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第三章 幽閉塔の姫君編
14 夢で会えたら
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「お疲れ様~!」
元気にワインを呷るのはアレキだけで、風呂上りのリコも、マニもミーシャも、ぐったりとソファに沈んでいる。体力を使い果たしていた。
「みんな頑張ったね~。鬼気迫る訓練だったぞ」
中でもリコは訓練の疲れだけではなく、精神的にも滅入っているようだった。時計を見上げて、不安そうな顔をしている。
「レオ君……今日も帰って来なかった」
アレキとミーシャは焦って、こっそりと目を合わせる。
「こりゃあ、あれだな。年に一度の大忙しだ。明日にはきっと帰ってくるよ」
リコはぐっと唇を噛み締めて弱音を堪えると、立ち上がった。
「私、レオ君が帰るまでに強くなって、ビックリさせちゃお」
アレキは慌ててフォローした。
「いいね。強い女の子もグッとくるよ」
「先に休みますね。もう眠くなっちゃって。おやすみなさい」
空元気でリビングを出ていくリコを、アレキとミーシャは見送った。
ソファで居眠りしているマニの横で、ミーシャはアレキに小声で話す。
「アレキ様。あのユーリという男は、リコの婚約者だと言ってました」
「うん……リコちゃんに記憶が無いから立証できないが、本当だったら、諦めないだろうな」
「でも、あんな乱暴をする男が、リコを大切にするとは思えません」
憤るミーシャの頭を撫でて、眠るマニをアレキは抱え上げた。
「だからと言って、進んでやっつけようなんて思っちゃ駄目だよ? あくまで、自己防衛のための訓練だ。攻撃は逃げるための手段だと忘れないでね」
「わかってます。みんなの無事を第一に、冷静に対処します」
ミーシャの凛とした表情に、子供の頃のレオが重なって、アレキは懐かしさで微笑んだ。片手にマニを抱え、片手でミーシャと手を繋いで、寝室に向かった。
リコはひとり、ベッドに寝転がっている。
ゴチャゴチャと心配や不安を巡らせて、眠れないでいた。
時計を確認しながら、無理やりに眠ろうとしている。
「ちゃんと0時に眠らないと……夢でエリーナに会って、今日のことを話さないと」
(ああ。こんなに不安で会いたい時に、レオ君がいないなんて)
涙が溢れていた。
婚約者だと名乗りながら乱暴をする男に出会って、リコのレオへの思いはより、深まっていた。どれだけ丁寧に扱われ、大切にしてもらっていたのか、身に染みて感じていた。
「レオ君……」
レオの優しい笑顔を思い浮かべて、リコは眠りに落ちていった。
* * * *
一方、南の島では、夜明けがやって来た。
いつの間にか熟睡していたレオは、慌てて顔を上げた。
美しい日の出が水平線に浮かび、穏やかな波打ち際はピンク色に輝いていた。
平和な夜を過ごせたのだと、レオは安堵した。
そっと隣を見ると、レベッカ姫がレオに寄りかかり、腕にしがみついて眠っていた。寝所から布団を持ってきて、半分レオにもかかっている。
優しさなのか、寂しさなのか。レオは微笑んで、自分がいた場所にぬいぐるみを差し替えて置き、そっと立ち上がった。
姫はぬいぐるみをヒシと抱きしめて、眠り続けた。
レオは貝を拾い、岩場に凄む海老を獲り、火を起こす。
そうするうちに姫が起きて、こちらにやって来た。
「洗顔……お茶」
寝ぼけ眼で、いつも幽閉の塔でお世話されているであろう要求を、口にしていた。
ハッと目を覚まして海を見回す姫に、レオは洗面器を差し出した。真水が満たされている。
「あ、ありがとう」
顔を洗うと新鮮なタオルを受け取った。更にレオは、優雅に紅茶を淹れている。
「姫様がご馳走様してくださったローズティーには及びませんが、このフルーツティーも美味しいですよ」
レベッカはティーカップを受け取ると、しばらく目を瞑って、果物の香りを満喫している。
「レオ……海にいるのに、まるでお城みたいに生活できるのね」
珍しく、穏やかな表情になっていた。
「ええ。姫様に不自由な思いはさせませんよ」
サバイバルに嫌気が差し始めていた姫は、ホッとした顔をした。
レオは企んでいた。
エルド護衛長への恋煩いによる、怒りや興奮によってワープするなら、きっと気持ちが落ち着いて穏やかになれば、王宮に戻れるはずだと。
