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17. 生家へ
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※この話からユテ視点になります。
夢のように幸せな時間は、突然終焉を迎えた。
この日が来るのを予期していなかったわけじゃない。覚悟はしていた。でも、せめてシグルドに噛んでもらって番になった後であって欲しいと心から願っていた。
……だけど現実は残酷だ。
シグルドの帰りをまどろみながら待っていた僕は、突如押し入った屈強な男たちによって連れ去られた。物取りなんかじゃない。彼らは真っ直ぐ僕の元へとやって来た。馬車の中でも特に拘束はされなかったが、僕は抵抗しなかった。彼らが何者かも、行き先がどこかも察しがついていたからだ。
着いた先は予想通り、見慣れた生家。
男たちに引っ立てられて連れて行かれた先は、書斎。荘厳な雰囲気を漂わせる室内はどこか息苦しく感じる。
「ユデ……!」
「父様……っ!」
部屋の中央に置かれた椅子に座らされた男性が声を発して、僕は慌てて駆け寄った。
僕の父親である、ザリフ・クライゼル。
椅子の前で膝をつき、間近で目にする痛々しい姿にヒュッと喉が鳴った。ところどころ腫れ上がったり、痛々しいあざの残る顔はひどく殴られたのが明らかだった。
「ユテ、ユテ……ずまない…!」
父様が言葉を発するたびに切れた口端から血が、ズボンへと垂れ落ちていく。息をするのでさえ辛そうで、喋らないでという意味を含めて即座に頭を横に振った。
愛を持って育ててくれた実父の惨たらしい姿に喉の奥がぎゅうと締め付けられて、うまく呼吸ができなくなる。
「…こんな、酷い…どうしてこんなこと…っ」
「どうして?その理由はお前が一番理解しているのではないか、ユテ?」
一切感情がない、絶対零度の冷たい声。
書斎奥の、精緻な彫刻の重厚な執務机に腰かけるのは、祖父であり、クライゼル家当主かつ絶対権力者であるジゼア・クライゼル。
ぎらぎらとした瞳が放つ眼差しは衰えを感じさせないくらいに鋭い。浅葱色の短髪をすべて後ろへ撫でつけ、髪と同色のヒゲは鼻の下で完璧に手入れされている。片眼鏡をかけ、上質な仕立ての詰襟服を身にまとい、白手袋をつけた手には杖が握られている。
椅子から立ち上がったジゼアが杖を床にコツコツと打ち付けながら、近づいてくる。
「ユテ、お前が突然行方をくらまさなければ、お前の両親がすぐに口を割っていれば、儂も強硬手段に出ることはなかった」
「……おじい様、母様はどこですか?」
両親、という言葉に嫌な予感がした。父様がこんなにも痛めつけられてるとなれば、母様もひどい目に合ってるかもしれない。だけど室内を見回しても、僕たち以外に人影はなかった。
おじい様が床に二回、杖を強く叩きつけて何かを合図した。すると屈強な傭兵が現れ、連れていた女性を突き飛ばすように入室させた。
「母様…!」
床の上に崩れ落ちる母様に駆け寄り抱き起こすと、頬に広がる痛々しい青あざが真っ先に視界に飛び込んできた。その頬に涙が滝のように流れていく。
「ああ、ユテ、ユテ……!ごめんなさい、ごめんなさいっ!これ以上あの人が苦しむのを見ていられなくて…、私、私……っ!」
母様は僕の両腕をきつく掴むと、悲痛な声を上げて泣き崩れた。うわごとのように小さな声で謝罪を繰り返す母親をきつく抱きしめる。
まるで作り話のような僕の事情を一切疑うことなく信じてくれて、サポートをしてくれた、僕にはもったいないくらいに優しい両親が苦しむ姿に胸が締め付けられる。と同時に激しい怒りがこみあげてくる。
「おじい様…、なんて、なんてひどいことを…っ!女性に手をあげるなんて…正気ですか!?母様は、おじい様の実の娘ですよ…!?」
父様を必要以上に痛めつけたことも当然許されない行動だ。だけどそれ以上に、母のティリナは当主ジゼアと血を分けた正真正銘の実子。にも関わらず、おじい様は女性の、それも実子の顔をあざができるくらいに強くぶった。外道のごとき行いを断じて見過ごすことはできない。
「酷い…?儂を非難するのか、ユテよ」
おじい様のまとう雰囲気が一層冷たくなった。底冷えするような低い声に、室内の温度まで下がっているかのような錯覚を受ける。鋭い眼光に、肌が粟立つのを感じる。
「一体どのような立場で儂を非難できると思っている、この若輩者がッ!」
「ぁぐ…っ!」
おじい様の怒鳴り声と同時に、みぞおちに激痛が走った。上体を起こしていられず、うずくまる。自分の身に何が起こったのか、理解できなかった。
母様の金切り声と、おじい様の杖先が僕に向かっていることから、杖で突かれたことを察した。
「お父様、お願いです、…止めてください…!
