魔女のおやつ 〜もふもふな異世界で恋をしてお菓子を作る〜

石丸める

文字の大きさ
80 / 110
第二章 魔獣退治編

35 プリンスプリン

しおりを挟む
 フンス、フンス。
 リコはキッチンで、気合が入っている。
 王子様のためのプリンはいつもより豪華なグラスに入っていて、仕上がりも病的なまでにチェックされていた。
 念入りに氷の結晶でプリンを冷やすリコの様子を、レオは立ち尽くして見ている。

「あの……いいんですよ? いつも通りで。気合入れなくても」
「王子様のプリンだよ!? 気合入れるよ!」

 リコのテンションに、ミーシャも舞い上がっている。

「ねえリコ、お城に招待されちゃうかもね!」
「どうしよう! 私、ドレス持ってないよ!」
「舞踏会に呼ばれたりして!?」

 乙女チックな夢を語りあっていて、レオはまた目眩がしていた。

(リコさんの成功を一番祈っていたはずなのに、自分はこのプリンを、事故を装って届けないことまで考えてしまう。なんて悪い奴なんだ)

 レオはひとりで怒り、不安になり、反省し、情緒が不安定になっていた。

「できた! レオ君、無事に運んでね!?」

 リコの切なる願いに、レオは我に返る。

「勿論です。完璧に運びますよ」

 黒猫に乗って王宮に向かうレオを、リコもミーシャも、希望に満ちた笑顔で送り出した。

「くよくよするなよ。いつも通りの仕事をこなすんだ」

 自分に言い聞かせて、レオはまっすぐ王宮に向かった。


 * * * *


 豪華なテーブルの上にリコプリンが置かれて。
 金色のスプーンで、ノエル王子はプリンを召されていた。

(僕は、人の昇天顔を見るのが好きなんだな……)

 自己分析しながら、レオはノエル王子の喜びぶりを観賞している。
 三度の飯よりお菓子が大好きなノエル王子だが、ここまで感激する姿は初めて見た気がした。レオの心に嬉しさと、誇らしさと、不安がごちゃ混ぜで押し寄せる。

「美味い! なんて美味さなんだ!」

 ノエル王子は空になったグラスを天に掲げて、輝く瞳でレオを振り返った。

「これを作った者を、ここに連れて参れ!!」

 思った以上に率直に、早い段階で、レオの恐れていた命令が下されていた。

「ちょっと……待ってください」

 レオは動揺のあまり否定の言葉を発しそうになるが、ノエル王子は興奮していて気づかない。

「余はこの素晴らしいプリンを作った者に会いたいのじゃ! 直接会って、褒めてつかわす!」

 当たり前の上から目線にレオは体が震えていたが、そんな様子にも気づかずに、ノエル王子は高揚している。

「こんな繊細なものを作るのは、女性であろうな! そうだろう、レオ!」
「そ、それは……さぁ……」
「ここにリコプリンと書いてある。リコという名の女性だろう?」

 プリンのコースターに直筆で商品名が書かれていて、見落としていたレオは衝撃を受けていた。こんなに一気に、名前と性別が明かされて、心が付いて行かない。

「レオよ。すぐにリコ殿に、城に来てくれるよう通してくれ! 余はリコ殿とプリンを語り合いたい!」

 レオはゴチャゴチャの頭のまま一歩下がると、優美に礼をして胸に手を当てた。

「承りました……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...