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第2章 食育の素晴らしさ
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(たまきside)
私はドアチャイムの音に気づいて控室から出てきた。
少しお昼から外れたタイミングだから来店される客はいないと思っていた。そこに母親と小さな女の子が入店していた。母親が軽く頭を下げる。
「こんにちは......。
私たちのこと、覚えていますでしょうか?」
もちろん覚えていた。この間苺プリンを差し上げた親子だった。私も習って頭を下げた。
「プリンのお礼がしたいって、この子がどうしても聞かなくて......。
以前名刺を頂きましたから、じゃあ食べに行こうねって」
そうなんだね。
私服を召している女の子は、少しおとしやかにお洒落していた。右手を大きく広げて私に挨拶をしてくれた。
「たまきお姉ちゃん、こんにちは!」
「はい、こんにちは」
元気いっぱいに挨拶してくる少女に、私は嬉しくなった。
軽くランチを食べている親子はだいぶリラックスしているようだった。
母親はエッグサラダ、女の子はミルクセーキを注文してくれた。
サラダのヒヨコが可愛いよね、とふたりで話しながら食べている。その姿を私はキッチンの椅子に座って眺めていた。
窓から降り注ぐ高い日差しがふたりを照らしていて、まさしく絵画のような美しさを放っている気がした。
「お姉ちゃん、この飲み物美味しいよー!」
「君のために作ったんだよ。
たまごと牛乳とアイスクリームを混ぜたんだ、いっぱい飲んでね」
お子様が来店されるのははじめてな気がする。だから、即席でミルクセーキを作った。これで喜んでくれたら、正式なメニューに追加しても良いかもしれない。
「君はちゃんとトマトを食べるんだね。えらいよ」
女の子は母親のサラダからプチトマトをひとつもらっているのだ。私は小さい頃から野菜を食べていたけれど、妹はなかなか食べなかった気がする。
ええ、そうなんですと母親が言ってくれる。
「この間話してくれたことをしっかり覚えていて。
ちゃんと手を合わせるし、残さず食べるようになりましたから」
ミルクセーキを飲み終わった女の子はカウンター席の前に立って、後ろ手を組んで恥ずかしそうにしている。
なにかな? 私はキッチンから出てくると彼女があるものを手渡してくれた。
それは折り紙で作られたチューリップだった。
親子が帰ってしまって、店内はだれもいなかった。キッチンの中で丸い椅子に腰かける。軽く動かしているエアコンの風が花瓶に刺した折り紙のチューリップを揺らしている。
その様子を見ながら、少し子供について考えを巡らせてみた。
女の子は本当に、素直で良い子だったなって思った。
そして、私があの子くらいの年頃は何をしていただろうか......。
最初に覚えているであろう記憶を思い出してみる。母親が涙を流している姿、それしか思い出さなかった。
それから私は大きくなっていった。今の私があって、いずれは愛しの人と巡り合うのだろうか。
だけども、ウエディングドレスを着る自分の姿はイメージできなかった......。
・・・
次にドアチャイムを鳴らしたのは誰でもない梨央さんだった。
彼は先ずチューリップに気づいてくれる。気づいてくれるだけ、これだけでもなんだか嬉しかった。
「先ほど、苺プリンの親子が来てくださいましてね......」
私は親子のエピソードを彼に教えてあげた。
さぞかし楽しそうに聞いていて、話が終わるとあるものを見せてきた。彼のスマートフォンに映るのは、SNSのある投稿だったのだ。
----------
20xx年5月10日 mama_Mikan-50396 さんの投稿
先日のことですが、都内の広場で苺プリンをもらった娘です!