「どけ、ティリナ。儂に楯突く不出来な孫には躾をせねばならん」
「どきませんっ!責は全て私たちが負います…!ですから、どうか、ユテには、……ユテには手を出さないでください……っ」
僕を庇うように母様が覆いかぶさってくる。すすり泣く声が頭上から聞こえる。
「ユテ、よう見ておれ。両親が傷ついたのは、お前の愚かな行動の結果だ」
動かなきゃ。逃げなきゃ。
おじい様が杖を振りかぶるのが見えているのに、頭ではそう分かっているのに、身動きが取れない。まるで、全身が地中に埋まっているかのような感覚。喉がぎゅうと締め付けられて、制止の言葉さえ発することができない。
視線も、おじい様の顔から逸らすことができない。憤怒に燃える彼の瞳に、心の底から恐怖を感じた。
「堕ちた元英雄が運命の番だと!?過去の遺物、それも酒浸りの死に損ないが、我がクレイゼル家と運命などと……ふざけるなッ!」
「うう…っ!」
バシン、と強く打ち据える音が室内に響く。
「我がクレイゼル家は格式高い高潔な名家!そこに人殺しの血が混ざるなど、あってはならん!お前達は己が子にクレイゼル家の役割と立場をきちんと言い含めるべきだったのだ!にも関わらず貴様達は愚行を制止するどころか、支援をしたッ!」
おじい様は一言言い終えるたびに杖を振り下ろした。体を打ち付ける音と同時に、母様が苦悶に呻く。
止めて……止めて、おじい様。
男の僕が飛び出して母様を守ってあげなきゃいけないのに、体が竦んで動けない。
「元はと言えば、ティリナとザリフ、お前たちが駆け落ちなどしたからだ!ティリナ、お前が最初から儂の決めた許嫁と結婚していれば、ユテは生まれず、こんな事態にもならずに済んだのだ!ユテを連れて戻って来たお前たちを受け入れてやったのは誰だと思っているッ!?何の才も能力もない、恵まれた境遇でのうのうと生きて金の稼ぎ方も何も知らず困窮するお前たちを受け入れてやったのは誰だと!?その恩に報いるどころか、仇で返されるとは思わなんだ…ッ!あの時頼ってきたお前たちを、儂は追い返すべきだったのだ…っ!」
「ああっ…、ぐ、ぅ…っ!」
「義父様、止めてください…っ!ぶつなら俺を…!悪いのは…、ティリナをたぶらかしたのは俺です……!どうか、どうかお願いしますっ!」
おじい様の怒号、母様のうめき声、父様の悲痛な叫び。肩を怒らせ、きちんと整えられた髪を振り乱し、息を切らせて杖をふるう祖父の顔は、醜く歪んでいた。
まるで悪魔のようだった。
血のつながった実の娘に何の容赦もためらいもなく力の限りに杖で殴りつける祖父が怖くて怖くてたまらない。
まるで虫けらを見るような目に、過去の記憶が脳裏に蘇る。
人間兵器となり敵地に突撃しろ、オメガにしかできないことだ、光栄だろ?と蔑む目を向けてきたドーランの長官。薬によって強制的に発情を誘発された体に群がろうとする、両国の兵士たち。
息がうまく吸えなくて、喉がカヒュッ、カヒュッと耳障りな音を立てる。
苦しい、苦しい、シグ、…シグルド、助けて……ッ!
