魔女のおやつ 〜もふもふな異世界で恋をしてお菓子を作る〜

石丸める

文字の大きさ
108 / 110
第三章 幽閉塔の姫君編

25 真夜中の報告

しおりを挟む
 ビーチの夕日は砂浜も海もピンク色に染めて、宝石のように輝いている。
 静かに繰り返す波音が心地良く、リコは潤んだ瞳で海を見つめる。岩場に座ってリコとレオは二人きりで並んで、沈みゆく夕日を眺めていた。

 リコは水着の上から白い巻きスカートを身につけているが、ピンクに染まる肌も髪も艶やかで、レオは隣でそっと見惚れていた。

「私、こんなに綺麗な海を見たの、初めてだよ」
「もとの世界では海に行きませんでした?」
「行ったよ。夏になると、家族や友達と。すごく楽しくて……でも、海を見てこんなに感動したのは初めて」

 海を見ていたリコは、レオを振り返る。

「レオ君が隣にいるから、特別な海みたい」
「僕も、リコさんと海を見たくて……王様に我儘を言いました」
「レオ君の我儘はすごいね。こんな宝石みたいなビーチがご褒美だなんて」

 二人が笑い合う間に夕日は水平線にゆっくり沈んで、紺色の夜空が降りてきた。レオはレベッカ姫を護衛しながら緊張し続けた海とは、まったく違って見える景色に癒されていた。

「寒くないですか?」

 レオがケープを出してリコの肩に掛けて、リコはレオの肩に頭を乗せた。二人は寄り添ったまま、夕空に星々が現れるまで、いつまでも海を見つめ続けた。



 * * * *



 リコはふわふわとして、校舎の階段に座っている。
 正面に立っている制服姿の莉子……エリーナは、その様子を笑っている。

「それでね。今、レオ君とバカンスの最中なの」

 リコは王族の御用邸のベッドで眠り、夢の中でエリーナと会っていた。

「極上のビーチを彼女にプレゼントするとは、君の恋人はやり手だな」
「デヘヘ~」

 秘密の海岸の美しさや、満天の星空の壮大さを熱心に語って、リコは一息吐いた。

「エリーナは、夏休みを楽しんだ?」
「ああ。海水浴に花火、お祭り。浴衣を着て、わたあめを食べたぞ。あれは雪や雲のように見えて、口に含むと優しく甘い。気に入ったよ」

 リコは満面の笑みになる。

「エリーナが私の分も、そっちの世界を楽しんでくれるから嬉しいよ!」

 互いに微笑みあって、リコはエリーナをじっと見つめた。

「ねぇ。エリーナはお姫様だって、ユーリさんが言ってたよ」
「ああ……確かに、私は北の地の辺境にあった小国の王族だった。だが、軍部がクーデターを起こし、国政は乗っ取られ、さらに戦争によって、国は無くなった」

 リコは国が無くなるなんて、想像もできない状況に顔が強張る。

「過去のことだ。今は女子高生の莉子として、私は生きている。幸せだよ。本当に」
「エリーナ」
「そして君の幸せを、心から望んでいる」

 チャイムが鳴って、エリーナは淡くなり、リコは駆け寄って抱きしめた。
 二人は抱擁したまま互いに淡くなり、夢から覚めたリコは豪華なキングサイズのベッドにいた。

 深夜の御用邸は皆が寝静まり、小さな波音が遠くに聞こえる。
 両隣には、寝入るまでおしゃべりしたマニとミーシャが眠っていて、リコは安堵して再び目を瞑った。

(エリーナは幸せと言う。だけど、戦争でご家族や友達はどうなったんだろう。自分が生まれ育った国が無くなってしまうなんて、どれだけの悲しみを抱えているんだろう)

 涙が小さく溢れた。

(エリーナが気に入ってくれたお祭りのわたあめ。この世界でも、みんなに食べてもらいたいな)

 遠く離れた世界にいるエリーナと、せめて同じおやつを共有したいという熱い思いが込み上げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...