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灰になった白雪
しおりを挟むしんしんと降り積もる雪の中、少女は立ち尽くしていた。
少女は、艶やかな黒髪に滑らかな白い肌、桃色の膨良かな唇と薄茶の輝く瞳を持て余していた。この愛らしい容姿の所為で、継母に命まで狙われる始末。
ついに、命を投げ出してしまおうと決心がついたのに、邪魔が入り7人の小人達暮らす手狭な家で居候する羽目になった。
罪人の如く身を隠していたが、どういうわけか老婆に扮した継母が現れる。あまつさえ、毒林檎を携えて。
この時代のこの国には未だ自警団などもなく、各国の王族が持つ私兵によって治安が守られていた。しかし、それが全く機能していない現状に、ほとほと呆れ顔の少女。
それはそうだ。機能するはずがない。敵である継母は、この国の王妃なのだから。
実父である国王が病で床に伏せてからは、継母のやりたい放題だった。少女が殺されかけたのも、1度や2度ではない。おちおち散歩もできない、息の詰まる生活を強いられていた。
そんな日々に疲れてしまった少女は、殺される覚悟をして継母直属の部下を護衛につけ公務に出た。城に帰る事はもうないのだろうと思うと、少女は胸の辺りがチクリと痛んだ。
馬車で揺られること半日。予定ではあと半日は掛かるはずだが、停まったのだから仕方がない。
ここが死に場所かと覚悟を飲み込み、何事も知らないかの如く淑やかに馬車を降りた。いよいよ死を間近にした少女の瞳には、じんわりと涙が滲んでいる。
護衛の男は、少女を見つめ『こちらへお越しください』と言って森へ入った。
森の最奥へと歩みを緩めない男は、ぽつりぽつりと少女に語る。少女は、小走りでついて行きながら黙ってそれを聞いた。
男は、元々国王の直属だったが、家族を人質に脅されて仕方なく継母に従っていると言う事。継母の命令には、誰一人賛同していないという事。
さらに、国王の病は王妃が仕込んだ毒の所為である可能性が高い事。そして最後に、国王の回復を待ち、王妃を廃する為の企てがある事。
このような重大機密事項を、男はペラペラと得意げに語った。
男は、継母の命令に逆らえなかった。だが、これまで少女を虐げてきた罪悪感から、少女を逃がす役目に立候補したそうだ。
少女を殺した事にして逃がし、国王が回復したら迎えに来る手筈なんだとか。
そんなこんなで、少女は男の知り合いだという小人達の家で、暫くの間世話になる羽目になったのだった。
快適とは程遠いうえに、炊事洗濯を任された。見ず知らずの小さいオッサンの洗濯など、少女にとっては苦痛でしかなかった。
さらに、何から何まで小さいので、兎にも角にも扱い辛い。椅子やテーブル、ベッドも扉も、トイレに至るまで全てが子供サイズなのだから。
少女は全てから逃げ出したくなった。そもそも、何故自分は命を狙われるのか。それさえ少女は知らなかった。
企てに気づき家臣を皆殺しにした継母が、森の奥までやって来る日までは。
継母は、禁術で林檎売りの老婆に容姿を変え、小人達の留守を狙い少女の元へやって来た。
「もし、お嬢さん」
非常に聞き取りづらい、しゃがれた声の老婆。怪訝な表情を隠す事なく、無愛想に応える少女。
「なにか?」
「えらく愛想が無いねぇ。可愛らしい顔をしているのに。勿体無い勿体無い。世界で一番美しいのに」
「は? 何それ。あたし、別に可愛くないし」
「チッ、まったく······。それよりもねぇ、この林檎はどうだい? 海の向こうから取り寄せた、特別な林檎なんだよ」
老婆が、腕に掛けた籠から林檎を手に取り、ずいっと少女へ差し出した。少女は林檎を見つめ、微笑むこともなく淡と言葉を落とす。
「要らない」
「え····。そ、そう言わずに。どうだい、一口味見してみないかい?」
「タダなの?」
「あ、あぁ、勿論お代は要らないよ。食べてみて気に入ったら、いくつか買っておくれ」
「ったく、林檎丸かじりとか下品だなぁ」
老婆は顔を伏せ、ローブに隠れて苛立ちを噛み締めた。
少女は、老婆から手渡された林檎を、全体的にしっかりと拭きあげてからかぶりついた。それがまさか、毒林檎だとも知らずに。
少女はその場で倒れ、静かに息を引き取った。
帰宅した小人達は、小さな齧り跡のついた林檎と、既に息絶えた少女を見つける。深い悲しみに打ちひしがれ、枯れるまで涙を落とし続けた。
少女を埋葬しなければならない事は、小人達も重々分かっていた。けれど、なかなか決心がつかなかったのだ。
少女の為に誂えた、美しい硝子の棺に横たわる死体は、まるで眠っているようにしか見えなかったのだから。
自然の摂理に反し、少女の躰は朽ちなかった。
博士の愛称で親しまれる小人が、不思議に思い調べた結果、少女を想う王子のキスで目覚める事がわかった。
タイミング良く、少女の噂を聞きつけた隣国の王子がやって来た。そして、少女の唇にそっと口付ける。
少女は見事に息を吹き返し、袖口で唇を拭った。
少女の暴露によって、継母は廃妃となり刑に処された。国王は順調に回復し、再び少女を蝶よ花よと可愛がった。
少女の唇を奪った王子は、徐々に少女との距離を詰めに詰め、後に結婚に至る。
その美しさ故に、継母から命を狙われた憐れな少女。運命に翻弄され、美しさとは裏腹に強かで口の悪い捻くれ者になっていた。
少女の名は白雪。降り積もる儚い雪のような世界で、最も美しく荒んだ姫である。
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将来が心配ですね
毒林檎を彼女も?
とか妄想してしまいました
最後が奇想天外で面白かったです
ありがとうございます😊
大林さん𖥧𖤣
感想ありがとうございます🍀*゜
この子、本当に将来が心配ですよねぇ(笑)
しかし、良くも悪くも環境の影響を受けすぎる子なので、良い環境で暮らせば良い子になるはず····きっと。王子に期待です🌼*・
王子頑張れっ(๑˙꒳˙๑)و
こちらこそ、読んでいただきありがとうございました🍀*゜