「……ッ!?」
何も見聞きしたくなくてうずくまっていると、突然腕をつかまれ引き揚げられた。初老を迎えたとは思えないほど、おじい様の力は強かった。
「ティリナの時は時すでに遅く打つ手がなく現状を受け入れざるをえなかったが…、儂の中に二度目の失敗はない。同じ轍は踏まん。二度と私情に流されもせぬ。儂はクライゼル家の存続にのみ全力を注ぎ、例外は作らん」
「…お、じい様…?」
「親の不始末は子のユテに取ってもらう」
無機質で、何の感情もこもっていない声。祖父の昏く淀んだ瞳に映る僕は、酷く怯えていた。
おじい様が先ほどと同じように杖で床を叩く。その甲高い音に肩が大きく震える。これ以上どんな悪いことが起きるのか、恐怖で指先から冷たくなっていく感覚に見舞われる。
どうしよう。もし、もし、シグルドまで痛めつけられていたら……!
再び、扉が開く。最悪の想像が頭をよぎって、鼓動が早く大きくなっていく。
姿を現したのは、軍服の上から毛皮のついた大仰な外套を肩にかけた、長身の黒髪の男だった。猛禽類を思わせる眼光鋭い黄色い瞳に、口元にうっすらと笑みを浮かべるその表情は自信が満ち溢れているように見えた。
「リズリカ国軍、リースローク・ファロー少将。もちろんアルファだ」
おじい様の紹介に、男はおどけたような所作でお辞儀をして見せる。状況が呑み込めず、男と祖父、交互に視線をやる僕に、おじい様は非情な宣告を下した。
「ユテ、お前はリースローク少将と結婚するのだ」
夢のように幸せな時間は、突然終焉を迎えた。
この日が来るのを予期していなかったわけじゃない。覚悟はしていた。でも、せめてシグルドに噛んでもらって番になった後であって欲しいと心から願っていた。
……だけど現実は残酷だ。
シグルドの帰りをまどろみながら待っていた僕は、突如押し入った屈強な男たちによって連れ去られた。物取りなんかじゃない。彼らは真っ直ぐ僕の元へとやって来た。馬車の中でも特に拘束はされなかったが、僕は抵抗しなかった。彼らが何者かも、行き先がどこかも察しがついていたからだ。
着いた先は予想通り、見慣れた生家。
男たちに引っ立てられて連れて行かれた先は、書斎。荘厳な雰囲気を漂わせる室内はどこか息苦しく感じる。
「ユデ……!」
「父様……っ!」
部屋の中央に置かれた椅子に座らされた男性が声を発して、僕は慌てて駆け寄った。
僕の父親である、ザリフ・クライゼル。
椅子の前で膝をつき、間近で目にする痛々しい姿にヒュッと喉が鳴った。ところどころ腫れ上がったり、痛々しいあざの残る顔はひどく殴られたのが明らかだった。
「ユテ、ユテ……ずまない…!」
父様が言葉を発するたびに切れた口端から血が、ズボンへと垂れ落ちていく。息をするのでさえ辛そうで、喋らないでという意味を含めて即座に頭を横に振った。
愛を持って育ててくれた実父の惨たらしい姿に喉の奥がぎゅうと締め付けられて、うまく呼吸ができなくなる。
「…こんな、酷い…どうしてこんなこと…っ」