(姫様を徹底的に和ませて、落ち着かせよう)
元気にワインを呷るのはアレキだけで、風呂上りのリコも、マニもミーシャも、ぐったりとソファに沈んでいる。体力を使い果たしていた。
「みんな頑張ったね~。鬼気迫る訓練だったぞ」
中でもリコは訓練の疲れだけではなく、精神的にも滅入っているようだった。時計を見上げて、不安そうな顔をしている。
「レオ君……今日も帰って来なかった」
アレキとミーシャは焦って、こっそりと目を合わせる。
「こりゃあ、あれだな。年に一度の大忙しだ。明日にはきっと帰ってくるよ」
リコはぐっと唇を噛み締めて弱音を堪えると、立ち上がった。
「私、レオ君が帰るまでに強くなって、ビックリさせちゃお」
アレキは慌ててフォローした。
「いいね。強い女の子もグッとくるよ」
「先に休みますね。もう眠くなっちゃって。おやすみなさい」
空元気でリビングを出ていくリコを、アレキとミーシャは見送った。
ソファで居眠りしているマニの横で、ミーシャはアレキに小声で話す。
「アレキ様。あのユーリという男は、リコの婚約者だと言ってました」
「うん……リコちゃんに記憶が無いから立証できないが、本当だったら、諦めないだろうな」
「でも、あんな乱暴をする男が、リコを大切にするとは思えません」
憤るミーシャの頭を撫でて、眠るマニをアレキは抱え上げた。
「だからと言って、進んでやっつけようなんて思っちゃ駄目だよ? あくまで、自己防衛のための訓練だ。攻撃は逃げるための手段だと忘れないでね」
「わかってます。みんなの無事を第一に、冷静に対処します」
ミーシャの凛とした表情に、子供の頃のレオが重なって、アレキは懐かしさで微笑んだ。片手にマニを抱え、片手でミーシャと手を繋いで、寝室に向かった。
リコはひとり、ベッドに寝転がっている。
ゴチャゴチャと心配や不安を巡らせて、眠れないでいた。
時計を確認しながら、無理やりに眠ろうとしている。
「ちゃんと0時に眠らないと……夢でエリーナに会って、今日のことを話さないと」
(ああ。こんなに不安で会いたい時に、レオ君がいないなんて)
涙が溢れていた。
婚約者だと名乗りながら乱暴をする男に出会って、リコのレオへの思いはより、深まっていた。どれだけ丁寧に扱われ、大切にしてもらっていたのか、身に染みて感じていた。
「レオ君……」
レオの優しい笑顔を思い浮かべて、リコは眠りに落ちていった。
* * * *
一方、南の島では、夜明けがやって来た。
いつの間にか熟睡していたレオは、慌てて顔を上げた。
美しい日の出が水平線に浮かび、穏やかな波打ち際はピンク色に輝いていた。
平和な夜を過ごせたのだと、レオは安堵した。
そっと隣を見ると、レベッカ姫がレオに寄りかかり、腕にしがみついて眠っていた。寝所から布団を持ってきて、半分レオにもかかっている。
優しさなのか、寂しさなのか。レオは微笑んで、自分がいた場所にぬいぐるみを差し替えて置き、そっと立ち上がった。
姫はぬいぐるみをヒシと抱きしめて、眠り続けた。
レオは貝を拾い、岩場に凄む海老を獲り、火を起こす。
そうするうちに姫が起きて、こちらにやって来た。
「洗顔……お茶」
寝ぼけ眼で、いつも幽閉の塔でお世話されているであろう要求を、口にしていた。
ハッと目を覚まして海を見回す姫に、レオは洗面器を差し出した。真水が満たされている。
「あ、ありがとう」
顔を洗うと新鮮なタオルを受け取った。更にレオは、優雅に紅茶を淹れている。
「姫様がご馳走様してくださったローズティーには及びませんが、このフルーツティーも美味しいですよ」
レベッカはティーカップを受け取ると、しばらく目を瞑って、果物の香りを満喫している。
「レオ……海にいるのに、まるでお城みたいに生活できるのね」
珍しく、穏やかな表情になっていた。
「ええ。姫様に不自由な思いはさせませんよ」
サバイバルに嫌気が差し始めていた姫は、ホッとした顔をした。
レオは企んでいた。
エルド護衛長への恋煩いによる、怒りや興奮によってワープするなら、きっと気持ちが落ち着いて穏やかになれば、王宮に戻れるはずだと。
(姫様を徹底的に和ませて、落ち着かせよう)
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