悪人喰らいの契約者。

八剣晶

文字の大きさ
26 / 36
辺境の奴隷狩り

26  接触禁止

しおりを挟む
『ズチャ、今度はあっちから…グチュ…来たね~、ング、この人間達は人気者なのかな?』

 木の上の男が去って間も無くの事、盗賊達が逃げようとした獣道を、反対から辿ってくる存在に頬を緩ませ反芻している悪魔が気付く。

「一人か?」

『うん、美味しそうな? 人間が一人?』

 いつもの疑問系な悪魔。

「こいつらの仲間かな?」

『そこまでは分からないよ、でも、魔法は使うかも、魔力を感じるから』

「魔法か~、厄介だな~」

 タルラ達の戦いを思い出し、朔は眉をしかめる。

『ヤるなら、早くしたほうが良いわよ。 反対側からもタルラが沢山引き連れてこっちに向かってきてるから』

「なら、こっちから行くか」

 悪魔の声を聞いた朔は、素早く始末する事に決めた。 相手が魔法を使う以上、タルラ達にどんな被害が出るか予想も出来無いのだ。

 獣道を駆け出した朔の行く手に、杖を突きローブを纏った男がこちらへ歩いてくるのが見えた。

 森の中に僅かに差し込む月明りではローブの色までは分からないが、すでに魔術を行使しているのだろう、卵形をした《シールド》の様な物に包まれている。

 朔はそのまま一気に距離を詰め、剣を突きだした。

 だが、剣を突き立てた所を基点に、卵形の《シールド》に波紋が走ると、切っ先は勢いを減じ止められてしまった。

(これが、魔法の盾なのか)

 思った以上に強力な盾の性能に、朔としても、今後の戦い方を考えざるおえない。

『姿隠しの術かっ!?』

 だが、困惑したのは相手も同じらしい。 驚きに目を開き朔の方を見てくる。

(見えている!?)

 確認する為にも、ゆっくりと下がり距離を取ってみれば、相手の視線も朔の動きに合わせるように追ってくる。

『無駄だ。 例え姿を消せても、魔術の波動までは消せない。 そこらの雑魚魔術師ならいざ知らず、この俺の眼は誤魔化せん』

 相手が余裕を見せて無駄口を叩いている間にも、朔は再び距離を詰め切り付ける。

『いくら物をぶつけても、この《エッグシェル》は、砕けんぞ』

 その言葉通りに、先ほどを同じく表面に波紋が広がり、剣が止められる。

(手応えが、薄い?)

 朔の手に残る感触は、まるで新品の羽毛布団の上に置かれた板を叩いているかのようだ。 衝撃を分散させ吸収されている。 剣をあてた時に広がる波紋が分散された力量(エネルギー)なのだろう。

(ほんと、厄介だな)

『魔素(まな)よ。 三つの矢となりて、彼の者を貫け。 《三つの矢スリーアローズ》』

 朔が止まると魔術師は《呪文スペル》で反撃をしてくる。

 タルラより若干長い《呪文スペル》に反応し、朔は斜めに飛び下がり距離を取る。

 《呪文スペル》の完成と同時に現れる三本の魔法の矢。

 朔は矢の出現と同時に横へ飛び退く。

 朔を追う様に軌道を僅かにずらし、飛び去っていった魔法の矢は、後ろにある木々に深い穴を開け消滅した。

(必中ではなく、半追尾って感じかな?)

 速度は150キロは出ているであろう、それが野球のカーブやシュートみたく曲がって追ってくる感じだ。 広い場所だとどうなるか分からないが、今の朔なら問題なく避けられそうだ。

『避けたか。 導師様の作った箱に匹敵する姿隠しの術に、魔法の矢を避けられる程の《身体能力強化ブースト》、中々の使い手だな。 だが、攻撃は武器だけか、相性が悪かったようだな。 どうだ、お前の術を俺に教えるなら、見逃してやっても構わん。 今回の命令は盗賊達の皆殺しだからな』

 教えろと言われても、無理な話だ。 朔が自分でやっている訳でもない。 しかも、お互いに不運な事に、朔の側にそれを伝える手段が無い。

 まさかこの状況で地面に絵を描いて、膝を突き合わせ納得行くまで、のんびり異世界交流をする訳にも行かないだろう。

 だが、今の攻防で朔としても大体の事は分かった。 悪魔の力か冷静に分析できるのがありがたい。

 まず相手には未だ朔が見えていない。 魔術の波動とやらで、大体の位置が分かる程度だろう。 男とは一度も目が合っていない。

 そして、朔の動きに目がついて来てもいない。 朔が止まれば、こちらを向くが、一度目も二度目も、攻撃が当たるまで全く反応できてないのだ。

 さらに、相手は地面の上を歩いている。 地面の下からの攻撃は有効かも知れない。

 最後に、物理攻撃が駄目なら、炎で囲んでしまうのはどうだ、熱まで遮断するとは考え難(にく)い、酸素だって無くなる。 相手も人間だ呼吸は必要だろう。 その意味では、川に放り込んでも面白いかも知れない、どうなるか見ものだ。

 朔だって、伊達にこれまでラノベを読んで来た訳ではない。 手としては色々思い浮かぶ。

 だがどれも手間が掛かり、今すぐ出来るとは思えない。

 準備に一旦戻ったら、その間にこの男とタルラ達が接触してしまうだろう。 雰囲気からして、とても味方とは思えない、恐らく盗賊達の応援か、始末に来たのだろう。

 そして、何となくだが分かる。 トーレスやタルラなら戦えるかも知れないが、ナムルやツゥエル、タットンでは、勝てない。 一瞬の油断で彼らの命は奪われてしまう。

(やっぱり、ここで殺すしかないか…)

 そこまで考え、朔は最後の手段に出た。

「悪魔。 アレ何とか出来無いか?」

 他力本願である。

『できるよ。 魔術なんて魔法の廉価版だし、術式弄れば簡単に崩壊するわよ』

「じゃぁ、たのむ」

『アイアイサ~!』

 多分だが「そんな気分の返事」という感じで、朔の脳内で変換されたのだろう、陽気な声で返事をして意気揚々と飛んでいく悪魔。

 そして、《エッグシェル》とやらもすんなり通り抜け、男に悪魔が障(さわ)った途端、砕けるように卵形の《盾(シールルド)》が消滅した。

 次の瞬間には、準備していた朔の剣が男の首を切り落としていた。

『任務完了~!』

「だな」

 一体誰が発令したのか分からない任務のあっけない完遂に、満足げな顔をして互いに頷きあう朔と悪魔。

『あ、ああああああぁぁっぁぁぁ!』

 だが、喜び勇んでローブの男だった物に飛んで行った悪魔が、いきなり叫び声を上げる。

「どうした!?」

 新手かと、警戒を強める朔。

『ご飯、ない。 飛んでちゃった…』

「飛んで…って、まさか?」

『うん、誰かが先に「アタシの物」してたみたい』

 よほど美味しそうに見えていたのだろう、目の前でシュークリームを取り上げられた娘の顔が重なるくらい、シュンとして、物足らなさそうに指をくわえて俯く悪魔。

 そして、悪魔の台詞は朔に、この世界にも悪魔か悪魔と似たような存在が居る、と言う事を思い当たらせるに、十分な物であった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...