「どうして?その理由はお前が一番理解しているのではないか、ユテ?」
一切感情がない、絶対零度の冷たい声。
書斎奥の、精緻な彫刻の重厚な執務机に腰かけるのは、祖父であり、クライゼル家当主かつ絶対権力者であるジゼア・クライゼル。
ぎらぎらとした瞳が放つ眼差しは衰えを感じさせないくらいに鋭い。浅葱色の短髪をすべて後ろへ撫でつけ、髪と同色のヒゲは鼻の下で完璧に手入れされている。片眼鏡をかけ、上質な仕立ての詰襟服を身にまとい、白手袋をつけた手には杖が握られている。
椅子から立ち上がったジゼアが杖を床にコツコツと打ち付けながら、近づいてくる。
「ユテ、お前が突然行方をくらまさなければ、お前の両親がすぐに口を割っていれば、儂も強硬手段に出ることはなかった」
「……おじい様、母様はどこですか?」
両親、という言葉に嫌な予感がした。父様がこんなにも痛めつけられてるとなれば、母様もひどい目に合ってるかもしれない。だけど室内を見回しても、僕たち以外に人影はなかった。
おじい様が床に二回、杖を強く叩きつけて何かを合図した。すると屈強な傭兵が現れ、連れていた女性を突き飛ばすように入室させた。
「母様…!」
床の上に崩れ落ちる母様に駆け寄り抱き起こすと、頬に広がる痛々しい青あざが真っ先に視界に飛び込んできた。その頬に涙が滝のように流れていく。
「ああ、ユテ、ユテ……!ごめんなさい、ごめんなさいっ!これ以上あの人が苦しむのを見ていられなくて…、私、私……っ!」
母様は僕の両腕をきつく掴むと、悲痛な声を上げて泣き崩れた。うわごとのように小さな声で謝罪を繰り返す母親をきつく抱きしめる。
まるで作り話のような僕の事情を一切疑うことなく信じてくれて、サポートをしてくれた、僕にはもったいないくらいに優しい両親が苦しむ姿に胸が締め付けられる。と同時に激しい怒りがこみあげてくる。
「おじい様…、なんて、なんてひどいことを…っ!女性に手をあげるなんて…正気ですか!?母様は、おじい様の実の娘ですよ…!?」
父様を必要以上に痛めつけたことも当然許されない行動だ。だけどそれ以上に、母のティリナは当主ジゼアと血を分けた正真正銘の実子。にも関わらず、おじい様は女性の、それも実子の顔をあざができるくらいに強くぶった。外道のごとき行いを断じて見過ごすことはできない。
「酷い…?儂を非難するのか、ユテよ」
おじい様のまとう雰囲気が一層冷たくなった。底冷えするような低い声に、室内の温度まで下がっているかのような錯覚を受ける。鋭い眼光に、肌が粟立つのを感じる。
「一体どのような立場で儂を非難できると思っている、この若輩者がッ!」
「ぁぐ…っ!」
おじい様の怒鳴り声と同時に、みぞおちに激痛が走った。上体を起こしていられず、うずくまる。自分の身に何が起こったのか、理解できなかった。
母様の金切り声と、おじい様の杖先が僕に向かっていることから、杖で突かれたことを察した。
「お父様、お願いです、…止めてください…!
