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未来の告白-2
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保料 農の両親は農が生まれて間もなく事故で他界した。その後、農は親戚の元を転々としていた。居心地が良いと感じられる場所を見つけることができず、十歳の頃に孤児院に預けられることになった。
高校生の頃、将来やりたいことも見つからないままなんとなく日々を過ごしていた。ある時、学校帰りにふと洋食店に入った。何度も店の前を通っているはずなのに今まで気にしたこともなく、名前すら覚えていない店だった。
そして、入った洋食店でオムライスを食べた。なぜ、オムライスを選んだかは、その後考えても答えは見つからなかった。『なんとなく』が理由となっている。ただし、今まで食べたオムライスの中で一番おいしかった。それまで数回しかオムライスを食べた記憶はなかったが。とても満足した気持ちになった。
だが、会計を使用とした時に事件は起こった。農はその時自分が財布を持っていなかったことに気づいたのだった。このままでは無銭飲食になってしまう。
農は正直にオーナーにお金を持っていないことを話し、翌日にお金を持ってくることを約束してその日は帰ることになった。翌日、学校帰りにオムライスがおいしかった洋食店にお金を返しに行った。
「今日はオムライス食べていかないのかい?」
農はなぜ『オムライス』なのか疑問に思い、オーナーに理由を尋ねた。料理を勧めるならもっと値段の高いメニューにすべきなのでは?と思ったからだ。
『あんなにおいしそうにオムライスを食べている客は初めてだったから』というのがオーナーの答えだった。
「オムライスとてもおいしかったです」
農の一言にオーナーはとてもうれしそうだった。だが、またオムライスを注文したくても農には自由に使えるお金はほとんどなかった。
「僕は林 雄馬。君の名前は?」
突然の自己紹介に農は『保料 農です』と答えた。
「じゃあ、昨日は僕と農くんが出会った記念日としよう。一日遅れだけど、今日は記念日のお祝いにオムライスをご馳走するよ」
『なんじゃそりゃ』と農は突っ込みたくなったが、またオムライスが食べられるという理由で記念日を受け入れることにした。
その日以降、農は飲食をしなくても頻繁に店に通い、客の少ない時間や準備時間中に林といろいろな話をするようになった。農の生立ちや現在の状況における人生相談。林の家族の話、主にほとんど息子の話。
その息子『林 斗馬』はまだ小さいが農と同じで林のオムライスが大好きということ。息子といっても血のつながりはない。縁があり孤児だったとうまを養子として迎えることになったという。林自身、斗馬以外に身内と呼べる者はいなかった。
もちろん、たまにオムライスを注文した。農の懐事情は苦しかったため、その『たまに』しか食べられないオムライスの日がとても楽しみになっていた。
林といろいろな話をするうちに農は料理に興味を持つようになり、料理の質問も増えていった。
「じゃあ、うちでアルバイトする?」
林のありがたい提案に農は『お願いします』と即答した。厨房の手伝いもさせてもらえることになり、料理の学びの場となった。ただし、バイト代がほとんどオムライス代に変換されていたことがありがたい悩みだった。
林との出会いが農を料理の道へと進ませることになった。高校卒業後は専門学校で基礎を学び、レストランで修業を積んだ。その後、有名ホテルのレストランで副料理長を務めることになった。
「林さん・・・・・・ね」
その名を口にしたオーナーは笑みを浮かべているように見えた。
「もしかして師匠を知っているんですか?」
「偶然同じ名前の人を知っていただけだよ」
その時、たまたまカレンダーが目に入り、思わずオーナーに問いかけた。
「このカレンダー古くないですか?もう十一月ですよ」
「いや、今日は八月三十一日だよ」
農はオーナーの返答に耳を疑った。そして、農が把握している年号に十年プラスされた数字がカレンダーに刻まれていた。
ということは、ここは十年後の未来?寝ていた格好でレストランに入ったときよりも動揺はしていない・・・・・・。不思議な感じだった。