その時のお姉さんが素敵で、
命や食育の大切さを教えて下さいました。
それからというもの、
きちんといただきますして食べるようになりました~☆
Comment for iPhone
----------
私は顔を真っ赤にして驚いていた。こんな投稿がされていたなんて......。
「たまにはこんな面白いこともあるものですね」
梨央さんは面白そうに笑っっている。食育の素晴らしさが広まるなら、SNSに情報を載せられても良いかもしれないな。
私はドアチャイムの音に気づいて控室から出てきた。
少しお昼から外れたタイミングだから来店される客はいないと思っていた。そこに母親と小さな女の子が入店していた。母親が軽く頭を下げる。
「こんにちは......。
私たちのこと、覚えていますでしょうか?」
もちろん覚えていた。この間苺プリンを差し上げた親子だった。私も習って頭を下げた。
「プリンのお礼がしたいって、この子がどうしても聞かなくて......。
以前名刺を頂きましたから、じゃあ食べに行こうねって」
そうなんだね。
私服を召している女の子は、少しおとしやかにお洒落していた。右手を大きく広げて私に挨拶をしてくれた。
「たまきお姉ちゃん、こんにちは!」
「はい、こんにちは」
元気いっぱいに挨拶してくる少女に、私は嬉しくなった。
軽くランチを食べている親子はだいぶリラックスしているようだった。
母親はエッグサラダ、女の子はミルクセーキを注文してくれた。
サラダのヒヨコが可愛いよね、とふたりで話しながら食べている。その姿を私はキッチンの椅子に座って眺めていた。
窓から降り注ぐ高い日差しがふたりを照らしていて、まさしく絵画のような美しさを放っている気がした。
「お姉ちゃん、この飲み物美味しいよー!」
「君のために作ったんだよ。
たまごと牛乳とアイスクリームを混ぜたんだ、いっぱい飲んでね」
お子様が来店されるのははじめてな気がする。だから、即席でミルクセーキを作った。これで喜んでくれたら、正式なメニューに追加しても良いかもしれない。
「君はちゃんとトマトを食べるんだね。えらいよ」
女の子は母親のサラダからプチトマトをひとつもらっているのだ。私は小さい頃から野菜を食べていたけれど、妹はなかなか食べなかった気がする。
ええ、そうなんですと母親が言ってくれる。
「この間話してくれたことをしっかり覚えていて。
ちゃんと手を合わせるし、残さず食べるようになりましたから」
ミルクセーキを飲み終わった女の子はカウンター席の前に立って、後ろ手を組んで恥ずかしそうにしている。
なにかな? 私はキッチンから出てくると彼女があるものを手渡してくれた。
それは折り紙で作られたチューリップだった。
親子が帰ってしまって、店内はだれもいなかった。キッチンの中で丸い椅子に腰かける。軽く動かしているエアコンの風が花瓶に刺した折り紙のチューリップを揺らしている。
その様子を見ながら、少し子供について考えを巡らせてみた。
女の子は本当に、素直で良い子だったなって思った。
そして、私があの子くらいの年頃は何をしていただろうか......。
最初に覚えているであろう記憶を思い出してみる。母親が涙を流している姿、それしか思い出さなかった。
それから私は大きくなっていった。今の私があって、いずれは愛しの人と巡り合うのだろうか。
だけども、ウエディングドレスを着る自分の姿はイメージできなかった......。
・・・
次にドアチャイムを鳴らしたのは誰でもない梨央さんだった。
彼は先ずチューリップに気づいてくれる。気づいてくれるだけ、これだけでもなんだか嬉しかった。
「先ほど、苺プリンの親子が来てくださいましてね......」
私は親子のエピソードを彼に教えてあげた。
さぞかし楽しそうに聞いていて、話が終わるとあるものを見せてきた。彼のスマートフォンに映るのは、SNSのある投稿だったのだ。
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20xx年5月10日 mama_Mikan-50396 さんの投稿
先日のことですが、都内の広場で苺プリンをもらった娘です!
その時のお姉さんが素敵で、
命や食育の大切さを教えて下さいました。
それからというもの、
きちんといただきますして食べるようになりました~☆
Comment for iPhone
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私は顔を真っ赤にして驚いていた。こんな投稿がされていたなんて......。
「たまにはこんな面白いこともあるものですね」
梨央さんは面白そうに笑っっている。食育の素晴らしさが広まるなら、SNSに情報を載せられても良いかもしれないな。
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