キューティーラビー  ~月と魔物と正義の味方~

角野総和

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希理子、気絶する!

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さんざんあんあん言わされて、魔物の腕の中で希理子はぐったり伸びている。

なけなしの理性が『立ち上がれ』『このままじゃ貞操の危機だ!』『魔物にお持ち帰りされちゃうぞ☆』と叫んでいるが、どうにも体が動かない。頼みの綱の左之助からは連絡ひとつ入ってこない。

しかも気を付けて見れば、魔物は何となく元気になっている。月のエネルギーに触れてもいないのに何故だろう。疑問に思ったが、今はそれどころじゃない。
何とかタコ足から抜け出そうと、力一杯踏ん張ってみるが太い足はビクともしない。

「うぅ~……だからいやだったのにぃ。どーしてあたしが地球を救わなくちゃならないのよ~。どうしても正義の味方が必要ならじいちゃんがなったらいいんだ。自分が変身して魔物と戦ったらいいんだ~」

やさぐれてブツブツ文句を言い始める。

「大体、キューティーラビーって何よ。月のエネルギーだからうさぎって、安直過ぎだし。んでもって、このエロコスチュームは絶対違うウサギにつながってる筈。政府のお姉さんの意見とか言ってたけど、絶対絶対じいちゃんの趣味だ。あんのエロ爺~。無事に帰れたらじいちゃんにこの衣装着せてやる~。あ、ダメだ。着せるのはいいけど見たくない。干からびたちょろハゲ爺の腹だしホットパンツなんてお笑い芸人も真っ青だわ。

はああぁぁぁぁ~~~~~~~。

そういや、ニュース見て勢いでここに来たけど……本当に黄田君たちここにいたのかな?もしいたんなら無事に逃げたかな?
こんなことになるんだったら白井君のお誘い断らずに水族館に行けばよかった。そしたらちょっとでも黄田君と一緒にいられたのに。

逃げる途中でこけそうになったら黄田君が手を引っ張ってくれるとか……。『大丈夫?俺につかまって』なんて言われて手を繋ぐの~~~。きゃあっ」

だいぶ思考が現実離れし始めた希理子だった。



「希理―――――理……希理子――――ガガガッ、ザザッ―――聞こえ――――聞こえるか、希理子」

耳障りなノイズに続いて左之助の声が聞こえた。途絶えていたホットラインがつながったようだ。

「じいちゃん!聞こえる、聞こえるよ」
「よかった。そっち――――どうなっとる。首尾の方は―――――じゃ」

途切れてはいるものの、それでもつながっている事に安心する。

「じいちゃん。大変なんだからっ!魔物は変態だしスティックは落とすしっ!帰ったらじいちゃんが変身に変態してタコ足なんだから~~~」
「よ―――聞け、今から―――――が――――して爆―――――建物の被害が――――だ。いいか、わかったな。今からすぐ、約3分後だぞっ」
「へ?な、なに?何ていったの?じいちゃん、じいちゃん。じいちゃ~んんんん」

希理子の叫び声が原因かノイズが原因か、左之助の声はほとんど聞き取れなかった。はっきり聞こえたのは3分後に何か起こるという事だけ。

爆―――――って、爆破?爆発?爆撃?

いや、じいちゃん。そりゃあたしだってバズーカで一発、とは思ったよ。でも思うのと実行するのは違うから。建物の被害?それよりかわいい孫娘でしょう?


「まさかね。うん。いくら何でもあたしがいるのに爆弾は飛んでこないって。うんうん」

不安になるも、気のせいだと言い聞かせた。



しかし、そんな必死な希理子を他所に、3分後――――――キーンッ、という鋭い金属音が響いた。

東の空から、目にもとまらぬ速度で何かが飛んできた。
みるみるうちに希理子の方へ近づいてくる。

「ま……さか?」

うっそでしょ~~~~~~~~~~~~~ッッ!!!!!
魔物と心中はいや~~~~~っ!!!!!


映画ならチュドーンという爆破音と共に火花と粉塵、煙が上がるに違いない。

希理子はギュッと目をつぶって身を縮め、祈った。薄情なようでも、せめて魔物に当たれば自分は助かるかもしれない、と。



GYAaaaaaaaa――――――


ロケット着弾にしては意外に軽い音が響き、魔物の体が大きく揺れた。同時に、今までうんともすんとも言わなかった魔物が叫び声を上げた。だがそれは、悲鳴というより唸り声。

魔物の体は大きく傾き、次の瞬間後ろ向きに倒れていった。


鈍い大きな音が響き、周辺の瓦礫が跳ねる。

投げ出された希理子にも小さな破片が雨のように降りかかった。

視界の端に踊るみたいにうごめくタコの足。
案外魔物は丈夫なのか、ダメージを受けたようには思えない。すぐに復活して起き上がり、タコ足を振り回して暴れそうだ。

ヘロヘロだけど、あちこちぶつけて痛いけど、ここで踏ん張らねば今度こそ命がない。

気力を振り絞った希理子は、四つん這いのままさっき落としたスティックを探しまわった。

あれさえあれば何とかなる。前のクラゲスライムもあれでぶっ刺せば、おとなしく海に帰っていった。今度のタコだって大丈夫。きっとおとなしくなってくれる筈。


しかし焦れば焦る程見つからない。
そうこうしている間にもタコ魔物は起き上がろうと動いている。宙を蹴っていたタコ足が地面をつかんで、今度こそ本当に―――――

「じいちゃんのばかあああぁぁぁぁぁ」

叫び声と、目がくらみそうな光があふれたのは同時だった。

眩しい銀色の光。

スライムにスティックが刺さった時と同じ、月の光。エネルギー。


眩しさに目を細めながら必死で魔物をうかがえば、巨大なタコ魔物は銀の渦に取り囲まれて光っている。

希理子はあの光を知っている。あれは、クラゲスライムがエネルギーを吸い込んだ時と同じ光。

恐らく、倒れた時に魔物は地面に落ちたスティッに触れてしまったのだろう。

安心したら、何だかどっと力が抜ける。このまま眠ってしまいたい。
でも、目を閉じるわけにはいかない。しっかりと魔物がどうなるのかを確認しなきゃいけないか
ら。

そう思っても、しかめた瞼が重たくてこれ以上開けていられない。
紗がかかったように掠れていくい視界で、魔物の赤い髪が燃える炎のように四方に散らばっている。憎たらしいタコ足もバラバラにくねっている。

その中の1本が、まるで希理子と離れたくないというみたいに伸びて来たが、もちろんそれを掴んだりはしない。


「――――――………」

言葉を発しようにも、何も浮かんでこない。魔物が何を思っているのか、いや、そもそも魔物に知恵や思考力はあるのか。気になったが、考えた所で希理子には関係ない。

正義の味方も今回限り。金輪際、魔物に会う事はないんだから。




「ってか、ちょっと!あのスティック、魔物のお尻に刺さってる~~~」

ジッタンバッタン、蠢く魔物が希理子に背中を向けた時、それは目に飛び込んできた。

人型は上半身のみとはいえ、ウエストまでじゃない。厳密に言えばウエストの少し下。背中から見れば、お尻の割れ目がほんの少し覗く場所までが人間型だ。

スティックが刺さっているのは人肌とタコ肌の丁度境目。見目はタコだが、位置的に言えば尻にあたるだろう場所。

スティックはその場所に、それは見事に突き刺さっていた。
タコ魔物が動く度、スティックの先についた三日月がビヨヨンビヨヨンと揺れている。


笑っていいのかいけないのか、悩んだところで希理子の記憶は途絶えていた。




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