『目が覚めると十年後の知らない場所にいました』これが結論のようだ。
訳のわからないことを言い始めた男を目の前に、農は困惑気味のオーナーに対して、『信じられないと思いますが』と枕詞をつけて、わかっている状況を正直に説明した。
いつも通り家で寝ていて目が覚めたら知らない場所にいて、この状況になっていたこと。だから、パジャマ姿に裸足であること。
そこで、初めてオーナーの名前が島原 洞爺であることを知った。『なるほど・・・・・・』と言いながら、洞爺からありがたい提案があった。
「ということは、行くところも寝るところもないんでしょ?店の裏にシェアハウスがあるから使っていいよ」
農にとってはありがたい急展開であり、感謝しかない。が当然の疑問をオーナーにぶつけた。
「とてもありがたいお話ですが、初対面の頭のイカれたことを言うヤツ信じてくれるんですか?」
「信じるにはもう少し時間が必要かもしれないけど、嘘をついているとも思えないからね。そのかわりお店手伝ってね、お金もないんだろうし」
その通りです、お世話になります、一生懸命働きます。農はそう思うしかなかった。
ちょうどその時、接客係がオーナーに『帰ります』と挨拶をしにきた。
「ちょうどよかった。今日から住み込みで一緒に働くことになった保料 農くん。仲良くね」
彼女は農の前に立ち、店で素敵な笑顔で接客をしていた人とはまるで同一人物とは思えないほど嫌そうな顔で見下ろしてきた。
「そうだ、空いてる部屋あったよね。悪いけど案内してあげて」
「チッ」
オーナーの農に対する優しさとは裏腹に、接客係の農に対する舌打ちだった。なぜか舌打ちをした接客係の名前は石川 早生。このレストランでアルバイトをしており、店の裏にあるシェアハウスで生活をしている。初めて見た接客係と本当に同一人物なのだろうか。数時間前の面影が全くない。
「かわいいパジャマ、裸足、金なし、居候、ギャーギャーうるさい・・・・・・」
農に対してなぜか敵対心を持っているとしか思えない石川早生は突然ブツブツ言い始めた。
初対面で失礼なヤツだと農は思った。が、残念ながらすべて事実であることは認めざるをえない。ほとんど悪口のように聞こえるが。
早生は少し考え込んで、意味不明なことを言い放った。
「やぎ」
「なんじゃそりゃ」
思わず農の心の声が出てしまった。急に訳のわからないことを言い始めたと思っていたら、さらに訳がわからない展開へと発展していく。
「なるほど、略して”やぎ”か。さすが早生ちゃん、ネーミングセンスが素晴らしい」
なんだコイツ、いやコイツらは。全然素晴らしくないし。すごく褒めてるし。ものすごく照れてるし。
なぜ瞬時に理解できるんだ?そもそもどう略したらそうなるのか?というか略になっているのか?ただ言いたかっただけなのでは?農の脳はついていけていない。
「じゃあ着いてきて、やぎ」
「後で服を持って行くよ、やぎくん」
一体、なんなんだ?この息ピッタリの感じは・・・・・・。やはり農の脳はついていけていない。
「ありがとうございます」
もちろん、農はこう返答するしかない。感謝はしているが徐々に不安になってきた。ため息が出そうになるのを必死でこらえるのは一苦労だった。
特に会話もないまま店に併設されているシェアハウスに農は案内された。早生により簡単にシェアハウス内の設備について説明された。
一階に男女別の風呂とトイレ、共有の台所と洗面所が備わっている。二階に部屋が全部で八部屋あり、三部屋は現在空部屋となっている。農が一部屋使用することになり、残りの空き部屋は二部屋となる。
最低限のシェハウス内の設備の説明をされて、部屋に案内された。ベッドと机・椅子がすでに用意されており、ウォークインクローゼットまである快適な空間だ。
部屋の中の簡単な説明も終わり、早生が何も言わずに出て行こうとしたので、農は『ありがとう』とお礼を伝えた。
「じゃあ、おやすみ」
そう言って早生は足早に部屋を出て行った。
最初の嫌そうな顔は何だったのだろうか?様々なことが起こった一日の中で農の一番の疑問となった。
数分後、体型はあまり変わらなさそうだからと、洞爺が農の部屋に服を持ってきた。シェアハウスのオーナーでもある洞爺も同じくシェアハウスに住んでおり、朝食は洞爺が作るということになっていた。
