1 / 11
第1話
しおりを挟む
祖母が亡くなった。
霊柩車が火葬場の入り口に停車すると、雨粒が滴るトランクが開かれた。到着する時間を正確に把握していたかのように火葬場職員が白いリフトを押して施設の中からやってくると、その装置をトランクの中に差し込み、棺桶を持ち上げて施設の中へと運んでいく。アスファルトの地面を強く叩く雨音のなか、静かに響くリフトの音がやけに大きく響いていた。
火葬炉へと繋がる前室の扉が開放され、その中に祖母の棺桶が納められる。
扉が再び閉鎖されると中央に祭壇が運ばれてきた。僧侶の読経を聴きながら、それぞれが思い思いに最後の焼香をあげていく。
「それでは、お別れです」
喪服姿の職員がそう告げると、代表者に赤いボタンを押すように促した。
これが最後なんだ。
心の奥底から嗚咽が込み上げてくる。
十七時九分、ご臨終です。
そう告げる医師の声が鮮明によみがえってきた。
いつかはその日が来る。そう覚悟をしていたものの、いざ直面すると理解ができずに茫然と立ち尽くすだけだった。不思議と涙は出てこなかった。
しかし今は違う。
祖母の永眠から二日。
通夜の時も葬式の時も、大粒の涙を流した。
しかしこれから火葬炉に点火され、祖母の肉体が骨を残して完全に消滅するのだ。
通夜や葬儀であれほど泣いたのに、それ以上の悲しみと涙が込み上げてくる。
最後に声を出して泣いたのはいつだっただろうか。
大雨の降る梅雨のことだった。
閉鎖された扉の向こう。
前室に納められた棺桶を火葬炉へと送り込むモーターの音を今でも覚えている。
霊柩車が火葬場の入り口に停車すると、雨粒が滴るトランクが開かれた。到着する時間を正確に把握していたかのように火葬場職員が白いリフトを押して施設の中からやってくると、その装置をトランクの中に差し込み、棺桶を持ち上げて施設の中へと運んでいく。アスファルトの地面を強く叩く雨音のなか、静かに響くリフトの音がやけに大きく響いていた。
火葬炉へと繋がる前室の扉が開放され、その中に祖母の棺桶が納められる。
扉が再び閉鎖されると中央に祭壇が運ばれてきた。僧侶の読経を聴きながら、それぞれが思い思いに最後の焼香をあげていく。
「それでは、お別れです」
喪服姿の職員がそう告げると、代表者に赤いボタンを押すように促した。
これが最後なんだ。
心の奥底から嗚咽が込み上げてくる。
十七時九分、ご臨終です。
そう告げる医師の声が鮮明によみがえってきた。
いつかはその日が来る。そう覚悟をしていたものの、いざ直面すると理解ができずに茫然と立ち尽くすだけだった。不思議と涙は出てこなかった。
しかし今は違う。
祖母の永眠から二日。
通夜の時も葬式の時も、大粒の涙を流した。
しかしこれから火葬炉に点火され、祖母の肉体が骨を残して完全に消滅するのだ。
通夜や葬儀であれほど泣いたのに、それ以上の悲しみと涙が込み上げてくる。
最後に声を出して泣いたのはいつだっただろうか。
大雨の降る梅雨のことだった。
閉鎖された扉の向こう。
前室に納められた棺桶を火葬炉へと送り込むモーターの音を今でも覚えている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる