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旅立ち-1
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農が全国各地へ旅立って、伝承と経験の日々を繰り返し人脈も広がった。場所を移動した後も様々な人からの相談や情報交換が日課となっていた。農の知識と経験値も日々上昇していた。
始めは不思議に思うこともあった。どこへ行っても守口 源助、綾目 雪、伊豆 次郎の名前が出てきた。代わりに味来 惠味、山東 菜々、陸奥 陽光、島原 洞爺の名前を聞くことはほとんどなかった。話題になる人の名前が予想と異なっていたことは意外だった。
各農場工場で栽培している農作物は全く同じではなく、研究している内容や品種についても異なっていた。各工場で情報交換が積極的に行われていた。研究内容の重複防止や他分野のヒントになることも多い。各分野においての全体のまとめ役が守口源助、綾目雪、伊豆次郎だった。
農が旅立って、四年が経過してすべての予定表の内容が終了した。結局、農が旅立ってから一度も帰ることはなかった。ついに訪れた四年ぶりに帰還する日時を味来と洞爺には伝えてあった。
農にはいくつかの不安要素があった。
店がなくなっている。
いなくなっている人がいる。
知らない人がいる。
いろいろなサプライズが用意されている可能性があることだ。定期的に連絡を取っていたので、一般的な発想ではこのような変化は事前に連絡してくれても良いと思ってしまう。
しかし、農の周辺の人々はイベントや変更の連絡はいつも突然なのだ。しかも最初は意図的だと思っていたが、そうではないということをタイムスリップしてから数ヶ月で理解した。
農は店の前に到着した。店はあった。『Sugar』はあった。
「ただいま」
「すみません。まだ準備中なんです」
ランチ終わりの清掃中だった。知らない人がいた。
「やぎくん、おかえり」
アルバイトと思われる清楚な女性の後ろから洞爺が現れた。その清楚な女性は慌てた様子で弁解した。
「すみません。やぎさんが今日帰ってこられるとは知らなくて」
「お互い情報不足みたいで。いつものことなんですけど。初めまして。保料 農です。よろしく」
「初めまして。こちらでアルバイトをしています守口 伊吹です。兄がいつもお世話になっています」
守口?兄?農が答えに辿り着く前に洞爺から発表された。
「伊吹ちゃんは源助の妹だよ」
「ええええええーーー」
「相変わらず、やぎくんはいいリアクションをするね」
人は見た目で判断してはいけない。
「本当に?」
「よく言われるんですが、本当なんです」
思わず出てしまった言葉に清楚で礼儀正しい源助の妹は優しく微笑みながら答えた。そのようなやりとりをしているとタイミング良く厨房から伊吹の兄の声がした。
「おう、帰ったか。味来さんのとこにも顔出しとけよ。じゃあな」
何かの用事を済ませると源助はすぐにその場から姿を消した。農は再度訊かずにはいられなかった。
「お兄ちゃん?」
「よく言われるんですが・・・・・・兄です」
その後、農は『株式会社さとう』で味来に帰ってきたことの報告を済ましてすぐに『Sugar』に戻った。農は日々記録を味来に提出していたため、改めて報告する内容は特になかった。
帰ってきたその日から、農は厨房に入るつもりでいたが、洞爺の計らいにより農が働くのは翌日からになった。
久しぶりの自分の部屋へと戻り、長旅の荷物の片付けをした。片付けを済ませてゆっくり休むつもりだった。が、何だか落ち着かなかった。せっかくの洞爺の厚意だったが、働かせてもらうつもりで店に戻った。
ちょうど、夜の開店前だった。厨房にはひかりの姿があった。予想していなかった光景に農は唖然とした。
「やぎさん、おかえりなさい」
「ただいま」
「ひかりちゃんはいつから、厨房に?」
「正式には学校を卒業してからです。やぎさんが旅行にいってからはしばしば早生さんの試練を受けるようになりました」
「旅行ではないし、試練って・・・・・・」
確かに早生のチェックは試験というより試練という表現が的確かもしれない。ひかりの発言にはもう一つ気になることがあった。
「ところで、正式にとは?」
「正式に『Sugar』で雇ってもらうことになりました。厨房にも入りますよ」
「えっ?ということは俺はクビってことですか?」
農はひかりの隣で作業中の洞爺に目線を移した。
「ははは。相変わらずやぎくんのリアクションは面白いね」
「やっぱり、やぎさんは面白いですね。ここに早生さんがいたらもっと面白くしてくれたのに」
ひかりにまでからかわれるようになってしまった。
「そういえば、早生はいないみたいですけど、今日は休みですか?」
「今日も仕事だと思うよ。たまにお店に来たり手伝いもしてくれたりしているよ」
「早生も大学を卒業してますよね?ここでアルバイトをしているわけないですよね」
農が全国各地へ旅立ってから四年が経過している。早生は大学を卒業してどこかに就職しているのだろう。
「確かにアルバイトはしてないけど、たまに手伝いをしてくれたりはしているよ。早生ちゃんは『株式会社さとう』の社員だからね」
「はあ、なるほど」
早生は『株式会社さとう』の支援で大学に通っていたのだ。『株式会社さとう』に就職というのはとても自然な流れともいえる。『店がなくなっている』という不安は回避されたが、『いなくなった人』と『知らない人』がいるという変化はあった。四年も経過すれば当然だろう。
ひかりは『Sugar』に就職した。そして、源助が行っていた業務も引継いでいた。
源助も『株式会社さとう』の社員となった。『Sugar』の従業員として『株式会社さとう』の手伝いをしていたが、さらに業務内容が多くなった。
早生は『株式会社さとう』の社員となり、綾目雪の元で農作物の研究・開発をしている。
味来と陸奥が引き起こした事件以降、農場工場の普及が加速度的に進行していた。それから『株式会社さとう』の海外への農場工場の展開も本格化した。世界各地で農場工場の普及は進んではいるが、その普及速度はまだまだ遅い。
大容量の蓄電池の導入により、停電の不安やランニングコストも軽減される。日照時間が長い地域では太陽パネルによる発電が主流となっていた。
水の使用量も土の栽培と比較すると少量だ。最大の問題は建設費などの初期費用だったが、『株式会社さとう』を始めとする各国の様々な企業や団体の呼びかけにより世界各国からの資金援助が多くされるようになっていた。
『株式会社さとう』も海外の数箇所で建設が完了して運営が始まっていた。建設場所は主に食糧不足が深刻な場所だった。雪や早生が現地へ行き、技術指導を行ったりもしていた。
とはいえ、国が異なれば栽培する農作物も異なる。雪も初めて栽培するものばかりで一からのレシピ作成となる。特に食糧不足の地域では栽培期間が短い品種の開発や栽培方法を見つけることを求められていた。
帰国してからも現地の農作物を栽培して情報交換したりしている。年に数回は現地に行くなどして連携を保っている。今ではその役割のほとんどを早生が担っていた。
『株式会社さとう』では海外で栽培した農作物を国内でも販売することも視野に入れていた。今まで流通していなかった海外の農作物も栽培方法などを共有することで、国内でも栽培することが可能になってきた。
いいものは高くても売れる。珍しいものも高くても売れるということなのだろうか。
始めは不思議に思うこともあった。どこへ行っても守口 源助、綾目 雪、伊豆 次郎の名前が出てきた。代わりに味来 惠味、山東 菜々、陸奥 陽光、島原 洞爺の名前を聞くことはほとんどなかった。話題になる人の名前が予想と異なっていたことは意外だった。
各農場工場で栽培している農作物は全く同じではなく、研究している内容や品種についても異なっていた。各工場で情報交換が積極的に行われていた。研究内容の重複防止や他分野のヒントになることも多い。各分野においての全体のまとめ役が守口源助、綾目雪、伊豆次郎だった。
農が旅立って、四年が経過してすべての予定表の内容が終了した。結局、農が旅立ってから一度も帰ることはなかった。ついに訪れた四年ぶりに帰還する日時を味来と洞爺には伝えてあった。
農にはいくつかの不安要素があった。
店がなくなっている。
いなくなっている人がいる。
知らない人がいる。
いろいろなサプライズが用意されている可能性があることだ。定期的に連絡を取っていたので、一般的な発想ではこのような変化は事前に連絡してくれても良いと思ってしまう。
しかし、農の周辺の人々はイベントや変更の連絡はいつも突然なのだ。しかも最初は意図的だと思っていたが、そうではないということをタイムスリップしてから数ヶ月で理解した。
農は店の前に到着した。店はあった。『Sugar』はあった。
「ただいま」
「すみません。まだ準備中なんです」
ランチ終わりの清掃中だった。知らない人がいた。
「やぎくん、おかえり」
アルバイトと思われる清楚な女性の後ろから洞爺が現れた。その清楚な女性は慌てた様子で弁解した。
「すみません。やぎさんが今日帰ってこられるとは知らなくて」
「お互い情報不足みたいで。いつものことなんですけど。初めまして。保料 農です。よろしく」
「初めまして。こちらでアルバイトをしています守口 伊吹です。兄がいつもお世話になっています」
守口?兄?農が答えに辿り着く前に洞爺から発表された。
「伊吹ちゃんは源助の妹だよ」
「ええええええーーー」
「相変わらず、やぎくんはいいリアクションをするね」
人は見た目で判断してはいけない。
「本当に?」