朝は七時に一階のテーブルに集合ということを伝えられ、洞爺も『おやすみ』と言って部屋を出て行った。
今日は様々なことが起こりすぎて、いつもよりも疲労感があるなと思いながら農はベッドに入ろうとした。しかし、尿意を催したためトイレに行った。部屋に戻る途中にものすごい睡魔に襲われてきた。やっと眠れるという安心感からだろうか。
眠気も限界にきて部屋の扉を開けた瞬間、農の眠気はどこかへ消えてしまった。なぜか着替え途中であろう下着姿の女性が目の前にいた。
数秒間の沈黙後、数メートル離れていてもわかるくらいその女性の顔が真っ赤になっていた。
「あっ、あああ、ああ、いっ、一遍、死ねえぇぇぇーーーっ!!!」
怒号と共にすごい早さで何かが飛んできた。農の顔面に見事直撃した後、農は後ろに倒れて尻餅をついた。農の尻とほぼ同時に床に落下した何かは目覚まし時計だった。奇跡的に農の目と鼻は無事だった。被害は頬だけに留まった。
農は状況がすぐに理解できなかったが、反射的に『ご、ごめん』と謝罪の言葉が口から出た。
すぐにその女性は農に近づいてきて、壊れるのではないかと思うくらい勢いよく扉を閉めた。
農はまだ状況がよく理解できておらず、『なんで・・・・・・?』と声が漏れた直後、怒りの大声が響いた。
「ここは、私の部屋だ!!!」
農は部屋の扉を見上げて恐怖した。その扉には『わせ』と表示された札が掛かっていた。遅すぎるが、やっととんでもないことをやらかしてしまったことを理解した。
あわてて必死に謝罪したが、早生の怒りが治まるわけもなく、一部の割れとデジタル表示が消えている目覚まし時計と共に自分の部屋に戻った。疲労困憊のはずなのに、その日はその出来事のせいで目が覚めてしまった。言い訳や謝罪の言葉を考えていたらあまり眠れなかった。ただ、きちんと鍵をかけてくれていたら・・・・・・と思ってしまうのだった。
そんな今日、八月三十一日は「野菜の日」ではなく、『農がタイムスリップした日』になってしまった。
「十年後から来たという青年が現れましたよ、今日」
「今日か・・・・・・いろいろ思い出すね。偶然かもしれないけど、そうでないかもしれないね。そろそろ次の行動に移るときが来たということかもしれないね」
その日の洞爺の最後の会話だった。
高校生の頃、将来やりたいことも見つからないままなんとなく日々を過ごしていた。ある時、学校帰りにふと洋食店に入った。何度も店の前を通っているはずなのに今まで気にしたこともなく、名前すら覚えていない店だった。
そして、入った洋食店でオムライスを食べた。なぜ、オムライスを選んだかは、その後考えても答えは見つからなかった。『なんとなく』が理由となっている。ただし、今まで食べたオムライスの中で一番おいしかった。それまで数回しかオムライスを食べた記憶はなかったが。とても満足した気持ちになった。
だが、会計を使用とした時に事件は起こった。農はその時自分が財布を持っていなかったことに気づいたのだった。このままでは無銭飲食になってしまう。
農は正直にオーナーにお金を持っていないことを話し、翌日にお金を持ってくることを約束してその日は帰ることになった。翌日、学校帰りにオムライスがおいしかった洋食店にお金を返しに行った。
「今日はオムライス食べていかないのかい?」
農はなぜ『オムライス』なのか疑問に思い、オーナーに理由を尋ねた。料理を勧めるならもっと値段の高いメニューにすべきなのでは?と思ったからだ。
『あんなにおいしそうにオムライスを食べている客は初めてだったから』というのがオーナーの答えだった。
「オムライスとてもおいしかったです」
農の一言にオーナーはとてもうれしそうだった。だが、またオムライスを注文したくても農には自由に使えるお金はほとんどなかった。
「僕は林 雄馬。君の名前は?」
突然の自己紹介に農は『保料 農です』と答えた。
「じゃあ、昨日は僕と農くんが出会った記念日としよう。一日遅れだけど、今日は記念日のお祝いにオムライスをご馳走するよ」
『なんじゃそりゃ』と農は突っ込みたくなったが、またオムライスが食べられるという理由で記念日を受け入れることにした。
