「piyo-piyo」~たまきさんとたまごのストーリー

卯月ゆう

文字の大きさ
14 / 52
第2章 食育の素晴らしさ

8

しおりを挟む
(たまきside)

 私はドアチャイムの音に気づいて控室から出てきた。
 少しお昼から外れたタイミングだから来店される客はいないと思っていた。そこに母親と小さな女の子が入店していた。母親が軽く頭を下げる。
「こんにちは......。
私たちのこと、覚えていますでしょうか?」
 もちろん覚えていた。この間苺プリンを差し上げた親子だった。私も習って頭を下げた。
「プリンのお礼がしたいって、この子がどうしても聞かなくて......。
以前名刺を頂きましたから、じゃあ食べに行こうねって」
 そうなんだね。
 私服を召している女の子は、少しおとしやかにお洒落していた。右手を大きく広げて私に挨拶をしてくれた。
「たまきお姉ちゃん、こんにちは!」
「はい、こんにちは」
 元気いっぱいに挨拶してくる少女に、私は嬉しくなった。

 軽くランチを食べている親子はだいぶリラックスしているようだった。
 母親はエッグサラダ、女の子はミルクセーキを注文してくれた。
 サラダのヒヨコが可愛いよね、とふたりで話しながら食べている。その姿を私はキッチンの椅子に座って眺めていた。
 窓から降り注ぐ高い日差しがふたりを照らしていて、まさしく絵画のような美しさを放っている気がした。
「お姉ちゃん、この飲み物美味しいよー!」
「君のために作ったんだよ。
たまごと牛乳とアイスクリームを混ぜたんだ、いっぱい飲んでね」
 お子様が来店されるのははじめてな気がする。だから、即席でミルクセーキを作った。これで喜んでくれたら、正式なメニューに追加しても良いかもしれない。
「君はちゃんとトマトを食べるんだね。えらいよ」
 女の子は母親のサラダからプチトマトをひとつもらっているのだ。私は小さい頃から野菜を食べていたけれど、妹はなかなか食べなかった気がする。
 ええ、そうなんですと母親が言ってくれる。
「この間話してくれたことをしっかり覚えていて。
ちゃんと手を合わせるし、残さず食べるようになりましたから」
 ミルクセーキを飲み終わった女の子はカウンター席の前に立って、後ろ手を組んで恥ずかしそうにしている。
 なにかな? 私はキッチンから出てくると彼女があるものを手渡してくれた。
 それは折り紙で作られたチューリップだった。

 親子が帰ってしまって、店内はだれもいなかった。キッチンの中で丸い椅子に腰かける。軽く動かしているエアコンの風が花瓶に刺した折り紙のチューリップを揺らしている。
 その様子を見ながら、少し子供について考えを巡らせてみた。
 女の子は本当に、素直で良い子だったなって思った。
 そして、私があの子くらいの年頃は何をしていただろうか......。
 最初に覚えているであろう記憶を思い出してみる。母親が涙を流している姿、それしか思い出さなかった。
 それから私は大きくなっていった。今の私があって、いずれは愛しの人と巡り合うのだろうか。
 だけども、ウエディングドレスを着る自分の姿はイメージできなかった......。

 ・・・

 次にドアチャイムを鳴らしたのは誰でもない梨央さんだった。
 彼は先ずチューリップに気づいてくれる。気づいてくれるだけ、これだけでもなんだか嬉しかった。
「先ほど、苺プリンの親子が来てくださいましてね......」
 私は親子のエピソードを彼に教えてあげた。
 さぞかし楽しそうに聞いていて、話が終わるとあるものを見せてきた。彼のスマートフォンに映るのは、SNSのある投稿だったのだ。
 
----------
20xx年5月10日 mama_Mikan-50396 さんの投稿

先日のことですが、都内の広場で苺プリンをもらった娘です!

その時のお姉さんが素敵で、
命や食育の大切さを教えて下さいました。

それからというもの、
きちんといただきますして食べるようになりました~☆

Comment for iPhone
----------

 私は顔を真っ赤にして驚いていた。こんな投稿がされていたなんて......。
「たまにはこんな面白いこともあるものですね」
 梨央さんは面白そうに笑っっている。食育の素晴らしさが広まるなら、SNSに情報を載せられても良いかもしれないな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...