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10人の目は気になさらないの?

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 さて、どうしたものでしょう。

 今日は、久しぶりに専属侍女のカトレアと、街にお買い物……と、うきうきした気持ちでしたのに。

「お嬢様、あの痴れ者は本当に放置でよろしいのですか?」

 カトレアが私の斜め後ろで怒りのオーラを立ち上げておりますわ。
 まぁ、私自身は「見慣れた」光景ですが、プライベートな日にまで見たい光景ではありませんわね。

 学園ではいつもの事ですが…………はぁ、見なかった事にしましょうか。

 あ、…………遅かったですね。

「フィオラ!貴様、僕を尾行していたのか!嫉妬に狂った女は醜いな!」
「きゃー、フィオラさまこわ~い」

 阿呆二人ですわ。

 二人は、オープンカフェの、しかもかなり道から目立つ一等席を陣取り、あまつさえ、この店名物だと言うビッグパフェを食べてらっしゃいました。
 このパフェ、一つを三人がかりで食するのが定番とお聞きしましたが、一人お一つって……。

 たまたま通りかかっただけですのに、災難ですわ。

「無視するな!聞いているのか!」

 ………仕方ありませんね。無視したいですが、往来から注目されてますわ。
 何てはた迷惑なクズどもなんでしょう!

「あら、ご機嫌よう。先日も申し上げましたが、私、貴方の事はミジンコやミドリムシ程も興味がありませんのよ?単なる幼馴染にして、お爺さまがお決めになっただけの関係です。貴方だってそう仰ってたでしょ?お爺さま同士が勝手に決めた…と。私もそれには同意ですわ」

 馬鹿馬鹿しい。

 だいたい、なんですの?こんな往来ではしたない。
 婚約者がいながら、浮気?をしているのは貴方。
 それを自慢げに、嫉妬だの、醜いだの、恥ずかしくないのかしら。

「あー、痩せ我慢ですかぁ?フィオラさま。ユリウスさまに相手にされないからって、無理しちゃって。仕方ないですよねぇ?ユリウスさま私の事だ~い好きなんですから。まぁ、私はぁ、お友達だと思ってるんですけどぉ、ユリウスさまが本気なんですものぉ」

 本当に、よく回るお口ですわね。
 はぁ…カトレア、暗器は駄目ですよ?さっきから殺気がダダ漏れです。

「お嬢様!」
「駄目ですよ?」

 私は片手でカトレアに合図し、殺気を抑えさせました。

 私の専属侍女にして、護衛である彼女は、私を中心に世界が回っていると言っても過言でない程、私に忠誠を誓っています。

 幼少期の事、汚職で取り潰しにあった男爵家の令嬢だった彼女を拾ったのが始まり。
 親族が皆いなくなり、独りぼっちになった彼女は孤児院行きが確定していました。
 その彼女を、たまたま私が見つけ、拾ってあげ、自分の手足になるよう育てあげたのです。
 今では、私の誠実な忠犬ですわ。
 まぁ、たまにお説教とかしてきますが、私を思っての事ですもの。そこはちゃんと聞きますわよ?

「あさましいこと。何故そのような発想になりますの?だいたい、こんな往来で、そのような醜聞な会話を偉そうに口になさるなんて。ずいぶん育ちが悪くてらっしゃるのね?今のお二人のお話は、不正をなさってる方々……つまりお二人の羞恥話でしかないのではなくて?浮気…とは思ってませんが、浮気をしているユリウス様と、そのお相手のラファエロさんが恥を描いているだけですわ。私は痛くも痒くもございません。むしろ、客観的に見た場合、被害者である私とあなた方、皆さまどちらにお味方してくださるとお思いかしら?」

 一気に捲し立てた私に、お二人のお顔が真っ赤です。

 喧嘩を売るなら、時と場所を考えませんと。
 まぁ、相手も選んで頂けると嬉しいですけど。

 あら、お二人の周りのお席の方々から、小さな拍手がちらほら。
 少し恥ずかしいですわね。

「はん、これだから冷血女は好かん!お前のような女が我が婚約者など恥でしかないわ!」

 頭大丈夫……ではございませんわよね。

 恥の上塗りをしている事にお気付きでしょうか。
 今、「婚約者」と仰いましたが、婚約者がいながら他の女にうつつをぬかす男は最低ですわよ?

「やっぱり、イジワル悪役令嬢ですよね。あー、恥ずかしい人!」

 恥ずかしいのはあなた方ですってば。
 周りの方々、ドン引きしてますわよ?
 前回同様、このお花畑達は気付かないようですが。

「はぁ、付き合いきれません。ユリウス様?そんなにお嫌なら、さっさと私と婚約解消なさいませ。お爺さまが怖くて言い出せないとお聞きしましたが、なんなら私が「お助け」して差し上げてもよいのですよ?」

 家同士の約束があるため、中々解消や破棄は出来ない。
 貴方はそれが分かっているから、現在も婚約を継続している。
 建前はそうでしょうね。私もそうですから。
 ですが、貴方の本心は、ただ貴方のお爺さまが恐ろしいだけでございましょ?何せ、お爺さまは現役バリバリの、王国騎士団長ですものね。
 戦鬼と恐れられる程の。

 厳格な方ですもの。
 この「謝罪のための婚約」を、加害者の家である貴方から解消なんて、許される訳がありませんわね。
 言ったが最後、廃嫡にされかねませんもの。

 とは言え、ユリウス様は、ご自分のお家が謝罪のために私に「貴方を寄越した」事など、お忘れか、下手をしたら知らない可能性がありますわね。

 はぁ、本当に面倒なクズ男ですこと。

「なっ、お爺さまだと!」

 お爺さま、の言葉にユリウス様がかなり動揺されました。

 恐ろしいですわよね?なんせ、昔「鍛えてやる!」と、山中で一週間魔物討伐に付き合わされたり、「もっと自分に厳しくあれ!」と、騎士団の教養勉強に一か月付き合わされたり。
 数えるとキリがありませんが、まぁ、それもこれも、貴方がクズ男だから仕方ありませんでしたわよね?
 原因は全部ご自分にありましたし。

「はい。だって貴方、お忘れみたいですから」
「何をだ!」
「家の事情を外で話す程、私は愚かではありませんわ」

 やはり、知らないようですわね。
 はぁ、ちゃんと覚えておいて下さらないと困りますのに。

 まぁ、それならそれで、此方にも考えがございますけど。

「やはり、貴様が僕を陥れたいだけだな!お爺さまを出すなんて卑怯な!」

 やはり阿呆ですわ。
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