その日以降、農は飲食をしなくても頻繁に店に通い、客の少ない時間や準備時間中に林といろいろな話をするようになった。農の生立ちや現在の状況における人生相談。林の家族の話、主にほとんど息子の話。
その息子『林 斗馬』はまだ小さいが農と同じで林のオムライスが大好きということ。息子といっても血のつながりはない。縁があり孤児だったとうまを養子として迎えることになったという。林自身、斗馬以外に身内と呼べる者はいなかった。
もちろん、たまにオムライスを注文した。農の懐事情は苦しかったため、その『たまに』しか食べられないオムライスの日がとても楽しみになっていた。
林といろいろな話をするうちに農は料理に興味を持つようになり、料理の質問も増えていった。
「じゃあ、うちでアルバイトする?」
林のありがたい提案に農は『お願いします』と即答した。厨房の手伝いもさせてもらえることになり、料理の学びの場となった。ただし、バイト代がほとんどオムライス代に変換されていたことがありがたい悩みだった。
林との出会いが農を料理の道へと進ませることになった。高校卒業後は専門学校で基礎を学び、レストランで修業を積んだ。その後、有名ホテルのレストランで副料理長を務めることになった。
「林さん・・・・・・ね」
その名を口にしたオーナーは笑みを浮かべているように見えた。
「もしかして師匠を知っているんですか?」
「偶然同じ名前の人を知っていただけだよ」
その時、たまたまカレンダーが目に入り、思わずオーナーに問いかけた。
「このカレンダー古くないですか?もう十一月ですよ」
「いや、今日は八月三十一日だよ」
農はオーナーの返答に耳を疑った。そして、農が把握している年号に十年プラスされた数字がカレンダーに刻まれていた。
ということは、ここは十年後の未来?寝ていた格好でレストランに入ったときよりも動揺はしていない・・・・・・。不思議な感じだった。
『目が覚めると十年後の知らない場所にいました』これが結論のようだ。
訳のわからないことを言い始めた男を目の前に、農は困惑気味のオーナーに対して、『信じられないと思いますが』と枕詞をつけて、わかっている状況を正直に説明した。
いつも通り家で寝ていて目が覚めたら知らない場所にいて、この状況になっていたこと。だから、パジャマ姿に裸足であること。
そこで、初めてオーナーの名前が島原 洞爺であることを知った。『なるほど・・・・・・』と言いながら、洞爺からありがたい提案があった。
「ということは、行くところも寝るところもないんでしょ?店の裏にシェアハウスがあるから使っていいよ」
農にとってはありがたい急展開であり、感謝しかない。が当然の疑問をオーナーにぶつけた。
「とてもありがたいお話ですが、初対面の頭のイカれたことを言うヤツ信じてくれるんですか?」
「信じるにはもう少し時間が必要かもしれないけど、嘘をついているとも思えないからね。そのかわりお店手伝ってね、お金もないんだろうし」
その通りです、お世話になります、一生懸命働きます。農はそう思うしかなかった。
ちょうどその時、接客係がオーナーに『帰ります』と挨拶をしにきた。
「ちょうどよかった。今日から住み込みで一緒に働くことになった保料 農くん。仲良くね」
彼女は農の前に立ち、店で素敵な笑顔で接客をしていた人とはまるで同一人物とは思えないほど嫌そうな顔で見下ろしてきた。
「そうだ、空いてる部屋あったよね。悪いけど案内してあげて」
「チッ」
オーナーの農に対する優しさとは裏腹に、接客係の農に対する舌打ちだった。なぜか舌打ちをした接客係の名前は石川 早生。このレストランでアルバイトをしており、店の裏にあるシェアハウスで生活をしている。初めて見た接客係と本当に同一人物なのだろうか。数時間前の面影が全くない。
「かわいいパジャマ、裸足、金なし、居候、ギャーギャーうるさい・・・・・・」
農に対してなぜか敵対心を持っているとしか思えない石川早生は突然ブツブツ言い始めた。
初対面で失礼なヤツだと農は思った。が、残念ながらすべて事実であることは認めざるをえない。ほとんど悪口のように聞こえるが。
早生は少し考え込んで、意味不明なことを言い放った。
「やぎ」
「なんじゃそりゃ」
思わず農の心の声が出てしまった。急に訳のわからないことを言い始めたと思っていたら、さらに訳がわからない展開へと発展していく。
