き係になってやろう。どうせ「少し」と言って、その通りで済むとは思っていないからな。
「…………トールと姉上にも、ご迷惑をお掛けしまし…た」
垂れた耳と尻尾が見えそうだな。
アルフォンスは、己の行動が浅はかだったと気付いたようで、二人にペコリと頭を下げた。
その瞬間、ティリス殿下の手により魔法の拘束が解かれる。
「全く、この愚弟は…………謝るのは私達ではなく、お兄様へなんですけどね?」
「なっ!」
「貴方は知識不足の上、状況把握が全くできていません。文句を言う前に経緯がどうだったのかを調べてから動きなさい。そんなだから…………お兄様に先を越されたのですよ?」
…………キツ。
これは………まぁ、間違ってはいないが、今のコイツにはキツい。
ティリス殿下の言葉に、顔を真っ赤にしプルプルと震え始めたアルフォンス。
少しだが、同情してしまうな。
「あ、姉上…………僕は」
「何ですか?まぁいいですわ。ミカ?さっさと連れて帰ってください」
「…………はい」
トール兄上は苦笑い。
ティリス殿下は呆れ顔。
そして、ルーカス殿下は…………我関せず。
結局、私はティリス殿下の言葉で叩きのめされ、その場から動けなくなったアルフォンスを引きずるように部屋から出ることになってしまったのだった。
ルーカス殿下の執務室内にて、私は頭を抱えた。
状況から見て、何故自分が呼ばれたのか大体察しはつくが…………うん。
「…………一人で帰宅しても良いだろうか?」
さて、先ずは挨拶から。
私の名は、ミカエル・レイモンド。この物語の主人公シフォンの兄だ。
申し訳ないが、少し愚痴らせてもらいたい。
なんと言うか、今日は厄日か何かなのだろうか。
昨日、ルーカス殿下の命をトール兄上より聞き、それに従うため妹の護衛を兼ねて彼女の側に居たというのに、その妹から言われた言葉は「お兄様自身が「面倒くさい方」になっておりますわ」だった。
しかも、話した事もない令嬢達から今日はやたら話しかけられる始末。
何故芋や南瓜からやたらと話しかけられなくてはならないのだ!寒気がする。
最終的には妹から「鈍い」と言われてしまった。
こればかりは、アイツには言われたくないセリフだ。シフォンの方が余程鈍いくせに。
全く不快だ。妹へは普段通りの接し方しかしていないはずなのに、どうしてああなったのか。
もう溜息しか出てこない。
本当に、私が何をしたというのだろうか。
全く、ここ最近王族絡みでろくな事がない!
大体、ルーカス殿下の妹への好意は知っていたし、妹も殿下の事を少なからず気にしているのは知っていた。
(……………と、まぁ今この話をすべきではないな。いずれ、この事は皆が知る事になるのだから。)
とにかく、それは追々として、今回陛下の打診もあり、父上も折れたため、二人は婚約する事となった訳だが、それに伴う面倒事が多すぎた。
まず、殿下の二つ名でもある「氷の王子」。その仮面が未だ取れない。
いい加減、腹を括っていただきたいのだが、いかんせん、殿下の「アノ」性格だ。
これだから兄上に根暗だのとチクチク言われるのだ。
しかも、ルーカス殿下だけでなく、兄上も面倒事を直ぐに持ってくる。
今回、殿下の命を私に伝えに来た時も、ミミリアから来たという苦情がたっぷり書かれた五十枚以上にも及ぶ手紙を持参していた。
しかも、それを私も読めと言うのだ。自分だけ受ける理不尽をお前も巻き添えで受けろと…………。
とんだ八つ当たりだった。
で、最終的に「コレ」だ。
アルフォンス殿下…………アルが妹に向ける好意は、あの鈍い妹以外、家族をはじめリリアナですら昔から知っていた。
そう、実の兄であるルーカス殿下も。
だが、アルフォンスは妹が大事なあまり、その気持ちを伝える事なくズルズル…………。
見ている此方がイライラする程だった。
そしてつい先日、事態が動いた。
妹と、アルフォンスの兄ルーカス殿下の婚約だ。
公爵家の人間というのもあり、妹はルーカス殿下の求婚を受け入れた。
貴族に生まれたからには、お家のために嫁ぐのも仕方ない。そう割り切っての婚約だったのだが、その事実を知ったアルフォンスの心情は大変荒れた。
アルフォンスはルーカス殿下が妹と以前から接触している事を知らない。
それもあり、ルーカス殿下が横から奪った様に感じているのだ。
「それで、私はアルフォンス殿下を連れて帰ればよろしいので?」