「どけ、ティリナ。儂に楯突く不出来な孫には躾をせねばならん」
「どきませんっ!責は全て私たちが負います…!ですから、どうか、ユテには、……ユテには手を出さないでください……っ」
僕を庇うように母様が覆いかぶさってくる。すすり泣く声が頭上から聞こえる。
「ユテ、よう見ておれ。両親が傷ついたのは、お前の愚かな行動の結果だ」
動かなきゃ。逃げなきゃ。
おじい様が杖を振りかぶるのが見えているのに、頭ではそう分かっているのに、身動きが取れない。まるで、全身が地中に埋まっているかのような感覚。喉がぎゅうと締め付けられて、制止の言葉さえ発することができない。
視線も、おじい様の顔から逸らすことができない。憤怒に燃える彼の瞳に、心の底から恐怖を感じた。
「堕ちた元英雄が運命の番だと!?過去の遺物、それも酒浸りの死に損ないが、我がクレイゼル家と運命などと……ふざけるなッ!」
「うう…っ!」
バシン、と強く打ち据える音が室内に響く。
「我がクレイゼル家は格式高い高潔な名家!そこに人殺しの血が混ざるなど、あってはならん!お前達は己が子にクレイゼル家の役割と立場をきちんと言い含めるべきだったのだ!にも関わらず貴様達は愚行を制止するどころか、支援をしたッ!」
おじい様は一言言い終えるたびに杖を振り下ろした。体を打ち付ける音と同時に、母様が苦悶に呻く。
止めて……止めて、おじい様。
男の僕が飛び出して母様を守ってあげなきゃいけないのに、体が竦んで動けない。
「元はと言えば、ティリナとザリフ、お前たちが駆け落ちなどしたからだ!ティリナ、お前が最初から儂の決めた許嫁と結婚していれば、ユテは生まれず、こんな事態にもならずに済んだのだ!ユテを連れて戻って来たお前たちを受け入れてやったのは誰だと思っているッ!?何の才も能力もない、恵まれた境遇でのうのうと生きて金の稼ぎ方も何も知らず困窮するお前たちを受け入れてやったのは誰だと!?その恩に報いるどころか、仇で返されるとは思わなんだ…ッ!あの時頼ってきたお前たちを、儂は追い返すべきだったのだ…っ!」
「ああっ…、ぐ、ぅ…っ!」
「義父様、止めてください…っ!ぶつなら俺を…!悪いのは…、ティリナをたぶらかしたのは俺です……!どうか、どうかお願いしますっ!」
おじい様の怒号、母様のうめき声、父様の悲痛な叫び。肩を怒らせ、きちんと整えられた髪を振り乱し、息を切らせて杖をふるう祖父の顔は、醜く歪んでいた。
まるで悪魔のようだった。
血のつながった実の娘に何の容赦もためらいもなく力の限りに杖で殴りつける祖父が怖くて怖くてたまらない。
まるで虫けらを見るような目に、過去の記憶が脳裏に蘇る。
人間兵器となり敵地に突撃しろ、オメガにしかできないことだ、光栄だろ?と蔑む目を向けてきたドーランの長官。薬によって強制的に発情を誘発された体に群がろうとする、両国の兵士たち。
息がうまく吸えなくて、喉がカヒュッ、カヒュッと耳障りな音を立てる。
苦しい、苦しい、シグ、…シグルド、助けて……ッ!
「……ッ!?」
何も見聞きしたくなくてうずくまっていると、突然腕をつかまれ引き揚げられた。初老を迎えたとは思えないほど、おじい様の力は強かった。
「ティリナの時は時すでに遅く打つ手がなく現状を受け入れざるをえなかったが…、儂の中に二度目の失敗はない。同じ轍は踏まん。二度と私情に流されもせぬ。儂はクライゼル家の存続にのみ全力を注ぎ、例外は作らん」
「…お、じい様…?」
「親の不始末は子のユテに取ってもらう」
無機質で、何の感情もこもっていない声。祖父の昏く淀んだ瞳に映る僕は、酷く怯えていた。
おじい様が先ほどと同じように杖で床を叩く。その甲高い音に肩が大きく震える。これ以上どんな悪いことが起きるのか、恐怖で指先から冷たくなっていく感覚に見舞われる。
どうしよう。もし、もし、シグルドまで痛めつけられていたら……!
再び、扉が開く。最悪の想像が頭をよぎって、鼓動が早く大きくなっていく。
姿を現したのは、軍服の上から毛皮のついた大仰な外套を肩にかけた、長身の黒髪の男だった。猛禽類を思わせる眼光鋭い黄色い瞳に、口元にうっすらと笑みを浮かべるその表情は自信が満ち溢れているように見えた。
「リズリカ国軍、リースローク・ファロー少将。もちろんアルファだ」
おじい様の紹介に、男はおどけたような所作でお辞儀をして見せる。状況が呑み込めず、男と祖父、交互に視線をやる僕に、おじい様は非情な宣告を下した。
「ユテ、お前はリースローク少将と結婚するのだ」
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