「なるほど、略して”やぎ”か。さすが早生ちゃん、ネーミングセンスが素晴らしい」
なんだコイツ、いやコイツらは。全然素晴らしくないし。すごく褒めてるし。ものすごく照れてるし。
なぜ瞬時に理解できるんだ?そもそもどう略したらそうなるのか?というか略になっているのか?ただ言いたかっただけなのでは?農の脳はついていけていない。
「じゃあ着いてきて、やぎ」
「後で服を持って行くよ、やぎくん」
一体、なんなんだ?この息ピッタリの感じは・・・・・・。やはり農の脳はついていけていない。
「ありがとうございます」
もちろん、農はこう返答するしかない。感謝はしているが徐々に不安になってきた。ため息が出そうになるのを必死でこらえるのは一苦労だった。
特に会話もないまま店に併設されているシェアハウスに農は案内された。早生により簡単にシェアハウス内の設備について説明された。
一階に男女別の風呂とトイレ、共有の台所と洗面所が備わっている。二階に部屋が全部で八部屋あり、三部屋は現在空部屋となっている。農が一部屋使用することになり、残りの空き部屋は二部屋となる。
最低限のシェハウス内の設備の説明をされて、部屋に案内された。ベッドと机・椅子がすでに用意されており、ウォークインクローゼットまである快適な空間だ。
部屋の中の簡単な説明も終わり、早生が何も言わずに出て行こうとしたので、農は『ありがとう』とお礼を伝えた。
「じゃあ、おやすみ」
そう言って早生は足早に部屋を出て行った。
最初の嫌そうな顔は何だったのだろうか?様々なことが起こった一日の中で農の一番の疑問となった。
数分後、体型はあまり変わらなさそうだからと、洞爺が農の部屋に服を持ってきた。シェアハウスのオーナーでもある洞爺も同じくシェアハウスに住んでおり、朝食は洞爺が作るということになっていた。
朝は七時に一階のテーブルに集合ということを伝えられ、洞爺も『おやすみ』と言って部屋を出て行った。
今日は様々なことが起こりすぎて、いつもよりも疲労感があるなと思いながら農はベッドに入ろうとした。しかし、尿意を催したためトイレに行った。部屋に戻る途中にものすごい睡魔に襲われてきた。やっと眠れるという安心感からだろうか。
眠気も限界にきて部屋の扉を開けた瞬間、農の眠気はどこかへ消えてしまった。なぜか着替え途中であろう下着姿の女性が目の前にいた。
数秒間の沈黙後、数メートル離れていてもわかるくらいその女性の顔が真っ赤になっていた。
「あっ、あああ、ああ、いっ、一遍、死ねえぇぇぇーーーっ!!!」
怒号と共にすごい早さで何かが飛んできた。農の顔面に見事直撃した後、農は後ろに倒れて尻餅をついた。農の尻とほぼ同時に床に落下した何かは目覚まし時計だった。奇跡的に農の目と鼻は無事だった。被害は頬だけに留まった。
農は状況がすぐに理解できなかったが、反射的に『ご、ごめん』と謝罪の言葉が口から出た。
すぐにその女性は農に近づいてきて、壊れるのではないかと思うくらい勢いよく扉を閉めた。
農はまだ状況がよく理解できておらず、『なんで・・・・・・?』と声が漏れた直後、怒りの大声が響いた。
「ここは、私の部屋だ!!!」
農は部屋の扉を見上げて恐怖した。その扉には『わせ』と表示された札が掛かっていた。遅すぎるが、やっととんでもないことをやらかしてしまったことを理解した。
あわてて必死に謝罪したが、早生の怒りが治まるわけもなく、一部の割れとデジタル表示が消えている目覚まし時計と共に自分の部屋に戻った。疲労困憊のはずなのに、その日はその出来事のせいで目が覚めてしまった。言い訳や謝罪の言葉を考えていたらあまり眠れなかった。ただ、きちんと鍵をかけてくれていたら・・・・・・と思ってしまうのだった。
そんな今日、八月三十一日は「野菜の日」ではなく、『農がタイムスリップした日』になってしまった。
「十年後から来たという青年が現れましたよ、今日」
「今日か・・・・・・いろいろ思い出すね。偶然かもしれないけど、そうでないかもしれないね。そろそろ次の行動に移るときが来たということかもしれないね」
その日の洞爺の最後の会話だった。
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