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33 暇な方は自爆まっしぐらですわ。

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「あら?ラファエロさん、「また」ですの?」

 はぁ、朝からいい加減にして頂きたいわ。
 何でしょう、朝の爽やかな気分が一気に消滅してしまいましたわ。

 今日も元気な小娘は、私が当家の馬車を降りるなり、目の前で仁王立ちされました。
 と言うか、この方……どうやら私を待ち伏せしていたようです。

 この場所は、学園内にある貴族専用の馬車止めです。
 と言う事で、当家の馬車だけでなく、登校されて来た子息息女各家の馬車がごった返しております。

 小娘……分かってらっしゃるのかしら。

 はっきり言って、かなり邪魔。
 他のお家の方々の馬車の通行妨害になってますわ。

「おはようございますフィオラさま」

 皆様の怪訝なお顔が目に入らないらしい小娘は、勝ち誇るように私を見ています。
 …………何でしょうか。ものすごく無視したいですわ。

「貴女が登校するのを待ってたんです」
「貴女、昨日もでしたわよ?お暇なんですの?」

 そう、私が「また」と言うのは、この方、一昨日も昨日も私を待ち伏せてらしたのです。
 この二日は、丁度私の幼馴染のベルバラが登校してきて、小娘を回避できたのですが……。

 本当に、お暇な方ですわね。私、今日はわざわざ時間をずらして登校しましたのに。
 ……いつから待ってらしたのかしら。

 今日、私は小娘の奇行に警戒し、時間を遅らせ登校しました。
 その為、いつも一緒に登校する弟には、彼の婚約者であるベルバラと登校してもらいました。
 弟のヘンリーは、ベルバラの事を本当に大切にしています。毎日の登校時間を彼女に合している位です。
 ……つまり、いつもは私がヘンリーに時間を合わせている、と言う事ですわね。

 時間をずらすと、必然的にヘンリーとベルバラの時間が減りますからね。
 申し訳ないので、弟をベルバラに迎えに来てもらいました。

 はぁ、ですが………結果、失敗しましたわぁ。

 先に行かせるのではなく、ベルバラに登校時間を合わせてもらうべきでしたわ。

「フィオラさま、今日こそはお話しに付き合ってもらいます!」

 はぁ、私はお話しする事など無いのですが。

 私が一人なのをいい事に、詰め寄って来る小娘。
 いつもは、弟とベルバラがガッチリ脇を固めていますからね。おかげで昨日までは何とか回避できましたが、今日は無理そうですわね。

「ラファエロさん、まずは私の事をドロッセルの名でお呼くださる?お話しをされたいなら、それ相応の礼儀からですわ……それから、今この場所で立ち話など、皆様の邪魔でしかありませんわ。ひとまず移動なさったらいかが?」

 今更ですが、この小娘、私の事をいつも下の名前で呼びますのよね………親しくもないのに。
 しかも、いくら学園内は平等とは言え、それは建前。最低限の礼儀は必要ですわ。
 後、本気で皆様の邪魔になってますわ。馬車に轢かれたいのかしら……まぁ、それでしたら止めませんが。

「なっ、何よ偉そうに!学園は平等なのよ!屁理屈言ってないで私に付き合いなさいよ!」

 あ~本当、関わりたくないですわ。

「はぁ、ラファエロさん……それ、本気でおっしゃってますの?」
「なっ……何よ、いつも人を馬鹿にしたような顔して!私は間違ってないわ!」

 いぇ、間違いだらけですわ。

 本当、どんな教育を受けたらこんな性格になるのかしら。常識がないにもほどがありません?

 そもそも、学園内でこそ、礼儀を重んじるべきですのに。
 学園を卒業後、貴族は今以上に家を背負う必要があります。卒業と同時に成人し大人になりますからね。
 学園内でいくら平等を謳っていようが、卒業後にそのままと言う訳にはまいりません、貴族社会は縦社会。身分が全てです。
 ですから、皆様学園が平等とは言え、きちんと礼儀をわきまえて生活なさるのです。卒業後困るのは自分ですからね。

 ですのに……はぁ。

 私は一つ溜息をつき、踵を返すと、校舎に向けて足を踏み出しました。

 この方に何を言っても右から左。意味がありませんわ。
 後、全く動かれる気配がありませんから、私が動いた方が早いですわね。
 各家の御者の方々の視線が痛いですわ。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 その瞬間、小娘は親の仇を見るような目で私を睨みつけました。
 そして、またもや私の前で仁王立ち。

 まぁ、移動する…と言う目的は果たせましたが、今度はこのままですと、授業に遅れるのではなくて?

「昨日みたいにまた逃げる気ね!私が話があるって言ってるのよ!無視しないで!」

 あー、ウザいですわね。

「無視ではなく、貴女が私のお話しをお聞きにならないだけですわ。先程ちゃんとお話しさせて頂きましたでしょ?ご理解されてないみたいで残念ですわ」

 話になりませんわ!

「理解?はっ、馬鹿じゃないの?話を聞かないのはアンタの方じゃない!」



 は?

 はぁ?

 ねぇ、お馬鹿ですの?

 毎度毎度!
 この◯ッチのピーーーー小娘が!
 人の話を聞かないのは貴女の特技なんですの?おめでたすぎて臍で茶を沸かしそうですわ!
 このピーで、ピーなピーがぁ!


 ……………はっ!

 あ…………いけませんわね。



 私は、思わずバサリと扇子を出して口を隠しました。
 危うく、この歪んだ表情を小娘に晒してしまうところでした。
 危なかったですわ……。
 私は侯爵令嬢です。いくら苦手な方とは言え、嫌悪感を表情に出すなんてはしたない事はしたくありません。

「お耳がついてらっしゃるのに、理解する頭が無いと何を聞いてもダメですのね?後、私授業に遅れたくありませんの。こんな場所でわざわざ立ち話をする時間はございませんわ。貴女も急がれた方が良いのではなくて?ここからですと、貴女の教室は遠いでしょ?」

 扇子で口元を隠しつつ、困ったように小首を傾げる私。
 まぁ、わざと皮肉ったのですが。

「つっ、アンタ最低ね!流石は悪役令嬢ね!やっぱりアンタ間違いないわ!」

 はて、何が間違いないのかしら?

「絶対に化けの皮を剥がしてやるんだから!見てなさいよ!このバグ女」
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