しかめっ面のルーカス殿下に、疲れた顔のトール兄上。そして、いつもの様に凛とした空気を纏い、非常に落ち着いてらっしゃるティリス殿下。
そして、問題の人物であるアルフォンス殿下は、魔法により拘束されていた。
まったく、この男は何を仕出かしたんだ。
「本当に、手間をかけるわねミカ?弟はあまりにも煩いから黙ってもらったの」
ティリス殿下は、ニコリと美しい笑みをつくるが、仰る内容はとんでもなかった。
いくら弟でも、煩いから拘束したなど…………はぁ。
本当に、何を言ったのやら………まぁ、大体の想像はつくが。
「だって、お兄様の執務室に入るなり大声で喚くのですもの。自分の事は棚に上げてるし、聞いていて少しイラつきましたの。それに、今お兄様の婚約式の段取りで忙しいんですのよ?こんな愚弟の愚痴に構っている時間が勿体ないですわ」
相変わらずの正論と、辛口。
私には関係ないが、この方が次期公爵夫人となられた日には…………確実に兄上は尻に敷かれるだろうな。
「すまないな、オレ達は今忙しくてな。ミカにしか頼める人物がいなかったんだよ」
「いえ、状況を見るに、姫と兄上の仰る事は理解できますが」
本当に、アルフォンスは何をしているのか。
どうせ、今日の私の行動に溜まっていたものが溢れたんだろうが。
私は一つ溜息を吐くと、拘束され、床に転がされているアルフォンスの前で膝をついた。
私を視殺せんとばかりな視線を向けるアルフォンスに、このまま放置してやろうかと思ってしまう。
「アル、お前は…………いや、アルフォンス殿下、少しは現実を見られた方が宜しいかと存じますよ?今この場で喚き散らしたところで、何か変わるのですか?貴方は言いたい事を言っただけで満足されるのですか?…………違うでしょう?」
静かに、そして諭す様に。
私に今できる事はそれしかないからな。
これで素直に城下にある彼の屋敷に帰ってくれたら問題ないのだが。
「…………僕は、兄上が許せない」
根が深い…………。
そう簡単にはいかないか。
「でも、今日は帰る…………僕の行動は王族としては失格だ」
うん、どうやら落ち着いてはきたらしい。
本来の冷静さが戻って来たようだ。
「分かった。では屋敷までうちの馬車で送ろう」
「…………すまない」
今回、この馬鹿は怒りのあまり学園から城まで自らの足で来ていた。
聞いた時には目眩がしたぞ…………王族ともあろう者が「徒歩」とは。
いくら城の外で育てられたとは言え、少しは自覚をもてと言いたい。
因みにだが、アルフォンスは現在当家所有の屋敷に住んでいる。
本人の希望もあり、城へは学園卒業後に戻る事になっている。
「まぁいい。少しぐらいなら愚痴も聞いてやる」
「少し…………か?」
「…………はぁ、少しだ!」
相変わらずのワンコ気質のこいつには呆れるな。
まぁいい、兄上からの呼び出しを受けた時点で今日の予定は全てキャンセルした。
兄上が絡んでまともに事が終わった試しが無いからな。
そう言う訳で、今日はコイツの愚痴聞き係になってやろう。どうせ「少し」と言って、その通りで済むとは思っていないからな。
「…………トールと姉上にも、ご迷惑をお掛けしまし…た」
垂れた耳と尻尾が見えそうだな。
アルフォンスは、己の行動が浅はかだったと気付いたようで、二人にペコリと頭を下げた。
その瞬間、ティリス殿下の手により魔法の拘束が解かれる。
「全く、この愚弟は…………謝るのは私達ではなく、お兄様へなんですけどね?」
「なっ!」
「貴方は知識不足の上、状況把握が全くできていません。文句を言う前に経緯がどうだったのかを調べてから動きなさい。そんなだから…………お兄様に先を越されたのですよ?」
…………キツ。
これは………まぁ、間違ってはいないが、今のコイツにはキツい。
ティリス殿下の言葉に、顔を真っ赤にしプルプルと震え始めたアルフォンス。
少しだが、同情してしまうな。
「あ、姉上…………僕は」
「何ですか?まぁいいですわ。ミカ?さっさと連れて帰ってください」
「…………はい」
トール兄上は苦笑い。
ティリス殿下は呆れ顔。
そして、ルーカス殿下は…………我関せず。
結局、私はティリス殿下の言葉で叩きのめされ、その場から動けなくなったアルフォンスを引きずるように部屋から出ることになってしまったのだった。
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