「よく言われるんですが、本当なんです」
思わず出てしまった言葉に清楚で礼儀正しい源助の妹は優しく微笑みながら答えた。そのようなやりとりをしているとタイミング良く厨房から伊吹の兄の声がした。
「おう、帰ったか。味来さんのとこにも顔出しとけよ。じゃあな」
何かの用事を済ませると源助はすぐにその場から姿を消した。農は再度訊かずにはいられなかった。
「お兄ちゃん?」
「よく言われるんですが・・・・・・兄です」
その後、農は『株式会社さとう』で味来に帰ってきたことの報告を済ましてすぐに『Sugar』に戻った。農は日々記録を味来に提出していたため、改めて報告する内容は特になかった。
帰ってきたその日から、農は厨房に入るつもりでいたが、洞爺の計らいにより農が働くのは翌日からになった。
久しぶりの自分の部屋へと戻り、長旅の荷物の片付けをした。片付けを済ませてゆっくり休むつもりだった。が、何だか落ち着かなかった。せっかくの洞爺の厚意だったが、働かせてもらうつもりで店に戻った。
ちょうど、夜の開店前だった。厨房にはひかりの姿があった。予想していなかった光景に農は唖然とした。
「やぎさん、おかえりなさい」
「ただいま」
「ひかりちゃんはいつから、厨房に?」
「正式には学校を卒業してからです。やぎさんが旅行にいってからはしばしば早生さんの試練を受けるようになりました」
「旅行ではないし、試練って・・・・・・」
確かに早生のチェックは試験というより試練という表現が的確かもしれない。ひかりの発言にはもう一つ気になることがあった。
「ところで、正式にとは?」
「正式に『Sugar』で雇ってもらうことになりました。厨房にも入りますよ」
「えっ?ということは俺はクビってことですか?」
農はひかりの隣で作業中の洞爺に目線を移した。
「ははは。相変わらずやぎくんのリアクションは面白いね」
「やっぱり、やぎさんは面白いですね。ここに早生さんがいたらもっと面白くしてくれたのに」
ひかりにまでからかわれるようになってしまった。
「そういえば、早生はいないみたいですけど、今日は休みですか?」
「今日も仕事だと思うよ。たまにお店に来たり手伝いもしてくれたりしているよ」
「早生も大学を卒業してますよね?ここでアルバイトをしているわけないですよね」
農が全国各地へ旅立ってから四年が経過している。早生は大学を卒業してどこかに就職しているのだろう。
「確かにアルバイトはしてないけど、たまに手伝いをしてくれたりはしているよ。早生ちゃんは『株式会社さとう』の社員だからね」
「はあ、なるほど」
早生は『株式会社さとう』の支援で大学に通っていたのだ。『株式会社さとう』に就職というのはとても自然な流れともいえる。『店がなくなっている』という不安は回避されたが、『いなくなった人』と『知らない人』がいるという変化はあった。四年も経過すれば当然だろう。
ひかりは『Sugar』に就職した。そして、源助が行っていた業務も引継いでいた。
源助も『株式会社さとう』の社員となった。『Sugar』の従業員として『株式会社さとう』の手伝いをしていたが、さらに業務内容が多くなった。
早生は『株式会社さとう』の社員となり、綾目雪の元で農作物の研究・開発をしている。
味来と陸奥が引き起こした事件以降、農場工場の普及が加速度的に進行していた。それから『株式会社さとう』の海外への農場工場の展開も本格化した。世界各地で農場工場の普及は進んではいるが、その普及速度はまだまだ遅い。
大容量の蓄電池の導入により、停電の不安やランニングコストも軽減される。日照時間が長い地域では太陽パネルによる発電が主流となっていた。
水の使用量も土の栽培と比較すると少量だ。最大の問題は建設費などの初期費用だったが、『株式会社さとう』を始めとする各国の様々な企業や団体の呼びかけにより世界各国からの資金援助が多くされるようになっていた。
『株式会社さとう』も海外の数箇所で建設が完了して運営が始まっていた。建設場所は主に食糧不足が深刻な場所だった。雪や早生が現地へ行き、技術指導を行ったりもしていた。
とはいえ、国が異なれば栽培する農作物も異なる。雪も初めて栽培するものばかりで一からのレシピ作成となる。特に食糧不足の地域では栽培期間が短い品種の開発や栽培方法を見つけることを求められていた。
帰国してからも現地の農作物を栽培して情報交換したりしている。年に数回は現地に行くなどして連携を保っている。今ではその役割のほとんどを早生が担っていた。
『株式会社さとう』では海外で栽培した農作物を国内でも販売することも視野に入れていた。今まで流通していなかった海外の農作物も栽培方法などを共有することで、国内でも栽培することが可能になってきた。
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